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転生先はパラレルワールドだった  作者: こぶたファクトリー
開幕

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生還


 情けない悲鳴を上げながら振り返ると、二メートル超の巨大な長身が立っていた。…腹に開いた穴からFスラッグの破片…フラグメントが吐き出されると、傷口が驚異的な速度で修復されていき、六つに深々と割れた腹筋が現れた。


「て、てめーは不死身かよ…!?」

 自分を棚に上げながら剣を向けた。


 …また組み敷かれては今度こそどうにもならない。しかし後退る大淵に襲い掛かるでもなく、火龍は手をクイクイ、と手招きした。…広い地域で通用する「来い・寄越せ」のジェスチャーだ。


「俺の熾煉(しれん)を取るなら、代わりにお前の剣を寄越せ。それが世の道理ってもんだろ?」


「あ?…ああ、そうか…?」

 

 …半ば言いくるめられながらも、確かにこうして本人が生きているなら形見として一方的に持っていく訳にも行かない。…対価が必要なのは確かだろう。


「…使えるか?」


 長らく世話になったツヴァイハンダーを手渡してみた。 火龍は嬉しげに手に取った。…ブレメルーダの海兵隊長の話では自分以外の物が持つと重すぎて扱いきれないという話だったが…人外には適用外の話だったらしい。


「おお!デカい俺にデカい剣か!こいつは気が利いているなぁ!」


「…ところでお前、どうして生きてるんだ?本当に不死身なのか?」


「ん? …そういやどうしてだろうなぁ? …もしかして旦那様の血を飲んだからか? んー、わからん!なにせ、殺されたのなんて初めてだからなぁ」

「…」


 …本当に不死身なのか…いや、あの銀ピカの俺に施した不死の魔術…それが血を介して機能したか?…何はともあれ、殺さずに済んだのなら良い。


「…そうか。まぁせっかく助かった命だ。大事に使えよ。…それと、一応俺が勝ったんだから二度と人を襲うなよ?」


「んー?そんな約束したっけかなぁ? …まぁいいさ、旦那様が言うならこれからは猪や鹿、熊でも喰おう。人間は美味いが食う場所が少なすぎてなぁ」


「…それでいい。達者でな」


 手を振り、踵を返して歩き出す。…足音がついてくる。


「…何か用か?」


「用なんて何も無いが?」

「…なら何でついてくる?」

「何でって…これから旦那様が俺を養うんだぞ?さっき言った猪や鹿、熊を取ってな」


 …まるで、悪意無く無賃乗車や無銭飲食をした非常識人か幼子を見る様な目で見下ろされ、大淵は尚更困惑した。


「な、何でそうなるんだ!?」

 そもそも、なぜ俺がコイツのダンナにならねばならんのだ…!?


「そりゃお前が俺の亭主だからだ」


 …勝手に夫にされている。 …だがこれは既視感がある。 …どこぞの生意気チビ魔王がもう一匹増えたような…図体がデカく、マオと違って遥かに凶暴な分、こちらの方が厄介だが…


「…無理だ、連れていけん。…ここで大人しくしていろ」

 猪や鹿、熊を狩りながらやって行く事などできる訳が無い。…諦めてもらうしかない。


「なにィ!?だったら人間を喰わないという約束も無しだ! 今宵から自棄食いしてやる!町や集落が一つ二つは今日で無くなるな!」


「な、何だと…!?」

「止めたきゃ今度こそ首を落として俺を斃すんだな! さぁ、やるかッ!?」


 …この状態でコイツともう一度やり合って倒す事など出来る訳が無い。…折れるしかない。


「…わかった、連れて行くから…人を喰うのだけは絶対にやめろ。俺の仲間達にもな。…違えたら刺し違えてでもお前を殺すからな」


「…へっへっへっ、いいだろう」


「…所で、元居た場所へ戻りたいんだが、どこへ行けばいい?」

「ん」


 …火龍はホールを出た先にある、煮えたぎるマグマの川を指さした。

「…ふざけてんのか…?」


「マグマでしか地上と繋がってねーよ。ガスの穴は幾らでもあるが小さくて面倒だしな。」


「じゃあ俺はどうやって出ればいいんだよ!?」


 …延々と壁や天井を殴って進めと言うのか!?


