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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
演目  伝説の英雄は復讐の旅路を行く

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再会

 キャンプの一角に、一際大きな建物があった。「大淵小隊詰所」とそっけなく、しかし達筆で書かれた看板を立てた、煉瓦と石造りの二階建ての建物だった。


 緒戦時に辛うじて避難させることができたオルド山の偏屈爺…ヴェルンに手伝ってもらいながら立てた拠点で、特に頑丈に作られていた。…竜騎兵を抱え、人間側の戦力の大半を集約していると言って過言ではなかった。そのため、人魔連合軍として前線に赴くのは必然的にこの拠点に所属する戦士…斎城らがメインとなっていた。


「…折角だからサプライズしてあげようよ。大輔、まずは君一人で入っておいで」

 リノーシュが悪戯っぽく笑った。


「…?…わかった」


 ダイスは看板も気にせず、ドアを開けて拠点へと入っていった。


 ドアベルが鳴り、デスクに突っ伏していた白衣の女性が顔を上げた。

「…んー?…わぁ、大淵さんじゃ無いですか。…夢枕ってやつかなぁ?」


 幸せそうに笑うおさげ髪の、まだわずかにあどけなさを残した顔。…その眼から涙が滲んだ。

「やっと立ってくれましたね…やっぱり、理数系だと相性悪いとかあるんですかね…?」


「…」

「うっ、…大淵さん…色々ありましたね…」

「あ、ああ…?」

「く、黒島さんとは…ちゃんと仲良くしてますか?」

「クロ…シマ…」

 ダイスは俯いた。

「うぐっ…川村さんや…藤崎さんに…お、尾倉さんも…ッ」


「…ッ」

 ダイスは息苦しそうに胸と額を抑え、その場で俯いて悶えた。


 奥から扉が開く音がして、何やら静かに言い争う声が聞こえてきた。


「…だから言ったよね、アリッサ?「私のシャツもロッカーから持ってきてくれる?」って。そしたらあなた、「ワカリマシター」って確かに言ったよね?」

「ンー、良く分かりマセンねぇ… 言った言わないって…お互い年食ってボケてきたんじゃ無いデスかねぇ? お互い政府消滅して年金貰えない上に三十路前の独身女の身トシテは世知辛いデスねぇ」

「ボケてるのはあなたでしょ! まったく…ここは女所帯だからいいけど…大樹くんもいるんだから…あなた最近弛み…す…ぎ…?…」

 

 …何故か揃って、上半身下着姿の金髪と長い黒髪の女…


 …金髪の女も何か…胸が苦しくなるが…黒髪の女は…あの写真の…


 女達と凝視し合ったまま、ダイスは言葉を出せずにいた。


「ああっ、見て下さいよアリッサさん、斎城さん!大淵さんが私の夢枕に立ってくれたんですよ!」


「…星村さん、確かにあなたは疲れてるけど…きっと…多分…本物…」

「ヒナ…コ…?」

「えっ…」


「イエース……一応、足はついてるみたいデスね…?」


「あの…何かあったんですか?」

 

 更に別の部屋を開け、小柄な女…赤みがかった髪の女が出てきた。…この女は特に…写真を思い出すまでもない……酷く胸と頭が痛んだ。 …嫌な記憶じゃない… …俺の…


「え…えっ?…大輔…くん…?」


「サ…クラ…」


「おーい、女共!外に五年ぶりにリノーシュ達と、猪もどきが遊びに来て…る…ぞ…」


「マ…オ…」


 マオが腰に飛びつき、ダイスはそれを茫然と見下ろしていた。




 帰って来た…帰って来たのだ!

 少々様子や雰囲気は変わっているが…そんな事はどうでもいい! イメチェン…とかいうやつだろう。

 その姿と魂は、間違いなくダイスのものであった。

 

 思い切り腰に抱きついてやった。…そして叱りつけてやるつもりだった。今まで何をしていた、あんなモノに捕まって、この私を五年も待たせおって…と。

 

 …冷たい。


 見覚え…心当たりがあった。…自分達と同じ、魔族の肉体だ。…人間と生命活動が異なる、あたたかい血の通わないこの体… 


 ただ、魔族とも違った。…ダイスは人間とも魔族とも違う、全く別のモノになり果てていた。


 …本来の姿をしている分、それはあまりにグロテスクで残忍な事であった。


「だ、ダイス…!? …どうしてしまったのだ…何があった!?」


「…」

 

 ダイスは困惑顔で自分を見下ろしている。

 

 …あの、女を前にするといつも鼻の下をだらしなくして、口元も緩むアイツが…

 斎城やアリッサの肌を見てもさして興味も見せず、ただ、自分達を奇妙な生き物でも見るように…

 …いやだ、こんなダイスは嫌だっ!


