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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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113/173

終わる世界で それでも


 高音ながら腹の底に響く重々しいサイレン。


 Jアラート、特別攻撃警戒情報のサイレンは、戦中の空襲警報に似た、人間の不快感と緊張感を嫌が応にも逆撫でする音を響かせていた。


「…支度しないとな」

「…はい」


 桜を解放し、大淵は戦闘服の上からアーマー・独尊を着込んだ。…桜も急いで21式メイルアーマー・改を着込む。


 …忌々しい程正確に、あの銀ピカ悪魔が予言した通り…三日後に魔方陣が現れた。

 アルダガルド軍があの砂漠地帯を制圧し、あの魔方陣の描かれていた岩壁を完膚なきまでに破壊したにも拘らず、当然のように魔方陣は出現した。


「…いいか桜、絶対に無理はするなよ? …きっと俺が全部終わらせて来るから」

「だ、大丈夫ですよ。…私が出来る事だけしますから」


 仲間達が来る前に装備庫から抜け出すと、階段で緊張した面持ちの黒島たちとすれ違った。


「本当に来やがったな…それで、作戦はどうする?」


「いつも通り、だ。 …俺が戻るまで隊長を頼む。要請があれば避難誘導と救助活動を優先で。俺が指定した担当者以外からの命令は無線機不調ってことで完全に無視してくれ」


 大淵は手短に全員に指示を下すと、早々に拠点を飛び出していった。…独尊の効果もあってか、戦闘機など問題にならない程の…異次元の瞬発力で空へと駆け出していく。 


「…さっすが、あれから気合入ってんなー…愛の力って奴かねぇ」

 

 黒島が呆れたように香山を見ると、香山は頬を赤らめながら俯いた。


「いいなぁ、なんか魅力二倍増しって感じで。…再アタックで略奪しちゃおうかな」  


 …斎城の冗談とも本気とも取れない発言に場の空気が凍り付く。


「無理ですよ、斎城ぃ、香山と斎城じゃ歳の差が4歳以上も違うんだから、これはもう女として決定的ハンデ…」

「あ・な・たも、私と同い年よねぇ、アリッサ~?」


 ヘッドロックを掛けられたアリッサが慌てて首を縦に振った。

「い、イエス!そ、ソーリー、マム!」




 

 都の上空に現れた存在…異形の怪物。今度は竜ではなく、樹上に植え付けられた繭から垂れ下がった巨大な蛾のようなシルエットを見せる。…外観的には前の黒竜の方が遥かに強そうに見えるが…


 …毒々しい気配を強く感じた。


「テメーらが何者だか知らねーが…」


 …俺の仲間や知り合い達と、そいつらが暮らす世界に手を出すなら…平行世界の存在ごと消してやる。


 敵が逃げる気配。ストームランスで軌道上を執拗に追跡し…まずは一体を完全消去。この存在は二度と存在を許されない。


「…嫌な空気だ…」


 忌々しさの余り舌打ちをした。

 

 …透明なガラスケースに入れられ、投薬後のパフォーマンスを観察されているラット…そんな居心地の悪さを感じた。

 …だからと言って手を抜いて、民間人に余計な犠牲を強いる訳にもいかなかった。


 ビルの縁を足場に、更に高空へと跳び上がる。


 …どれだけ優勢でも、あの悪魔の予言が…呪いのように頭の片隅にあった。


 …自分は負ける運命にある… 


 …最初は自分の弱気だと思っていた。…だが、こうして実際に戦場の空気に触れて見ると、それが運命であると認めざるを得なかった。


 …だが、自分にはその運命を否定し、跳ね退けるだけの力がある筈だ。


 三体目の巨大な蛾を始末すると、他の二つの魔方陣から巨大な…二つの急須のようなシルエットが天に舞い上がった。…ふざけた形のソレは、大淵に今までとは異質な怖気を感じさせた。


 即座に回避機動。

 大袈裟なほど距離を取るが、「急須」の注ぎ口からは黒い液体が空中に注がれ…宙で槍となって大淵にいつまでも付きまとった。


「ッ…」

 …自分がやられるくらいなら、多少の被害は仕方ないか…?

