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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
演目  伝説の英雄は復讐の旅路を行く

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取引


 周囲の注目も全く意に介さず、ダイスは食事を終え、トレーシーとリリーも食事を終えたのを確認すると、早々に席を立った。そのまま会計を済ませて引き払おうとする一行を、エーテルを本当に飲み干されてしまった茶髪の男が呼び止めた。


「ちょっと待ってくれよ、幾ら俺にも非があるとはいえ、このままサヨナラかよ? ハーフガロンのエーテルを飲み干されてよ」


「自業自得だとは思うけど、どうしろって言うの?…あんな量のエーテルを弁償できるお金は無いけど?」


 男はトレーシーに近づくと、周囲に聞えぬよう、小声で囁いた。

「なに、俺だって金で払えなんて言わねーよ。 …道理でなぁ、わかったよ。 …その男、魔族なんだろう?」 


 …北の大陸で人魔連合軍…二ホンから逃げてきた人間と魔物、魔族が共に手を組んで戦っているという話は有名だが、北の大陸の魔王は北大陸の人類を滅ぼした許されざる大魔王だ。 …同胞達を大虐殺したその魔族への国民感情は根深いものがあった。


 トレーシーとて、魔族への嫌悪感は少なからずある。…ただ、自分が直接的な被害者では無いから、関わりたくない、程度のものではあったが。


 …しかし、まさかダイスに魔族の疑惑が掛けられるとは思いもよらなかった。


「人のツレを捕まえていきなり何言うのよ!? …そりゃちょっとは人間離れしているけどさ!」


 同じく小声で反駁した。 …万一、魔族疑惑など掛けられたら大騒ぎになる。…ダイスを信じたいが、もし魔族として判定されてしまえば自分やリリーもその共犯者、或いは同族嫌疑を掛けられて治安組織に厳しく取り調べられるだろう。 …最悪、異端審問などが出てきたら、どんな残虐な拷問をされるか分からない。


「ちょっとだと!?あのエーテルを飲み干してピンピンしてる奴がちょっと人間離れしているだけか!?」

 ダイスは男の挙動を無表情に眺めている。…流石に穏やかでないという事くらいは分かるようだ。


「…それとも詰所に報告してやろうか?まぁ、白黒付けばお咎めなしだが…果たしてアイツを人間だと判断してくれる奴が何人いるかなぁ?」


 …まず居ないだろう。…そして、取り調べになればこの食堂に居た数十人もの客が証言し、証拠は隠滅できない。


「…それか、俺のお願いをちょっと聞いてくれるだけでいい。いやなに、ヘンな事を想像するなよ?…俺の言っていた洞窟を教えるから、飲んだ分のエーテルを返して欲しいだけだ。 …ついでに、もしあの魔族疑惑の男がクリスタルドラゴンをやっつけてくれたら、洞窟内にあるものをバッグに入る分だけ分けてやるよ。…どうだ?」

 

 何がバッグ一杯分よ…人の足元を見て…!


 …だが、逆らえばお尋ね者にされてしまう。…選択の余地は無かった。


「…あの連れてる子が迷子なの。その子の親か家族を探してからにして欲しい」

「生憎と、こっちは急ぎであのエーテルを見本として取引先に届ける約束があるんだ。これまた、ここいらでも買えないほど高純度な良質な品物でな。…既にこの時点で遅刻が確定している。…すぐに行ってもらいたいね。お嬢ちゃんとアンタは俺と一緒に洞窟の外で待っていれば、俺が守ってやるよ。 …それか俺の仲間達がここでお嬢ちゃんをしっかり保護して置こうじゃないか」

 …明確には口にしていないが、口振りからして拒否権は無かった。 


「…わかった。彼に相談する」

「お互いに後腐れないよう、色良い返事を期待したいね」


 男を無視し、ダイスとリリーの下に向かった。


「…ごめんね、ダイス。ちょっとトラブルになったから、一緒にあの男が話していた鉱脈のある洞窟まで来て欲しいの」

 …主にアンタのせいだけど。 …っていうかなんでエーテルなんかをあんな風に飲んだのよ!?


「わかった」

 当然と言えば当然だが、ダイスは即座に頷いた。


「…それとリリー、お家はこの国に有るんでしょ?…お家の場所は分かる?自分で帰れる?」


「私、孤児院で育ったから…でも三日前に知らない先生が来て、目隠しされて…そうしたら山の中に…」


 …男達にこの子を孤児院に届けさせるか…? しかし…その孤児院も相当に胡散臭い… 三日前に知らない先生とやらに連れ去られた子の届け出も出していないような孤児院だ…

 それに、この男達だって本当に信用できるか分からない。


 …ダイスを見た。 …こいつだってもしかしたら魔族かもしれない。魔族は人間に化けられるという噂だ。…でも…少なくとも自分は今、この状況なら…ダイスを最も信じられる。

 …一応パートナーだし。


「…リリー、少し歩くけど、私達と一緒に来る?それとも憲兵さんに…」


「一緒に行きたい…私、今度はちゃんと自分で歩くから」


「…わかった」

 

 男に向かって頷くと、リリーと自分用に防寒着を購入して、早速その足で町の外へと向かった。…ダイスは幾ら言っても防寒具を買おうとしなかった。「必要ない」の一点張りで。


 …そして実際、あの砂漠で見せたように全く寒さを気にすることなく、氷河の残る山を進んだ。 …先頭を行く案内人の男の方が疲弊し、せっつかれるようにしている。…だが、自分とリリーにも厳しい道のりだった。リリーはすぐにダイスに掬い上げられ、背負われた。…トレーシーの分まで背負い、大量の荷物とリリーを運びながらこの険しい山を、平原でも散歩するように進んでいく。