 …それでも、このダイスを二度と手放したくなかった。

 どうする事も出来ず、マオは…決して人前で涙は見せぬと心に決めていたが、遂にその場で大声を上げて泣き出してしまった。


 

 

 「彼女らへの説明は僕に任せて、君は休んでいて」とリノーシュに言われ、ダイスは案内された一室…ベッドとテーブル、装備保管用の棚がある個室で、眠るでもなく目を閉じていた。

 …誰かが部屋に入ってくる気配。 …嫌な予感がする。


「お、お目ざめですか…?」


 …誰の声を模しているつもりだか知らないが…耳障りな声。


 …また貴様か…

 

 …ダイスは半目を開き、苛立たしげに声の主を言外に責めた。


「ダイス様、ひとまずはコングラッチュレーションズ、ですなぁ♪」


 誰も居ない室内に、例の奇人だけが立ってた。



「…しかしダイス様、これでハッピーエンドではございませんよ?むしろ、ここからが私としてはお楽しみポイントです♪ なにせ、あなたはまだ彼女らの事を100%思い出していないのですからね。…ここから先、貴方が選択をミスればミスるほど、彼女らは一人、また一人…黒島様達と同じ彼岸に逝かれるか、もっと悲惨な末路を迎える事となるでしょうなぁ♪」


 …あいつらが誰かは…よくわからんが…手を出すつもりなら…

 

「ククククク…守るものが増えるとは嬉しくもあり辛いものですなぁ、ダイス様ぁ?…守り切れますかなぁ…? …今度は小さい命のオマケつきですぞ? …今のダウナークールなダイス様も魅力的ですが、ハッピーエンドを目指したいならお節介ながらヒントをば。 …そのままではまた…今度はダイス様が幽閉される事は無いにしても、小手先を変えたようなバッドエンドですよ♪ …それはそれで酒の肴にはなりますが、それでは芸がありませんのでねぇ」


 何を言っている…?


 掴みかかろうとして果たせず、ダイスはベッドから転がり落ちた。…例の奇人は夢だったかと思う程綺麗に居なくなっていた。 …ただ、一枚のメッセージカードを残して。


『☆ハッピーエンドへの切符☆ このカードを例の青髪女王様に見つかると、後で後悔しちゃうかも?』


 …そのカードを引き千切ろうとして…廊下の向こうから大股に近づいてくる味方…リノーシュの気配を感じ…どうしてか、咄嗟に胸ポケットに隠してしまった。

 

 扉がノックされた。

「…大輔…?」

「あ、ああ…」」


「入るよ」


 リノーシュが部屋に入ってきた。ベッドの下に膝を付くダイスを見下ろし、怪訝な面持ちを見せた。


「…何かあったのかい?」

 

「…いや」


「…そう?」

 益々リノーシュは訝しげにダイスを見たが、それ以上追求しなかった。

「…そうだ、皆への説明は終わったから、一緒に皆で夕飯にしないか?皆、大輔と会いたがっているし、君も皆と交流して、少しずつでも思い出して行こうよ」

「ああ。 …今から向かう」  


 リノーシュは頷き、部屋から出ていった。

 …何故言わなかった…? リノーシュより…あんな狂人の言を信じるのか、俺は…? しかし…


 胸ポケットに隠したカードを取り、開いてみた。


『時として本能に忠実たれ♪ ただの良い子ちゃんじゃ世界と愛する人々は救えないゾ☆』


 …訳が分からん。 …しかし、何故か捨てる気にもなれず…それをまた胸ポケットに収納した。

 そしてリノーシュの後を追い、部屋を出ていった。




「なぁなぁ、大輔が帰って来たって本当か!?」

「ふん、来たな、大飯喰らい竜め…あっ、こら、止めんか、この子ザルめっ!」


 テーブルに座ったマオの角を興味津々に触れる幼い子が居た。マオはそう言いながらも負けじと幼子の頬を撫でまわしながら反撃していた。


「こ、この子が…香山さん…と…せ、先生の…」

 …メノム以下四バカが、世界の終わりと始まりを同時に見たような顔で幼児の戯れを見つめている。


「ふむ、ロマンは実在したか。 …全体的にフロイライン・香山の柔和で奥ゆかしいシルエットが目立つな。 …だがこの魅了の気配は父親譲りでもあると言えよう。 …父親同様、将来数多の女性を恋に悩ませる咎人となるだろう」

