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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー


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13/59

休暇②

 暖房をつけているにも関わらず、冷気を肌に感じて目を覚ました。

 部屋の中に差し込む光がやけに眩く感じる。そんなに寝過ごしたか、と思いながら身を起こすと、時計は七時を幾らか過ぎた所だ。そして、窓の外に見える山々が白い。


(やはり降ったか)

 とはいえ、十センチも積もらない。雪化粧程度だ。起き上がり、窓の傍まで行って雪景色を眺めた。

 既に雪は降り止み、昨日は暗くて見えなかった深山の景色が見渡せた。なるほど、これなら斎城が言った通り秋なら紅葉の絶景、香山の言うように夏なら生命力あふれる青々した山々が見られるだろう。春なら山辺の山桜が美しく咲き乱れるだろう。

 そして今は、美しい白一色の世界。明るみ始めた空の光を雪が反射して眩く感じさせる。

 ガラスドアを開け、テラスでもある客室露天風呂へと降り立った。

 モノトーンの際立つ美しい雪景色が、手の届きそうな程間近に広がっていた。眼下の沢には清流が流れている。 小さな吊り橋が掛けられたその河原も、大小全ての岩が雪帽子を被って眠りについている。

 

「大輔君?」

隣から声が聞えた。斎城がサッシの開閉音で気付いたのだろう。

「ああ、おはよう。いい雪景色だな」

「ね。紅葉は見られなかったけど、これはこれでサプライズかな」

 湯を撫でる音が聴こえた。

「大淵君も朝湯ですか?」

 香山も居たのか。

 分厚い壁の向こうの二人の肌を妄想しかけ、慌てて振り払った。

 …だがまぁ、絵にはなるだろうな。 よく見かける、温泉旅館のパンフレットの表紙を飾る女性一組の肩とこの雪景色だ。


「…いや、雪景色見たさにな。また後で、朝飯で会おう」

 そう言い置き、部屋に戻った。

 

 朝食は大座敷だった。二人も浴衣の上に自分と同じ臙脂色の羽織りを着込み、席に合流した。

 高身長の斎城はそうでなくとも目を引くが、香山までいると誰もが二人を振り返らずにはいられないだろう。控えめながら、他の客の視線を感じた。自分達の関係をあれこれ憶測するのも無理はない。


 定番の和食メニューが運ばれてきた。熱い味噌汁を啜りながら朝のニュースを何の気もなしに横目で見る。芸能人の結婚と妊娠、一流日本人選手の海外での活躍…ゲート関連の話題は無い。今の所、日本は平和だ。おかげでこの休暇をたっぷり満喫できそうだ。

 香山は焼鮭を白米の上に乗せて小さな口に運んでいる。


 三人で朝食を摂り終えた後、ロビーにあるラウンジで寛いでいる時の事だった。離れたテーブルに座っていた男性客が歩いてきた。

 やけにこちらを見て来る視線に予め気付いていた為、大淵は男の挙動に横目で注視していた。

「お寛ぎの所、大変失礼します。実は…」

 男は拍子抜けするほど低姿勢で、申し訳なさそうに話し出した。

「…写真を?」斎城が困惑して聞き返した。

「はい。不躾なお願いとは百も承知ですが、後生です。お礼も致しますので、どうか…」


 男はアマチュアの写真家だった。偶然この宿に泊まっていた所、二人を見つけ、どうしても被写体として二人をこの宿で収めたいと。 …大淵の常識で知る限り、確かに不躾かもしれない。だが、無理もないとは思うし、気持ちも痛いほど分かった。 一期一会…とは少し違うが、機会を逃せば二度と巡り会える保証はないのだ。

