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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
演目  伝説の英雄は復讐の旅路を行く

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廃村にて


「…ごめん…まさかコンパスが壊れちゃうなんて…」

「気にするな」


 気にはしないが、状況は極めて深刻だった。…太陽の位置を見て分かる場合もあるが、それは自分の存在する緯度経度と、その季節における軌道を把握している場合の話だ。いつ、大陸のどこにいるかで太陽と月の出入りは大きく違ってくる。大方の目星はつくが…


 しかし今は真っ暗闇の中をトレーシーの持つ、安物の光の魔法石を頼りに進んでいる。 …松明よりは安定して明るく、SPの限り光が持つ。


「…ここ、どこ?」

「…わからない」


 地図を見ても、せめて目印になる物がなくては…周囲を針葉樹林に囲まれ、一切のランドマークも見当たらない。…それでも幸運にも道らしきものを見つけ、今はそれをせっせと辿っていた。

 

 …ふと、前方に黒々とした物体群が現れ、トレーシーは身構えた。


 村だ。


 トレーシーは駆け足で村に飛び込んだ。フィブルム村と書かれた看板は擦れ掛かっていた。


「す、すみません! 誰か!?」


 …しかし、民家はどれも廃墟だった。…夜である事と、家々がそれほど汚れていない事から誰かいる物かと思ったが…

 これで現在地や次の町への行き方がわかると思ったのに…


 ふと思いついて、ダイスを振り返った。

「ねぇ、ダイス、あんた最初の時、ずっと北の方ばっかり睨んでたよね!? …今も北がどっちか分かる?」


「…北かどうかは分からないが…」

 ダイスは気になる方角へと指を示した。

「…ううん、きっとあっている筈。…あの時のアンタ、一度もズレずに北を向いていたから覚えてる」


 とはいえ、折角村の位置と北の方角が分かったのに闇雲に動き回る訳には行かない。 …廃村なら廃村で、適当な家を借りて休もう。明日の朝、明るくなってから出発すれば間違いない。


 小さな家に上がり込み、簡単に家の中を見て回った。…先客の類は居ない。


「よかった…待ってて。どうせ時間もあるし、今から何か作るから」

 かまどの脇には薪がまだ十分残されていた。それをくべ…ダイスを振り返った。


「下拵えしちゃいたいから、ちょっと火、お願いできる?」

「…ああ」

 ダイスは頷くと立ち上がり、かまどの前まで来た。


「…ああ、火種渡して無かったね、今…」

 カシャ…ガシャコッ

 …物々しい金属音に振り返ると、見た事も無い鉄砲を炉に向けて構えている。

「な…」


 止める間もなく、耳を劈く炸裂音と共にかまどの炉の中に炎がぶち込まれ…上に乗せていた鍋が逃げ場を失った炎に押し上げられて宙に浮かんだ。

 …くべた薪は殆どが一瞬で焼き尽くされ、消し炭になっている。…一応火はついているが…


「あ、アンタねぇ…」

「…すまん」


「…どーやら、戦いに関する事以外の生活的な記憶が結構薄れちゃってるみたいね…」


「…そのようだ」

 消し炭になって火が絶えようとしている薪を見下ろすダイスは、心なしか気落ちしているように見えた。 …なんだか叱られて項垂れる犬…狼のようだ。

「ま、まぁ、しょーがないよ。…それにしても、変わった鉄砲だね?炎の魔法石でも組み込んであるのかな。…その変わったサーベルといい、アンタはどっからその武器持ってきたの?」


「空中に出し入れできるようだ。これは…炎の弾や氷の弾、雷の弾などが撃てるようだ」 

 そう言うと鉄砲を本当に宙に放り込んだ。 …手品師のように鉄砲は影も形も消えてしまった。


「…本当に変わった人ねぇ…ああ、薪をくべて。まだ間に合うから。細い奴から順番に、少しずつね。ちょっとその刀で切り込みを作るともっといいんだけど」


「わかった」


 ダイスは言われた通りに薪をくべ始めた。

 


 

「うまくできたじゃん!自信もっていいよ?…次は鉄砲じゃなくて火種を使えば完璧だよ」

「ああ」

 無事に軌道修正できて気を取り直したか、ダイスの声には普段の響きが戻っていた。

 

 自分は大盛の取り皿に取り、ダイスには鍋で食べさせた。…シチュー仕立てのスープだから、物足りないかも知れないが、今日は戦闘も無かったからこれで誤魔化してもらおう。後は固い乾燥パンで。


 黙々とダイスはスープとパンを平らげていく。…やはり今日は戦闘が無かったからか、いつものようながっつき方では無い。この量でも足りる筈だ。 …段々、この男の胃袋の管理も慣れてきた。


 だが、それ以外の事は何一つ分からず仕舞いのままだ。…魔族がこんな大量の武器を使いこなすなど聞いたことが無い。…ダイスは人間じゃないかもしれないが、魔族でもないはずだ。…もし魔族だとしたら魔物達ですら畏怖する魔神の類だろう。 …そうなれば、異端審問だって腰を抜かして逃げ出すだろう。


 …もう少し、この男の事を知ることはできないだろうか…?


「…ねぇ、寝るまで時間あるし、何か話してみようよ。もしかしたらダイスの記憶が戻るかもしれないし」

「…」

「ああ、アンタは無理して喋らなくていいから。何かのきっかけで思い出したら話してくれればいいの」


「…例えばさ…こんな話聞いたことある?ほら、一昨日のアラクネ達覚えてるでしょ?服装や髪型、化粧で別人に見せかけてけど、あいつら三人だけじゃなく、全員同じ体型に同じ顔なの。 …昔、あれと全く同じアラクネが人間の側に立って戦った事があるって噂、聞いた事ない?」


「…」

 ダイスは気難し気に宙を見つめ…首を傾げながら…しばらくして自分の手…人差し指と親指の合間をしげしげと見つめた。


「…どしたの?」

「…わからん」


「…じゃあ、アルダガルドで突如現れて消えた、謎の凄腕女剣士とかは?すごく背が高い女の人だったって」


「…」

 今度はまったく反応なしだった。  …いや、目は虚ろに…ボーっとしている?

 無言でいる事はいつもの事だが、この男はボーっとしている事など今まで一度も無かった。常に周囲に気を配り、呆けているように見える時は何かを観察している時だった。


「な、なに、どうしたの?」

「…あ…? …いや、わからん……誰かに呼ばれた気がした」

 そう言ってダイスは再び内面に沈むように黙り込んだ。


 トレーシーは周囲を見回した。…自分も耳には結構自身がある方だが、勿論そんな声は聞こえない


「う~ん、だめかぁ…ま、焦ってもしょうがないって事だよね」

 …食事も終わり、頃の良い時間だ。


「ゆっくり休んで、また明日の朝出発しよ? …明日は次の町まで人間コンパスになってもらうから、頼りにしてるからね!」

「ああ、わかった。」




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