 フローズィアは年代物の骨董品を鑑定するようにしげしげと幼子をそう評した。


 遠巻きにそれを見ていたトレーシーが、背後に立ったダイスに気付いて声を上げた。

「あ、あんた、恋人いた上に子供までいたの!?」


「…?」

 ダイスは何の話かと首を傾げる。


「大輔、こっちこっち。座りなよ」


 リノーシュが幼子と…香山の間の席を引いて手招きした。


「…」

 ダイスはその席にどっかりと座った。…そして、左隣に座る香山を無遠慮に見た。…香山はその鋭い視線に耐え切れずに俯き、視線を逸らしてしまった。

 

 …やはり、何度も写真で見た女だった。…写真の時よりも歳をとっていたが、それでも二十代の半ばになったばかりだろう。 …何故か桜色に頬を赤らめている。


 …美しい女だと思った。

 …その名を呼ぼうとして、忘れていた花の名も思い出した。


「…桜…だな?」

「は、はい」

 女…桜が顔を上げた。


「俺について知っている事を教えてくれないか?」

「…ええ。…皆とご飯を食べながら、ゆっくり話しましょう」



 香山はこれまでダイスが辿ってきた数奇な運命を、知る限り語って聞かせた。…ダイスの元の魂がこの世界とは別の、幾分平和な世界から来て…幾度となく過酷な戦いを仲間を率いて切り抜け、冒険してきた事。…そして自分と恋人になったことと…その直後、上位者によって捕らえられ、この世界における現代世界が上位者の手に落ちた事… そして今、その上位者がゲートをも疾うに制圧し、逃げ延びた自分達含めた魔王軍…人魔連合軍と、この地で睨み合っている事。


「…わかる。向こう側にいるな。 …だがこれは上位者の気配では無い。…奴らの尖兵に過ぎない」


「…でも、大輔くんが戻ってきてくれたなら…」


 ポン、と自分の右膝に置かれる手があった。

 見下ろすと、先の幼子が自分を見上げていた。


「あ、あの…私と大輔君の…息子です。…私が大樹って名付けました」

「…そうか」


 ダイスは自分をじっと見つめる息子…大樹とにらめっこでもするように見つめ合った。…やがてその頭を、大きな手で撫でた。


「ちな私は大輔ジュニアを推したんデスケドね、落選シマシタ」

「当たり前でしょ」

 斎城はスープを啜りながら事も無げに言った。

「斎城だって呂騎ナンテ当て字まで作ってきたクセ…」

 咄嗟に口封じされるアリッサを横目に、ダイスはようやく食事に手を付け始めた。


「なー、大輔、どうやってあの繭から抜け出して来たんだよ?」

 カリューが自ら仕留めてきたタイガスブルの肉を頬張りながら訊ねた。

「…それはよくわからん。 …気が付いたらトレーシーに助け出されていた」


「…僕が思うに、それは大輔の前にのみ姿を現して何事か唆している悪魔の仕業だろうね。…時折、存在は感じるが、とても見つけられそうにない。…とはいえ、大輔が日本に幽閉されたままであれば、今頃…いや、僕たちが大輔に再会する事は限りなく不可能に近かっただろうね。 …かといって、あんな離れたサルデンス砂漠の遺跡に幽閉されていたら、これもいつ救助できていたか分からない。…トレーシーには感謝してもしきれないよ」


「トレーシーさん、本当にありがとうございました!」

 ダイスの恋人…というより妻である香山に礼を言われ、トレーシーは苦笑しながら手を振った。


「あはは、そんな大それた事じゃなくて、トレジャーハンティングの最中…偶然だったんです。…でも、ダイスと皆さんが会えて、その力になれて本当に良かったです」



「そうだ、大淵さん、独尊の修復と…銃器も殆ど無い状態でしょう?明日、他にも色々ご相談したいことがあるので、朝になったらまたお話しますね」


「分かった」

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