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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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105/173

異形の小夜曲


 …ハサム邸の食事にカリューをそのまま出したのは自分の落ち度だった。

 …箸すら使った事が無いカリューは、食事をそのまま手掴みで食べてしまう。…クリフェとの稽古に本気になり過ぎて、いざカリューが席に着くまでそんな事も忘れていた。

 

 …それでも、フォークを教えると、なんとか使ってその場を凌いでくれた。

 …竜人であるカリューは魔族と違い、大量のエネルギーを必要とする。食事をおかわりしても足りず、今は客室のデスクの上で大淵が与えた大容量レーション・「煮込みハンバーグ定食」を貪っている。

 

 …コイツの食事についてはしっかり考えないとマズい。自分の分などどうでもいいが、飢えさせる訳にも行かない。…こんなデカブツ女と言えど、ひもじい思いをする女を見る方が辛い。 


「…落ち着いて食え…頼むから零すなよ?」


 …まぁ、一杯食う女は見ていて気持ち良いが…

 …そうだ、いざとなったら最終手段として…転移の魔法石で拠点に戻って、倉庫からレーションを大量に持ってこよう。…幸いにもカリューは味や食事のレパートリーに関しては全く文句が無いらしいので、とにかく質より量だから助かる。


 …ただ、次に拠点に戻る時は自分は命令違反したとして、何らかの容疑を掛けられた容疑者になっている可能性が高い。…戻れるのは良くて一回だけだろうし、仲間達に暴行して逃げたという体なので、やはり…本当に最終手段だ。


「ああ、ごっそーさん!…できればもうちーっと何か喰いてーんだがな。…そういやさっきの家、馬と犬飼ってたな」


「…絶対やめろ。…あー、血で良ければ少しくらいなら」


「い、いいのか!?悪りぃなぁ!」


 …遠慮なしか…まぁ、良いが…

 

「ッ…」

 首元に吸い付かれる。…HP100分なら与えてもすぐに回復できる。…もっとも、これも時間を開けずに再度ダメージを喰らうと徐々にその自動回復速度は鈍化するのだが。 

 …手から静々と啜っていたアラクネと違い、コイツは世にも幸せそうにグビグビと飲んでいく。

 …五秒も経たず、限界量に達した。


「…よし、その辺で勘弁してもらおう」

「ちぇー、もうちっと味わって飲めば良かったぜ」 


「…気になったんだが、俺の血はそんなに美味いのか?」

「そりゃもう!本当は喰っちまいたいくらい!そうだな、さっきの夕飯にあったあの柔らかい赤身肉みてーな感じだな!」


 ステーキ… そりゃ、食いたくもなるか…


「…なるほど、わかった。 さて、明日は朝から向こう岸に渡って連中の狙いを探りに行くからな。…それとこれ、無線機だ。明日使うからな」


「ん、わかった」


 カリューの部屋を出て、首筋に消毒液を当てた。…戦闘服を着直せば傷口も隠せる。 


 寝室に向かおうとした所…妙な気配を感じた。


 …硬質の昆虫が肌をはい回るような不快感…


「…なんだ…?」

 ハサムはリビングの暖炉前でカナに膝枕しながらクリフェに字の勉強を教えている。…違和感は感じていないようだ。


「…ハサム殿、少し外で夜風に当たって来ていいだろうか?」

「ああ、どうぞ。出入りの際は守衛に声を掛けてくれれば。城下は戦時警戒中だが、ダイス殿ならすぐに皆も分かるだろう。…名前を言えば新兵でも知っている筈だ」

「ありがとう」


 大淵は確証を得るべく、門番に断わって外へ出た。


「…余計なお世話だろうが、今夜は特に警戒していてくれないか?」

「ハッ!」


 …どこから漂ってくるんだ、この気配は…


 王城周りを流れる堀に近づくと、大淵は吐き気を覚えた。…何という臭いだ!魚が腐った、なんてものではない…悪意ある汚臭…農業廃水や工業廃水などでは無い。…それに、橋の欄干で肩を抱き合って甘い一時を過ごす恋人までいる。…まさか燃え盛る愛の余り五感が溶け落ちた訳ではあるまい。


