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入れ替わりの悪役令嬢(あなたが私で私があなた~運命は交差する)  作者: 万月月子


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6/8

ロクデナシと言う名の父親

私は慣れない貧しい暮らしも飢えも寒さも、兄ロイのおかげでなんとか過ごせていた。


私とロイは日中ヒメタカラという貝を布で磨く内職をしていた。

なんということの無い貝殻なのに、ごしごし何度も磨くことにより七色の輝きを放つ貝殻へと変わるのだ。

侯爵家の私の鏡台の装飾はヒメタカラが使われていた。鏡の縁をぐるりと飾られていた物がこうやって作られていたのだと初めて知る。

ちいさな私の親指の爪ほどの小さい貝。何日も何日も磨き続けてようやく輝き出す。

その苦労も何も考えず、美しさに心を揺さぶられることもなく、ただそこにある物として暮らしてきていたエリザベートの頃の私。

あの飾りになる程の量のヒメタカラを磨くなんて気が遠くなる程の年月がかかるだろう。

出来上がった貝を母に渡すとその日の食事にヤギのミルクが加わる。

それがささやかな楽しみになった。


ロイの体調はだいぶ悪いようだったけれど、彼は毎晩私を優しく抱えるように暖めて寝てくれた。

常にお腹がすいている状態は初めてで、ほんの少しの野菜屑と小麦を精製する時に出るふすまををスープにした質素な物をロイと分け合いながら慎ましく食べた。

母はいつも食事を共にしないから、もしかしたらほとんど食べていないのかもしれない。

母は昼間も夜も休みなく働いている様だった。

ほんの少しの仮眠しか取らず、必死にロイの薬のために働いていた。

私の目からもやつれているのがわかった。

それでも家族三人でなんとか暮らして来れた。

ロクデナシが帰ってくるまでは・・・。


「おーい、ロイ!元気だったか?」

酒焼けした掠れた声を出し家に入ってきた男は今も酔っている様子で千鳥足でやって来た。

「父ちゃん!」

ロイは嬉しそうに声を上げて彼を父と呼んだ後ハッとした様に私を自分の背後に隠した。

「あ?」

濁った目で私を見る男に怯えて、私はロイの背中に顔を押し付ける。

「あんた!どの面下げて戻って来たんだい!」

母が肩で息を切らせながらやって来た。

「角のナターシャがあんたの姿を見たって言うから心配になって来てみれば!!」

「帰ってきた早々に怒鳴るな、カミラ。お前ちょっと、見ない間に老けたなー。ロイにちゃんと飯を食わせてるのか?ガリガリじゃねーか。とても13の男には見えねーぞ」

え?ロイは13なの?

とてもそうは見えない。

栄養不足と病気のせいで成長が遅れているのだろうか。

それならジュリアは今何歳なのだろう。

このからだも痩せていて栄養が足りてるとは思えない。

「あんたのせいだろ!このロクデナシ!あんたが家の金を全部抱えて出ていっちまったから!さあ返せ!それでロイの薬をもらうんだ!」

「おいおい。俺のどこに金があるように見えるんだ。無くなっちまったから貰いに来たってゆーのに」

「な、何だって?全部使っちまった?あ、あれはジュリアの養育費なのに?本来ならこの子達を町の学校にだって通わせてやれた大金だったっていうのに?」

母が怒りで震えていた。

「無くなっちまったって言って金を貰ってこいよ、子供を育てるには金がもっとかかるってさ」

「何をバカなことを!あれはね、あの家に二度と戻れないこの子のためのお金だったんだ!普通に使えば普通の暮らしが一生できる程の額だったんだよ!それを・・・全部使い切っちまったなんて・・・」

母はふらりとよろめいて床に蹲った。

酒臭い男がこちらにやってきて私に手を伸ばす。

「そんなら、こいつを売っちまえばいいだろ」

男に頭を捕まれそうになり、私はロイにしがみついた。

「父ちゃんやめて!」

ロイが悲鳴にも似た声を出す。

私を庇うように両手を広げて父親を止めようとする。

「ロイ。お前の薬代もこいつを売ればなんとかなるんだぞ」

酒臭い息が気持ち悪い。

「売るって僕の妹を?!」

「捨てられたのを拾ってここまで育ててやったんだ。恩返しに金を稼がせてやるんだ」

「このロクデナシ!」

母が背後から箒で父をボカボカと殴った。

「いてっ!何しやがる!」

「ふざけんじゃないよ!何年もいなくなってて戻ってきたら娘を売るだなんて!出ていけ!出ていけ!」

母の剣幕に父はほうほうの体で外に逃げ出した。

「戻ってくるんじゃないよ!ロクデナシが!」

父の背中に母が言葉をぶつける。

「あんな人じゃなかったのに・・・。骨の髄まで腐りやがって・・・」

言葉の最後は涙声になっていた。

母はしばらく嗚咽を溢した後、立ち上がり仕事に戻ると言って出ていった。


「ごめんね、ジュリア。怖かったよね。父ちゃん、あんな人じゃなかったんだよ。昔は」

ジュリアを抱き締めるロイの声も涙で掠れていた。


ロクデナシ・・・あれがこの家の父親なんだわ。


どうしても拭えない嫌悪感にロイにしがみつく。


あの人はまたここに来るのかしら。


じっとりとした視線が気持ち悪い。あんな人が世の中にいるだなんて・・・ましてやジュリアの父親だなんて。


「大丈夫だよ。僕が守るからね。きっと守るからね」

どんな不安さえもロイがいてくれれば平気だと思えるわ。

だから、ずっとずっと側にいてね。

お願いだからいなくならないでね。

それが一番怖いの。


神様ロイをお守り下さい。






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