 写真家なら尚更その重みを知っているだろう。

 しかし、香山と斎城の反応は芳しくない。写真を撮られる事に抵抗を感じているようだ。男もそれを感じ取ったか、落胆と諦めの色を顔に滲ませた。

「…二人の写真か。俺も欲しいけどなぁ」 …同じ男として、一つ援護して進ぜよう。

 男が顔をこちらに上げる気配。


 香山と斎城が軽く逡巡しながら顔を見合わせる。

「…分かりました。お礼は結構ですから」斎城が苦笑しながら答えた。

「あ…ありがとうございます! …ではご都合のよろしい時間を…」

 男と簡単に打ち合わせ、夕刻…入浴や夕食の前の空き時間に撮影する事で決まった。男は話が決まるや否や、どこかに電話を掛けながら慌ただしく駐車場へと飛び出していった。

「…まったく。大輔君にしてやられちゃった」斎城がコーヒーを啜りながら苦笑した。

「ま、昨日のお礼って事で」

「どのお礼か分からないけど、まぁ…いいか。こういうのも旅の醍醐味だし。ね、香山さん?」

「ふぇっ?は、はい、そうですね!」手元のココアをマドラーで矢鱈にかき回しながら応じる香山。


 ラウンジの開放的な窓からは宿の前庭から半周を囲うように設けられたウッドデッキが見渡せた。本来ならパラソルとソファが置かれているらしいが、今の時期は二つとも片付けられている。

 そのウッドデッキの上を防寒着に着替えた親子連れが歩き、幼い少年が雪をかき集め、雪だるまを作り上げるのに夢中になっていた。

 

「どれ、コーヒーも堪能した事だし…俺は少しその辺を散策してみようかね」

 現在午前九時。昼まで十分に時間がある。二人と別れ、一旦自室に戻って私服に着替え、それからロビーに戻って外へ出た。

 軒先から大雨のように滴る水滴に気付く。屋根に積もった雪が館内の暖気と、太陽によって暖められた大気によって堪らずに融け出している。陽光が当たり始めた屋根の上には靄まで立ち昇っている。

 遊歩道に向かって歩き出すと、玄関の扉が開閉する音が聞こえた。

 

 香山がトコトコ、とこちらに歩み寄ってきた。

「…あの、斎城さんが心配して…私も雪国育ちですから」

 …なるほど、自分が足を滑らせて沢に滑落でもしないかと香山をお目付け役に送ったか。

 確かに… 足場を改めて見た。地面の上はいいが滑らかなタイルの上や木の上は恐ろしく滑る。今も、ウッドデッキの上で例の少年が盛大にこけている。起き上がる挙動からすると大したダメージは無いようだが、自分も雪の経験は決して豊富ではない。


 香山は暖かげなキャメルのダウンコートに上半身を包み、下はジーンズにスノーブーツと、油断の無い格好だ。自分の服装も問題は無く、ブーツはギルドで支給された冬季戦闘用ブーツだ。勿論、極寒と凍結路面にも対応している。油断さえしなければ、香山の前でそう恥をかくことは無いだろう。

「それじゃ念の為、エスコートをお願いしようか」

 上向きに手を差し伸べた。香山はおずおずとその手を取った。

 毛糸の手袋越しに体温を感じた気がした。

  

 手を繋ぎ、雪の積もった遊歩道へと進む。二人の足跡だけが後に続く。


 聞えるのは沢を流れる清流の音だけ。鳥の鳴き声すらしない、冷涼とした空気。 

 いや、隣を歩く香山の息遣いがあった。頭一つ分小さな隣の香山の肩が自分の腕に当たる。

 道の先に、やはり雪を被った吊り橋が見えてきた。橋の上に積もった雪は薄く、橋の荷重限度にはさして影響しないだろう。

 橋板の上に足を踏み出す。

「怖いか?」

「いいえ、全然!」

 そう言いながらも腕にピッタリと身を寄せて来る。

 …万一崩落したとして、俺なんぞに掴まっていても意味は無かろうに。

 それでも吊り橋は良く揺れる。なるほど、吊り橋理論などと言われる訳だな、などと思いながら橋の真ん中まで渡った。対岸は車止めと同じパイプが設置され、通行禁止の看板が立てられていた。 揺れが収まってくると、香山も身を乗り出して清流を見下ろした。時折、落ち葉が流されていく。川の深部は雪に反射された陽の光を吸い込み、不気味ながらも美しい蒼色を見せる。

「…戻るか」

 香山が頷く。

 橋を戻り、遊歩道の続きへ。ひとしきり雪景色を楽しんだ後、手を繋いだまま宿へと戻った。

 

