表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/173

桜花を愛でて

 

「こんなものか…」

 スタンピード時の緊張と殺気が蔓延していた公園とは全く別物の、本来の姿に戻りつつある公園を眺め、大淵は一息ついた。

 …最早この程度の作業では汗も流れない。


 元々、ここに駐屯していたのは自衛隊と警察、そして各ギルドから派遣されてきたギルド戦士達である。…それぞれがモラルを守っており、意図的に捨てたであろうゴミなどは皆無だった。清掃と言っても景観美化・修復の補助作業がメインだった。


 ゲート周辺では建設業者による大型重機や物資材搬出入用の道路が整備されつつあった。…彼の世界との、車両が行き来できる唯一の国交ルートである以上、代々木公園南側は公園としての機能を事実上放棄し、今後は造船や大型航空機を向こう側で組み立てる為の準備が着々と進んでいた。

 勿論、全て北大陸の王である魔王…マオの全面的な許可を得た上での事だ。


「公園が無くなっちまうのはまぁ、色々賛否両論だったが、こうなった以上は仕方ねーわな」

 

 振り向くと、黒島が立っていた。


「…まだ大勢の人間が暮らしている南大陸の情勢はどうなるか分からんが、取り合えず北大陸は平和そのものだ。魔物は資源や領土を奪い合う事もないし、マオは平和主義だしな」


「呼んだか?」

 マオが寄ってきた。

「呼んでないが、ご苦労さん」


 作業中、マオは香山や星村と手分けして作業する業者や警官、自衛隊員、ゲート警備に立つギルド戦士らに缶のコーヒーやら茶を配ってくれていた。



「帰国した英雄がいきなり懲罰とは災難だったな」 

 

 藤崎と川村もやって来た。


「どこに英雄がいるよ? …俺は自分の都合で好き勝手やっていただけさ」


 懲罰処分については軽さもあるが、全く不満に思ってはいなかった。…実際、どんな理由があれ命令違反を起こしておめおめと戻ってきた者になんらの咎めが無いのは秩序を守る上で最悪だ。…ケジメはつけなければならない。


 だが、大淵は大淵で私利私欲ではなく、現地で日本と交流を持ってくれた国や知己の人々を助けるための行動であった。…実際問題、公として早々に現地駐在スタッフを引き上げた日本政府は、その命令違反者である大淵の行動によってアルダガルドから薄情者の烙印を押されるどころか感謝される棚ぼたに預かった訳である。 …本気で大淵を罰したい者が居るはずも無かった。


 …損な役回りが多いと言えばそうだが、結果的に自分の目的を達成できた大淵は恨み言一つ言わず、むしろ懲罰と言うには軽いこの処分に感謝すらしていた。


「あ、あのっ、自衛隊と警察の人から相談されたんですけど、もうすぐお昼ですし、皆でそれぞれ昼休憩という体でお花見にしないかと」

 桜が駆け寄ってきた。


「それは良い案だが、売店にそこまで弁当が置いてあるかな…」


「それなら大丈夫デス、尾倉と斎城、星村が既に炊き出しに入ってくれてマスノデ」


 アリッサがいつの間にか背後に立っていた。

「…隅田川落としなんて冗談だよな?」 


「この大天使アリッサちゃんがそんなヒドいコトする訳ないじゃ無いデスかぁ~!?」

 …大天使の割には物凄い腹黒い笑みを浮かべているが…もっと別のベクトルでロクでも無い事を考えているな…


「な~大輔、腹減った!」

「ふん。どこまでも食い意地の張った竜だ」

「ま、マオ様…」

 

「あ~、もう少しだけ我慢しろ。分かった。皆で花見と洒落こもう。」



 …一時間半後、大淵小隊で焚き出した豚汁がサービスとして各部隊に振舞われた。小隊員にはこの他に名店の仕出し弁当かと思う程の料理が振舞われた。

 隊員たちが思い思いに談笑し合いながら料理と…巧みに清涼飲料に偽装したアルコールを傾ける。

 最早世間の注目の的となった自分達だ。どこにそれを利用しようと企む者が目を光らせているか分からない。


 …もっとも、自分を見ている相手に限っては、その手の手合いの気配も察する事が出来るようになりつつあった。…今のところは居ないようだが。

 

「お疲れさまでした」


 桜が水のペットボトルに偽装した日本酒を注いでくれていた。

「ああ、ありがとう。…あー、痣は残って無いか?もう大丈夫か?」


 桜は苦笑しながら手を振った。

「あんなもの、もう残ってませんよ。全然痛くなかったし」


 健気な…胸に来るものがあったが、ビールを一気に呷って誤魔化した。


「あ~あ、私は残っちゃった。まだ痛いし。…責任取ってもらおっと♪」

 斎城が悪戯っぽく割り込んで来た。

「…絶対嘘だ…」

「んん? …何か言った?大輔君~?」

「…何でも」


 穏やかな日差し。少し肌寒い風が白と淡いピンクの美しい花弁を運んできた。紙コップに注がれた酒の上に花弁が舞い落ちた。

「粋なものだ」


「ソメイヨシノも綺麗ですけど、山桜もすっごく綺麗なんですよ?山奥の方は標高が高くて寒いから、これから4月の終わりにようやく咲いてくるんです。…また泊まりに来てもらえればお見せできるんですけど…」

 後半は辛うじて大淵に聞き取れるほど声を潜めていた。

「ん~?香山さん、何を内緒話してるのかな?」

「い、いえ何もッ!」



 こんな時間が続けばいいのに…いや、続いていくのだ。 彼の世界で自分ができることは殆ど終えたはずだ。…これからこの世界と向こうの世界がどのように交わっていくか分からないが、当面、自分の力は必要ないだろう。

 …その時に自分がいるかどうか…まだ役に立てる身でいるかは分からないが、それまでは…彼らとこうして穏やかな日々を過ごして行きたい。

 そしていつかは…





 天地を揺るがすような轟音。


 東京上空に巨大な漆黒の幾何学模様が五つ、春の空を穢した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