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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
演目  伝説の英雄は復讐の旅路を行く

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英雄の帰還


 静かな朝のオフィス…兼・リビング。


 星村あかりはデスクの前で各部署の報告書を纏めつつ、現況を把握していた。

 扉の開閉音が響き、ダイス…大淵大輔が姿を現した。

 後に続くように香山と斎城が続いてオフィスに入って来て、それぞれの席に着いた。


 …その光景にふと、懐かしい記憶が蘇ってきた。

 …自分達にとってのオリジナルともいえる大淵大輔が死に…死体安置所から蘇ってきた大淵大輔…そこから彼との数奇な運命がこうして始まった訳である。


 そしてあの日…失意の中、日常業務に就いていた自分と香山、斎城の元へ… …兄のように慕っていた黒島が彼を連れてきたのである。


「英雄の帰還だ!」

 

 星村は黒島と同じように声を上げた。


 困惑する三人を前に、笑った。


「…憶えてませんか?黒島さんが、大淵さんを連れてきた時に言ったの」


 斎城と香山は懐かしそうに…そして切なそうに目を伏せた。


「…」

 ダイスは何かを思い出しかけ…再び事務的な表情に戻った。

「…先に相談を聞きたい」


「…わかりました。それでは早速。…まず、大淵さんの独尊ですが、当分の修理が必要です。…ついでに材料が足りてません。…黒竜の鱗のストックも全て拠点の私の工房に保管してましたから…今頃はもう瓦礫の下でしょう。 …代用に可能な限り加工可能なマテリアルを探して、なんとか修繕して見せます。…それまではこの…私が妄想と趣味で作った21式改Ⅱで我慢してください。 …ぶっちゃけ、今の大淵さんにアーマーが必要なのかわかりませんけど…」


「…備えあれば憂いなしとも言う。…おそらく、星村にはこれまで幾度となく命を救われてきた…気がする」

「……そ、それとっ、鉄砲ですが…散弾銃の特殊シェル各種と、Rスラッグ、それから9㎜弾を用意しました。とりあえずこれで間に合わせて下さい。…やっぱり大淵さんといったら遠近両刀使いのオールレンジなスタイルですからね。 …本当は大淵さんの真価が発揮できる、強力で汎用性が高いライフル…せめて騎兵銃があれば良かったんですが、どうしてもこの世界じゃ資源と工作精度に限界があるので、あまり期待しないでください… 銃士隊も殆どがもう破損寸前の騎兵銃か、仕方なくボルトアクションライフルを使っている状態です」


「…十分だ。助かる」


「…さて、ここからはお願いというか、現状説明なんですけど…現状、このキャンプは一見うまく運用できているように見えるかも知れませんが、実際は慢性的な物資不足、エネルギー不足に悩まされています。…エーデンベルトからのエーテル・物資輸送がリノーシュさんの協力もあって実現したのは、本当に首の皮一枚繋がりました…が、とても現代人が当たり前に享受していたサプライチェーンには及んでいません。文字通り、恵みの雨を頼っている状態です。 …命懸けで来てくれている船乗りさん達には死んでも死にきれない程助けられているんですが…これはこの大陸に安定した供給インフラを整備しないと、根本的にどうにもなりません」


「…俺は、その邪魔となる上位者の尖兵を蹴散らすくらいしか役に立てん」


 ダイスが腕を組みながら端的に答えた。

 星村は…ついぞ実現しなかったが…もし、勇者…レイスが自分達に協力してくれていたら、こんな感じだったのだろうか?などと思ってしまう。


「…はい。いつ横腹を鋭いナイフで襲われるか分からない状況で仕事をしろなんて、土台無理な話です。…大淵さんが戻ってきてくれたと知るだけで、現場で働いている人や戦士は元気になる筈です」


「…わかった。 …他には?」


「…どんな些細なモノでもいいので、素材らしい物を見つけたら持ってきてください。…今は冗談抜きで、キャンプの人の排泄物から堆肥を作って作物を必死に育てている状況です。…避難者に農芸士が二人いて本当に助かりました。…一人は病気で亡くなってしまったけど…昨日食べた夕食や、人々の食料…その亡くなった人の分まで頑張ってくれている人が居ます。…私も負けていられません。素材さえあれば、アーマーだけでなく、このキャンプの外壁強化や有用な農業資材に繋がる素材が作れるかもしれません」


