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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
演目  伝説の英雄は復讐の旅路を行く

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蜘蛛の糸


 深夜一時…

 

 ダイスとトレーシーは容易く敷地内に侵入し…鍵も掛かっていない孤児院のドアをそっと開けた。


「…一階の一ヶ所だけ蝋燭の明かりがあったよね」

「…院長だろうな」


「最重要警戒人物だね…アイツの証拠さえ押さえられれば…」

「…?」

「とにかく、ダイスはリリーを探して。…ついでに、子どもたちとあの三人も助けてあげようよ。…揃いも揃って無駄にグラマーで気に入らないけど…このままじゃあの人たちあの院長の毒牙に…」


「…何を言っているんだ…?」


「バカ!そんなこと言わせないでよ!?」


 小声でダイスを叱りつけると、ダイスは珍しく困惑した顔でトレーシーを見下ろしていた。


「…な、何を言おうとしているのか知らんが、おそらく院長は敵ではない」


「……えっ?」


「…奴は操り人形に過ぎない」


 ダイスは蝋燭の明かりがあった方向に進んでいく。


「ちょ、ちょっと、見つかる…!」


「…も、もう止めて下さい…私はどうなってもいいですから…」


 …想像していた声が真逆だった。


「院長先生…?ダメじゃないですか…ちゃんと生贄は手足を削ぐか繋いで、逃げられないようにってあれ程言ったのに。 ふふ…またお仕置きを御所望なんですね? …実はそれが目的とか?」


「もう子供たちを生贄にするのはやめてくれ…!私は耐えられん…!…ここでの事件は全て私一人の仕業という事にして構わんから、頼む!どうか、もう…!」


「…もうやめろ」

 

 ダイスが部屋へと入っていく。部屋のデスクには糸で磔にされた半裸の院長が、顔以外の服に隠せる部位を血だらけにしていた。

「き、君は…!?  も、もう来るなと言ったのに…!」


「あらあら、ご親切な方? …リリーのお話によればダイス様と仰いましたっけ?…無断侵入はご法度ですよ?」


 巨大な下半身から八対の鋭利な足。その異形の上には朝見た通り美しい妖艶な女の姿…ナルダの上半身があった。

 黒蜘蛛…黒のアラクネはせせら笑いながらダイスに向き直った。


「勇ましい殿方は好みですが…もしや丸腰で勝てるとでも?…床勝負ではなくてよ?」


「ダイス…これ」

 カトラスを渡そうとしたトレーシーを制した。

「…持っておけ。…リリーを助けてやってくれ」

「…分かった。まかせて!」 


 直後に襲い掛かる蜘蛛の糸を軽々と躱し、ダイスは職員室の壁に一瞬だけ着地すると再び跳んで糸を躱した。


「あらあら、どちらが蜘蛛だかわかりませんわね♪」

「…」


 更なる糸玉の十連射を全て見切って避け切ると、黒のアラクネは赤い瞳を見開いて舌打ちをした。


「な、なんて速さなの…!?」


 ダイスが残像を残しながら迫り、アラクネは糸玉と手刀で迎撃するが、残像…空を切るだけだった。代わりに自身の肩を貫き手で貫かれ、上腕の欠損こそしなかった物の右腕は使い物にならなくなった。


「ッ!?こ、この…お前は人間ではないな!?魔族か!?」


「…わからない。だが、今の名はダイスだ」


 ダイス…数年前に姉妹の誰かがダイスという名を言っていたような…至上の美味なるものにして女に甘く、美しい男だと自慢げに…まさか…この男が…!?


 …だとすれば、その話は殆ど嘘という事になる。…この男からは美味なる匂いは全くしない。人間が作った機械…そんな無機質なモノの匂いしかしない。…とても女に甘くは見えないし…美しいかと言われれば迷うところだが…恐ろしい男だ。


「くっ…!」

 ナルダは職員室から廊下へ飛び出して逃げた。


「…無事か?」

 ダイスは手刀で糸束を千切り、ワッソン院長を助け起こした。


「わ、私はどうでもいい、急いで追ってくれ…!子らを人質に取るかもしれん…!」

「わかった」


 ナルダを追い、ダイスは施設の二階に向かおうとし…

 …アラクネとは全く異質の気配を感じ、足を止めて暗闇を見た。


「これはこれはダイス様!やっとお会いできましたね? いやぁ、お久しゅうございます。会いとうございましたですわよ~♪」

  

 貴婦人のドレス姿をした変質者…銀色のマスクを被った奇人が闇の中から顔を覗かせ…ダイスは無表情な顔に一瞬だけ…トレーシーでもついぞ見得なかった、不快げな色を見せた。


