そろそろ…一丁ぶちかましちゃいます?
「久方ぶりですね、大淵大輔。…その武勇、極まったと見えます。…そしてその同胞達も」
「はっ…」
「…顔を上げなさい。事ここに至っては肩肘を張ることも無いでしょう。楽にしなさい。…此度の怪異騒乱、最早子の日の本だけの問題ではありますまい? …アレは妖怪などとは違う。悪意と、人を殺める為だけに生み出された命ならざるモノ。…この黄泉の門を潜って来たようですね」
顔を上げると、純白の甲冑に身を包んだ美女が立っていた。…国宝級の浄瑠璃人形だったか何か…一度だけ、本気で見惚れた事がある美しい人形を思い出した。…刀ではなく、身の丈程もある一振りの古めかしい剣を腰に差し、従者が恭しくいつでも弓を取れるよう捧げて控えていた。
…形容しがたい神々しさを感じた。 …が、仰る通りこういつまでも肩肘を張っていたら戦闘よりも疲れてしまう。…ありがたくお言葉に甘えさせてもらおう。
「…それでは遠慮なく。 …ええ、あれこそ自分達が追って来た、自分達の故郷たる世界を滅ぼした諸悪の手先。…これよりこの門を潜り、自分達の故郷たる世界を取り戻しに、そして諸悪の元凶共にツケを支払わせるために向かいます」
「…これも何かの縁。ただ見送るのは心苦しいが…先の戦いを見ても、私達では戦の役には立てぬでしょう。…せめて、この花の国随一の死ノ火を送りましょう。 …あなた方の鉄の馬や車にも負けぬ疾風の如き足を持ち、戦以外の役にも立ってくれるでしょう」
「ありがたいが、自分達はすぐにでも…」
「心配ご無用。既にこれへ」
くぐもった声が下から聞えて、足元に跪く…黒子のような…いや、忍者がいた。
…逆に迷彩効果は最悪であろう、人間の注意を引く漆黒の忍装束を纏い、お決まりである筈の刀の類は見当たらなかった。代わりに、現代の軍隊が背負うような大きさの背嚢を背負っていた。
…こんな目立つ見た目の相手を、この俺が足元に来るまで察知できないとは…
「…なるほど、恐れ入った」
「…貴方があの矢を射かけると共に、門の向こうから思念を感じ取りました。…酷く怯え、忌まわしがる、彼の者らの思念が。 …この戦いに貴方は勝つでしょう」
「はい。…その為に来ましたから」
大淵は地面に穿たれた直径二十メートル程の、見慣れたゲートにバイクごと飛び込んだ。漆黒の空間に落下していく。…大丈夫だよな、これ? などと思いかけた矢先、何の衝撃も無く急に光ある世界に降り立った。
灰色の空。鳥の声も聞こえぬ、静寂が支配する世界。 …周囲を見渡すと、微かな芝生や土、そして少し離れて石だか瓦礫だかの山が積み重なって丘のようになっていた。
…肌に感じた空気が自分に囁く。
これが東京であり、日本であり…地球上どこもがこの姿だ、と。
…足先に何か見つけた。拾い上げると、それは骨だった。 …もしかしなくても人間の。…もしかしたら…親しかったあいつらのうち、誰かの…
大淵の指の間で骨は崩れて灰となった。…灰が流れる先に、瓦礫に紛れた幾つもの骨片が、既に人骨の形すら成さずに残されていた。
…やってくれやがったな
この宇宙より天文学的なツケ、どう支払わせてやろうか
続々と到着した小隊の面々も周囲の状況に言葉を失っている。…もしかしたら、まだ幾らかは生存者を望める風景があるのでは… 誰もが自分同様に期待していたに違いない。
声にならない声が響き渡った。…異次元のモノ…
液状の黒い影が瓦礫の中から湧き出すように溢れ出て、瓦礫の上で集合した。…それは伸びに伸びあがり、百メートルを超える巨大な影となった。
その足元には二メートル前後の人型の影が無数に湧き出て来る。…それは殆どが尖兵…例の異形の仮面だった。
…見た目はウドの大木そのものだが、決して楽な相手ではない。 …それが数十、数百と…まるでアメリカ大陸にあった巨木の森とでも言わんばかりに…いや、それがかつてこの大都会・東京を彩っていた巨大な摩天楼群の再現だと言わんばかりに圧巻の光景を見せていた。
大淵は紫電を抜き払い、空間からストームランスとブラッドレインをフル装填した散弾銃を抜いてハードポイントにセットした。
全員がそれぞれの得物を構えて円陣を組んだ。
味方のエンジンから十歩ほども進み出て、敵軍に向かって大淵は声を張り上げた。
「…さて、俺はこの通り仏のような性格でな。 どんな死刑にすべき畜生の悪人にも一度だけチャンスをやるべきだと思う。 …お前らにも同じようにチャンスをくれてやろうじゃないか」
反応らしい反応は無かったが、大淵は続けた。
「…奪ったモンを…命をそっくりそのまま返せるならな。…それができないなら、テメーらのカス程の価値もない償いなど要らん。全ての死を以て償う他無い。 …どうだ?返せるもんなら返してみろ!」
…端から期待などしていないと言えば嘘だった。 …せめて、人々の命だけでも返してくれるなら…親友達を一緒に返してくれるなら…今からでも間に合うと思った。
これだけ超常の、異次元から来た存在ならそれが可能なのではないか…そんな期待があった。
だが、答えは灰色の空を覆う無数の触手だった。
「…そうか」
「…なら、そろそろ一丁ぶちかましてやるか」
風神騎槍が深紅に染まり、殺戮の旋風を巻き起こした。 灰色の空を覆って大淵小隊に襲い掛かった無数の触手だけでは飽き足らず、その向こうに聳える上位者の摩天楼を悉くミキサーにかけ、欠片の一つも残さない。
宙に幾つもの…ティーポットじみた黒い物体が現れた。
「だ、大輔君が捕まった…」
斎城の声が震えた。 他の皆も息を呑んで…トラウマじみたあの忌まわしい矢のような液体が空から注がれるのを見守った。
大淵は特に意にも介さず、悠々と跳び上がった。宙で滞空する大淵は避けるでもなく、そのティーポットから注がれた矢を受け… …大淵に触れた矢は悉く、白く濁って消え去った。
逆に、散弾銃の連射を受け、全てのティーポットと上位者の何体かが流れ弾を喰らって崩れ落ちた。
…頼みの当てが外れたとばかりに上位者の群があからさまに狼狽し始めた。…尖兵と違って、それぞれに意志や個性らしきものがあるらしい
ビルのような上位者を天辺から切り下げて落下しつつ、声の届く高さから大淵は斎城に声を掛けた。
「ここは任せるぞ、俺は大型を優先して潰してくる!Aチームは斎城が隊長な。桜、マオ、リノーシュ、クロエ、メノム、カリューだ。 秋山隊長と銀、フローズィア、アリッサはBチームだ! とはいえ、状況が変わるまで当面は別れずにそのまま円陣を組んで圧力に耐えろ!」
それだけ言うと、大淵は上位者の体を蹴って加速しながら、次の上位者を斬り捨てに跳んで行った。




