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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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112/173

だから今を全力で


「いきなり隊長命令だなんて…大輔くんが珍しいですね」


「ああ、ただ事じゃねーな。…こいつぁいよいよ隊長権力の氾濫を始めるつもりだな。お嬢さん達はしっかりガードを固めておいた方が良いぜ。…射方、お前はこの中で一番若いんだから、大淵に「話があるから来てくれ」なんて言われても絶対一人で付いていくなよ?」


「…じゃあ黒島、話があるから来てもらおうか」

  

 小隊が集められた談話室。勝手な事を宣う黒島の首根っこを掴み、大淵は青ざめた黒島を談話室から引きずりだして行った。


「何かスケらしくねーよな。…政府から頼まれた仕事も蹴ったらしいし」


 勿論、丁重に断った事だが、これまで文句ひとつ、命令拒否は…つい最近あったが、それでも任務依頼の拒否は初めての事である。…担当する政府関係各位は懐いていた飼い犬が豹変したような事態に、今頃戦々恐々としているかもしれない。


 少なくとも、大淵に他意などないのだが。


「あー、待たせたな諸君。急に呼び立ててすまんな」


 …生気を失った黒島を椅子に座らせ、大淵もその隣に座った。

 

「二月に隊で休暇を取ったばかりだが、またここいらで一休みしようと思ってな。…ほら、昨日あんなモノが出てきただろう? …既に政府にも報告済みだが、とある情報筋によると、これから三日間は絶対にアレが出てこないとの事でな。 そこで休めるうちにしっかり休んでおこうという、俺の深謀遠慮だ。 …黒島君、アレを」


「ふぁ、ふぁいッ」


 気の抜けた返事をする黒島が旅行チケットを掲げて見せた。


「幸運にも格安で二泊三日の沖縄旅行券が手に入ってな。…去年の秋に行ったばかりの面子にはあまり嬉しくないかもしれんが、まだ沖縄に行ったことが無い者もいる事だし、折角だから小隊で行かないかと思ってな。…隊長命令とは言いつつ強制はしないが、参加してくれる者は荷物を纏めて明日、朝六時にここを出るからそのつもりでな。…なお、帰りの事は心配しなくていい。いざとなれば便利な転移の魔法石があるからな」


 あの悪魔が嘘を吐くとも思えないが、万一という事もある。…その辺は抜かりないつもりだった。


「以上、解散。あぁ、欠席者はメールかSNSでいいから俺か、そこで萎びている黒島クンに一報くれ」




 …翌朝、誰からも欠席報告が来ないまま、全員が拠点玄関ホールに集まっていた。 


 気象にも恵まれ、4月上旬にしては沖縄も平年より暖かくなるとの予想だった。


 隊員達は思い思いに機内で時間を過ごしている。…三人掛け席で、隣は香山と斎城だった。…幾ら普段からの行いが良いからと言って、こんな時まで席順を良くしてくれなくても良かろうに…マオは隣に座れぬ事で不機嫌になりかけたが、幸いにも窓際だったため今は愉快げに外の景色を眺めている。…さすがにマオもここまで高空は飛べないらしい。


 …あれ以降、香山と近くになるのは初めてだ。 隣の香山は座席裏のパネルに映される映画を見ているようだが…明らかに映画には見入っていない。 …確かに気恥ずかしいが、隣になったくらいでそんなに真っ赤にならんでもいいだろうに。…こっちまで赤くなりそうで困るぞ。


「…香山さんに何かしたの?」


 斎城が小声で話しかけてきた。


「えっ、いや…」

「…ふぅ~ん?」


 微笑ましげに…冷やかすように香山と自分を見比べる。…大方はお見通しだろう。

「…ファイトっ」


 ファイトって… 

「煮え切らないのが一番ダメだぞ、隊長さん♪」

 そう小声で助言を残し、斎城はアイマスクをしっかりと掛けて体を深く座席に預けた。


「あー…桜…」

「は、はいっ」

「すまんな、映画楽しんでるのに」

「い、いえ…実はあんまり見てませんでした…」

 桜はあっさりと白状し、モニターを消した。


「来てくれてありがとうな。…正直いきなりだったから、皆が来てくれるか不安だったんだが」

「ふふ。大輔くんにしては強引だからって、皆不思議がってました。私も…本当は何かあったんじゃないのかな…なんて」


「…何もないさ。ただ、どのみち時間は有限だからな。…だったら人生は楽しめるうちに楽しまなきゃ損だと思って」

 

「…そうですね。それ、私も賛成です」

「キツイ任務が多かったからな。全力で楽しもうぜ」

「はいっ♪」


 

 東京から三時間で辿り着いた沖縄の海は、晴れ晴れとした空の下で青く輝いていた。遠浅の穏やかな海を眺めながら観光地を皆と巡った。水族館でジンベイザメの雄大な姿を見上げ、…元の世界では無かったはずだが、この世界の沖縄水族館ではシャチの展示もしていた。

「でけー!コイツ食えるのか?美味いのか?」

 などと、巨人のようなカリューがジンベイザメの巨大な水槽の前で陽気な声で言う物だから、他の利用客に眉を顰められてしまった。


 マオはシャチの水槽に張り付いている。

「あの白いのが目か。…違うのか!?

