序章【二】
『母上っ!!父上っ!!』
『貴女だけでも逃げなさい!!』
『せめてお前だけは生きてくれ!!』
必死に手を伸ばした私の目の前で、父と母が赤く染まった。
「!?」
少女が目を見開いて布団から飛び起きる。
周囲には下女仲間が寝ており、静かな寝息が聞こえていた。
「……またあの夢か……」
少女は溜め息を付くと、汗ばんだ顔を片手で覆う。
艶々かな黒髪を背に流し、整った顔立ちの少女は苛立ちを募らせ虚空を睨み付ける。
下女仲間を起こさぬように、少女は部屋を移動してなんとか障子を開けると廊下に出る。
私の名は、咲雅。この国より少し離れた島国では皇女として生を受けた。
でも、伯父が私や天皇と皇后だった両親に謀反を起こし、二人は殺されてしまい、私だけが……この国へ向かう商人の船で脱出したの。
今は商人の養女にして貰って、今の私は月芽。
月商会の一人娘って事にしてある。
田舎から出て来た商人の娘で、実の両親は流行り病で亡くし、哀れに思った月狼英が私を引き取ってくれた事にしていた。
芽は草履を履くと、庭に降りて桜の木を見詰める。
「狂い咲く貴女は……まるで私と同じね。私も本当は後宮に来たくなかったんだけど……同じ国を祖国に持つ貴方に出会えて良かったわ」
桜を見詰め芽が微笑むと、桜が一瞬青年の姿に見えた。
「……ん?気のせいか……寝惚けているのかな?早く寝よう……」
芽は目を擦ると、再び部屋へと戻っていく。
桜が形を変え、佇むのは桃色の長い髪を一つに結わえ、白い着流しを着た青年。
「姫が……まさかこの地へ来るとはな……」
鬼は笑みを浮かべ、再び桜の木へと戻った。