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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
演目  伝説の英雄は復讐の旅路を行く

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奇妙な孤児院

 男との取引を終え、回収作業に躍起になる男を放ってダイスとリリーと共にトレーシーは翌朝一番に麓のエーデンベルト城下町へと戻った。そして、町人に聞いてリリーが過ごしていたであろう孤児院に辿り着いた。


「聖道教会附属孤児院 子らの家」

 看板の前から構内を見渡した。敷地と構内はごく一般的な一メートル程度の石積みの壁で囲われ、庭先には子供たちの為のブランコやシーソーと言った遊具、そしてボールが転がっていた。

 

 ダイスの足にしがみ付き、ダイスにも無表情に見下ろされているリリーを見下ろし…トレーシーは益々自身の行動に疑問を強めた。


「…ねぇ、リリー、ここは好き?」


「うん…友だちも一杯いるし、先生達も優しいんだけど…」


「けど…?」


「…たまに変な人が宿舎の中に出てくるの。…多分、お化けだと思う」


「おばけ…かぁ」


 …ゴーストは確かに存在する。それは死体に憑りつくエネルギー生命体で、それ単体では人間に対してさしたる危害は与えられない。…ただし、情緒や精神防御が幼い子どもや、先天的・後天的に精神ステータスが弱っている人間には、時として半憑依する事もある。


 …厄介なのは、どこにでも現れ得るという事だ。壁を通り抜けて来るので攻撃も聞かない。


 そして、死体に憑りつくとゾンビやポーンゴーストとして人の命を奪う危険なモンスターとなる。…モンスターの中でも極めて極端な手合いだ。エネルギー体時には属性攻撃が有効とされる。


「…ん?人って?」

 まさかゾンビがうろついている訳じゃあるまい…実体を持った人間か?


「…人と蜘蛛の混ざったみたいなやつ。前に仲良しだったシーナちゃんを夜に連れて行ったの。…それから乱暴者のペイジ君も…そして、この間は私をあの山に…」


「え、なに…どういう事?…もっと聞かせてくれる、リリー?」


「うん…あのね…」


「リリー!?ああ、良かった、先生たち皆で探していたのよ!?」

 中年の優しげな女性が救われたような面持ちで駆け寄ってきた。


「ナルダ先生!」

 リリーはトレーシーから離れると、ナルダという女性職員の膝に抱きついた。


「ああ、良かった!…何という事…おお、神よ…御手がこの子を私達に返して下さった事を感謝いたします…!」

 熱心に胸元から取り出した十字架に縋ると、リリーも目を閉じて手を組んだ。


「…リリー、こちらの親切な方々は…?」


「ダイスとトレーシーだよ。…山の中でお化けから助けてくれたの! 最初は怖かったけど、ダイスはすっごく強いんだよ!トレーシーはね、優しくて…」

「ああ、よしよし…ええ、後で沢山聞かせてもらうわ。…少し待っててね?」


 興奮気味に話し出したリリーを巧みに宥め、女性はダイスとトレーシーに笑いかけた。…大人の色気と言うのか、刺さる男には堪らない、30路の熟れるばかりの色気が隠し切れない女性だった。

 それが笑むと、薄い色のルージュが艶めかしい…  …色気で言えば、自分では敵わないだろう。


 …気になって隣のダイスを横目で盗み見るが…いつもの…最初の頃よりは幾分和らいだ仏頂面で女と向かい合っていた。 …鼻の下や口元が少しくらいは緩むかと思っていた好奇心を見事に裏切ってくれた。


 …と言うかコイツ、横顔が本当にカッコいい。…正面から見据えられたら誰でも逃げると思うけど。


「親切な方々…いえ、神の使徒… 一体何とお礼したら良いものか…」


「あ、あー、いえ、私達は通りすがりの者ですから。そんな立派な物じゃありません。 …でも、昨日衛兵さんに聞いたら、行方不明の届け出は無かったって…」


 困ったように女性は一瞬だけ、花を愛でて遊びはじめたリリーを振り返り…小声で答えた。

「…実は、たまに施設を抜け出してしまうんです。…もう何回もこの孤児院が憲兵や衛兵さんにもお叱りを受けていて…どうか、この事はご内密に…でないと私や他の女性職員が…その…院長に…」