そういえばお前もブレメルーダではオルカ…シャチだったな、ダイス!」

「ほぉ、この世界のオルカ…シャチとはこんな容姿なのか…死神のイメージには程遠いな」

 

「ははは、見た目は可愛らしくもあるが、結構獰猛な生き物なんだぞ。海のギャングであるサメをも襲う事から、海の王とも呼ばれている」


 藤崎がマオとリザベルに説明した。


「あ、アリッサ良い事思いつきマシタ♪ 原子力発電所の燃料プールにダイブ実験はキャンセルするんで、この水槽にダイブしてみてクダサイ、大淵♪」


「やっぱりロクでもねーじゃねーか!?」


「人間は基本的に襲わない性格らしいぞ。まぁ何事にも絶対の保証はないがな!」


「…水族館に迷惑がかかるから却下だ、却下! ほれ、イルカとアシカのショー見に行くぞ」


 …お約束と言うべきか…全員、揃って水浸しにされた。


「大淵、あのイルカ、お前の分身なんじゃねーの?特に女の子にばっか水掛けてたぞ」

「…かもな。だとしたら流石俺の分身だ、いい仕事をしてくれる」


 服が透ける程水浸しにされ、全員がトイレで着替えを済ませていた。…温暖化のせいかどうかは知らないが、季節外れの暖かさに大感謝だ。


「昼は沖縄料理の美味い店を知ってるから、任せてくれ。んで、夜は例の肉でBBQと行こう」

 …スノーダリア近辺で待機中に尾倉が狩った、スノーブルというモンスターの肉だが、これが大変美味だった。尾倉と示し合わせ、現代に持ってきて正解だった。


 着替えを済ませてきた女性陣と合流し、黒島の案内する店で沖縄料理を堪能し…午後の暖かさがピークに達した所で海に行ってみた。

 全員が水着を用意しており、目の保養…というより毒だったが、思い思いに水遊びをしたり貝殻集めなどして遊んだ。 

 大淵はマオとリザベルに泳ぎを教えてやったり、休んだ隙にアリッサによって砂に埋められたりして過ごした。


「…ここに来て本当に良かったよ」

 全身の砂を払いながら大淵はしみじみと言った。…隣には斎城と香山が寛いでいる。

「海が綺麗ですもんね」

「旅行もそうだが、この小隊に来てさ。…生まれ変わった先がここで、本当に俺は幸せだった」

「…何かそういうちょっとカッコいい台詞、これから死ぬキャラみたいで嫌だなぁ」

「…じゃあこういうのはどうだ? お前さん達の素晴らしい水着姿が見られて眼福至福だ」


「…うん、そっちの方が大輔君ぽいかな。ねぇ、香山さん?」

「は、はいっ」

「まぁ、大輔君は香山さんばかり見てたみたいだけどね?」

 

 斎城はそう嘯きながら立ち上がり、二人を取り残して行った。


「…」

「…あ、あー…桜。日付が変わる頃、もし起きてたらまたここに来て欲しい」 

「は、はい…」


 それだけ伝えると大淵も足早に皆の下に戻った。




 BBQで散々飲んで盛り上がった後、小隊は行儀よく全て片付けて宿泊先である近くのホテルに撤収した。 

 


 香山が砂浜に向かうと、午後と同じように大淵が夜の海を眺めていた。


「…来てくれたな。すまんな、疲れて眠いだろうに」

「い、いえ…」


 誰も居ない砂浜。 …波の打ち寄せる音だけがやけに大きく感じられる。


「…まだ半年だが、色んな冒険をしてきたな」

「そ、そうですね」


「いつだって桜が隣にいてくれたな」

「…い、いえ…」

「どれだけ癒されたか、どれだけ救われたか…すまん、多すぎてちょっと思い出せないな…」

「…」


「…好きだ、桜」


「…ぁ、わ…」

 桜が気の毒なくらい緊張して声を震わせた。…大淵は静かに答えを待った。

「…わ、私も…好き…です」

 

 迷わず桜を抱き締めた。


 …彼方で花火が打ち上がった。

 …岩田が「お詫びにサプライズを用意した」と言っていたが…味な真似を…



 花火によって砂浜に映し出される二人の影を見て、離れた物陰に隠れていた仲間達が口々に歓声を上げた。 

 マオは頬を膨らませつつも苦笑に変えた。

 …斎城も静かに微笑んだ。

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