滅ぶ世界の傍らで(ジョシュア)
僕のエリザベート。
焔の中の君を唯々見つめる。
僕の大切な婚約者。
大切で大事だから決めたんだ。
君を守るため、僕は君をこの世界から逃がすことにした。
愛しい君を僕のために死なせたくないから。
僕は何度占っても17で死ぬ運命らしい。
けれども滅びの魔女の血筋の娘が身代わりとなることで運命を変えることができるのだと、神殿のお告げが下された。
馬鹿げているけれど、長年待ち望んでようやく産まれた一粒種の僕を生かすために父や母は滅びの魔女の血筋の娘を調べ上げた。
そんな理由で僕の婚約者に差し出された生け贄の婚約者。
婚約者に選ばれたエリザベートは、僕を慕い、誰よりも清く美しく成長していった。
最初に彼女に会った時、なにも知らない僕は嫌悪感で顔を背けたい思いでいっぱいだった。
自分で言うのもあれだけど、面に出さないだけで幼い頃から腹黒だったのだ。
なんで滅びの魔女を僕の婚約者にしなければいけないんだ!
周りには僕に選んで欲しくて集まった、たくさんの可愛らしい令嬢がいるというのに。
どうして僕の婚約者に彼女を選ばなきゃいけないんだ・・・。
心の中で、彼女を婚約者に名指しするように命じた父や母への文句は止まらなかった。
古くから語られる通りの滅びの魔女と同じ見た目のエリザベート。
『赤茶の髪にオッドアイの滅びの魔女は、世界を真っ赤に染めました。一つの世界を滅ぼしたのです。そうして魔女は一人新しい世界へと旅立ったのです』
なんて恐ろしいんだ!
こんな少女を婚約者に推す父や母を恨んだ。
恐ろしい滅びの魔女の末裔のエリザベートとなんか最低限しか喋らず、上部だけの付き合いをしていこう。
いつか婚約破棄をしてやるんだ。
そう決めたのに。会う度に僕の心は君に溶かされていった。
彼女の純真な瞳を。オッドアイを。
美しいと思い始めたのはいつからだったろうか。
凛と立つ艶めいた赤茶の長い髪の後ろ姿を。
振り向いて僕に、はにかむように笑った顔を。
人に邪険に扱われても前を向く強さを。
愛しいと思ってしまったのはいつからだろうか。
僕は学園に入る半年前に、エリザベートが僕の婚約者に選ばれた理由を知ってしまった。
ただ、滅びの魔女の血筋と言うだけで。
その見た目だけで僕の為の生け贄として選ばれたのだということを。
何ておぞましくて残酷なんだ。
滅びの魔女よりも、そんなことをする両親や周りの人々の方がよっぽど恐ろしかった。
泥水に浸かるような人生じゃないか。
薄汚れた僕の世界でエリザベートだけはいつも清く正しく凛として美しかった。
僕は愛さずにはいられなかった。僕の身代わりに死ぬ彼女を。
あぁ、もう彼女をこの世界から逃がすしか無い。
だって僕が僕自身よりも君のことが好きだから。
大切だから。
守りたいから。
君を傷つけてしか君を逃すことが出来ないなんて。
さようなら、エリザベート。
泣かせてごめんよ。
君の涙までもが美しくて息を飲む。
傷ついて泣き笑う君の声が胸に突き刺さるように痛いよ。
痛みを堪えて、紅蓮の焔を身にまとって立つエリザベートを見つめる。
炎に翻る赤い髪もなんて美しいんだろう。
さよならだね、エリザベート。
もうすぐ世界は滅ぶのだろう。
最後のその時まで君を見つめていたいんだ。
あぁ、もう一度その手にその髪にその顔に触れたいな。
叶わない願いだけど。
未練がましい僕を呆けたように見つめる君。
声には出さず、君に告げるよ。
僕のエリザベート。
君を愛している。
世界が滅ぶまで。
世界が滅んでも。
ずっと・・・
僕の僕のエリザベート。
さようなら。




