手紙
ポリミナ村
姉・トレーシーがダイスと共に旅に出て一ヶ月半が経っていた。二十日ほどでブレメルーダに到着し、もしトンボ返りしているなら今日明日に帰って来てもおかしくない。
トロイは林の中で比較的倒しやすいモンスターを倒しながら地道に実力を重ね、時折村人からの依頼をこなして日銭を稼いでいた。この分なら姉が残してくれた財産には手を付けずに済みそうだった。
その日のささやかな稼ぎを終えて家に帰宅すると、郵便受けに封筒が入っていた。
トロイはその場で封筒を開け、家に入るなり窓から差し込む夕日の中で手紙を開いた。…手紙が来たという事はトンボ返りは無しということだ。何か面倒ごとがあったか、それとも…
『トロイへ。ブレメルーダに無事、ダイスと共に到着しました。…換金は無事に成功しました。…ここまで旅をして、ブレメルーダでダイスの正体が分かったので、トロイも気になっていただろうからそれを先に伝えます』
トロイは手紙を更に開いた。
『…ダイスの正体は五年前に日本で死んだとされる伝説の英雄でした。その英雄が何故サルデンス砂漠の遺跡に眠っていたかというと、それはダイスの事を気に入っている悪魔が仕組んだ事のようです。…悪魔を本当に味方と思って良いかというと、そうではないけれど、少なくとも今、ダイスはこの世界に必要な人であることは確かです。 …こちらにはそのダイスと古い付き合いの、とても強い人が大勢います。…あのブレメルーダ国王のリノーシュ様とも親友でした。…これからダイスは海を渡り、北の大陸に向かいます。…さて、盗賊のあたしじゃこれ以上ダイスと一緒に居ても足手まといにしかならないから、そろそろ私は…』
「私は…」
トレーシーは筆を止め、便箋の前で考え込んでいた。
郵便局内のデスクスペースで弟への手紙を書いていた。
…もうひと仕事して、帰るか…それとも…しばらくこの活気あるブレメルーダで働いて出稼ぎするか?
窓から見える海…港には漁船や商船が波に揺れていた。…その遥か彼方にはブレメルーダ海軍の軍艦がその雄姿を揺らしていた。
…じき、ダイスはあの四人の女騎士と共にこの港を出発する。見送りまでに手紙を書き終えなければならなかった。
「あー…私は…」
…色んな考えが頭を過っていた。…これからやらなければならない事…帰り路…仕事の事…ダイスの事。
「…」
ふと、リノーシュの言葉を思い出した。
…何だ、簡単な事じゃないか。
羽根ペンを走らせ…手紙を受付に渡した。
「お願いします」
「はい、確かに」
郵便局を出て、港へと向かった。
港では軍艦が出港準備を進めていた。一番艦・ウルフ…五年前に海戦で艦長ごと失われた船だが、二年前に進水し終えた船だった。まだ新しい船体が明るい海に照らされて輝いて見えた。
甲板の上に海を眺めるダイスの姿を見つけた。…ダイスもこちらに気付くと、見慣れた仏頂面で見返してきた。
「ダイスー、お別れだね!」
「…ああ」
「…ちょっとは寂しいとか思わない訳ー?」
「…」
「…ふーん?そんな冷たい態度を取っちゃうなら…こっちにも考えがあるよ」
ニヤリと笑んで見せると、ダイスは困惑顔になった。
トロイは頬を綻ばせた。
『私は、ダイスを利用してもうひと稼ぎしてきます。…万一の時にはエーデンベルトの中央銀行に口座開設しといたから、そこに送金しておきます。合言葉のヒントは…昔遊んだ広場の…』




