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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
演目  伝説の英雄は復讐の旅路を行く

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―――


「なぁ、もう帰ろうぜ…やっぱ俺達じゃ無理だって、姉貴」


 トロイは情けない声を上げながらこちらの袖を引っ張ってきた。…もうちょっとシャキッとしていれば、短い銀髪に整った顔…バランスのとれた体つきをしており、我が弟ながら中々ハンサムなのだが…いかんせんヘタレすぎる。 そのせいで既に三度、せっかくできた彼女に振られている。

 …その大剣は飾りか、と怒鳴りつけてやりたい気持ちを堪え、…可能な限り優しい声で弟に言い聞かせた。黒いショートボブの上に砂避けのゴーグルを上げた。 


「…あのね、アンタは重剣士でしょ? 全ての剣士中、もっともパワーと体力に恵まれた剣士なの。それが、こんな遺跡一つでにゃんにゃん言ってたらいつまで経っても稼げないダメ男のままなのよ?」


 …こんなことなら、そのスキルを自分が欲しかった。 …自分は盗賊。…ハッキリ言って戦闘では役立たず同然だ。魔術工芸士や農芸士といった社会インフラ系職業と並べてもいいほど非力なのだ。…しかし、魔術工芸士や農芸士はそれぞれ工業と農業に常時欠かせない存在だが、盗賊は遺跡や宝物の発見・探索に特化した職種だ。…そして当然ながら遺跡と宝物は有限である。いつかはいらない子になってしまう運命なのだ。


 せめてもの救いは…幸か不幸か…このハズレスキルをもつ絶対人口が極めて少ない事である。それ故、ある程度実力があれば余裕のあるパーティに抱え込んでもらえる可能性があるのだ。


 …そして、魔術工芸士や農芸士ほど社会の為に役には立たないにせよ、彼らと違って申し訳程度に戦闘の端っこに…ゴブリンのように参加できる程度のステータスはあるという事だ。 …性格の悪い奴などは味方ゴブリンなどと呼ぶ事もあるが、言い返せないのが苦しい所である。

 本当に人型サイズの雑魚以下としか戦えない。…武器適性もせいぜいスローイングナイフからショートソードまで。 …真の最弱職種である。


「…いつかあたしは大盗賊トレーシーって呼ばれたいの。このハズレスキルを輝かせてやりたいの!アンタも、折角の氷の属性とその立派な大剣が扱えるんだから、もっと自分に自信を持ちなさい!」


「わ、わかったよ、姉貴… …けどさ、やっぱ怖ぇもんは怖ぇよ」


「臆病は罪じゃないわ。慎重ってだけ。…死んだら終わりなんだから、無理に突撃しなくていい。ただ、一歩一歩その足で進めるかどうか、確かめながら戦えば良いの」


「…けどさぁ、俺はそうしなきゃならないとして、姉貴はもう嫁に行ける歳だろ? …俺が言うのもなんだけど、姉貴は美人だし、結構スタイルも良いし、おまけに何だかんだ言って思いやりがあって性格も良いし、飯も美味い。 幾らでも良い家に入れるだろ? …こんな危ない仕事、そろそろ引退して欲しいけどなぁ」


 弟よ…可愛い奴め。…私だって血が繋がって無きゃ、アンタが心配だし結婚してやりたいよ。しかし…


「…ありがと。でもそう思うなら、まずはあたしが居るうちに一人前の戦士になってもらわなきゃね。…それか、アンタにもっといい安定した仕事が見つかると良いんだけど」

 再びゴーグルを掛け、砂塵の舞う砂漠地帯で岩場を進んだ。


「…無理だよ、こんな世の中じゃな…」


 

 …五年前、「二ホンとそのセカイ」が上位者によって完全に征服され、北大陸の人魔連合軍は二ホンの門から押し寄せる上位者をなんとか撃退しているというが…実はかなり危うい状況だという噂もある。…北大陸が陥落し、奴らが海を渡る力を持っていれば、今度はこの南大陸にやってくるのだろう…

