大淵大輔
「…ったく。お前らと居ると退屈しないよ」
相変わらず低い声だが、柔らかな声が…地上でへたり込んで肩で息をする大半の少女達の背に投げかけられた。
全員が振り返ると、宝箱を脇に抱えたダイスが、随分と穏やかな顔をして一同を呆れたように見渡していた。
「…ダイスなのか?」
マオが目を丸くしてダイス…大淵を見上げた。
「そうだな。 マオ、生き残りの人間を保護してくれてありがとうな。…しっかし、パルムの張り手で戻されるとはな。…大昔のブラウン管テレビじゃあるまいし」
ダイスはなんだかなぁ、と言わんばかりの表情で腕を組んだ。
「せ、先生ぇ~!」
抱きつくパルムとラナを受け止めながら苦笑した。
「ったく、泣き虫は変わらねーな。…おお、パルム、お前は紫心騎士団の団長になったんだな。ラナは副団長兼第一大隊か。…二人ともよく頑張ったな」
泣きじゃくる二人から顔を上げ、斎城とアリッサ、リザベルを見た。
「よう、お二人さん。あー…良い感じに大人の色気が満開になってきたな。ハッキリ言って三十路手前には見えんから、そう歳を嘆くな」
「…十歳近く歳が離れてたままの人に言われても嫌味に聞こえるんだけど?」
意地悪に笑って見せたが…内心では…先客が居なければ泣いて抱きつきたかった。
…この、剽軽で芝居がかった気取ったフリ…自分が良く知る…自分が愛した…大淵大輔だった。
「たかが十年の歳の差なんて大した問題じゃないさ。引く手は数多だろうに」
「…生憎と誰かさんのせいで理想が高くなり過ぎちゃったみたい」
「さて、誰だか知らんが、そいつにツケを請求した方が良いな。 …アリッサ、相変わらずだな、お前は」
「イエース、大淵もやっとホームカミングしましたネ♪ …オカエリナサイ」
「うん。…またよろしくな。 …あー、リザベルは竜撃隊団長になったのか。親父さん…バルべスは元気か?」
「ああ、変わりないぞ。…かくなる上は自ら打って出ると言って聞かなくて困るが」
銀を見た。
「…改めてよろしく。銀鈴梅…さんだったか?最後の竜騎兵だってな? あー、…今まで記憶喪失しててな。…こいつらとは旧知の仲だが、銀さんとは微妙に初対面になるからな」
「…さん、はいいわ。私の方が年下だけど、私も大淵って呼ばせてもらうから。…改めてよろしく。…大変だったのね」
「皆が必死に戦っている間、ぐっすり眠っていたのを大変というならな。…だが、トレーシーが起こしてくれて助かった。…ありがとうな、トレーシー。改めてよろしく。…俺…ダイスが散々世話になったな」
「あっ、いえ、そんな…」
…とうとう、自分の役目は終わった…別れの時だ。…そんな予感があった。
多くのアイテムもこのダンジョンで集めた事だし…これ以上自分の存在価値など…
「…それにしても、盗賊ってのは凄いな。こんな普通じゃ分からないような遺跡まで発見しちまうとは。ダンジョンのトラップにも詳しいし」
「そうね、かなり助けられたよね」
「シュレディンガーには参りましたケドね」
「アレは私らの問題でしょ…」
「…この先ももしかしたらその力が必要になるかもしれん。…もし、良ければもう少し、俺達に付き合ってくれないか?もちろん無理にとは言わんが…」
思わぬ誘いにトレーシーは顔を上げた。
「トレーシーは俺の良き相棒だしな」
…表情一つ、感情表現だけでこうも別人になるのかと思う程、ダイス…大淵は変貌していた。
(…あっちはあっちで良かったけど…)
「…あの、私で良ければ全然いいけど」
「じゃあ、決まりだな。…改めてよろしく」
手を差し伸べられ、トレーシーは迷うことなくその手を握り返した。
「…さて…敵が来ない内に隊を分けてキャンプに戦利品を届けて来るか。 …桜と我が子にも直接会いたいし…」
「あっ」
「…い?」
いきなり声を上げたラナを、大淵は振り返った。
「ど、どうしよう…鞄、落として来ちゃったみたいです…」
「あの砂場にか?」
「いえ…逃げて来る途中まで背負っていた筈なので…通路のどこかに」
「そのくらいなら楽勝だ。まぁ、任せておけ」
宝箱を置き、大淵は再びダンジョンの中に向かっていった。
「…まったく、どうしてバックパックを落とすのよ?」
パルムに横目で睨まれ、ラナは首を傾げた
「うーん…そういえばどうして…ちゃんと背負っていたのに…」
…これ見よがしにバックパックが通路のど真ん中に置いてあった。…この上なくわざとらしく。
ダイスは紫電を抜いて溜息を吐いた。
「…テメーには会いたくなかったんだがな」
「あぁん、もう!そんな冷たい、心にもない事を♪」
身をくねらせながら背後で奇妙な踊りを披露する銀ピカ頭の変質者を振り返った。
…何か御大層な名前を聞いたような気もしたが、それは思い出せなかったし、銀ピカ頭・もしくは変質者で充分だろう。
「…いくらラナでもおかしいと思ったが」
「こうでもしないとダイス様、人気者過ぎて戦闘時以外はお独りになられませんからねぇ!上位者の尖兵やモンスターとの間でお話するのも何ですしねぇ?」
「…何の用だ?」
「まずは記憶回復おめでとうございます、と♪ …ここからがまた大変ですがねぇ」
「…そりゃご丁寧にどうも。…ああそうそう、仲間に加わったフローズィアを紹介してやるよ。お前と相性良さそうだ」
「いえいえ!それはご容赦を!私、ああいう癖の強いお方は苦手でしてねぇ~。癖の強いお客様はダイス様だけで十二分…いえ百十二分ですよ!」
「どの口がほざく… 本当にそれしか用が無いなら…」
「まぁまぁ、お待ちを! いくら私も手ぶらでただオメデトーは致しませんよ!…ダイス様が開通されたトンネル…んー、意味深ですなぁ? …の前に、つまらないモノながらプレゼントをご用意致しましたので、是非お使いください♪ また、大所帯になられましたからなぁ」
「…プレゼント、ねぇ…」
「それにしても可愛い御子息でしたなぁ?ロキくんにそっくりで、将来が楽しみですなぁ♪…彼もあなたの魂に還元されてまた一つになってしまいましたから、斎城様があのような当て字まで作ってくるのも頷けますねぇ!」
「…俺の家族に妙な真似はするなよ?」
「滅相もございません! 生暖か~く大淵ファミリーの行く末を見守っておりますとも♪…あぁ、それと」
言葉を区切り、妙な…ヨガに似たポーズで大淵を振り返った。
「…前にお話ししたのですが、記憶を取り戻した今のダイス様…大淵様は若干ダイス様より戦闘能力とステータスが落ちます。くれぐれもご無理はなさらぬように。…人格…マインドセットを切り替える事で疑似的にまた、ダイス様に戻られる事もできますので、上手にご活用下さい♪これは私が用意したモノではなく、貴方様の一種の特技みたいなものですね、えぇ。 それぞれの人格に長短がございます。ダイス様を単騎決戦型の大飯喰らいとするなら、大淵様はリーダーとしても戦う低燃費ハイブリット…と言った所ですかねぇ?なんだかどちらも魅力的でございますねぇ!」
それだけ伝えるといつものように…煙となって掻き消えた。