 

「あら、ナルダ、どうしたの?」


 また、その女性職員と同じくらいの年頃の職員が歩み寄ってきた。


「ま、まぁ…!? リリー!!」


「ニーナ先生!」

 リリーはニーナのふくよかな胸に飛び込んだ。


「ああ…! 主よ…感謝を…!」


 …感極まり、涙まで流している。 


「ああーっ!?リリーちゃん!?」

 再び声がして、今度は十代かという若い…これまた恵まれた体の持ち主の同年代の少女が掛けてきて…トレーシーは言い知れない殺意を堪えた。 

 …その殺意を堪えられたのは、隣のダイスが相変わらず眉一つ動かさない仏頂面で居てくれたおかげだった。 

「エルザお姉ちゃん!」

 リリーはまた嬉しげに抱きついた。…もう自分とダイスは眼中に無いようだ。 なんだ、幸せ一杯じゃないか。


「…それでは、私達はこれで。リリー、元気でね!」


「あ、うん、トレーシー、またね!また会おうね!ダイスも!」


「…ああ」

 ダイスも短く返事を返すが…気掛かりなように孤児院を振り返った。

 

「…何、未練たらたらな顔してんのよ?」

「…?」

「…誤魔化したって無駄。 …このムッツリめ」

「…?」


 …前言撤回。…コイツ、やっぱり横顔が一番ムカつく。 …くそー、あたしだってあともう少しあれば…

 

「お待ちください!…謝礼などはとてもお約束できませんが、せめてお茶だけでも…」

「り、リリーを見つけ出してくれたんですか!?そりゃお礼させてよ、お二人さん!?」

「ちょ、ちょっと、エルザ…同年代だからってなんて口の利き方を…」


 …こいつらまで…

 トレーシーは額に青筋を浮かべながら、振り返るか否か迷った。

 …今度はダイスまであの女達を振り返って釘付けになっているのが火に油を注いだ。


「み、皆さん!何をして…いるんだね!?」


 ヒィヒィ言いながら、今までとは毛色の違う、…とんでもないのが出てきて、トレーシーの怒りも消え失せ、代わりに寒気に鳥肌が立った。

 脂ぎった、清潔感とは無縁の巨漢…体重はダイスの二倍はあるだろう。これまた脂ぎった髪は所々薄くなり、それでいてきちんと風呂と洗濯だけはしているのか、小綺麗な所が余計に嫌悪感を抱かせた。


「ワッソン院長!」

 …幼さ故の過ちか、リリーはその男にも飛びついた。ワッソンと呼ばれた男はリリーを抱きかかえると、自分の肩に抱き留めながら…白々しい涙を流した。


「ああ…良かった…本当に良かった…ごめんよォ、助けられなくて!」

 しかしダイスとトレーシーに気付くと、慌てたように立ち上がり…

 礼の一つも言うかと思ったが、とんでもない言葉が返された。


「な、何だ君達は!?君らがリリーを攫ったんじゃないだろうな!?」

 

「はぁッ!?」

 トレーシーが爆発寸前で振り返る。


「ち、違うんです、院長先生!…あ、後で私がご説明致しますから、どうか…どうかリリーや他の二人には…」

 ナルダが健気に身を投げうつようにワッソンへ縋りついた。

「そ、そう言う事なら仕方ない……君達は早く帰りなさい!二度とここに来るな!次は憲兵を呼ぶぞ!?」

「い、院長先生、止めて下さい…罰なら私が…」

「い、いえ、ニーナ先輩、私が…」


 …一行はリリーを抱えて孤児院に戻る院長に懇願するように続いていく。


 …後に取り残されたトレーシーは何ともやるせない気持ちになって、無人の敷地を見つめた。

「…ダイス…あれってさ…」

「…お前にもわかるか」  

「…そりゃ、あんだけあからさまならね…」

「…リリーが危ない」

「うん。…夜になったら忍び込んで、この孤児院の闇、全部暴いてやろうよ」

 

 トレーシーは、晴れやかな空の下でもくすんで見える、二階建ての孤児院を見上げた。


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