 だが今は、そんな先の心配をして溜息を吐くより、今日明日食べる分の糧を探さねばならない。


「…!」


 岩場の中に、横穴らしい空間を見つけた。…自然現象で偶然できた空間では無い。…盗賊には、そのスキルレベルによるが遺跡特有の匂いを嗅ぎ分けられる嗅覚が備わっている。…自分の場合は自分を中心として2メディオ(33m)圏内に引っ掛かった遺跡を感知できる。


「…アタリ。いくよ、トロイ! …まだ誰も入った痕跡がない。無事にお宝を見つけたら、総取りできちゃうかもよ!?」


「お、おう! …でも、誰も入って無いならそれだけ危険なんだよな…?」

「安心して、建築トラップは全部察知できるから、あたしの後をついて来れば大丈夫。…問題はガーディアンやモンスターだね。 …一番のお宝はボスが守ってるって決まってるんだけど、それは最初から諦めよう。それ以外のお宝を持てるだけ、根こそぎ持っていくよ」


「しかし…これがまだ未踏の…カーバの封印した遺跡か…」


 カーバの遺跡は、見つけさえすれば人間なら誰でも入れる。…そしてモンスターは自力では外に出て来られない。…この出入口が文字通り危険と安全の境目だ。


 トレーシーは松明にホムラマツの油を浸し、火打石で火を灯した。 …本当はもっと明るく遠くを見渡せる光の魔法石が欲しいが、そんな金は無い。 …だが、ここで大儲けできれば…


「え、姉貴、誰それ」


「は?」


 自分のすぐ二歩先に人影が立っていた。

 …崩れた肌は渇き切り、トレーシーを見据えると殴りかかってきた。


「ぞ、ゾンビッ!!」

 トレーシーはすぐさま腰のショートカトラスを引き抜いてゾンビを切り払った。…切り抜けず、カトラスの刃が相手の腕で止まった。

「あ、姉貴退いて!」

 カトラスを抜き、トロイに任せた。大剣を振ろうとして…壁に切り込んでしまった。


「あっ、やべ…」

 思い切り顔面を殴られ、トロイはよろけた。そのまま掴みかかられ、噛まれそうになる。


「トロイッ!」

 背後からゾンビの首元にカトラスを突きつけて羽交い絞めにして引き剥がした。


 今度はこちらに噛みつこうと振り向くゾンビを蹴り飛ばし、壁にもたれ掛かってずり落ちた所を無我夢中で滅多切りにした。


「わ、悪ぃ…助かったよ」

「し、しっかりしてよね…ホントに…」

 …普通逆だろう、と思いながら松明を拾い直した。…通路の先に無数の人影。


「こ、こっちに逃げるよ!」


 …まだ何の成果も得ていないのにこの程度で引き上げる訳には行かなかった。…遺跡は見つけた者勝ちではなく、入って進める者勝ちだ。ゾンビなど、自分達姉弟には強敵だが、他のパーティならこんなもの相手に苦戦する事はそうない。


 …他のパーティーに見つかったら、稼ぎを根こそぎ持っていかれてしまうだろう。もう少しだけ奥へ進んで…


 小部屋を見つけて飛び込んだ。…敵は居ない。


「よ、よかった…ちょっと休憩しよ?」

「お、おう… …ん?」


「どしたの?」


「す、すげぇよ! ルーンの魔導書がある!これで当分は食っていけるんじゃないか?」

「嘘!?」


 トロイが掲げたものは確かに希少なルーンの魔導書だった。引っ手繰るように取り、内容を検める。本物だ。…これがあれば、属性を持たない自分でも…この魔導書なら火の属性が使えるように、そしてある程度の耐性が付く。 …ただし使い切りなので、勿論自分に使う訳には行かない。


「他には何かない!?」

「ええと…」

 ノロノロと探す弟を飛び越え、疲労も忘れて室内を嬉々として漁った。…なんだコレ?


