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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
演目  伝説の英雄は復讐の旅路を行く

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終焉


 …それは疫病のように広まっていった。…本来ならこの星の風や渡り鳥のそれが運ぶ方向とはまるで真逆に。



 大陸に渡ったその病原体は、病原体の最大の脅威である繁殖こそする事は無かったが、代わりに一切の対抗手段が無かった。…そして着実に、上位者を狩っていった。



 上位者は文明の存亡を賭け、一度は滅ぼしたはずのその病原体の研究を進めた。…しかしあらゆる資料がどんなに彼らにとって望む結果を示そうと、肝心なオリジナルの病原体…O…は、その全ての対抗策を嘲笑うように西進を続けた。…この病原体はどんな極寒にも酷暑にも適応し、上位者のようやく安定しかけたコミュニティを次々と血祭りにあげていった。


 復讐心を燃やした対策部隊がどれだけ束になって掛かろうと、…その分の死体の山が出来上がるだけだった。


 誰かが提案した。…ならばその近親の株を捕らえ、資料とすればいいでは無いかと。


 …これが破滅を加速度的に速めた。


 サンプル回収の為、ゲートへと向かう挙動を見せた途端、病原体は深々と…かつて西欧と呼ばれていた大陸西端で最後の上位者を殺戮すると共に悍ましい迄の速度で逆進し、小さな島国へと戻り、少なからぬ回収部隊を最も残虐な手段で拷問した上で殲滅した。


 …これを機に…それまで上位者との遭遇時に病原体がうわ言のように必ず発していた交渉めいた発言もしなくなり、その関係性が明白となった。


 …どのみち、一度浄化した生命体をどうにかする事など、交渉の余地も無い程に不可能な事であったが。


 いずれにせよ、この時点で病原体の動きはそれよりも断固たるものとなった。

 

 そして…何の解決策も対抗手段も見出せないまま、最後の…南北米大陸で繁栄していた最上位者のコミュニティも滅亡したのである。


 …この記録した思念が後世に残される事を期待したい。…生き残れた個体があれば、だが…


 …それは姿を現す事も無く、ただ、赤い光の筋が自分に迫ってくる一瞬の光景だけが見えた。

 それが安楽な死であることを願いつつ、最後の上位者は駆逐された。





 …山口で受け取って以来、ノーメンテナンスで自分と共に上位者と戦い続け、破損しきった独尊。 

 死ノ火に言いつけて運ばせた物資…保存食やエーテルは米大陸戦の序盤には既に尽きていた。そこからエネルギーを節約しながら戦い、ようやく大淵大輔は長い戦いを終えていた。


 酷く、空腹だった。 

 …これまでの人生で食べてきた料理が幾つか思い浮かんだが、いつの間にか仲間達と共に食べた…名前も忘れかけた仲間達との…宴会…だったか…そんな暖かな記憶が脳裏を過った。

 そんな幸せな日々のイメージを浮かべつつ、意識と視界が穏やかに薄れていく。



 …何か忘れちゃいないか…?

 

 …そうだ…俺の…桜と息子を…大樹を。


 …確かに充分戦った。…世界中の、世界のどんなヒーロー達よりも戦った筈だ。俺は頑張った。…でも、まだ果たしていない約束があったはずだ。


 一番大事な仕事を忘れている。


 …帰るんだ…


 俺は、戦うために生まれてきた。…この瞬間も。



 手をつき、血反吐を吐き捨てた。 乾いた砂と瓦礫の破片の中で、それは貪り食われるように染み込んでいった。


 …再び目が覚めると、東京の瓦礫…ではない、どこか…アメリカの大都市の中で剣を杖にして膝を付いていた。

 目の前には消失していく最後の上位者の一人が、巨大な眼球で恨めしく大淵を捉えていた。

 

「…終わったのか…」


 空は粉塵に曇り、海は濁っていた。…上位者との死闘は周囲への被害も桁違いに大きくなり、地球規模での環境汚染を引き起こしていた。



 …帰る場所はあった。…だが、帰ってどうすればいいというのだ…


 永遠に年をとらなくなった自分が、老いて死んでいく桜や大樹を見送って… 


 …俺も、桜たちの元に帰らず、どこかへ消えてしまった方が…異形となった自分より、同じ人間の夫を迎えた方が桜と大樹の為になるのではないか? …それは俺にとって何より苦しい事だが…


 どうする事も出来ず、大淵は瓦礫の中に蹲った。

 …消えてしまいたかった。 …例え千年経とうと、体が決してそれを許さなかったが。


 抜き払った紫電を頸に宛がい…大淵は永遠に失われた…愛おしかった日々を想った。


 …だが、誰かがそれを咎める。


「バカだ、バカだとは思っていたし、よく口にしていたが、本物だとは思わなかったぜ」


 黒島が冷たい笑みを浮かべて見下ろしていた。


「…やれよ。それで俺達の所へは来れるぜ? …少なくとも、俺は歓迎しないがな」


「…いよいよ幻覚が見えるようになったか…」


「あんなに会いたがっていたのに今度は幻覚扱いかよ。…まぁ、無理もねーがな。…前も言ったろ?お前はガンバりすぎだって」


「…本当に黒島なのか?」


「他の誰に見える?…あー、やめとけ、気に入らねぇ名前を言ったらマジで連れていくからな。まぁ、冗談はいい、これからヨモツヘグイの御馳走をしてやるから、取り合えず来いよ。 …冗談だって、死人ジョークだ」


