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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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111/173

抗う者の限界


「アルダガルド駐在員からの情報によると、現地で謎の魔方陣が発見されたそうです。…現地の呪術関係に詳しい専門家の指導の下、アルダガルド側の厚意でその魔方陣や式は破壊した、との事ですが…」


 大川外務大臣からの現地情報を聞きながら岩田は溜息を吐いた。

 …軍事侵攻を受けたアルダガルドから早々に現地スタッフを引き上げた…薄情者と言われて現地スタッフを追い返されても仕方ない所を、大淵大輔の独善的行動のお陰で、日本政府は文句を言われるどころか破格の待遇を受けて居た。

 建前に過ぎない軽いモノとはいえ、彼に懲罰を科すのは心苦しかった。…勿論、何らかの形で…誰にも認知されないよう穴埋めをするつもりだ。


「…英雄さんの報告書と辻褄は合いますね…けど、その辺の話は私には全く分かりませんね。高等数学の話の方がまだ理解できます。…何で遥か離れたアルダガルドの砂漠で描かれた魔方陣がこの東京に出るの?なんであの絵本から出たようなドラゴンにはギルド戦士やスキル保有者の大砲すら効かないの?」


 …もっとも、今となってはダメージを与えられなくて本当に良かった…あんなモノの体や一部が、この人口密集率が世界トップクラスの首都に落ちていたらと思うと胃が痛くなる。…他にどうしようも無いとはいえ…


 既に出された被害も決して看過できないものがあった。…死者行方不明者合わせて二千人を超えつつある。…孤独死と一時期騒がれたように、誰にも認知されていない孤独な人だって少なくない。 まだ行政側で把握できていない部分もある筈だ。


(…これで本当に終わりなの…?)

 

 アルダガルドに侵攻したという謎の政教国家軍…一体何が目的で…


 あの東京の空に浮かんだ漆黒の魔方陣は大淵が全てのドラゴンを消滅させると同時に煙のように消え失せた。…今は夜空の下、見渡す限りの都心の光に消防の赤色灯が多く煌いている。


「…大々的に放送されてしまっていたけれど、大丈夫かしら」

 

 …何が大丈夫かしら、だ、と我ながら忌々しく思った。…これまでは噂や都市伝説の類として存在していた大淵は実在する英雄として確定してしまった。…まさかよりによって空中で接触され墜落中の報道ヘリを助け出してしまうとは… 勿論、人命に貴賤は無いが…


「つくづく運の悪い英雄…いえ、スーパーマンね」


 …特に貴女に目を付けられたのがね…と、冗談でも決して口には出せないものの、不動は岩田を横目で見ながら頷いた。


 くしゃみを抑えながら大淵は自室でテレビを見ていた。…これではエゴサだ。こんな事なら往年のヒーローマスクでもして行くべきだったか?

 よりによって助けたヘリが報道関係だったとは…いや、だから見捨てれば良かったとはならないが…夕食時に初めて見た画面にはアナウンサーの胸に片目を隠されながらも、ヘリの窓から覗き込む自分の、ほぼ顔の全てがアップで映されていた。…流石にプライバシー保護とコンプライアンスの面からまずかったのか、今はそのシーンをカットされ、ビルからビルへ飛び移る自分の後ろ姿が映されている。


 チャンネルを切り替えると……被害現場で家族を失った男性のインタビューに切り替わり、いたたまれなくなってテレビを消した。

 

 …しかし、これで終わりなのだろうか…? 


 あんな唐突に出てくるモノを一々ここから出撃していたら、幾らこの力を手に入れた自分でもすべての被害を押し留める事は不可能だ。…ましてや今回は出現場所がまとまっていたから良かったが、これがあちこちに点在するようになったら…



「ん~、そうなればどんどん後手後手のゲームになっていきますがご安心ください。敵さんも今回の範囲内でしか召喚できませんから」


「…どっから湧いて出やがった?ゴキブリじゃあるまいし」


「おほほほほ!私めはゴキブリをも超える生命力と神出鬼没さが売りでしてねぇ!」


 忌々しく振り返ると…大淵のベッドの上で、例のタキシードの上に…セクシーランジェリーの類を身に着けた銀ピカの悪魔が居た。…変態悪魔とでも呼び改めるか…いや、却って喜びそうだ…止そう。