 …頭部が輝く何かの偶像…それに小さな鎖のような輪っかを付けたぬいぐるみがあった。


「うーわ…悪趣味…見てこれ、気持ち悪すぎない?」


「うええ… あ、でも、あのスペリオールの連中に売れば喜ばれるかもしれねぇぜ?」


「…あいつらのせいで日本はダメになって、この世界だって不景気になったんだけどね…」


 上位者…スペリオールを信仰するアースァルからの信徒やその信仰にかぶれる者は増えつつある。

 アルダガルドやブレメルーダでは厳しく取り締まったが、その度に反発するように信者が増え、今では両国ともトーンダウンしている。


「…なぁ、本当にアイツらの言う通り、スペリオールを信仰したら、そいつらは上位者が助けてくれるって…それが本当なら…」


「…ねぇダメ。 …本当に上位者がそんな優しい奴らなら、いきなり一つの世界を滅ぼしたりなんかしないよ?」


「…だよなぁ…。…じゃあ、燃やすか?」


「それはダメ。お金になるなら、こんなものスペリオールに高く売りつけてやろうよ」


 

 他に目ぼしい物は無かったが、この二つ…一つは評価額は微妙だが、少なくともルーンの魔導書は半年以上…需要さえあれば一年は収穫が無くても食べていける。


「…いきなりこんなお宝が手に入るなんて。…もうちょっと頑張るよ!」


「お、おう!」

 

 すっかり気をよくした姉弟は次々と小部屋を調べ、時にゾンビや体長一ロディオ(1.65m)のスコーピオンをやり過ごし、奥へと進んだ。


「…お、広くなったな。なぁ、バッグも一杯になって来たし、そろそろこれで最後にしないか?」


 …欲張り過ぎは全てを失う。ギャンブルとこの稼業の鉄則だ。


「うん、このホールを調べたら帰ろ。換金が楽しみだねぇ♪」


 バッグの中身を覗いた。…デザートスローの爪、ゾンビの骨、狩人の笛…あと魔法石とクリスタル合計十個も! あと萎びた薬草。…この地域の乾燥気候によって萎びた薬草は、良質なポーションの原料になる。これも他の地域の薬草と違って割高で売れる。 …万一の為に家庭用薬として持っておいても良い。


「な、なんだこれ…?」


 トロイが困惑した声を上げた。


「モンスター!?」


「い、いや…何かのトラップかな…?」


 松明を照らし、トロイの声の方に向かうと、黒々とした巨大な…卵を寝かせたような物が置いてあった。…デカい。長い方は一メディオはある。…特にトラップの匂いはしないが…何か…妙な気配がした。


 悲しみ…絶望…怒り…復讐心… ドロドロとして、それでいて同情したくなるような切ない…


「姉貴?大丈夫か?」

 トロイは特に何も感じない様子だ。


「う、うん…もう出よう」


 …何だか分からないが、自分にはどうする事も出来ない。お宝も十分稼いだし、これより先にはボスの気配もある。 …さっさと…


 クォルルルルル



 …空耳だと信じたかった。しかし、トロイも音の聞こえた方を凝視して固まっている。


 …トロイの松明に照らされて現れたのは、…サンドリーパーだった。文字通り砂岩のような硬質の肌をした、巨大なサソリに似たモンスター。二つの巨大な鋏…ではなく鎌状の前脚を持つ、全長2メディオ近い大型モンスター…ボス。


「嘘だろ…や、やべぇよ…」

 

「し、刺激しないで…そっと後ろに下がって…」

 

 …言っている傍からトロイが石くれに躓いて仰向けに転がった。


「クルゥオオオッ」


 鎌が振り下ろされ、咄嗟にトロイは大剣を盾にした。…直撃は免れたが、その衝撃でトロイが血を吐いた。剣に守られていない身体も挟みで革の鎧など軽々と裂かれ、鮮血が噴き出して砂を固めた。


「痛え゛ぇッ!痛ぇよぉ、姉貴ぃ!」

 …尋常では無い血が大腿と肩から噴き出し、圧倒的な重量差で攻撃を喰らった腕はあらぬ方向に曲がっている…

「う、嘘…トロイ、何とか逃げ出して!」


「む、無理だあぁ!足が動かねぇ…!」

 サンドリーパーが赤く円らな目をくるりとトレーシーに向けた。


「に、逃げろ、姉貴! …あと、村のリーゼに、俺は最高に格好良かったって伝えてくれ!」


 …最愛の弟を置いて…?だが…立ち向かえば確実に自分も殺される…


 震えるカトラスの切っ先を赤い目に向け、思考が止まった。


「死にますよぉ、お嬢さん?」


 …誰!?