「わかった …任せろ」


 ダイスは短く応じると、早速拠点の外に出ていった。


「あ、あと、このキャンプの反対側にもう一つの詰所…主にキャンプ内の治安維持を任務とする戦士の詰所があるので、時間があったら挨拶してきてください! 浮田さんや…今は育休中ですけど射方さんもそっちに駐屯しているので! …元憂国烈士団の隊長だった方や…向こうの世界の人々が命を賭けて送り込んでくれた、三人目の竜騎兵の方もいらっしゃいますから」


「…先に顔を出してみる」

 

 そう言いながら21式改Ⅱを体に着込んで詰所を出たダイスに、香山と斎城が続いた。

「…お前は子育てがあるだろう」

 香山を見ると、咎められたと思ったか香山が涙を滲ませながら俯いた。


「…ご、ごめんなさい…ただ、こうして一緒にいるのが懐かしくて…」

「…責めている訳では…」

「お前は、を、桜は、って言い替えるだけでぐんと印象が違うよ?…香山さん、ツッコまれるのに慣れてないし」


 斎城が二人をフォローした。


「…香山さんも香山さんで泣き虫なんだから。…お陰でフォロー役の私が負けヒロイン役になったんだからね」 

「ご、ごめんなさいっ!?」

「…冗談だって!    …半分は」 


 二人の会話を聞きながらもダイスはキャンプ内の生活様相を観察していた。


「…食料はとりあえず足りているように見えるが」


「ここは日本みたいに厳しい冬が無いからね。その代わり、雨が無くなると厳しい。…ヒュバラ山脈を越えてもう少し北西側にいくと灌漑農業ができそうな土地があるんだけど、上位者の軍に抑えられているの」


「分かった」


 キャンプの反対側…防護壁への昇降梯子脇に建てられた駐屯所があった。プレハブ小屋を二列に八つ、二階建てに並べた程度の大きさだった。


「お、大淵さん…!?」

 その玄関先…ポーチでベンチに腰掛けて子供を抱いている若い女が顔を上げて驚愕した。


「…俺を知っているのか。…すまんが記憶喪失でな」

「そ、そうだったんですか…あの…お世話になっていた射方…浮田怜奈と言います。砲兵です」

「…その子は?」

「…あ~…あのバカ…浮田に上手い事乗せられちゃって…あっ、この子は娘の光です」

  

 まだ生まれて間もない赤子が純白のお包みに包まれ、気持ちよさげに眠っていた。


「…」

 ダイスは微かに口元を緩めて微笑んだ。


「…ここでは俺は新参者だ。挨拶をしておこうと思ってな」


「ええ、どうぞ入って下さい」


「南地区駐屯所 ・保安部」

 と書かれた看板を潜り、ドアを開けた。これもドアベルが鳴り、正面受付カウンターに座っていた小柄な女性が立ち上がり、律義にお辞儀をした。

 こちらの世界におけるオーソドックスな…西欧のディアンドルに似た服に身を包んだ、柔らかな印象の女性だった。

「おはようございます、南地区駐屯所・保安部です。どのようなご用件でしょうか?」


「…大淵小隊に戻った…大淵大輔だ。…挨拶をしておこうと思ってな」


「大淵小隊の…大淵さんって……まさか…」



「どうかした?宮間さん」

 

 駐屯所の奥から漆黒の21式改に身を包んだ、小柄な青年が現れた。遅れてボルトアクションライフルを背負った、その男より僅かに背が高い男も現れた。


「あ、秋山君…その…こちらの方が…大淵大輔さんだと」


「…」

 互いに無言で見据えあった。


 …大淵大輔とはついぞ面識が無かった。 


 …かつて、憂国烈士団として帝都で戦いに赴く際、その存在は最重要特別警戒対象として全団員に至るまで徹底して周知されていた。

 …そして実際、人外じみた戦闘能力を誇る烈士団の隊長クラスの何人もが…最強と名高かった一番隊の常盤までもが、大淵に敗れていた。

 …そして自分も敗北を喫していた。ただし、それは大淵大輔が変容した、ロキなる童子…一番隊隊長の常盤をも容易に戦闘不能にした、疾風の剣で舞う童子に…だった。


 …ただ、少なからず力をつけてきた自分には、この男が圧倒的な…人外をも超える力を備えている事は容易に察する事ができた。 

 …ならば、この男が大淵大輔である事は疑いようがない。


「お、大淵さん!? い、生きてたんスか…!?」


「…ああ。 …外で射方に会った。…ただ、俺は記憶喪失らしく、お前達の事をよく思い出せんのだが…」


「…お、俺は浮田柊真(しゅうま)です。…大淵さんには何度も助けられましたよ…と、とにかく無事で何よりでした! すいません、俺はあんなの見たら、もうダメかと…あぁ、秋山、こちらの人は大淵大輔って…」


