黒刀【一】の[六]
「それと、この執務室だけには入らないで欲しい。後宮の問題や、後宮の政を書類に記している最中でね、決して誰にも見られたくないんだ」
騎泉は苦笑して下女達に頼んだ。
「はっはい!!決して入りません!!皆も入っちゃ駄目よ!!」
「はい!!」
「絶対に入らないです!!」
先輩下女に言われ、他の下女達も慌て返事をする。
「それは良かったな、では掃除を任せたよ」
爽やかな笑みを浮かべた騎泉は足取りも軽く、宦官長室に戻って行く。
「それじゃ皆!!掃除を始めるよ!!」
「はーい!!」
先輩下女の指示で下女達は掃除を始めるのだった。
「やけに埃っぽいね」
涙目になりながら言うのは、芽の下女仲間の光香。
可愛らしい顔立ちで、身長も女性にしては高く、天井をはたきで掃除している。
「戦乱のせいで人手が足りないんだよ、……私だったらわざわざ古参なんか使わずに人事入れ換えするのに……今の帝はそこまで徹底していないのが不思議だよ。これじゃまるで自分を囮にしているみたい」
芽は壺を磨きながら光香に答えた。
「やむにやまれぬ事情があるとか?それでも身辺も浅いって噂だよ?あれじゃ狙われちゃうねぇ」
光香も困った顔をして頷く。
「これ以上は……誰が聞いているか分からないし……取り敢えず私達の仕事をやろう」
「それもそうだね」
芽と光香は頷き合うと、再び掃除に取り掛かる。
だが、芽だけは気付いていなかったが、障子の外に三人の青年達が聞き耳を立てて聞いていた。