 …同じ理由で、何故他人様のベッドの上でそんな気色悪い格好をしているのか、という事も敢えて聞かないでおいた。


「…何で他の連中の前には絶対姿を見せねーんだ」


「私はダイス様一筋だからでございます!」

「くたばれ」


「そんなことよりダイス様、見ましたよぉ? …見事レイスくんを殺害し、その呪われた力を受け継ぎましたねぇ!勿論、私は最初からダイス様が勝つ未来しか見えていませんでしたがね!そして今日の上位者との初戦!いやぁ、惚れ惚れ致しました!まさか人間が上位者を殺す…正確には存在を全世界線においてまで消し去るという、殺害以上の芸当までしてしまうとは!私もう、大興奮のあまりブラックホールまで飛んで行ってホワイトホールを作り出してしまいそうです!」


 勝手に飛んでいけ、と思いながらも、コイツから情報を引き出すしかないと割り切った。


「上位者とはなんだ?…あのアルダガルドの砂漠で行われた儀式の事も、知っているなら教えてくれ」


「嗚呼ァ!ダイス様にお願いされる日が来るとはッ!? 喜悦の余り絶頂しそうです、ハイッ!」


 …これほど耳栓が欲しい相手もいない。


「上位者と言うのはそうですねぇ…他に例えようがございませんので人間様といたしましょう。彼らに上下は無く、種族…あなた達で言う人種があるのみです。…あぁ、人種問題の面倒を言うのはナシにしましょう、えぇ。シンプルにお考え下さい。 …さて、その上位者からしたら皆さん人間は…バクテリアのようなものですかね。バクテリアとて中には目ん玉引ん剝くほど恐ろしい物もありますが、正にダイス様は彼ら上位者からしたら、ソレの遥か斜め上を飛んでくる…唯一無二の超極悪殺人バクテリアでしょうなぁ!」 


「…俺の話じゃなくて上位者の話を聞きたかったんだが?」


「これは失礼♪ 彼らは別次元からやって来たモンスターですよ。…魔族とモンスターのモンスターではありません。…本当の意味で怪物(モンスター)ですね。例のアースァル教団の教義の中にある「異次元の神々」というものに当たりますね」


「…あれで終わりか?」


「いえいえ!滅相もございません!まだまだゴマンと居ますよ!あ、五万じゃないですよ?私もそこまではわかりませんが、まぁ百体や千体では無い事は確実です。 なにせ、星の数ほど存在するそうですから」


「…何万体来ようが相手してやる。 …やるしかないんだ」


「あーッ、痺れるゥッ!マジイケメン、ですわぁ~♪」

「うるせぇ」


 …これだけ騒いで誰も様子を見に来ないのだから、本当に自分にしか感知できない存在なのだな…


「それでこそダイス様でございます。…しかしダイス様、そのイケメン度ぶっちぎりは結構ですが、ご自分が何をやらかしたかは分かっておいでですかなぁ?」


「…まぁ、目はつけられたかな」


「スイーツ♪ ベリースイーツ♪ …その自己評価の低さはちょいと致命的ですなぁ? …先程、私は彼らを人間に例えましたが、それは適当な比喩ではありませんよ? ダイス様、例えばあなたのこの拠点で大切なお仲間が未知のバクテリアに侵されて亡くなったら…どうされます?」


「…保健所に相談するかな」


「はいはい、そう、専門家が居るのですよ、彼らにも! ダイス様は触れた人間を問答無用で消してしまう超超危険なバクテリアなのですよ!…次に来る時、上位者はダイス様を決して逃がしません。賭けてもいいですよ」


「…」

 …自分の負ける未来を描き…かぶりを振った。 …弱気になってどうする。これまでだって戦って、最終的には勝って来たじゃないか。…あいつらと…最高の仲間達と共に。


「…例え、どんな敵が相手でも、逃げずに最期まで戦ってやる」


 そんな敵が相手なら、最早自分に逃げる事は許されない。…死ぬまで抗ってやるまでだ。


「最ッ高でございます、ダイス様!それでこそ、ですよぉ♪ しかしねぇ…」



 悪魔がベッドから身をぐるんと乗り出し、大淵の眼の前に迫った。



「御自慢のベストフレンズがアレに敵いますかねぇ?」


「…」


「…悪魔から親切なご忠告をば♪ 上位者は少なくとも三日は出てきません。…そんな気分や状況ではないでしょうが、最愛のお仲間の皆様とたっぷりと濃密な時間を過ごされる事をお勧めします。  …特にジュテーム・サクラとはねぇ」


 …それだけ言い残し、悪魔が消えていた。


 …胸に広がる一抹の不安を押し殺し… …生理的に受け付けないベッドのシーツを交換することから始めた。

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