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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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110/173

破滅の使者


「あれは…」


 …アルダガルド対岸で、岩に書きつけられていた文字の中にあった…魔方陣らしきもの。


 上空に浮かんだ魔方陣。それがゲートと同様の役割を果たすのか、その二次元の図面から体長50メートルはあろうかという竜…どこか非生物的な雰囲気のある黒竜らしきものを生み出した。


「おい、大食い火竜、お前の仲間だろう!? 何とか言ってやれ!」


「い、いや、違うぞ!?アイツらからは何も感じない!…本当に生き物なのか…?」

 カリューが狼狽えながら否定した。

 

 …カリューの疑問はもっともだ。大淵自身、あの黒竜らしきものからは生気を感じなかった。

 …そして、敵意も気配も薄い。

 …これはアルダガルドを襲ったあのタコ野郎…あれと同じ…?


「…ちょっと行ってくる。 …ここなら無線は幾らでも通じるから、追って連絡する」


 大淵が立ち上がり、仲間達を見渡した。


「各自、装備を整えて待機。…例の高射機関砲はあるな?射方と尾倉で念のため、拠点屋上に設置しておいてくれ」


 収納を利用すれば数百キロになる装備も訳なく設置可能だ。


「…結局いつも通りで悪いが…あとを頼む」

 全員が立ち上がり、大淵に向き直った。

「「了解!」」


「…ほんじゃお片付けしますか!」


 既に自衛隊、警察は片づけにかかり、警備ギルドも慌ててゴミやシートを畳みに掛かっている。


「…大輔くん、気を付けてね…?」

「ああ」


 …皆が片付けに掛かって…誰も見ていない。

 

 …酒の勢いに押され…そんな言い訳を思いながら、香山に口づけした。


 …そのまま、茫然とする香山を尻目に、逃げるように身を翻して去った。

 

 大淵のダッシュと同時に一陣の風が吹き荒れ、桜の花弁が一斉に舞い上げられた。


「ぐぉっ、なんだ、つむじ風か!?」


 見ていなかった一同はその風に驚きながら、辛うじて後片付けを終えた所だった。


「…」

 

 唇に触れたまま、香山は茫然と大淵の去った後を見つめていた。






「状況はどうですか?」


 強張りながらも余裕の表情を見せようとする岩田が官邸の玄関ホールに入ると、不動をはじめとする関係スタッフが報道陣のように岩田を取り巻いて報告を始めた。


「0時28分に出現した超巨大物体は現在、新宿、渋谷、千代田、港、世田谷にかかる、各区上空に現れ、破壊活動を開始しました。…既に第一師団隷下の担当部隊、及びスキル保有者を含む特殊対策部隊が出動し、対処にあたっていますが…」

 不動は言葉を濁した。


 …初期のスタンピードくらいなら、今の第一普連なら余裕で対処できる。直接戦闘部隊には全員23式を装備させ、銃・砲のみならず、有力なスキル保有者も積極的に集めた。 …それでもこの謎の超巨大物体には到底敵わなかった。砲兵による地対空誘導弾もまるで効果がなく、16式機動戦闘車の砲兵が決死の責任覚悟で高台から最大仰角で撃ち込んだという105㎜徹甲弾も表皮を傷つけただけにすぎず、出血などは見られなかったという。


 …あくまで不動の推測だが、隊員たちのスキルレベルが低い高いという次元の問題ではないと睨んでいた。 …憶測から一つの稚拙な仮定を導き出したが…防衛を担う最高責任者として、それは口にするのも憚られるものだった。


「…また、百里飛行場からは戦闘機の離陸準備が進んでいますが…これまでの過程からして、出撃させることは進言致し兼ねます」


「…何もしない訳には行きません。…ところで咎人の英雄さんは?」


 …結局、また一民間人に過ぎない彼に頼ることになるのだ。


「…0時28分、120時間の謹慎を終えると同時に代々木公園管理拠点を出撃。敵性目標の偵察・撃破に向かい…」


 廊下から慌ただしい足音が響き渡ってくる。


「東京上空の巨大敵性体が一体、消滅しました!」

 防衛省のスタッフが喜色を露わにしながら会議室に駆け込んで来た。

「…さすがね」

 岩田は苦渋にも似た笑顔で頷いた。

 不動も忸怩たる思いを滲ませながら頷いた。





「…現在、突如東京都上空に出現した謎の巨大飛行物体を追っています。…この巨大飛行物体は本日0時28分頃、渋谷、新宿…」


 …局のヘリから東京都内のお花見模様…を中継する予定だった川木有栖アナウンサーは、微かに緊張した声で眼下の渋谷を見下ろした。 …往年の怪獣映画のような…50メートルにもなる巨大な黒い竜が、ビルを薙ぎ払っている。…崩された階とその上階に居たであろう人々の最期を思い、軽い吐き気が込み上げてきた。


 …だが、被害はそんな単純なものでは済まなかった。竜に圧し掛かられたビル群はその下層や地上の人々も巻き込み、破壊されたビルの上部が首都の道路に降り注ぎ、数えきれないほどの人々を押しつぶした筈だ。