 周りを見回すが自分しか居ない。

 …視線を落とすと、バッグからさっきの気色悪い人形が覗いていた。


「ほら、一歩バックステップなうッ♪」


 バックステップ…?

 一歩下がると、サンドリーパーの爪が頬を掠め…盛大に出血した。


「素敵な御尊顔が潰れたスイカになってしまいますよ?弟君を助けたいのでしょう? …でしたら私めをあの黒い繭に思い切りツッコんでください♪思いっきりですよ、思いっきり♪」


 わ、訳が分からない…しかし、他にどうする事も出来ず…言われるまま、一縷の望みを託して黒い繭に人形を叩きつけた。


 追いかけてきたサンドリーパーが毒針を突き出してくる。 …避けられない…


 黒い繭が破裂し、長身の人影が飛び出して来た。…茫然とした視界に移っていたのは、長身に黒髪、見た事もない異国の…炭色の鎧を纏った男が、毒針を難なく掴む所だった。


 そのまま男は毒針を握り潰すと、目にも止まらない回し蹴りでサンドリーパーを遥か遠くの壁に蹴り飛ばし、激突させた。


「…」


 傷は見当たらないが、どこか怪我でもしているのか…男は腹部を抑えて片膝を付いた。

 …しかし堪えるように立ち上がると、男が微かな残像を残して、倒れ込んだままのサンドリーパーの頭部を掴み上げ、そこへ貫き手で肩口まで突き入れた。 …そして何やらロープのようなモノ…何かの神経か血管らしきものを握ったまま引き抜き、地面に放り捨てた。 …血飛沫が周囲を濡らした。

 …断末魔すらなく、そのままサンドリーパーは動かなくなった。


「…」

 …あまりに呆気なく倒してしまった。…実質、蹴りと抜き手の二撃で…実はアレがボスではなく、せいぜいが中ボスの、ベビーサンドリーパーとかだったのでは…?そしてウチの弟と自分はそれに翻弄されていただけ、とか…そうだ、そうに決まっている。


 …遺跡のボスをあんな雑魚のように扱ってしまうなど、最早人間ではない。…それこそ上位者だ。


 土煙の中を男がふらつきながら歩いてくる。


「あ、あの、弟と私を助けて頂いて…ありがとうございました」


「…」


「…あの、お名前は?」


「わからない…ここはどこだ?」


「サルデンス砂漠の…オアシスのかなり南にある遺跡ですけど」


「…」


 …言葉だけでなく表情まで希薄なため、何を考えているのか分からない。…ただ、鷹のように鋭い目つきと、その精悍な顔立ちは… 弟のような優しい、人畜無害な男で無い事は明らかだった。

 …助けてもらったし、結構好みのタイプだけど…あまり関わらない方が賢明かもしれない。


「あ、あの、助けて頂いたお礼がしたいのですが…ああ、ちょっと待って」


 先にトロイを助け起こした。


「あっ、ぐぁあ!」


「う、嘘でしょアンタ、足まで折れちゃってるのッ!?」


 …非力な自分が足の折れた弟を、医者やヒーラーがいるオアシスまで運んでいくのは…相当困難…いや、不可能だ…そうなると助けを呼びに行って帰って…往復四日…四日もしたら、傷口が悪化するのは間違いない。手持ちの薬草だけでは…


