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月代魔道具店

カランコロン――。

入口の扉を開く軽快な音が、夕暮れの静けさを切り裂くように店内に響いた。

「いらっしゃいませー! あ、山田さん。今日はどうされましたか?」


小さな魔道具店の奥から顔を出すと、白髪をお団子にまとめたおばあさんが、ゆっくりと手押しカートを押して入ってきた。

山田さん――この店の先代から通ってくれている常連客だ。

「急に悪いねえ。翔吾君にかけてもらった魔法が切れちまったんだよ。」

そう言って、カートの中からほうき、ちりとり、それに使い込まれた雑巾を取り出した。どれも長年使い込まれた痕跡がありながら、手入れの行き届いた道具だった。


「ああ、もう三カ月ほど経ちますもんね」

僕は受け取った道具をカウンターの上に並べ、光の下で丁寧に状態を確認した。木の柄には小さな傷がいくつもあるが、破損はなく、魔法の再付与には支障なさそうだ。


「前回と同じく、“自動でごみや汚れを綺麗にする魔法”でよろしいですか?」

「それでお願いするよ。おかげで腰もずいぶん楽になってねぇ」

山田さんは皺の刻まれた頬をほころばせ、目を細めて笑った。


了承を得て、僕は魔法式の付与を開始する。

静かに目を閉じ、指先に魔力を込める。薄い青色の光が指先から流れ出し、道具の表面に淡く広がっていく。

“塵や汚れを払い、光を取り戻す”――そのイメージを丁寧に頭の中で描きながら、魔法式を構築していく。

カウンターの上の空気がかすかに震え、ほうきとちりとり、雑巾が一瞬だけ柔らかい光に包まれた。

それが収まる頃、魔法は完全に定着していた。


「付与が完了しました。お品物をお返しします。」

僕がそう言って手渡すと、山田さんは両手でしっかりと受け取り、にっこりと笑った。

「いつもありがとうねぇ。翔吾君のおかげで、魔法が使えないわしらでも便利な暮らしができるんだよ。本当に助かってるよ。」

柔らかな声とともに、カウンターの上に小さな包みを置くと、山田さんはゆっくりと踵を返した。

「月代魔道具店への、またのご来店をお待ちしております」

そう言って見送ると、山田さんは扉のカランコロンという軽やかな音とともに消えていった。



---


午後8時。店の外はすっかり暗く、街灯の光が石畳をぼんやりと照らしている。

店の中は、魔法灯がともる柔らかな橙色の光に包まれていた。

今日の客は5人。常連ばかりで、特別なトラブルもなく終えることができた。


帳簿をつけながら、僕はペンの先を止める。

「今日も、僕はあの人たちの助けになれただろうか……」

そんな考えが胸をよぎる。祖父が施していた魔法よりも、僕の付与は持続時間が短い。3カ月しかもたない魔法では、時に不便をかけてしまうこともある。

そのたびに、まだまだ自分は未熟だと痛感するのだ。


世の中のほとんどの人は、生まれながらに魔力を持ち、訓練すれば魔法を自在に操れる。

けれど、中にはそうでない人もいる。年老いた人、子ども、病気を抱える人――そうした人々にとって、魔法のある世界は、時に優しくもあり、時に残酷でもある。魔法が生きる上で必須の現代において、魔法が使えないというのは、それだけで大きな足枷となるのだ。

そのため、そのような人々を救おうと祖父は生涯を捧げて付与魔法の研究をしたのだ。そして…

「魔法が使えない人たちにも、魔法の恩恵を」

それが、祖父がこの店を開いた理由だった。


付与魔法は、他人に魔法を“渡す”魔法。

非効率で、利益も少ないと蔑まれ、研究者たちの間でもすでに忘れられた分野だった。

それでも祖父は、誰かの笑顔のためにこの技術を磨き続けた。

――そして今、その想いを受け継ぐのが僕だ。



---


時計の針が午前零時を指していた。帳簿の文字が滲んで見える。

「あ……もう、こんな時間か。明日も学校があるのに」

慌てて明かりを消し、二階の寝室へ上がる。

ベッドに倒れ込むと、カーテンの隙間から夜空の光が差し込んでいた。

店の上に広がる空には、無数の星が瞬いている。

(ああ……綺麗だ)

小さく息を漏らすと、流れ星が一筋、夜空を横切った。


(付与魔法で、たくさんの人を笑顔にできますように)

まぶたを閉じながら、そう願った。

夢の中でも、あの優しい光が、僕の魔道具たちのように静かに瞬いていた。

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