 リポートも忘れ、その光景に慄然として…機内の誰もが言葉を失っていた。

 …局のベテランカメラマンが、狙った訳では無いが完全にカメラの存在を忘れて立ち尽くしている川木に退けとも言えず、川木の豊かな胸越しにその惨劇を収めていた。 


 …その時、一つ向こう…新宿で暴れていた黒い竜が忽然と姿を消した。


「えっ…今…」

 川木が呟く。


 眼下で破壊活動に勤しんでいた黒竜も、同類が消えた方角を振り向き、中継班同様に固まった。…しかし、行動は彼らより遥かに速かった。 巨大な翼を広げると、鳥類がより上位の猛禽から逃れるように空に踊り出し…


 自分達の方に向かって来た。


「ああっ、クソッ、ダメだァ!」

 パイロットが悲鳴を上げた。


 …竜は直撃しなかった。…だが、その風圧かそれとも羽が掠めたのか、大きな衝撃と共に機体のコンソールに素人から見ても警告と分かる表示が点滅し、警告音が響いた。


 制御不能になったらしく、ヘリは緩やかに旋回を繰り返しながら徐々に角度を鋭利にして地上へと向かっていく。


「何かに掴まれ!」


 それで一パーセントでも生存率が高まるのだろうか? 怒号と悲鳴が飛び交う機内で川木は座席に縋りつき、自分の運命を諦観しながら回りゆく東京の街並みを見た。





 バン、と何かが機体にぶつかった。



 途端に機体の機首が緩やかに持ち直し、パイロットは歓喜のあまり絶叫した。

 …眼を開けると、機内にはまた別の異常が起きていた。

 機内には血管のような赤黒い筋が幾筋も走っていた。

 明らかに禍々しいその光景に反し、墜落まっしぐらだった機体は先ほどまでの絶望が嘘だったかのように平和を取り戻していた。

 

 恐る恐る覗き込むと、コンソールは未だ夥しい警告を示していたが、機体は平常通りに飛んでいた。


 バンバン、とヘリの窓が叩かれた。


「ヒッ…!」


 見ると…20代の逞しい青年が機体に取りついていた。 

 穏やかな表情だが… …あらゆる経験をしてきた男特有の、どこか鋭く、危険な雰囲気もある。

(…結構タイプかも…)

 そんな呑気な事を思っていると、青年はヘリポートマークの描かれたビルの屋上を示した。

 パイロットにその旨を伝えると、すぐに手近なビルのヘリポートに着陸した。


 ヘリのスキッドがビルの屋上に設置するか否かという所で青年はヘリから飛び降り、それと同時にヘリは乱暴に着地…というより制御が効かず、墜落した。衝撃に揺らされながらもいつの間にかビルの縁に立って…巨大特撮ヒーローよろしく東京の空へと駆ける人影があった。


「…スーパーマンかよ…?」

 お釈迦になったヘリの状態を把握しながら、放心状態のパイロットが呆れて呟いた。


 



 …とんだ寄り道だったが、後悔は無かった。


 上空を飛翔する四体のドラゴンに気を取られるのもあり、首都道を残像を引きながら超高速移動する物体の存在を捉えられる者は皆無だった。


 …あれだけの寄り道をして、早くも二体目に追いついた。


 …それにしても何という力か。 …レイスから吸収した経験値なのか、それとも奴の力なのか… レイス戦後、自身のステータスは既に自身ですら測定不能領域に入りつつあった。


 強化どころか独尊すら無しでこれか… …測定できるのは5000に達したMPだけとなっていた。


 黒竜を追い抜きつつ、高々とジャンプした。…これも素で200メートルは跳べる。ストームランスを使うまでも無かった。むしろ、地上を高速で走って必要に応じて跳び上がった方が早かった。


「…逃げるくらいなら最初からこんな事するんじゃねー!」


 黒竜の背に飛び乗り、その背中に拳を突き込んだ。


 剥奪。


 存在を否定された黒竜の巨体があまりに呆気なく消滅する。


 あと三体…ビルの屋上に着地すると、世田谷方面の黒竜が自分に気付いて逃げる所だった。

「させるかッ」


 強化ジャンプで即座に回り込み、その頭部に飛び乗った。 これも剥奪。


 …例の弓で撃ち落とせるなら早々とそうしたいが、こんな巨体の破片が落ちればそれだけで被害が出る。


 空中を自由落下しながら残り二体の位置を確認…結果的に引き離される形にはなったが、すぐに追いついてやる。…幸いなことに、自衛隊と警察、消防、ギルド戦士がそれぞれ避難誘導や陽動を行ってくれているらしく、また黒竜が自分の存在を嫌って破壊活動を中断している。 …被害は一旦食い止められそうだ。


 再び首都道に着地すると、車の間を高速で駆け抜けながら残り二体となった黒竜に迫った。




 五分もかからず、最後の黒竜を捉えて消滅させていた。


 空中から落下し、破壊された東京の街並みを眺めた。 …高揚感はさほどでもなかった。


 …どうだ、愉しいだろう?


 …今にもそう、奴の囁き声が聞こえてきそうだったから。



 …ただ一つ、計算外だった事。

 



 …食堂で仲間達と夕食を摂りながら、ニュース番組で自分の素性が大々的に全国放送されてしまい…黒島達に冷やかされ、大淵は頭を抱えた。

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