 

 空間から花の国の女帝から貰った弓… 「澪月」を取り、空中で黒い槍から逃れながら番えた。


 やはり、臆病熊の弓と同じく光の矢が実体化し…急須を貫き、天高く…文字通り宇宙空間まで追放した。


 …臆病熊の弓とはまた別ベクトルの、高い破壊力だった。…燃費も200と、中々馬鹿にならないが…これを扱って月の使者に一矢報いた帝と言うのも相当な猛者だったのだろう。


 …しかし、本体を撃退しても、どんな機動で翻弄しても…その黒い槍は大淵に執拗に付きまとい、遂に手足に絡みつくと瞬時に這い上り、全身を拘束した。

 もう一方の急須からは黒い液体が地上に並々と注がれ…それらの黒い水滴一粒一粒が何らかのモンスターの形を借りて実体化し…民間人を襲い始めた。

 同時進行で大淵の拘束は徹底的に進んでいた。


「ぐぅああああぁあぁぁッ!!」


  …拠点で見守っていた仲間達の耳に、その大淵の無念の断末魔が確かに聞こえた。



「え…大輔くん…?」


 …遥か上空500メートルで幾重もの黒い槍で圧し潰される大淵を見上げ、桜の思考は停止寸前に陥りつつあった。


 …都内に展開している自衛隊・警察・各ギルドの防衛部隊から悲鳴に近い通信が送られてきた。

「新宿方面隊、被害極めて甚大! …民間人の救助を断念する!」


「六本木方面隊! ひ、人型モンスターが民間人に襲い掛かっています!抑えきれません! 敵個体極めて強力! だ、誰か避難支援をッ!」


「こ、こちら大淵小隊!支援に向かう」


 黒島は即座に応答し、隊員達を連れて向かおうと歩みかけ…足を止めた。


「…今、隊長は俺だ。桜、マオ、リザベル、カリュー…それから射方、浮田、星村、斎城…アリッサ。お前らはゲートを潜って向こうの世界に逃げ延びろ。…そして守りを固めろ」


「え…?」

「尾倉、藤崎、川村。…悪いが腐れ縁のお前らには俺と一緒にビンボーくじ引いてもらうぜ?…大淵小隊は全員して逃げたなんて言われたくないからな」


 …黒島の目は、あくまで彼我の戦力を冷静に見極めていた。…歴史上の名将に付き物の、自分の命さえ駒として冷静かつ大切に鑑定できる人間の目利きをしていた。


 …いつの時代も、そうした人間によって生かされ、英雄として成長した凡人が歴史のターニングポイントとなってきた事実を…多くの人は知らない。


 そして、黒島は「最終的な勝利の為なら」迷わずそれができる…英雄を産める英雄だった。



「さっさといけ!」


 黒島に怒鳴られ、本能的に香山はマオを抱きかかえてゲートへと逃げた。…取り残された人間達…黒島達の運命を知りながら。


 …最愛の人に背を向ける悔しさに涙しながら。


「振り向くな!!」

「おお、殿ってやつか!?この藤崎海、燃えてきたぞ!」

「スケの奴は絶対無事だからよ!心配すんな!」

 

 尾倉は黙って球体の物質を投げつけ…斎城がそれをキャッチした。

「…収納の魔法石と…俺の秘伝のレシピ達だ」


「黒島さん!? い、いやだ、皆一緒じゃなきゃ嫌です!」

 アリッサに担がれた星村が暴れるが、アリッサの膂力の前では何もできなかった。


「星村ー、次に会う時にはせめてBカップくらいになってると良いなぁ!」


「本気デスか、ミンナ死にマスよ…!?」 



「…間抜けな相棒がまだ捕まってるんでな。…どうなるか分からんが、お前達にはもっとハードな未来が待ってるだろう。…重ねて後を頼む」


 スケープゴート…いや、違うな…


 アリッサは、その高尚な自己犠牲の精神を形容する言葉を知らなかった。…だから、それ以上何も言わず、星村を抱え…生かされた者達と共にゲートへと逃げ込んだ。



 