 「お帰りなさい」

 斎城はロビーと宿の玄関先が見渡せるテーブルに座り、読書していた。

 …薄い黒のニットセーターに包まれた、スタイル抜群の体が目に毒だ。

 と、その目線を落として、微笑ましそうに口の端を上げている。

 香山が視線の先に気付き、慌てて手を離した。 …長らく繋いでいた温もりが離れると、恋しさと寂しさもひとしおに感じられる。


 食堂でビュッフェ形式の昼食を満喫した後、斎城は再び一階ラウンジで読書しながらの午後を過ごし始めた。大淵は二階角部屋にある遊戯室を覗いてみると、やはり親子連れが二組、それぞれレーシングゲームとクレーンキャッチャーゲームの筐体に取りついていた。他にはクレーンゲームが二台…一つは景品も無く、故障している。それと、もう一台のレーシングゲーム…そして昔ながらの、ノッポな両替機が点滅しているだけだ。

(シューティングゲームは無いか)

 戻ろうかと振り向くと、部屋に戻ろうとする香山と顔を合わせた。

「あれ?やらないんですか、大淵君?」

 こちらが声を掛ける前に香山から問われた。

「ん? ああ…」

 香山が大淵の横から遊戯室内を覗いた。空いているクレーンゲームを見た。手のひらサイズのぬいぐるみや小物が入った物だ。

「なんだ?何か取ってやろうか?」

「そんな事言って、大丈夫なんですか?」

 背伸びしながら挑発的に見上げて来る。可愛い奴め…


「まぁ、見てろ」

 クレーンゲームの筐体の前に向かう。

「どれがいい?」

「んー…あ、あの子!三毛猫の」

 …何とも気の抜けた顔をした猫のぬいぐるみストラップ。

「請け負った」

 百円玉を入れてボタンを押し、クレーンを操作する。標的の真上に移動させ、マニピュレーターを降下させ…ストラップの輪っか部分を見事に通した。

「おお、これはもしかすると…」

「あっ、その子じゃない…」

「なにっ」

 人違いならぬ物違いで捕らえられた、同じシリーズの茶トラ…般若のようなジト目の、人相が悪いそれは、しかもマニピュレーターの作る輪内に体を突っ張らせるようにして…クレーンゲームではあり得ない程の安定性を持って悠々と空中を移動して来る。

 …なんとなれば、先に見事に引っかけたストラップ部分はとうにダレて、マニピュレーターの爪の隙間から外れている。本来ならとっくに落ちている筈である。

 果たしてそれは、堂々と取り出し口の深い穴に落下した。


 自分も香山も、呆気にとられて取り出し口を見つめていた。香山がこわごわと取り出し口に手を入れ、出した手にはその茶トラが握られていた。…Ψ字のポーズに、相変わらず人相の悪いジト目で。

「…プッ」

 香山が声を上げて笑った。ひとしきり笑った後、まじまじと茶トラを覗き込んだ。

「すごいね、こんな事あるんだ!…こんなに笑ったの久しぶり」

「だな」苦笑しながら同意した。

「わたし、この子が気に入っちゃったんで頂きます。 …ね、斎城さんにも取ってあげません?」

「うむ、やってみるか」

 しかしビギナーズラックはそれ一回きりだった。それから百円玉を一個小隊投入し、逐次投入した一個分隊が全滅しようかという所で、ようやくそれはお情けのように取れた。

「や、やりましたね、隊長!」

「ああ。…我らの勝利だ」

 首根っこをつままれた、十字ポーズの三毛猫が宙を運ばれていくのを見届け、敬礼した。

 無事に取り出し口の穴に放り込まれた三毛猫を取り上げる。

 背後でレーシングゲームを遊び終えた男児が両手を水平に広げ、レーシングゲームの真似事をしながら走り出した。

 

「おっ…と…大丈夫…?」

 聞き慣れた声が聞こえて戸口を振り返ると、男児の前に屈みこむ斎城の姿があった。親が駆け寄り、慌てて頭を下げるが、男児は斎城を見上げたまま惚けている。

(罪深い女だ…)

