表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
演目  伝説の英雄は復讐の旅路を行く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/173

北大陸の王


 特注させたクリスタルガラスケースの中に収められた、ごくごく普通の…手頃な子供用のワンピース。…小悪魔コーデと言うらしく、腰の辺りに小さな蝙蝠羽を生やした、中々魔族的ファッションセンスのあるワンピースで、お気に入りの一つだった。

 

 …勿論、奴が買い与えてくれたものだ。 …本当なら今も袖を通したかったが、現状、奴が渡してくれたこの服だけが奴との唯一の思い出の品だった。…万一にも傷や汚れを付けたくなくて、こちらの世界に逃げてきて早々にこのガラスケースに収め、私室のベッド脇に飾っていた。

 …代わりに今は、遥かに上等で金糸細工やビロード地が美しい魔王専用のワンピースを着ていた。魔界の職人が仕立ててくれた逸品だ。…ただ、この服にはダイスとの思い出は無かった。


 魔王は無駄に高級な椅子に身を預け、無気力にワンピースを眺めていた。


 彼の世界が圧倒的な力を持つ上位者によって制圧され、その魔界侵攻を阻止すべく立ち向かった人魔連合軍は防戦一手となっていた。


 …どころか、年々押されていた。最初はあのオルド山脈に穿たれたゲートトンネル付近を抑えていたのが、今では後退に後退を重ね…いよいよこのヒュバラ山脈を越えた一体に長々と魔物達の防衛ラインを引き、時としてこの天然の城壁であるヒュバラ山脈を盾に、或いは城壁とし、我が魔物達は良く戦って来てくれた。


 …かつて6億5000万を数えた栄光の魔王軍は今や3億2000万を割り込もうとしていた。上位者と上位者の尖兵は衰えを見せずに攻め続けて来ていた。 …これに加えてここ最近、魔物が謎の黒い異形に乗っ取られ、敵の尖兵と化すという忌々しい事件が多発していた。


 …しかもその異形は幾ら倒しても敵にとってはさしたる損害にはならないらしく、あまりに神出鬼没なため対応に苦慮していた。


 …正直、疲れた。


 …そもそも私は戦いが嫌いだ。 できる事ならこんな事をせず、またダイスと会って、遊びたかった。


 …桜や斎城達もそうだが、自分は一貫してダイスの生存を信じて疑わなかった。…今もあの魔都と化したトーキョーで一人、あの黒い繭に閉じ込められて抗っているに違いない。


 …死んでいった者達、同胞…そしてクロ、カイ、アヤネ、オグラ… 彼らの為にも、何としてもダイスの馬鹿を助け出してやらねばならない。


 …その具体的な方策は未だ見つかっていなかったが。 …どころか、敵の魔手が自分達の喉元まで付きつけられている。


 …そして、寿命や生命維持、そして思惑に疎い魔物と違い…人間は老い、飢え、疲弊し、病に倒れ、そしてあまりに脆かった。

 体だけではなく、心まで。


 戦況の悪化に伴って、避難してきた人間達は疲弊し、荒んでいった。…絶滅を免れたたった六千人の人間達のうち、戦闘に参加する者は三千人。後はその家族や恋人だった。…限られた物資と資源、そして種… この広い世界に家畜のように突然押し込められた人類は…良くも悪くも、それぞれが思惑を持っていた。

 

 中には思惑など持たずに黙々と防衛に当たる者もいたが…そういう者は斎城らのような少数派だった。


 …そして例外なく等しく、老いていた。 

 …たった五年で二十代だった斎城とアリッサは三十手前だと折々冗談めかしながら嘆いているが、他の人間たちも三十代だった者が四十に、四十代だったモノが五十代に…と。


 自分達魔物からすれば何でもない年数だが、人間達にとってはそれがかなりの年数であった。さすがに50代をピークにステータスは成長を止め、そこからその人間の老化に比例するように衰え、失われていく。

 

 …死にさえしなければ何百年でも戦える魔物と比べると、人間は自滅的とすら言える短命であった。

 

向こうで予め番になっていた男女や、こちらで番になった男女によって何人かの子らが産まれ続けていたが、仮にその子が戦士になる意志と素質を持っていたとして、それが最低限になるまで概ね18年…贅沢を言えば20年は欲しいという。…その間にどれだけの人間と魔物が死に、一体どれだけの新たな子が生まれるというのか。

 

 …たった五年で戦に辟易している自身を棚に上げ、マオは溜息を吐いた。


 …算数をするまでもない。…この地の兵士は減り続け、いつか戦える者は居なくなる。…既に何組かの人間はこの地を見限り、エベラから南大陸へ移住し始めている者もいる。…これを決してリノーシュは歓迎していなかったが、これを抑えつければ抑えつけたで、人間達の不満がどのように悪影響を及ぼすか知れない。…決して強権的な対応は取りたくなかった。

 彼ら彼女らはマオを失望させ、この地の同胞を見捨てて早々に逃げ去っていった。


 …連中が海を渡れないとでも思い込んで…あるいは一種の妄信か。 …滅亡が幾らか先送りになるだけだというのに…それともその間に何か策を練るというのだろうか?


 …もっともマオは、その彼らの殆どが既に海の藻屑になっているとは知らなかったが…


 部屋のドアがノックされた。

「…マオ様、リザベルでございます」


 リザベルの声が硬い。…戦況が厳しいか?…それとも… 


「…どうした?」


「…人間達がまた小さな諍いを起こしているそうです。い、如何致しましょう…?」


「…手を出すな。我らが割って入れば、必ず我らを憎む。 …それは良いのだが、彼らには自分達で自治してもらわねばならん」


 …ハッキリ言って、そこまで面倒見切れない。

 そうでなくとも魔物の中には敵と戦う事に反対する者は一兵たりともいないが、何故人間を守ってやる義理があるのか、と疑問を持つ者も多い。…士気を下げない為にも、これ以上負担を増やす訳には行かなかった。


「そ、それと…エベラからの荷が届いたようです。今、人間達のキャンプに運び込まれました」


「…リノーシュか。…助かる」


 物資が届くと、人間達は幾分か落ち着き和らいだ。この地の文明を全て自分が根絶やしにしてしまったため、人間が生きて行くためのインフラや物資は全て自分達で一から作らねばならなかった。…これはマオは元より、当の人間達もが想像するより難儀な事で、それこぞ試行錯誤と血と汗と涙の繰り返しで、ようやく現四千人のキャンプを維持できるようにした所だった。


「…どれ、偶には人間達の様子を視察しに行くか。お前も供をしろ、リザベル」

「はっ」

 …実は、しょっちゅう桜たちの所には遊びに行っていた。

 …ダイスを奪い合った宿敵たちではあったが、今となっては良き戦友だった。…彼女らが死なないか…それだけが今は一番の心配事だった。


 …ダイスが戻って来た時、自分や彼女らが一人でも欠けていれば、奴は心から悲しみ傷つくだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