「あ」

 …今度は大きな口を開け、ギザ歯、長舌を見せながら喉の奥を指で示して見せた。

「…ふざけてんのか…?」


「しょうがねーだろ、それしかねーんだから。俺がまた龍に戻って旦那様を口に含んで、マグマを潜って地上で吐き出す。それか、チマチマ岩を殴って外に出るか。幾ら旦那様でも一年くらいかかるかもな。…まぁ、下手したら殴った岩から溶岩が噴き出してくるかも知れねーけど」


「…やるしかないか」


「へへへへへ」

 薄気味悪く笑うと、火龍は元の龍の姿に戻った。


「…ぞっとしないな」


「ん~、喰いてぇ…」


「…俺を喰ったらマグマみたいな下痢をしながら永遠にここで後悔することになるから、そのつもりでいろ」


 …ヌメりのある感触に眉を顰めつつ、火龍の口内に身を滑らせた。


「…なるべく早く戻してくれ」

「あいよーっ」





 黒島はアソの麓…噴石を避けられるポイントを尾倉が探し出して、そこに全員で避難しつつアソの山を見守っていた。…打ち合わせでは自分達はガン逃げする手筈だったが、あの独断無茶苦茶隊長の指示に自分達ばかり素直に従う必要はない。…それに、火山の中へ引きずり込まれて終わり、なんてアイツの終わり方じゃあるまい。


 …食料も燃料も十分にある。…二、三日くらい様子を見ても罰と噴石は当たるまい。


「…何か、今…」

 リノーシュが声を上げた。…直後、微振動を感じたかと思うと、大きな揺れへと変わった。

「か、火山活動か!?」

 藤崎が盾を傘にして星村達を庇いながら叫んだ。

「…大淵が連れて行かれた時の振動と似ている」

 尾倉はそう言うと、山頂付近を見上げた。

 激しい振動が尾を引きながらも収まり、代わりに一筋の赤い溶岩が吹き上がった。…否、溶岩はうねり、空を泳いでいた。…あの炎竜だ。


「くっそぉ、アイツか…!…敵討ちに行きたい奴は居るか?」

 …ほとんどの者が武器を検めながら立ち上がった。 …自分は真っ先に死ぬだろうし、他の連中もどれだけ死ぬか分からないが、一矢報いてやらないと気が済まなかった。…同じ想いか、斎城とアリッサも冷え冷えとした殺気を纏いながら武器を取りリノーシュも迷いながらも弓を取り、クロエらに追従を命じた。…マオだけは立たず、岩の上に胡坐をかいて相変わらず腕組みをして動かなかった。

「…まだ死んだとは限らん」


「俺だってそう信じたいがね…」

 黒島は星村の肩に手を置き、顔を覗き込んだ。

「…あかり、お前は拠点に戻るんだ」

「え、でも…」

「でもじゃない。…行くんだ。 浮田、射方、お前らもまだ若い。…星村を頼む」

「いや、あれ…」


 星村が指差す方を見ると、置き去りにしてきた大淵のバイク…それに向かって炎竜が降下してくる所だった。…化物があんなものをどうするつもりだ…?

 と、炎竜が何かを吐き出した。 …黒々とした物体は人影になり何やら炎竜に向かって喚きながらバイクに取りついた。…炎竜の姿が消え、代わりに大柄な人影が見えた。…二つの影は連れ立ってバイクに跨ると、バイクは重たげに山道を下り始めた。


「まさか…」


「どうやら、無事だったらしいな! …それも、何やらまたお客さんを連れてきたようだ」

 藤崎が苦笑した。

「…無線に全く応じん。熱で故障した可能性もある。…出迎えに行くべきだ」

「ああ、ソイツはまずい。こんな世界で無線も無しにすれ違ったら合流するのにひと苦労するからな。…このままだとあいつ、俺達が避難したと思ってアカネの里まで一直線して、どんどん戻っちまうだろうからな」

 

「なら、アリッサが行きマスよ。ユニコーンならひとっ飛びデス」


 アリッサがユニコーンを召喚して跨り、大淵らを追いかけた。




「…という訳で今日からウチの子になった火龍のカリューだ。皆、仲良くしてやってくれ」

「よろしくな! …ああ、取って食ったりしないから安心しろ」

 

「で、でけぇ~! …210はあるな…」

 黒島が圧倒されて下から見上げた。…その威容と、散々人に害を為した生物特有の危険なオーラを感じ取ったか、得意のギャグも出てこない。


 …その巨体が大淵の渡した、全長2メートルにもなるツヴァイハンダーを背負うのは、味方と思うとこの上ない頼もしさがある。 …あのツヴァイハンダーの自動追随する鞘はあくまで大淵のみの意志にしか従わない事が分かった。 しかしカリューはツヴァイハンダーをいたく気に入ってしまっている。また大淵もこの炎の剣…熾煉のバランスの良さが気に入ってしまい、交換したままにしていた。


「…けど、カリューさん、そのままじゃ目立っちゃいますよね?収納に入ってもらっていた方が良いのでは?」

 香山がおずおずと提案した。


「うむ、その通りだ桜よ。おいカリュー、大淵の収納に大人しく入っているが良い。…いや、そもそも我らと旅をしてもそう面白くは無いぞ。この見事な居城で大人しくしているが良い」