 自分もそうだったから分かるが、あの年頃は()()()女性に最も弱い時期だ。気の毒な事を…


 その罪深い長身美女が親子連れに手を振りながらこちらに歩み寄ってくる。

「部屋に居ないと思ったら、二人揃ってこんな所にいたんだ?」

 腰に手を当て、意外そうに顔を傾げてみせた。

「見て下さいよ、大淵君が取ってくれたんです。それも一回で!」

 香山が無邪気に茶トラを斎城に見せた。斎城は呆気にとられ、目を点にしていたが、優しく微笑んだ。

「すごいじゃない、大淵君。香山さんも良かったね」

「ほら、これは斎城にやるよ」

 斎城の手に、あの三毛を手渡した。斎城はまたも呆気にとられていたが、嬉しげに微笑んだ。

「…ありがとう。…嬉しい」

 はにかんだ顔を見せられ、どきりと胸が高鳴った。

(…そりゃ、苦労したがそこまで喜ばれるとは思わなかった…)

「あー…アイスでも食うか?隣の談話室で」照れ隠しにそう言うしかなかった。



 あれほど美しかった雪景色も、昼盛りの暖かな天気でそのほとんどが幻のように融け消えていた。代わりに、赤らみ始めた残照が山々を照らしていく。 よく目を凝らせば、山のそこかしこに白い残雪の名残が僅かに残されているだけだ。

 客室の心地よいソファに身を沈めながらその景色を眺めていた。

 ついに残照も山陰に飲み込まれ、辺りが暗くなった頃、手元のスマートフォンが振動と共に鳴らされた。相手は…朝、自分と連絡先を交換した写真家の男だった。

「すみません、準備ができたので、早速始めさせていただきたいのですが…」

「ああ…じゃあ二人を呼んできます」

 身を起こし、客室を出た。

 隣室の扉をノックする。しばらくすると香山が顔を出した。

「例の写真家が撮影させて欲しいって。斎城もいるか?」

「あ…今、呼んでくるね」

 香山が顔を引っ込めた。廊下で待つと、やがて私服姿のままの二人が現れた。


 二人を連れ、旅館のロビーに向かうと、何やら宿のオーナーと話し込む写真家の姿があった。自分達に気付くと、恐縮した顔を向け、ロビー脇にある衣文掛けに掛けていた二着の浴衣と、衣類ケースを持って小走りに寄ってきた。

「お手数おかけして申し訳ありません。それぞれ、これに着替えてきて頂きたいのですが…」

「はぁ…」

 香山と斎城は首を傾げながら浴衣を受け取った。

「万一、サイズや柄がお気に召さなければ、その中からお選びください」

 衣装ケースは大淵が預かり、二人の部屋まで運んだ。運び終えた後、大淵も一階に降りて二人を待った。 男が大淵を待ち受け、何やら封筒を差し出してきた。

「貴方が一言おっしゃって下さらなければ叶わなかったでしょう。…どうかお受け取り下さい」

「…いや、結構です。気持ちは痛いほど分かったから。 その代わり、出来上がった写真は俺達にも三人分。あと、許可なく他人に配ったりさえされなければ」

「ああ、それはもう…肝に銘じております…」

 

 と、雷に打たれたように階上を見上げた写真家に釣られて振り返ると…階段を降りて来ようとする香山と斎城の姿があった。


 思わず息を呑んだ。

 階段を上がり切ると賑やかな娯楽空間だが…この角度からだと年季の入った檜の柱に障子張りの窓、L字に折れる階段と、古式ゆかしい老舗旅館の階段風景そのものだ。

 それを背景に、斎城の浴衣は黒い月夜の下で青白く照らされる薄原。 …妖艶という言葉以外が自分のボキャブラリーから消え去っていた。

(二人とも、まるで職人が生涯掛けて作った日本人形のようだ…)