「ハッ!?」


 …貴人ならぬ奇人は傘を取り落とし…ダイスに迫ってきた。 

 …ダイスも同じ分だけ下がった。


「なっ、何という事でしょう!?ダイス様、他のヒロインを差し置いて私めを…私を覚えていて下さっているのですかっ!?あ、愛の力…愛の奇跡でございますねッ!」


 …恐らく、良い意味では無いが… 

 ダイスはこの奇人から敵意や殺気こそ全く感じなかったが、逆にあまり良い印象を感じなかった。…印象でいえば、これまでに殺して来たモンスターやあの蜘蛛女の方が余程好意的である。


「ああ、私泣きそうでございます!マジ泣き3秒前でございます!…この愛に満ちた奇跡の再会を祝して、遅ればせながら貴方様からお預かりした一部の銃器と精霊武装をお返し致します♪ ああ、それと、その鎧は防御力こそ生きていますが、各機能は完全に破壊されておりましたので悪しからず。…各武器の使い方と、取り出し方はお身体がよく覚えている筈です。 さぁ、宙に手をおかざし下さい。…見える筈です、貴方様から求められることを望む、ヒロインのような武具の数々が!」


 …言われた通りにすると…記憶にはないが、見覚えのあるような刀剣槍…そして大小二挺の銃器…和弓が見えた。…その中でも特に惹かれる刀に手を伸ばし…ダイスはその刀を空間から抜き取って軽く振るってみた。 …妙に手に馴染む。


「…恩に着る」


「ああっ、私マジで泣きそうでございますッ!まさかこの期に及んでダイス様から御礼を言われる事になろうとはッ!私感極まり、今にも天に…いや地獄に…ッ」

 ダイスはその部屋の扉をそっと閉じ…近くにあったモップの柄でつっかえ棒を立てた。


「だ、ダイス様ッ!?ダイス様ッ!?もっと愛のピロートークを楽しみたいのですがッ!? 私、この再会の時の為に毎朝身を冷水で清めてから、往年のレトロゲーカセットソフトを年代順に家中の床を埋め尽くすまでクリアするという苦行を五年間も…」


 …敵ではなく、何者かは分からんが、アレとはあまり関わらない方が良さそうだ…体が不快にムズ痒くなる。 ダイスはその部屋から離れ、子どもたちの寝室が両脇に並ぶ廊下を慎重に進んだ。


「あ、あと、ダイス様の身長を170台のMAXまで調整しておきましたからね!サービスでございます!もしかして一番嬉しいんじゃないですか!? だからもう一回、もう一回だけそのダウナーイケボでお礼言って欲しいなぁ~なんて!?今度は「…ありがとう…」でお願いしたいですね、えぇ!」


「…」

 奇人を無視して気配の元へ向かって駆けた。


 暗い、夜の講堂…子どもたちが座る為の長椅子が並べられ、ここが教会としても役割を果たしているのだろう。

 講壇には蝋燭の火が揺れていた。


「あらあら、こんな所まで…結構しつこいタイプなのねぇ?」


 ダイスは歩を進めた。


「…それ以上近づくと…」

 

 黒のアラクネ…ナルダがまだ無事な左手を上げ、微かに光に反射する糸を緩めた。 すると、高い天井の梁から吊り下げられたニーナとエルザが現れた。


「…」

 

 ダイスは無表情に二人を観察した。…眠っているのか気を失っているのか、反応は無い。

「…なぜ、子どもたちを人質にしなかった?」


「あら、子どもたちを人質にして欲しかった?…でも私にだって血も涙もあるの。勿論、大好きな同僚や可愛い後輩をこんな風にするのは心が痛むけれど、子どもを盾にするよりは良心が邪魔しないでしょう?」


「…その二人もアラクネだろう」


「…あ~あ、バレちまってたか」

「私達、お芝居の座には向いて無さそうね」


 糸に吊られていた二人が首を起こし、その体をアラクネに変化させた。…ニーナは深い蒼色の体色に、エルザは黒ずんだ紅色の体色のアラクネに変貌した。


「…折角悲願だった人間への擬態化に成功したのに、こんなにあっさり見破られるとガッカリ」


「…見た目では俺も分からん」


 それぞれのアラクネが動き、ダイスを三方から取り囲んだ。


「…所で貴方、私達の姉妹と知り合いだったりしないわよね? …どうでもいいけれど」


「…知らないな」 


「そう…じゃあ、お互い気持ちよく殺し合えるわね♪ …ニーナ、エルザ、この男は危険だわ。恐ろしく速いから決して目を離さないように」

「はい」

「わかってますって!」


 三方向からの糸玉を全て見切り、ダイスは手近なエルザに迫った。


「こ、コイツ…なんて速さッ…!?」

 ダイスの切り払いを必死に躱すも、足の一本を深々と失った。

「ヒッ!?」


「エルザ、避けてッ!」


 ニーナが横から糸を放って援護した…しかし、その太い糸の束をダイスは手にした刀を逆手にして盾代わりにした。…当たった糸は悉く裂けるのみに留まらず、糸を伝って感電したか、青のアラクネ…ニーナは短い悲鳴を上げて怯んだ。