 マオが畳みかけるように言った。

 …先に話したように竜族との相性が悪いのか、この上なく不機嫌な顔を引きつらせながらカリューを睨み上げている。


「収納とはなんだ、旦…あー、大輔?」

 …皆の前で旦那様などと呼ばれたら堪らないので、バイクに乗る前に良く言い聞かせておいた。


「…まぁ一回入ってみてくれ」


 …五分後、やはり閉じ込められるのが嫌なのか、すぐにギブアップしてきた。…自分には経験が無いが、やはり時間の止まった空間で「モノ」となって漂うのは気分がいい物ではないようだ。


「…まぁ、一応服は着ているし、一号車に乗ってもらおうか。あー、それから星村、すまんがまた拠点へ戻ってコイツを頼めないか」


 大淵は機能不全に陥っているアーマーを指さした。


「…まぁ、火山の中に引きずり込まれればそうですよね。けど、本体耐久値は全くの無傷!ケーブルさえやられなければパーフェクトでしたね!もう少し油圧ケーブル強度を高めるかな…」


 星村から23式を渡され、大淵は三人娘を振り返った。


「…どうだ調子は? …ラナ、パルム?」


 …二人共、変わりない様に見えるが…


「あっ、ダイス先生…」

 二人が頬を染めて上目遣いに自分を見上げた。


 …あれ? …悪化してないか…?


「す、すごいです、炎竜まで倒して家来にしてしまうなんて!」

「いや、家来という訳じゃ…」


 大淵は困惑しながら…ふと、視界の端で…誰にも察知されずにブナの木の影からこちらを覗く銀ピカ頭の存在に気付いた。 …チョイチョイ、と手招きしている。


「あの、先生…」

「すまん、また後でな!」」





「いやぁ~お見事お見事!あのまま炎竜様にダイナミック婿入り溶岩婚をされてしまうかと…」


 その襟元を掴み、南国特有の植生が目立つ茂みで締め上げた。


「おい、どういう事だ!?戻ってね―じゃねーか!?…約束を違えるとは良い度胸だ…!」


「ぼ、暴力反対でございますッ!それに悪魔は約束を絶対守りますとも!前も言ったでしょう!?神や天使はルーズですけど、我々は契約は徹底してお守りしますから!」

 

 …確かにコイツが嘘を言った事は無い…と思う。


「あの直後、ダイス様のリクエストにお答えして、すぐにお二人のハートを元に戻しましたとも!…しかししかし、どうやら問題があるのはお二人の方ですね。これはもう私の仕掛け云々以前にダイス様にホの字という奴ですな。…よっ、色男! 炎竜様までお持ち帰りになられて、この女殺しッ!」


 締め上げられながらもどこからか日本一の扇子を開き、カラフルなハート形紙吹雪を大淵に浴びせた。


「お、おい、どうにかなんねーのかよッ!? 仲間連れて海まで越えてするオチかよ!?」


 おやおや、と嘆かわしげに銀ピカ頭は大仰に肩を竦めて見せた。


「あなたねぇ、ダイス様…マンガの惚れ薬じゃないんですよ? 素で恋心を抱いた相手をどうにかできる方法があるなら、私が教えて頂きたいですよ? …まー、恋心を砕くならまだ方法がありますけど、アレじゃないですか、映画やドラマでお馴染みの漢のセリフ…『…俺に惚れるんじゃねぇ、火傷するぜ』ってやつ。 まっ、そんな臭い台詞ではこの私のダイス様への真なる愛に気化燃料を注ぐような物ですがねぇッ!!」


 …ダメだ、コイツに頼んだ俺が馬鹿だった…


 銀ピカを解放し、大淵は頭を抱えた。


「まぁ、お二人と別れて暫く会わなければ元に戻りますよ、リラックスリラックス~♪ 一時的な乙女のロマンスです。 …今はダイス様ダイス様とチヤホヤされてますが、どーせみんな飽きて、今に一人、また一人とリタイアしていきますよ♪ それで今に新しい男を連れてきて笑顔で挨拶なんかされるんですよ、これがまた!」


 …それはそれで寂しいし、そりゃそうだろうが… …コイツに言われると無性に腹が立つ。


「…そして恋のふるいに掛けられ、残るのは良くて二粒…いや、一粒…そう、メインヒロインであるこの私がッ…!」


 強化した拳で顔面を殴り飛ばすと銀ピカ頭の幻影は消え、代わりに小さなぬいぐるみがその場に落ちた。 …忌々しい、あの野郎を模した…世にも悪趣味なストラップキーホルダー。

 

 即刻、熾煉で燃やしてやろうと切っ先を人形に近付けた所、一切れの紙が空から舞い落ちてきた。


「捨てると後悔するかも♡」


 …くそったれが…後悔ならテメーに付きまとわれた時点でしている。

 …このクソ野郎の歪なストーカー心こそどうにかしてほしいものだ…


 …忌々しくもそのキーホルダーを拾い上げ、取り合えず収納に放り込み、皆の元へ戻った。



「…待たせたな!皆よく頑張った。 …ご褒美に温泉でもあれば寄って、それから帰ろうぜ」




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