 香山は翡翠色の地に鮮やかな白と赤の丸菊。薄暗くなりつつある館内で、色彩豊かな姿が眩しくも儚げに感じる。

「…本当なら着物を、と言いたい所だったんですが…ああ、本当にお会いできて光栄です…!」

 男はそのまま一枚、抜き打ちと言わんばかりに二人を撮った。直後、館内の明かりが灯り、それでまた二人の印象も変わる。

「あぁ、そのままで!…はい、ありがとうございます!」

 更に何枚か様々なシチュエーションで撮影した後、男は深々と三人に頭を下げた。「撮影会」はものの五分で終わった為、他の客にもさして迷惑にならず済んだ。

「無理を聞いていただき、本当にありがとうございました。では、写真が出来たらすぐにお送りします。

…あぁ、その浴衣、よろしければ記念にどうぞ。お礼の代わりです」

 男は衣装ケースを回収し、大淵の住所と郵便番号を交換すると、何度も頭を下げて去って行った。


「二人とも、お疲れさん。あの人、物凄い喜んでたぞ」

「ええ。無事に終わった事だし…ついでにお風呂で着替えよっか、香山さん?」

「そうですね!」

(何だかんだ、二人もあの浴衣が気に入ったようで良かった)


 別館へと向かう二人を見送りながら、大淵はすっかり暗くなった外の景色を眺めた。

 いよいよ今夜が最後。明日はここを発ち、東京に戻る。

 不思議なもので、ここにいつまでも居てみたいという居心地の良さを感じながらも、あの東京の排ガス臭い空気と喧騒が懐かしくもあった。


 温泉を楽しみ、再び二人の部屋で三人で夕食を囲った。地元産の旬の野菜と茸、地元で育った牛のすき焼き鍋を自分達の采配で、という趣らしい。

 …そして、またもあの漆器細工の盃が出てきた。

 だが今度は、いきなり斎城が最大量を飲む羽目となった。


「…あら」お返しとばかり、大器にたっぷりと酒を注ぎ返してやった。 …が、蟒蛇のように斎城はそれを飲み干してしまった。

「ふふ…御馳走さま」

 軽く舌なめずりしながら、顔の横で空の器を振って見せる。

 …流石に、桜色に染まる白い頬は隠せなかったようだが。

 最後の晩だからとでもいうのか、悉く出目が大きい。香山も自分も意地を競うように大器を呷る羽目になり、いつの間にか平らげてしまった空の鍋と…空の四合瓶が次々と転がり、仲居も流石に呆れ顔で片付けて行った。


(…40㎜機関砲弾の空薬莢じゃあるまいし…)

 この身体もかなりアルコールへの耐性があるようだが、限度はある。

 何より…それぞれ二杯ずつ大器を呷り、その他に中盃の余分を飲んだ二人の表情は幾分妖しくなってきたような気がする。…恐らく自分も似たような物だろう。  …何かあってからでは大変まずい。

 流石に、明日へ響く前にと打ち止め、お開きとした。

 遠足では無いが、無事に帰って旅の余韻に浸るまでが楽しい旅行というものだろう。

 …一時の誘惑に流されてはいけない。…たとえそれがどんなに魅力的でも。



 翌朝、朝食の為に大座敷で二人を待っていると、朝のニュースが流れてきた。

「…ート内で未明に発生したスタンピードですが、防衛省及び警察庁の発表によると、このスタンピードは無事鎮圧され、現地部隊・公園周辺の施設共に被害は無いとの事です」

「おお…」一人、感嘆の声を漏らす。

 本当に自分達がいない時間にスタンピードが発生し、それを友軍が難なく鎮圧するとは。

 あれだけの城塞を作って、選りすぐりの対策チームが配置されているのもあるだろう。それでも、黒島が説明した通りに友軍が活躍してくれていると知り、頼もしさを実感できた。


「何がおお、なの?」

 斎城が香山を連れ、自分の前に座った。10メートル程離れた場所にあるテレビ画面を指さすと、斎城もそれを見て頷いた。

「残念だけど、そろそろ現実に戻らないとね」

「だな」



 チェックアウトを済ませ、各々バイクに跨った。

「…」

 エンジンをスタートさせながら、宿と周囲の景色を見渡した。

(大げさかもしれないが…生き残って、また来年も必ず来よう)



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