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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
演目  伝説の英雄は復讐の旅路を行く

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防衛戦


 魔物の横隊を突破した黒い津波は、文字通り魔王軍の魔物を呑み込み、尖兵へと変えながら魔王城とキャンプに向けて突進してきていた。


「竜撃隊、アイアンゴーレム隊は敵を殲滅し、戦線を押し戻せ!」


 フェンリルに跨ったリザベルと共に駆けつけたマオが全軍に命令を発した。…たとえ声が届かなくとも、見える範囲に居る限りは脳内に直接思念が届く。


 魔物達は押されていた。…敵が…強くなっている?


「チッ…」


 衣服を脱ぎ捨ててリザベルに任せ、星村が作ってくれた伸縮対応可能なノースリーブスーツ姿になった。


 変身しようとしたその脇を風が吹き抜け…ダイスが横を駆け抜けていった。


「ダイス… …皆の者、ダイスが…かつての大英雄が戦列に加わる!遅れを取るでないぞ!」

 

 ダイスは敵中に突進すると、黒ずんだゴーレムに突進し、相手に反応させる間もなくその体に掌を叩きつけた。 …黒い穢れが引き剥がされるように消え、ロックゴーレムが這いつくばった。


 多方向から繰り出される触手を全て薙ぎ払いながら更に敵中深くへと切り込んでいく。


 それを追いかけるように黒い波が引き返して包み込むが…接触する度にそれは消え果て、黒い津波自体が後退していく現象へと変わっていく。


 戦線を必死に抑えるつもりでいた魔物達は相手を失って茫然としていたが、魔王の突撃命令により、黒い引き潮を追って突進していく。


 遅れて人間軍のキャンプから出撃していた斎城らの大淵小隊と、魔王軍の援護の為に急遽出撃していた

秋元率いる黒豹隊はその光景に息を呑んだ。


「…流石と言うべきか…」

 秋元は山脈の麓へと押し戻され、下るには楽だったが上るには絶壁に近い崖下に追い詰められ…すり潰されるように消滅していく黒い軍勢を眺めて呟いた。


「…大淵…大輔…」

 共に続いていた銀がそれだけ声を漏らし、浮田以下黒豹隊の隊員達もその光景に圧倒されている。

 …これまで、「どうやって防ぐか」或いは「どうやって押し返すか」の方策に苦慮していた黒い異形の群が、天敵に襲われて逃げ惑う草食動物のように後退を余儀なくされ、立ち向かう者はより簡単に返り討ちにされて消滅していく。

 …大淵の場合は「どれだけ大量に処理できるか」を淡々と追及しているようだった。 …次元が違っていた。


 …しかし辛うじて大量殺戮を逃れた一部は、少しでもこちら側の魔物や人間を道連れにしようと迫ってきた。

「こちら黒豹隊・秋山。キャンプ西側を防衛します」

 大淵小隊の隊長である斎城に無線を送った。

『了解。こちらはゲストも増えて人数が多いので、北側から東側を守ります』


 彼方で黒い異形の波に踊り込む影。 アリスブルーと真紅のアーマーカラーリングを施された、美しくも猛々しい二騎の竜騎兵が見えた。

 …大淵小隊の二枚看板だ。更に二メートルを超す巨人のような女が長大なツヴァイハンダーを長々と振り回して黒い波を薙ぎ払っていく。 …これに加え、青髪の美しい女弓使いに率いられる、少女の騎士らが異形の群を叩きのめしていく。 …見慣れない魔物…アイスオークが戦場に不釣り合いな燕尾服で…気障ったいが見事な格闘術と氷結魔法を披露している。


 …大淵小隊に敵わないと知ると、異形の群の幾らかは抜け穴を探すようにこちらへ向かって来た。…フン…舐められたものだ。

 

 折から大淵の規格外れな力と爽快なまでの蹂躙劇に刺激され、戦闘意欲を掻き立てられていた秋元と銀は競うように異形の群に襲い掛かった。

 

 秋山は20式歩兵刀を異形の仮面に突き立て、背後から迫る触手には振り向き様に刀を抜き払って防ぎ、そのまま突進して本体を切り降ろした。…次の敵に向かいつつ、中距離の敵には仮面に向け、拳銃弾を浴びせた。

 