 黒島についていくと、尾倉が…いつぞやのキャンプの時と同じようにバーベキューコンロで食材を焼いていた。


「…早かったな」


「おお、スケ、もう来ちまったのか情けない!」

「まぁ、そう言うなお前達…俺は、大淵はよくやったと思うぞ」

 そう言う本人が涙ぐんでいる。…暑苦しい奴め… 俺だって、涙を流せれば泣きたいよ。


「まぁ座れよ。 …安心しろって、飲み食いしたからって連れて行きやしねーから。アレは勝手に飲み食いした場合のツケみたいなモンだからよ」


 黒島はアウトドア用の椅子の一つに大淵を座らせると、ビールの缶を持たされた。黒島はそのまま隣の椅子に座ってビール缶を開けた。立ったまま食材を焼く尾倉を含め、皆が缶を開け、乾杯した。


「まぁ、なんというかお疲れさん。…お前ならやってくれると思ってたぜ」


 ビールを傾けながら黒島は満足そうに笑った。


「…お前らを取り戻せなかった」


「今更デロデロのゾンビか、白骨スケルトンで生き返ってほしかったか?俺はゴメンだね。…心残りはあるが」


「…」


「政府にたっぷり作った貸しがな。…アレがありゃ、納税ゼロで老後も遊んで暮らせるウハウハマイグローリーライフを楽しめた物を…」


「…お前って奴は…」


「まっ、その分、お前らが元気に過ごしてくれりゃ元が取れると思っているんだがな」


 青空と清流。豊かな緑…

 

 川のせせらぎと火の音を聞きながら、大淵は穏やかな眠気に誘われて目を閉じかけた。


「寝てんじゃねーよ、この野郎っ!」

 

 黒島に脳天を叩かれ、再び目覚めた。


「まだ桜とチビ助がいるんだろ?しっかり働いて食わせてやれよ」

「…だが俺は」


「知った事かよ! メソメソ言うな。 …肝心なのは、相手にとって何が良いかってのも大事だが、まずは相手がどうして欲しいかと、自分がどうしたいか、だろ?」


「…」


「まっ、こっちは百年でも千年でも待ってやるからよ。…せいぜい苦労して、年食ってから来るんだな」


「大淵」


 尾倉が焼いた肉と野菜を大淵の前に置かれた紙皿に盛りつけながら声を掛けてきた。


「…悪魔の力は悪魔にくれてやれ。 …それも高く売りつけてやれ」


「スケ~、さくらとチビちゃんによろしくな!」

「大淵!あの世で一足先に待ってるぞぉ!」


 全員が遠ざかっていく。…追いかけようとして、躓いた。


 

 

 …再び、あの不毛の地に居た。



「いやぁ、お見事でしたなぁ~大淵様♪」


 乾いた拍手の音。大淵は困憊した体に鞭打ち、体を起こした。


「…ああ、終わらせたよ」


「まさか、誰一人眷属化する事もせず、たった一人でここまで来られるとは! …それで、これからどうなさいます?…見た所、予備も含めて命も尽きかけておられる様なので、急いで補給を済ませた方が良いかと愚考致しますがねぇ?」


「…それで死ぬようならその程度だって事だ。…取引がしたい」


「はいはい、何でしょうか?」

 手を揉みながら近寄って来る悪魔。


「…死んだ人間はダメか?」


「無理ですね。ランプの魔神だって死んだのはダメだって言ってるじゃないですか♪ …デロデロに腐ったのや白骨スケルトンでよろしければ承りますがね」


「…だったら、この体を人の身に戻せ。 …代償は…」


「…よろしいんですかぁ?…また、あんなのが襲ってきたらどうなさりますか?」


「…どんな敵が相手だろうが、また…」


「逃げずに最期まで戦ってやる…ですか?」


「…そうだ」


「…私が愛情込めて手縫いしたハンカチはどうされたか存じませんが、クーポン…メッセージカードはお持ちですね。…では、大淵様の魂と情報をお預かりした肉体に戻しますよ。 …私のお気に入りコレクションだったのですがねぇ…」


「…」


「お釣りがだいぶ出ますね。…他に何かお望みになる事は?」


「…既に生まれた命を除いて、仲間達の歳を五歳若返らせる…或いは老化を五年間だけ止めてやってくれないか?」


「…畏まりました♪ しかしなぁ、ダイス様ロスですよ、私めは。…大樹君に推しを変えちゃうかもしれませんよぉ?」


「好きにしろ。…アイツは俺より強くなる」


「ククク…違いありません。  …それでは、もしご縁がありましたらまたお会いしましょう♪」

「…願い下げだよ」





 酷く、空腹だった。

 

 身を起こし、大淵は背嚢の中を探ったが何も見つからなかった。…水すら無い。

 …ふと、汚染された海水が視界に入った。

 生まれたてのウミガメのように這いつくばって砂浜を這い、波打ち際に向かった。


 あと一歩という所で何者かが割って入った。


「大淵様、どうかお気を確かに!」


 黒装束の… 死ノ火か。


「水を…」


「なりません!こんなものを飲んだら脱水が早まって終わりです…! これを!」


 死ノ火が差しだした、竹筒の水筒の水を貪るように飲んだ。…更に与えられた梅干し入りの握り飯を飲み込むように食らって…急速に意識が途絶えた。


 …意識が途絶える瞬間、見知らぬ女の顔と、その肩越しに黒島達の顔が見えた気がした。

 …これで帰れる。

 大淵は女の叫ぶような呼び声に答えられず、そのまま眠った。



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