 …この日、日本は未曽有の被害を受け…誰一人としてその圧倒的な軍事力を持つ敵性組織に一矢報いる事無く…文明としての機能を完全に喪失した。

 …ごく一部の政府関係者がゲートに逃げ延び、また一早くゲートの存在をシェルターとして思いついたギルド関係者やその家族など、民間人数千人がゲートに逃げ込んだものの、すぐに「上位者」によってゲートは完全包囲・閉鎖され…取り残された人間は…投降・逃走していつかは食料・実験材料として死ぬか、抵抗して無惨に殺されるか…二つに一つの道を選択させられた。


 …後に残されたのは、英雄を吞み込んだ…黒々としたグロテスクで巨大な繭。…それは戦火の中、敵にすら破壊されずにそこに残り続けた。


 そしてこの惨劇は日本のみならず…これまでにどこにも繋がらないゲート坑道を掘り当てた各国にとって最悪な形となって返ってきた。…人間の技術力とスキルではどうにもならない存在が湧いてくる孔として…



 





「…いやぁ、取り合えず大満足ですよ、ダイス様♪ …しかしダイス様が私以外のよそ者に肉人形にされるのは承服し兼ねますなぁ」


 パチパチパチと拍手をしながら悪魔が身動きとれぬ大淵の前に立った。…黒い槍に全身を侵され、大淵が辛うじて守る権限は…臓器の生命維持機能と脳のコントロールだけだった。…強靭な肉体を蝕まれても、それだけは上位者にも奪えなかったらしい。 …或いは、これが奴らなりの終身刑のつもりか…。

 

 …なにせ、発声機能すら失っていた。…思考し、息をしているだけで、今の手足は拘束されている訳では無く、動かすべき手足が無いだけだ。

 抗って生きているのではなく…思考と呼吸以外、何もできない肉人形として生かされているだけかもしれない。


「…さて、ダイス様にグッドニュースとバッドニュースをば。 …まずグッドニュースから!香山様達は魔王様と共に北大陸へと避難されました。…現在は魔王様の居城で安静にしておられますよ。…いやいや、香山様には上手い事されましたなぁ?結構結構♪ 見事、私の忠告が役立ちましたなぁ?  …さて、バッドニュースですが…」

 ヨヨヨ、と泣き真似をしながらこちらを窺う。


「黒島様、尾倉様、川村様、藤崎様は、仁義の為と駆けつけた憂国烈士団残党部隊と共に最期まで民間人避難を支援し、悪鬼羅刹の如く奮戦し…全員、壮絶に戦死なされました。 …ご愁傷様です」


 …コイツは、決して嘘や間違いは言わない…


 声を出せないこの体が呪わしい。…忘れかけていた黒島達の顔が…記憶が蘇ってきた。

 …コイツの前でだけは見せたくなかったが…涙が溢れて止まらなかった。 …大切な仲間達が…特別な親友が死んだ…。 馬鹿騒ぎした日々が次から次へと思い浮かんでは…永遠に失われていく…。

 アイツらは俺を受け入れ…何度も助けてきてくれたのに…

 俺はアレだけの力を得ながら、結局何も返せずに死なせてしまったのか…

 

「相手が悪すぎましたなぁ。アレはどんなチートスキルを持っていても、人間である以上は決して勝てないよう設定されておりましてねぇ。行ってみればチーターをも殺すチーターです。 …これを倒すのは、いくらダイス様が滝で修行されても不可能ですな」


 大淵の顔を覗き込み、悪魔は更に続けた。

「私が知る限り、これ以上のBADENDも、そこから立ち上がった勇者も居りません。…貴方がこのまま可愛い負け犬わんちゃんになるか、私の期待通りのダーティーなダークヒーローになるか…それとも別の何かになってくれるのか…それはこれからのお楽しみですがねぇ?」


「…」


 汚らわしい繭の中で…心地よい快楽と偽りのまどろみの誘いを拒み続けながら……確か…かつて、大淵…大輔…と、呼ばれた、人間だったモノは、その声に薄らと目を開けた。…ここに囚われてどれだけの日数が経ったのか分からなかった。


「さて…どうなさいます? …私はもう、今まで十分頑張られたのですから…このままダイス様はお休みになる資格もあると思いますがねぇ?」


…もう忘れたのか?


