黒刀【一】の[七]
「何か言われてますけど……どうします?」
障子の隙間から様子を見ていた青年は、苦笑いして問い掛ける。
灰色の長い髪を背に流し、青い官服を着た中性的な顔立ちの青年。
琉水竜。帝直属に仕える軍師で幼なじみでもある。
「縛するなら俺がするぞ?不敬罪甚だしいだろう。ただの下女の癖に分を弁えていない」
赤い髪を結わえ、黒い武官の制服を着た青年が腕を組んで進言する。
火煌牙。帝直属の武官で同じく幼なじみ。
「……それが本当にただの下女なら手打ちにしても、処刑しても別に構わないが……もう一人の下女が恐らく只者じゃないよ。僕と同等か……はなまた格上か……十中八九、もう一人を守る護衛だろうねぇ」
水色の長い髪を少しだけ下の方で結わえ、藍色の袖がない軽装を着た青年は薄く笑みを浮かべる。
氷冷波。帝直属に仕える影で同じく幼なじみ。
「ちっ、厄介だな。敵なら不味いぞ」
舌打ちする煌牙。
「まずは報告だけ上げとこうか……。敵か味方か分からないし……いざとなれば同士討ち覚悟かも」
冷波は笑みを浮かべる。
「……とにかく……先を急ぎましょう」
水竜は煌牙と冷波を促し、その場から去るのだった。
……行ったか?まぁ、懸命な判断だが……三人だけじゃ弱すぎる。……芽の言った通り穴ばかりだ。
障子の前から三人の気配が消えるのを確認して、光香羽目を細める。
「光香、これ高いところのとってくれる?」
「うん、いいよ!!ちょっと待ってね」
芽に呼ばれて慌て光香は走って行く。
甚だしい←間違いない、不快感を示す。苛立つ様子。
弁えない←自分の立場を考えないとか。考えないのを嫌味に使う。