黒刀【一】の[二]
北の中級妃桃里の宮……白桃宮では……
「山犬の如き男の癖に!!何が……『お堅く座す高貴な貴妃など抱けぬ。お前を抱くより、宦官を抱いた方がずっとマシと言うもの……』よ!!この私を侮辱して!!」
怒りの余り、桃里は枕を壁に投げ付けた。
「……桃里様……」
他の侍女達が心配そうに桃里に声を掛ける。
「……父上を御呼びして。私の物にならない駄犬なんかいらないわ」
薄暗い笑みを浮かべ、桃里はぎらついた瞳で侍女に命じた。
夏の暑さが近づく頃の季節は、本来ならば様々な祭りや、大々的な狩り大会があるのだが……今の現状だとそのような余裕は一切無い。
「ねぇ、あの神託、実現すると思うの?」
「神託だぁ?」
筆を動かしながら男達は語らう。
「『神世の国から来たりし姫と出逢いし時、妖であるそなた等の時も動くであろう』っでしたかっけ?」
「その神の国と言えば……六年前に謀反があって当時の天皇や妃、皇女も暗殺されている。大体、今の天皇の子も全員皇子だ。普通に考えて有り得ねぇよ。くだらない話をしてないで早く手を動かせ」
呆れたように奥に座る男は三人に言うと、深く溜め息を付いた。
かつてこの国は、神の国から遣わされし妖が治めし国と呼ばれたのは遠き昔。
高潔なる姫のみが妖と心を通わして真の力を発揮できると、伝説として伝わっているが……それはもう定かではない。
真実は狂い咲く桜のみが知っており、他の物達は何も知らず今を生きるのみ。
『姫と帝……上手く行けば出会えるが……さあて……どうなるかねぇ?』
桜の鬼は、愉しそうに笑みを浮かべた。