 俺は…


 例え…どんな困難や敵が現れようと…最期まで抗ってやるまでだ。


「ご立派な事でございます、ダイス様♪」


「…しかし、だからこそお伝えせねばなりません。今のあなたは芋虫同然で、ゴブリンにすら及ばない。…さて、どう抗われますか?ここで歯を食いしばって敵への憎しみを糧に延命し続けますか?」


 お前は何のために居る、悪魔? …そういう事だろう?


「私と取引を御所望と。 …そう捉えてよろしいですかな、…ダイス様ァ?」


 好きにとれ…このままでは俺は…桜達を守る事すらできない


 …銀ピカ悪魔のマスク…その口元に当たる部分に横一文字の線が浮かぶと…鋭い牙がニタァ、とおぞましい笑みを浮かべた。


「…まずは取引を始めましょう。…と言っても、生憎とダイス様に選択肢は殆どありませんがねぇ?いえね、私だって元のままのダイス様に戻って頂いて、またイチャコラしたいのですが、そうしたくてもそう都合よくは行かないのですよ」

 悪魔は繭の中の壁に背を持たれかけ、指を一つ立てた。


「まず、収納と転移の魔法石は武装解除された際に破壊されました。…独尊と他の精霊武装の類は私がお預かりしておいたのでご安心を♪ 武装に関しては、あまりごちゃごちゃさせるのも心苦しいので、何かしら代替案をご用意いたしますよ」


 更に指を立てた。

「次に、ダイス様の体の機能について。…まず姿形と外見的な機能は全く変わりませんが、幾つかの機能が無くなります。…まず生殖能力が失われます…しかしこれは間に合われたようで? …次に排泄機能。…お通じの良い時のあの快感が二度と味わえなくなるのは辛いですねぇ、ハイ! …そして、燃費が爆上がりするので、非常に食欲旺盛になります。ええ、それはもう、排泄物すら残らない程に。…どこかの将軍様の体みたいですなぁ? …食べなくても餓死する事はありませんが、パフォーマンスは目に見えて低下します。可能なら食事よりも、マナ…エーテルを摂取するのが最も効率的なエネルギー補給になりますがね」


 三本目の指を立てた。


「そして、感情の希薄化です。…今までのような感情豊かなダイス様にお目に掛かれなくなるのは残念ですが、致し方ありませんね。 …これ、私も悲しゅうございます!」 

 

 四本目の指を立てる。

「最後に。記憶が封印されます。…老婆心から言えば、これまでの記憶を全て消去する事をお勧めします。ダイス様の魅力である悩みや道徳観、そして正義感… …私は個人的に大好きなのですが、いかんせんこれまでもそうですが、戦闘の邪魔になりがちです。…というか確実に弱体化します。…いかがなさいます? 消去すると、これを別エネルギーに変換して漏れなくスーパー無双戦闘マシンになれますが? …お友達を失われた悲しみと自己嫌悪もキレイに消えますよ?」

 

 …せいぜい封印で留めておいてくれ。俺は、俺であり続けたい。…あいつらとの記憶を失いたくない


「…まぁ、私もその方が愉しめるんですがネ♪ …それでは取引成立、と」


 銀ピカ悪魔は大淵の変わりに代筆した契約書とサインを見せ、背を向けて立ち去ろうとした。


「体は明日には見繕っておきますよ♪ …問題は、ダイス様を起こしてくれる方がいらっしゃるかどうかですが…この東京ではまず千年経っても助けは来ませんので、ランダムに彼の世界のどこかに落としますね」


 …体を再構築する影響か…決して抗えない心地よさと眠気が襲って来た。…意識が飛ぶ…


「…あぁ、どうせお忘れになるでしょうから最後に自己紹介でもしておきましょうか。 私、ルシファーと呼ばれていた者でして。そこそこメジャーな悪魔でございます♪」


「それまで暫しお休みください」 と言われ、大淵の意識は闇へと消え果てた。

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