 銀は中華民国製23式騎兵偃月刀で深々と敵を両断し、引き抜くと頭上で一回転させつつ背後に迫っていた異形を叩き切った。…隙を狙って飛びついてくる異形には同じく22式柳葉刀で両断した。…切り突きと攻撃の速さを追及する日本刀よりも、遠心力を乗せて敵の装甲ごと叩き切る事に主眼を置いた中国刀だった。

 

 浮田は他の銃士を引きつれて隊形を組み、ボルトアクションライフルで周囲の異形の仮面を撃ち抜いて手堅く撃破しつつ、隊の中核戦力である秋山と銀に追随する。…本来はこれに射方のグレネード砲が加わるのだが、絶賛育休中である。


 最初は数千体も居たはずの黒い異形は数分と立たずにごっそりと削られ、僅か千体を切ってとうとう逃げ場も失い、両小隊によって挟まれるように殲滅された。


 大淵はというと、軽々と山脈を越えて山脈の向こうで凄惨な殺戮劇を再開した模様だ。


「大輔君、聞こえる? …そっちの状況はどう?」

 

 斎城が大淵の21式改Ⅱに装備される無線機に通信を送ったが、返事は無かった。


 どうしたものかと仲間同士で顔を見合わせていると、山頂に人影が立った。


『…聞こえるか?』


「ええ、聞こえる。そっちはどう?」


『追いかけられる範囲の敵は殆ど始末した。…残りは逃げているが、追うには遠すぎる』


「お疲れさま。…一回戻って来て」


『…いや、次の作戦の為にもうひと仕事しよう』

 そう言うとダイスはこちら側に軽々と飛び降り、再び崖下に立った。

「…何をするつもり?」


『大き目のトンネルを作る。…向こう側に拠点を作っていくためにな』


 遠くて見えないが、風神騎槍(ストームランス)だろう。ゾッとするような風切り音が聞こえたかと思うと、山肌が揺れた。…確か、向こう側まで数キロもあったはずだが… 人が入れる程度のトンネル…五年前、大淵、マオ、アリッサと共にバイクで通ったあのトンネルを…数ヶ月前に徒歩で何時間もかけて撤退してきたのを嫌と言う程覚えている。


 …一分もしない内、大淵から通信が来た。…流石にダメだったか?

『…恐らく貫通した。安全性を確認して来る』


 そう言ってトンネル内に消え…やはり二分もしたら戻って来た。

 

『…問題ない。…俺は向こうで敵が来ないか見張っておく。…出来れば拠点資材や…特に食料類を届けて欲しい』


「わかった。すぐにチームを募ってそっちに向かうから」




「こちら銀。 …あの…大淵…」


 銀は気まずそうに無線を送った。

『…どうした?』


「…さっきの事。 …言い過ぎた。ごめん」

 …暫しの沈黙が流れた。

 

『…些細な事だ。 …お前…銀がここを守るため…送り出してくれた者達を想って背負っているその志は尊いものだと思う。…俺とは違う。誇りに思って良い』


「…あ…」


『…これからも人々を頼む。…もし、英雄というものが存在するとすれば…それはお前達だ』


 銀が返す間もなく、ダイスは通信を切ってトンネルに消えてしまった。…分厚い岩山に邪魔され、更に何キロも先の向こう側に辿り着いた大淵に通信は届かない。


「フム。真の英雄は自分を英雄などと名乗らないからね。至極当たり前な事だが」

 グラス葉の茎を口の端に咥えながら、フローズィアが深々と頷いた。


「時にフロイライン・銀。 …極めて余計なお節介だとは重々承知だが、あの男だけは止めた方がいい。 …不運な事に、彼は関わろうとする女性を悉く不幸にしてしまう厄を持っているからね。 …まぁ、ここに居る全てのお嬢さん達への忠告にもなるが」


「ふん。結構な御高説だが、正に余計なお節介だ、フローズィア。少なくとも私はそんな疫病ごときに冒される身と心では無いのでな。 …それに、まずは最低限この世界だけでもあの上位者共の尖兵から取り返さねば、色恋沙汰をしている場合でも無いしな」


 マオは号令をかけ、魔王軍を再び…一月振りに山脈の向こう側に再進出させた。

 …敵から領土を奪い返すのはこれが初めてだった。

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