 …自分だけが感じる…まるで同類の匂いを嗅ぎ分けているようで癪だったが。


 …水辺から離れる程臭いは薄れる。…水はどこから流れてくる?…南、ロナレ側に決まっている。


 …何が起きているかは知れないが、ただ事ではない。


 大淵は空間からバイクを取り出し、紫電を左腰のハードポイントに装着し、騎兵銃を背負って急発進した。

 夜の町を行く通行人に驚かれながら、卓越した運転で避けつつ水路沿いを行く。


 …城壁に近づくに連れ、悪臭は血臭に変わっていく。


「クソッ…! 一体何なんだ!?」


 敵意は相変わらず薄い。


 …今回の敵は目的の不明さも相まって不気味だ。


 …前方に黒い塊が蠢いている。…倒れた兵から体を起こし、こちらを振り向いた。


「おーい」


 歪な男の顔が満面の笑顔で手招きした。


「はーい、っと」


 左手で構えた騎兵銃を一発放った。

 タン、という乾いた音と共に笑顔の眉間に穴が開き、その穴からドクドクとどす黒い血が噴き出した。

「おーい」


 笑顔は表情一つ変えずにこちらへ近づき…全身を形作っていた触手が解かれ、無数の槍となって大淵に襲い掛かった。

 即座にバイクを収納し、身を夜闇に躍らせた。


(…厄介だな。連携してやがる。…気色悪りぃデスマスク共め…)

 着地点で大口を開けるように触手を解いて槍に変える異形。…真っ黒で、触手がドレスのようにもなるタコ…そのタコの頭部に目ではなく、死人の笑顔がついている…そんな姿だった。


「…ロクでもねー!」

 着地前に放たれた槍をフルオートで全て撃ち払う。

  

 横からの敵意。すい、と体を一歩引くと、自分の体の合った部分に縦一列の触手が突き出されていた。

 間合いを詰めつつ空間から取り出した紫電で斬り捨てると、本体ごと痺れ踊った。


 反対から襲い来るデスマスクタコ…タコマスクと名付けた…タコマスクの触手を切り払い、再び移動した。

 空間から取り出した熾煉を左手に。


 長刀と長剣で二刀状態になり、周囲から突き出される触手を舞うように斬り捌いていった。


 …薄い敵意の元を目で追うと、南の城壁上、そして砲弾によって穿たれた上部の穴から異形の者達が「おーい」と口々に声を出しながら市街に向けて行こうとしていた。…どれだけの数が既に市街に雪崩れ込んだか分からず、またどれだけの敵が押し寄せているのかも全く分からない。

 …少なくとも南側の城壁を守っていた兵達は味方に伝達する事も許されずに全滅させられたようだ。


 大淵は収納から…いつぞやの小隊BBQ大会で余ったまま放り込んでいた打ち上げ花火を取り出し、導火線に熾煉の切っ先を突き付けた。即座に導火線が火花を噴き出す。


 

 轟音と共に夜空に小さな花火が上がった。…気が利いたことに、撃ちあがり後に稲光のようなささやかなスターマインが走るタイプだ。…誰かしらはこの花火を目にしたはずだが…


 …いつの間にか取り囲まれているが、問題は無かった。…()()()

 両手に持った刀剣を乱舞させ、邪な異形を斬り捨てて踊り狂った。



 

「…今のは何だ!?敵の攻撃じゃ無いのか?」

「…南城壁の警備は何をしているんだ?明かりが見えない…」


 城内のそこかしこで騒ぎが大きくなりはじめていた。

 

「くっ……俺がもう一人居たらな…!」


 …三十体は斬り捨てたが、この異形の勢いが衰える気配はまだ見当たらなかった。


 …どこかの民家から悲鳴が聞こえた。


「…クソッ…!」

 敵を処理する速度を上げ、更に敵を殺しながら城壁の穴へと近づいた。

 …燭台の火の下に揺らめく自分の影を見下ろした。

 …なぜ、そんな事をしようと思ったのかは分からないが、その影に手を振れた。

 

 特殊強化・アレンジ…ドッペルゲンガー


 …赤黒い自身の影が、鏡合わせに武器を持ったシルエットで立ち上がった。


「…行け」


 …顔は無いが、影が微かに頷いた気がした。影は迫ってきたタコマスクを切り捨て、穴へと向かった。

 大淵はアルダガルド兵の小隊が駆けつけてくるのを横目で確認した。


「あの赤黒い奴は味方だ。周辺の民家を見回ってくれ!もっと増援を要請しろ!」


 壁上で赤黒い影が鬼神の如く暴れ回り、異形の侵入を取り合えず食い止めていた。


(…このまま終わってくれれば良いが…そうはいかねぇか…)

 

 大淵はそこかしこから悲鳴が聞こえてくるアルダガルドの市街を見て暗鬱とかぶりを振った。そして、自ら異形の気配と敵意を探って走り出した。

  

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