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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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101/173

帰るまでが遠足ですよ? ダイス様♪


「ダイス、このダンゴというもの、美味いぞ。見た目の純朴な美しさも良い。私は気に入った」

 秋の乾いた晴れ空と同様、すっかりご機嫌になったマオが茶屋の軒先で長椅子に腰かけて三色団子を頬張っていた。…帰国した星村を除く小隊員18名が、道中にあった小さな宿と兼業する茶屋で休憩していた。

 

「大挙してすみませんね、おかみさん」

 茶を運んできてくれた50代ほどの女将に断って盆を受け取り、全員に盆に乗った湯呑を回していく。

「いいえ、お陰様で商売繁盛ですよ。…異国の方ですか?」


「ええ、東の大陸から。…ちょっとした用事でしたが、無事に終わりましたので、これからまた大陸に帰る所です」

 …自分の三串あった団子のうち、二串をそれぞれカリューとマオにやりながら茶を啜った。

「食い意地の張った奴だ」「へへへ、お前と違ってデカいんでなぁ」


 背後で繰り広げられるしょうもない言い合いを無視し、大淵は女将に答えた。


「…もしや、牛鬼を討伐し、炎竜を退治してアソを鎮めたという方では…?」

「…さぁ、私はとびっきり腕の立つ薩摩隼人がやったという噂を聞きましたが?」

 はぐらかしながら秋の心地よい青空を見上げた。


 …昨晩、幸運にもささやかな温泉宿を見つけて旅の疲れと垢を落とし……ひょんなトラブルから危うく覗き魔の烙印を押されかけたが、無事誤解を解き、今は順調に帰国の途についていた。…スルガ湾で待たせているキングオブノーチラスとフラワーの面々も首を長くして待っている事だろう。


「あーあ、もうじき冒険も終わりか…」

 リノーシュだけが浮かない顔を見せながら団子を口に運んでいる。

「いろんなものを見たり食べたり…こんな楽しい事、他に無いんだけれどな」


「…そう言うな、お前は大勢の人に必要とされているんだから」


「…そうだよね。…つい我儘をして飛び出してきてしまったが、ブレメルーダも平和なまま何も起きていなければいいが…」


「…大丈夫さ。何て言ったって俺達と一緒に旅をして鍛えられたパープルハートが居るしな。 …次は、日本に来る時に浅草でも案内してやるよ。俺達の時代ならその髪色もファッションって事でそう珍しくないしな」


「そうだった、そう遠くない内、大輔たちの日本にも行けるんだね!」

「そう言う事だ。その為にも帰らにゃな」


 今は10時…ちょうど、昼頃に海峡に着ける。

 

 


 舟渡場がある港町に辿り着いたが、人間への変化ができず、絶妙に人間というにはあまりに悪目立ちするカリューには一旦収納に入ってもらう事にした。…帰国の途で揉め事は御免だ。


 何事もなく審査を通過するが…前よりも時間が掛かった気がした。…一人一人、じっくり見ている。

「…全員、行ってよし」

 審査の役人に通されて安堵した。…気のせい…自意識過剰だったか? 微かな緊張こそあれ、少なくとも敵意は感じなかった。


「…少し遅くなるが、本土…花の国に到着したら適当な場所で昼にしよう」


 全員にそう伝え、大淵は中型船から海を眺めた。


 …船が港を離れた。何気なく振り向くと、船着き場の関所から何か煙…狼煙を焚いていた。


「…」

 気のせいでは無かったか…?

 しかし、花・火、どちらの国においても特に何か罪に問われるような事は… …強いて言うなら、雷獣を殺した訳では無いのに討伐完了としてしまった事は心残りと言えば心残りだが、こんな立派な紫電を分離した以上、雷獣ももう雷で悪さはできまい。 …カリューの尾の切れ端である熾煉は分離しても特に影響は無いという。人型時に剣が使えなくなるが、それはツヴァイハンダーを与える事で解消している。


 船内の一般旅客の中でも悪目立ちをしつつ、一行はナガト側へと渡っていく。…やはり、ナガト側にも狼煙が上がり、少なからぬ人影が見えた。…ナガトの関所を守る兵と、応援に寄越された者達だろう。

 

 …いざとなれば収納に7.62㎜機関銃がある。強化せずとも、今の自分が使えば並の人間なら文字通り掠めただけで即死するだけの威力になる。

 

 …矢玉が飛んでくることも無く、一行はナガトの港に辿り着き、船から降りた。待ち受けていた兵は中隊規模だったが、整列したまま動かない。…代わりに、審査所で初日に自分達へ忠告してくれたあの役人が居た。