 視界の端で、例の男が我関せずと言わんばかりに、礼も受け取らずにふらふらとホールを出て行こうとしていた。


「ま、待って…」

 男に追い縋った。…今、自分達を助けられるのはこの人しか居ない…


 男が鋭い目で…決して敵意は感じないが…やや目つきの悪い、鋭い顔で振り返った。

「…」

「あの…こんな事を頼むのは筋違いも良い所だと思うけど、弟を運ぶのを助けてもらえない?」

「…」

 …感情の変化が、驚くほど無い。 …同情も哀れみすらなく……嫌そうな顔すらしない。

 …どころか、肩越しにこちらを見据えたまま…瞬き一つしない。 …怖い人というより、不気味にさえ思えてきた。 


「お、お礼ならいくらでも!ほ、ほらこの魔法石とクリスタルと…」

 …ルーンの魔導書…

 …馬鹿弟の命には代えられない!


「あと、ホラこれ!ルーンの…」

 弟のボロボロの革バッグを開いて中身を見せると…男は瞳孔を微かに開き、殴りつけるように手を突き出して来た。

「ひッ…!?」


 魔導書が転がり落ち、男はバッグの中から…弟の弁当の残りを掴み取ると、貪り食った。


 …すごい勢いだ…水も飲まずに…考えてみれば、あの黒い繭の中で一体どれだけ閉じ込められていたのだろう…でも、髭も髪も伸びていないし…いや、そもそも何故あんなモノの中に…?それにあの人形は…?

 それに、ベビーだろうと…サンドリーパーをあんなに…昆虫でも殺すように素手で始末してしまう人間なんてアリなのか?


 頭の中に次から次へと疑問符が浮かんでは消えた。…だめだ、一々考えていたら何もできない!

 とにかく、この男は自分達を助けてくれた、それで良い。 …もう一度助けてもらいたいのだ。

 残飯を貪り食った男はぐるりと振り向き、トロイの元へ大股で向かっていく。


「あ、ああっ!お、俺を喰うつもりじゃねぇだろうなッ!?」

 

 一連の流れですっかり男に怯えてしまったトロイが身を捩る。

「馬鹿ッ!そんな訳ないでしょ!?」

 …多分。


 男は姉弟のやり取りを無視し、トロイを肩に軽々と担ぎ上げた。…そしてホールの出入り口へと向かっていく。

「あっ、ボスの宝箱…」


 ホールを未練がましく振り向くが、男は足を止めずにどんどん進んでいく。…最大のお宝を諦め、トレーシーは男の後を追った。 …この男が現れてくれたことが最大の宝だ。…でなければ今頃二人共…

 

 ゾンビたちが、スコーピオンが現れるが…男と視線が合うと、すごすごと視線を外して道を譲った。…こんな現象は見た事も聞いた事も無い……それでも視線を合わせずに背後から向かっていったゾンビが、手刀で首を鋭利に切断されて崩れ落ちた。


 …足音も無く忍び寄るゾンビを、見向きもしないで…



「あ、あのっ、名乗るのが遅れてごめんなさい。あたしはトレーシー!そっちは弟のトロイ」


「よ、よろしく、兄弟」


「…」

 男は黙々と…出口が分かるのか、迷路にも一切迷う様子もなく、黙々と進んでいく。

「あの、出口がわかるの?」


「…わからない」


 えぇ…


 担がれているトロイが情けない顔で…同じく困惑顔の自分と顔を合わせた。



 しかし…驚くべきことに男は一切道に迷わず、迷路を抜けた。日が傾きつつある砂漠の風と光が三人を出迎えてくれた。


「た、助かったぁ!」

「ありがとう!オアシスはこっちだよ!」


 男の前に回って、トレーシーはあるものを見つけた。

 男の鎧の胸に描かれた…猫の肉球らしきもの。…その隣に、何か図形が掘られていた。…四角形に点…


「これって…サイコロ?」

「…」


「…じゃあ、名前が分かるまでダイスって呼ばせてよ」


「…ダイス…」

 …その瞬間、男の目に一瞬だけ…微かな光が灯ったのをトレーシーは見逃さなかった。


「…行こう。すぐに寒くなるから…どこか、少しでも砂丘の影でテントを張らないと」


 三人は砂漠の中へ歩み出した。

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