「ええ、浮田さん、分かりますよ。 …かつての憂国烈士団では魔王に次いで唯一…殺害も辞さない最重要標的でしたから」


「…」


 ダイスを除く二人が息を呑んだ。


「…誤解しないでください。…憂国烈士団は確かに俺の栄光です。しかし、同時に烈士団は敗戦後に敵を恨むような卑屈な真似はしません。 …そして今となっては、あの時魔王や岩田を殺していれば、今、ここに生きている人たちも俺も、皆破滅していたでしょう。 …止めてくれて感謝しています。 そして、その過ちを償うため…最後の作戦の折、隊長達は身を挺して竜騎兵と共に俺をここへ送り込んでくれました。 …なにせ、「負けてもマイナスポイントで終わらせない」が憂国烈士団のスタイルですから」


「秋山君…」


「竜騎兵が何だって?」


 更に奥から…深い蒼を含んだ翡翠色の地に、胸元に黄色い星のラインを引いた21式改を纏った黒髪の女が現れた。

 魅力的ながらボディラインは引き締まっており…特に初対面の者なら誰もが間違いなく目を引き付けられるであろうその立派なハムストリングを筆頭とした屈強な下半身は、多彩な蹴り技を含むなにがしかの格闘術の名手である事は明らかだった。

 目つきは鋭く、どこか挑戦的な三白目。 …女性としては背が高い方で、秋山や浮田と同じ程度だった。


 …カリューやアリッサや斎城、そして秋山と言う男と同等の猛者だろう。 

 

 ダイスは相手のステータスを見る機能を失っていたが、代わりに気配で大まかな総合戦闘能力を弾き出す事はできた。 …それが乱戦時、最優先で対処すべき相手を見ずとも理解できる要因になっていた。

 

「ああ、銀。 こちらは…」


「聞こえたよ。…伝説の英雄・大淵大輔でしょ? あたしは銀 鈴梅。 …面白そうじゃん、手合わせしてみようよ」

 

 腰に下げた柳葉刀とは別に、手に木刀を握っていた。


「…いや、やめておく」


「なんで? 本物なんでしょ?…後学の為にも是非付き合ってもらいたいけど」


「…本物かどうかは俺には分からん。…伝説の英雄などという称号もどうでもいい」

「…なんだか随分投げやりな英雄さんね。…ちょっと幻滅した」


 二振りの木刀をテーブルの上に置き、ダイスを見上げながらその脇を通り抜けていった。


「…キャンプの人達は表面は笑っているけど、内心ではいつ上位者がここを襲ってくるかと…寝るときも怯えている。…私達はね、自分が呼ばれたいか呼ばれたくないかじゃなくて、彼らが安心できるために英雄じゃなきゃならないの。 …だからそんな中途半端な気持ちで伝説の英雄の名前を名乗ってほしくないワケ。 …お分かり?」


「…」

 真正面から見上げられ、ダイスは無言で見下ろした。


「…それなら俺は引き続きダイスと名乗る。…俺は星村のように何かを作れる訳でも無く、トレーシーのように料理を作れる訳でも無く、農芸士のように皆を食わせてやることもできない。 …救世主や英雄などでは無い。…俺に出来るのは敵を…上位者を殺す事だけだ。 …俺の名は呼びたいように呼べばいい」


「…失敗者(まけいぬ)


 銀は通り過ぎていくダイスの背にそう呟きかけた。 


 浮田が困り顔でダイスの後を追った。

「…すみません…銀の奴、上位者を倒した伝説の英雄って大淵さんに憧れてたんですよ。だから……それに、普段はすっごく面倒見の良い奴で、治安活動や喧嘩の仲裁も人一倍張り切ってやってくれてるんです。…それに、五年前…まだ14歳だったのに、向こうの世界で生き残った世界中の人々がこっちへ送り出してくれたものだから…物凄い気負いがあるんです」


「…大したものだ」

 嫌味ではなく、素直にダイスは褒めた。


 

 …大軍の殺気と気配。

 ダイスは鋭い目でヒュバラ山脈を見上げた。

 …山頂を守っていた体長5メートルの岩のゴーレム…ロックゴーレムが、無数の黒い異形に張り付かれて黒ずみ、やがてこちらへ下って来た。それに続くように大量の黒い影が津波のように標高200メートルの…天然の城壁を駆け下って来ていた。


 狼狽える浮田をよそに、ダイスは初弾装填済みの拳銃と紫電を抜き払っていた。

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