「…無事に戻られたな。…火の国では相当な活躍をされたようだ」

「はて、何のことやら…」

「惚けても無駄だ。…花の国随一の死ノ火を間蝶に付けたのでな。 …道中での鬼退治と火の国の兵救援、そしてアカネ里での牛鬼討伐、更にはアソの炎竜退治…挙句、炎竜を家来にしてしまうとはな」


 …なるほど、暗殺者の類か。…カリューの事まで既に察知済みとは。しかも、移動時には車両を使っていた自分達を隠密に追跡できる能力まで持ち合わせている。 確かに、暗殺者の職業スキルを持つ者が一切の攻撃を端から封じ、監視に徹するなら、いくら自分でも決して見抜くことはできないだろう。 敵意が無い限りは決して察知できない。


 …となればもはや隠していても仕方あるまい。

 カリューを収納から出してやった。


 二メートル越えの威容が突如として現れ、関所の兵達も動揺を隠せずに狼狽えた。


「…それで、自分達にどのようなご用件だろうか?」


 …改心し、一度仲間になった以上、どのような理由があろうとカリューは渡せない。


 しかし関所の役人は顔色も変えず、大淵を見て言った。

「…帝がお会いしたいと」 


「…帝…って…」


「是非を問う気はない。…キョウまで同行願おう」


「…どうせ帰り道だし、態々事を荒立てる気はないよ。…行こう。ただし、条件がある」

「何か?」

「そちらの馬に合わせると何日もかかってしまうだろう。俺達の車にそちらの案内人と代表者、そして乗れるだけの護衛だけ乗ってもらおう。そうすれば遅くとも明日の昼までには着けるだろう」

「…承知した」

 予備の三号車を出し、藤崎と尾倉に運転してもらう事にした。…急遽、一号車の運転を斎城に、二号車が黒島と言うシフトになった。




 大淵は収納していた車両類を取り出し、全員に乗車を命じた。




「…こんな形で京見物する事になるとはな…俺達の頃とは全く風情が違うな」


『だな。お前さんの頃は分からんが、俺達の修学旅行の時はもう色んな国籍で溢れ返った、国籍のサラダボウル状態だったぜ』

 黒島が陽気に応じた。


「…今の様子は全く分からんが、多分、俺達の時よりカオスな事になってるんだろうな」 


『そりゃもう。寺社仏閣や史跡を見ないと、どこの国だか分からないくらいになってますよ。良い事と言えば良い事なのかもしれませんけど…』

 浮田も割り込んで来た。

『…なんなら、帰ってから大淵小隊で懐かしの京都修学旅行でもする?…なんてね』

「はは、俺は懐かしいが、お前さん達は皆数年前に体験したばかりで懐かしくもないだろう?…まぁ、その頃の俺の修学旅行と言えば悲惨だったが…」


 …何せ、携帯も無い時代で、今とはまた別のニュアンスで治安が悪かった時代だ。…今の若い隊員達からはとても想像もできないだろうが、新幹線や電車の中でタバコOKが当たり前の時代だったし、旅行生相手に平気でカツアゲしてくる奴も居たし、そういう手合いとこちらの学校の不良が乱闘騒ぎを起こした光景をよく覚えている。…その不良も、狭義心で立ち向かうタイプという訳でも無く、見ただのそっちが見ただの、単なるチンピラ同士のつまらない理由からの喧嘩だった。

 …勝手に戦ってろ、というのが正直な感想だった。


 …クソマジメに下手なレポートを作る中で、寺社仏閣の静謐な雰囲気と清涼な空気から漂う、連綿とした時代の匂いに触れられたのは良い機会だったとは思うが。


(…それでもこれほどの雰囲気は味わえなかったがな…)


 …古典文学の字面から伝わってくる、あの光景そのものだ。…夕方になったら羅生門の一場面など容易に想像できるだろう。

 …そんな雰囲気抜群の光景を、現代の車両群が一列になって碁盤の目のような通りを徐行速度で通行していく。京の住民もその珍妙な一行を唖然として見送る。…小さな子供たちがノロノロと20キロも出ていない車両の後を好奇心の余りついてくる。…最後尾は斎城だ。十分注意してくれているだろう。