「このッ!」

 黒のアラクネが糸玉を放つが…それも悉く躱されるか斬り捨てられる。


 …この男が武器を持った時点で勝ち目など無かった。黒のアラクネはそう理解しながら後退った。エルザとニーナも後退し、三体のアラクネは講壇の上に追い詰められ、身を抱き合うようにして震えた。


 薄暗い講堂を、怪しく青紫色に輝く刀を煌かせ…死神が一歩一歩迫っていた。


 …どうやっても…例え他の二人が身を挺して時間を稼ごうと、誰一人逃げられない…三体のアラクネは魔物の備える本能でそう理解していた。  


「じ、慈悲を…」


「…」


 無表情な死神は答えず、殺気が弱まる事も無かった。

 

 処刑執行人。


 処刑執行人が断頭台で死刑囚の命乞いに反応する訳が無い。

 

 三体のアラクネは抱き合いながらその刃がせめて、一瞬で三人をまとめて楽にしてくれることを祈って目を瞑った。


「ま、待って…待って下さい…!」

 

 院長が脂ぎった体を震わせながら講堂に駆けこんで来た。

「剣士様、ど、どうか、どうかお慈悲を…私からもお願い致します! …彼女らにもきっと訳があったと思うのです!」


 院長はダイスのマントに縋りついた。 …それをやや困惑した表情でダイスが見下ろす。


「この者らがしたことはもう…取り返しがつきませんが…それでも、この者らは子らを直接食べる事はありませんでしたし、日頃、それは熱心に子らに愛情を注ぎ、子らにも慕われていたのです。…しかし何年前からか、夜な夜な子らを生贄に差し出すように… それを知った私は生贄に出すのを手伝う振りをして子らを逃がしていたのですが…私も同罪です」


「…なぜ憲兵に言わなかった?」


「…彼女らが殺されるかもしれないというのもありましたが、間違いなく憲兵や衛兵にも…双方に大勢の死者が出ます。…その決断を下す勇気がありませんでした… …そのために子らを犠牲にしてしまった…」


 ダイスはアラクネ達を振り返った。 …アラクネ達がいよいよ最期か、と身を固くした。


 坑道にトレーシーが駆けつけてきた。…リリーは連れていなかった。

「リリーは無事だったわ。…え、何、この状況は…?」

 

 困惑するトレーシーをよそに、ダイスはアラクネ達に問いかけた。


「…何に生贄を捧げていた?」


 ナルダが躊躇うように床に目を落とした。


「ナルダさん、こうなった以上、全てを話してください! …あんなに子らを愛していた貴女がどうして…!?」

 院長が叱咤する。 …その声に励まされてか、ナルダは口を開いた。


「…二年前に現れた上位者の尖兵達に捧げていました。 …年に数度、子を渡せばこの地を支配した折、この孤児院には手を出さぬと…」

「…何という事を…」

「…人間は決して上位者に勝てません。…魔族が組んでも勝ち目は薄いでしょう。なにせ、あの伝説の英雄…魔族に勇者の生まれ変わりとも畏れられる、あのダイスさえも葬られたのですから」


「えっ、ダイスって…」


「…」

 一同はダイスを見た。…しかしダイスは首を横に振った。

「…そんな記憶は無い。…同名の別人だろう」


「…そうですよね」

「…だが、上位者は俺の敵だ。…必ず皆殺しにする。 …その上位者の手先はどこに居る?」

「…場所は毎回、向こうから指定してきますので、私達から接触する事は…しかし、スペリオールの一員である事は間違いありません」


「…もう二度と子らを渡すな。…命に代えても守れ」


「で、では…!?」

 院長が我がことのように顔を上げた。

「…万一、次にこいつらが何かしでかしたら、お前ごと切る」


「はい、きっと守りますとも…! ねぇ、皆さん!?」


 院長は三体のアラクネを見た。


「何故そこまで…?…散々、私達に虐げられておきながら…」


「決まっているじゃありませんか、子らがみな、貴方達を慕ってくれているからですよ! …今度こそやり直しましょう。…ムシが良いかも知れませんが、お互いここで死ぬまで…或いは孤児が居なくなるまで、身寄りのない子らに償っていきましょう…」


 ダイスは刀を鞘に収め、大股に離れていった。


「ああ、ダイス様、どうか御礼を…」

「そんなものはいらん。 …リリーを頼む」


 足も止めず、ダイスは講堂を出ていった。 それにトレーシーも続いた。


「…なんていうか、人は見かけによらないって事かなぁ…」

「…少なくとも、上位者に関してはその限りでは無いがな」


 孤児院を発ちながら、二人は明るみ始めたエーデンベルトの山々の稜線を眺めた。




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