「あ、あれだ…じき夜になる。俺はここでキャンプを設営しておくから、頼むぜ」


「…リリー、ここでこのおじさんと待っててね?」

「だ、誰がおじさんだ!?俺はまだ27だぞ!?」

「…どうでもいいわ。 …言うまでも無いだろうけど、リリーに何かあったら今度はアンタにエーテル飲ませるからね」

「冗談じゃねぇし、俺にそんな趣味はねぇ! …ついでにお前みたいなタフな女も願い下げだ!」

「そう、よかった。 …行くよ、ダイス」


「ああ」


 ダイスはクレバスの縁から足元を確かめながら縦穴を見下ろし、進もうとするトレーシーの前に手を突き出して制止した。その手の手前から屈みこみ、下をそっと覗き込んだ。


「うわぁ…良く死ななかったわね、あの男…誇張だとばかり思ってたのに…」


 確かに…50メーター以上はある大穴がぽっかりと開いていた。…このままこの大陸の底か、反対側の大陸へ突き抜けて行けるのではないか…などと想像してしまった。


 大き目の石ころを拾い上げ、穴の底に向かって投げつけた。…いつまで経っても微かな物音一つしない。


「…行こう。あの穴がそうだね」


「…掴まれ」

 

 ダイスにしがみ付くと、ダイスはふわりと横穴に飛び込んだ。


「…ふぅ、怖い怖い。…でも…うわぁ…」


 洞窟内には男の話通り、シルバークリスタルが一面に結晶化していた。…これは魔法石との相性が良く、またエーテルの原料にもなる。…このクリスタルから年月をかけ、高純度のエーテルが染み出してきているのだろう。

「…いるな」

 

 ダイスが見据える方向…奥から地響きを立てながら巨大な影が迫って来ていた。


 トレーシーの松明に照らされたソレは、男の言う通り5ロディオもある巨大なドラゴンだった。やはりその全身にはシルバークリスタルがびっしりと生えている。…表皮を侵食されているというよりは、共生しているのか?…だとすれば、このドラゴンは…


 ドラゴンが口を開けた。…多くの竜族の特徴の一つ…それは何かしらの属性を使えるという事だが…


 ブレスを撃つつもりか…!? 

 …だとしたら、あのエーテルの源であるクリスタルだらけの表皮は…鎧であると同時にマナを幾らでも補給できるという事になる。 

 …それは正に、今隣に居るダイスの身に着けているアーマー・独尊の基本構造・原理と全く一緒なのだが、ダイスもトレーシーもそれを知る由は無かった。


 


「だ、ダイス…」

「下がっていろ」


 クリスタルドラゴンがなにがしかのブレスを放ってきた。炎では無い…氷か!?


 トレーシーの前でダイスが避けようもないブレスを受け、両手で頭部を庇った。


 …その前面が凍結…いや、クリスタルが生えるように結晶化していく。


「な、なにそれ!?」


 …こんな攻撃は…いや、クリスタルドラゴンなんていうものも初めて見るが…初めて見る攻撃だ。


「ッ…」

 ダイスのアーマー表面や衣服の上にクリスタルがびっしりと覆われていく。


 ダイスは震える手で自身の体を覆うクリスタルに触れ…その手が青い燐光を放ったと思うとクリスタルが全て…一瞬で消え失せた。


 そのまま残像を伴いながら突進し、クリスタルドラゴンに渾身の一打。更に回し蹴り。


 ドラゴンの表皮を覆うクリスタルの破片がガラガラと崩れ落ち、ダイスはその剥き出しの表皮にすかさず貫き手を繰り出し…銀一色のドラゴンを赤黒い血が濡らし、耳を傷めるような悲鳴が響き渡った。


 しかし流石にドラゴンを素手だけで倒す事は難しいのか、ドラゴンの抵抗に遭い、ダイスは洞窟の壁に叩きつけられた。…全くダメージを受けているようには見えないが。


「ダイスッ」

 ショートカトラスを投げつけた。


 ダイスはそれを見向きもせずに受け取ると…カトラスの刀身が赤黒く変色した。


 何、あれは…?


 さっきの青い燐光…それにスペリオールの狂信者の頭部に放った赤い光も…


 刃渡りクォーターロディオ(約40cm)しかない安物のショートカトラスが、あのクリスタルに覆われたドラゴンの装甲を易々と切り裂き…更に赤黒い血が噴き出す。

 …明らかに本来出せる威力では無い。

   

 …そして武器を得たダイスは水を得た魚のように…いや、それまで手と指先で仕方なく作業していた料理人が鋭利な牛刀を得て…魚や肉を鮮やかに捌くように、遥かに効率的に敵を料理していく。


 …あまりの鮮やかな処刑劇に見入りそうになる自分に気付き…その感情を振り払った。


 一際重厚感のある地響きがして、クリスタルドラゴンは地に伏した。

 

「終わった。…もう安心だ」

「…お疲れ様」


 血を払ったカトラスを返され、トレーシーは嘆息を漏らした。


 …アレだけやり合って、怪我らしい怪我が無い…そしてクリスタルドラゴンとやらを…新種の竜族を単騎で倒してしまうなんて…

  

 …やはり、あの男が正しいのかもしれない。…それでも自分は…ダイスを魔族だと思いたくなかった…


「…どうした?」

「な、なんでもない。 …よし、エーテルと、クリスタルを集められるだけ集めちゃおう」

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