 警備の兵達が一瞬身構えるが、三号車から降りた代表者たちの顔を見るとすぐに道を開けた。 そのまま警備の兵達の案内に従い、御所の前で車両を降りた。


「…それでは大淵殿、こちらへ。皆さんにはここでお待ち頂く」

「…予め白状しておくが、俺は不躾でな。…最大限の敬意をもって御目にかかるつもりだが、礼儀作法に関しては多分に目を瞑って頂きたい」

「…そもそも並ならぬ勇士と言え、拝謁自体が極めて異例な事だ。…帝の御意向という事で、その敬意さえ持ってもらえればこちらも言う事は無い」



 暫く姿勢を伏せて待つようにと、柱の高い御殿に通された。 控える自分の前の空間には御簾が垂らされ、仕切られていた。


 言われた通り待つ間、陽気に誘われたか秋の蚊が上がり込み、身動きできないのを良い事に床を睨みながら待つ大淵の手に止まった。

 …この時代の蚊と言えば相当な病気の媒介者と言うイメージがあるが… …自分のステータスなら問題無いとは思うが、万一天然痘など持っていて、それを移されたら堪ったものではない。思わず反対の手で蚊を叩いてしまった。


 パァン、と見事なまでに乾いた音が、物音一つなかった静寂の御殿に響き渡った。

(あ、やべ…)


 …謎のクラック音という事で誤魔化そう…


 …折悪しく、すぐに何者かの気配が御簾の向こうに感じられた。 …帝だろう。ダメだ、完全に聞かれたな…


 座る際の衣擦れの音。…それにしても随分と静かに歩くものだ。敵意が無いとはいえ、接近されるまでこうして気付けなかった。 …もしや武芸の鍛錬もしているのか?


「…どうぞ、顔を上げなさい」

 静かな、女性の声。 女帝というやつか。 …声を聞く限りはまだ二十代の若々しい声に感じられた。


 …相手の静やかな声音のせいか、それともこの静謐な空間のせいか、或いは最高権威と言う存在への気後れか…その全てか…  牛鬼や火龍という強敵達を前にしてもさして感じなかった緊張感が、今になって手足を強張らせた。


 …或いは別世界線に来ても通じる程の、DNAに刻み込まれた上位者に対する本能か…


 覚悟を決めて顔を上げるが、顔が見える訳でも無い。黒々とした御簾の向こうに朧げに小さな人影が見えるだけだ。


「…名は何といいますか」


「…は、はい…大淵大輔と申しまする…」

 …どもった上に、何が申しまする、だ…


「大淵大輔。 先程の音は?」


「…クラック音かと」

 クラック音はねーだろ、クラック音は…


「苦楽音?」


「…申し訳ありません、蚊が居たものでつい」


「そうですか。 …大淵大輔。 富士の麓に棲む雷獣退治、火の国での牛鬼討伐、そしてアソの炎竜平定…大儀でした」


「はっ…」

 

「いずれもそう成し得る事ではありません。民の平安の為奮戦したその武勇を称え、褒美を授けます」

 

 浄衣を纏った男達が大きな桐箱を恭しく持ち、大淵の前に運んできた。そして桐箱の蓋を開けた。


「…かつての帝が月の使者の天船に向けて一矢報いた強弓です。貴方なら扱えるでしょう」


 …臆病熊の弓に似た気配を感じた。…いや、神造武具では無いが…これも人ならざる者が作った武器という事か。


「…旅の帰途でしたね。 帰途の平穏を祈っております」


 弓を運んできた男達が平伏したので、それに倣って自分も平伏した。


 数十秒して顔を上げると、やはり気配もなくその姿…人影は消えていた。


 …ふむ、見てみたいという好奇心と見ない方が良いという畏怖の心が鬩ぎ合うな…


 弓を桐箱ごと空間へと仕舞い、庭先に現れた案内人に従って皆の元に戻った。




『…で、結局どうだったんだよ、帝さんは?』


「なんというか、独特のオーラがあった、としか言えん。…顔すら見えなかったしな。まぁとにかく、これでこの国ともお別れだ。…色々と成果もあったし、他ギルドが俺達とは違うルートで集めたであろう情報も交換したい事だし、懐かしのブレメルーダに戻ってから久々に日本に戻るのもいいな」


『あぁ、久しぶりにジャンクフードを山のように食い漁って不健康してぇ』

『…俺の作る飯が不満か』

 …まさかの尾倉が乱入してきた。

『いやいやいや!そうじゃなくてだな…』

『…冗談だ』

 

 …相変わらず、笑い所が難しいジョークを繰り出す尾倉に、全員が苦笑いを浮かべた。 …尾倉も最近、良く会話に入ってくるようになった。


 …こうして、大淵一行の花の国における活動は終了した。

 

 …しかし、その大淵らの活躍の裏で… この世界と現実世界、そのどちらにおいても…少しずつ事態が動き始めている事を、大淵達は知る由も無かった。


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