私の人生とは
私、エリザベート・ユリア・ベネットはベネット侯爵家の一人娘として清く正しく生きるようにと幼少の頃から厳しくしつけられてきた。それは滅びの魔女の末裔であり、同じくオッドアイを持って産まれた私がこの世で排除されず生きていくためには必要な事だったから。
清く正しく。
そう生きてきたのに。
その私が罪に問われている。
私がそれらの罪を犯したと?そう言うの?
この私が?
怒りで震えそうになる手を握りしめることでこらえる。
「聖女ジュリアを穢そうとした数々の罪、隠しようが無い!」
声高に告げるのは婚約者であるジョシュア皇太子。
彼は私を庇うのではなく、聖女ジュリアを後ろに庇い攻撃的な瞳で私を射る。
「婚約破棄と国外追放を言い渡す」
あなたが、それを言うの?
潔癖な程厳しく自分を律してきた私を近くでずっと見てきたでしょう?
他の誰でもなく、あなたが断罪するの?私の全てを否定するの?
「ベネット侯爵も『滅びの魔女』であるお前はいらないそうだ。ジュリアこそが正しきベネット家の娘。我が婚約者になるのは聖女であるジュリアだ」
私から反対する声は出なかった。
絶望で目の前が真っ暗になっていたから。
ジュリアは私の双子の妹だと学園入学の時に突然現れた女だった。
双子は不吉だと生まれ落ちたその時に捨てられた赤子がジュリア。
色味が。
魔力の属性が。
それが違うだけで聖女と呼ばれ父に認められ我が家に舞い戻ってきた妹。
私に憎悪を抱え周りに私がやっていない悪事を言い広めた。
彼女の虚言癖を私は清く正しく生きることで破ることが出来ると思っていた。
彼女の語る私は常に居丈高で意地悪で癇癪持ちの他者を貶める悪女。
そんな嘘には負けないと頑張って前だけを見て進んでいた。
周りが彼女を認めて私の代わりにベネット侯爵家の真の令嬢はジュリアだと選んでも。
ジョシュア、あなただけは私を選んでくれると思っていたのに。
目眩がする。
私の中の何かが壊れる音がする。
ジョシュア、あなただけはずっとずっと私の味方なのだと信じていたのに。
世界が色を無くしていく。
色褪せた世界を私は見回した。
周りにはたくさんの学友がいるのに誰一人皇太子の言葉に反対の意を唱えなかった。
ジョシュア皇太子の後ろで私と色味は違うけれどそっくりな顔をしたジュリアが笑うのを見た。
聖女ジュリア。
全部この女が仕組んだことなのに。
どうして皆わからないの?
世の中の全てが敵なのね。
何もしていない私に皆がそろって罪を被せるのね。
涙で歪む世界を見つめ、全てを諦めるかのように瞳を閉じる。
あぁ、世界が壊れる音がする。
こんな世界なら、いらない。
いらないわ。
体の奥の火の魔力が暴発しそうに膨れ上がるのがわかる。
私の赤茶の髪が宙を舞う。
火の粉が跳ね上がる。
魔力を放出するの。
全ての魔力を。
周りのどよめきも悲鳴も何も聞かない、聞こえない。
滅ぼすのよ。この世界を。
私は『滅びの魔女』の末裔なのだから。
火属性の魔力の全てを使って焼き尽くすの。
この世界を。
全てを。
私の魔力で。
ベネット侯爵家にはかつて『滅びの魔女』がいた。その子孫である私。
赤と黒のオッドアイで生まれる子は滅びを司ると言われている。
私は生まれながらに呪いの子であり、人から怖れられるばかりの人生だった。
そんな私を婚約者として選んでくれたのは皇太子であるジョシュアだったのに。
あなたの誇れるパートナーになりたかったのに。
それなのに、あなたが。
あなたが。世界が。私を断罪する。
それならば滅べばいい。
全て燃えて滅べばいい。
轟音を立てて周りに次々と火柱が立ち上がる。
滅びのやり方は、なぜだろう魂が知っている。
一生に一度だけしか使えない秘術。
ただ燃やせばいいの。全てを燃やしてこの世界を滅ぼすわ。
「あははははははははは」
私の口から歪な笑い声がもれた。
「さようなら、皆様。恐れ疎まれた私は正しく全てを焼き尽くしてこの世界を滅ぼすわ。あはははは」
誰に言うでもなく泣き笑いながら告げる。
建物の外へと蜘蛛の子を散らすように皆走って逃げるのがおかしいわ。
この世界はここで滅びるというのに。
さようなら。
もうすぐ滅びは成就する。
紅蓮の周囲を眺めて、この世界に別れを告げる。
さようなら。
私の涙と笑い声は止まることを知らないようで後から後から溢れてくる。
壊れたのよ、壊したのよ。
こんなに心が高ぶり笑い声が止まらない程。
こんなに胸が引き裂かれるように痛んで涙が止まらない程。
世界よ、滅べ。
呪いの言葉が渦巻くように私を取り囲む。
泣き笑う私は一瞬縫い止められたように動きを止めた。
激しい炎の向こうにジョシュアの姿が見えたから。
ただ私を見つめるジョシュアが見えたから。
逃げ出さなかったの?逃げても無駄だけれど。この世界のどこもかしこも燃え盛っているのだから。
あなたの逃げ惑う後ろ姿を笑ってこの世を後にするわ。
逃げなさいよ。
さぁ、私に背を向けて惨めに逃げるのよ。
・・・どうしてなの?
どうして炎も気にせず私だけを見つめるの?
この世界は滅びがはじまり歪んでいる。
私とジョシュアだけがこの世にいるかと錯覚してしまう程に。
あなたの瞳が私を愛おしむように見えるのは、この世界が歪んでいるからなのね。
私を断罪したあなたが、そんなに優しい瞳で私を見るはずがないのだもの。
「いやよ」
不意に横から声がした。
私は驚愕に目を見開いた。
聖女ジュリアが炎に焼かれながらも私の元へやって来ていたから。
焼け爛れながらも、自身の癒しの魔力で回復しながら焔の中にいる私に、にじり寄って来ていたから。
「わたしが!変えるのよ!世界を!」
ジュリアの自慢の金の髪はもはや焼けて何もなく、再生が追いつかない肌は焼けただれている。それを気にせず一歩一歩と私に近づいてくる彼女の恐ろしさに震える。
私よりもよほど狂気じみたその姿。
「いやよ!こないで!」
ジュリアの手が私を掴むのと世界が真っ赤に光って滅んだのと、どちらが先だったのだろうか。
落ちていく。真っ赤な焔に包まれて。
どこまでもどこまでも、ぐるぐると。
私がこの世の滅びまで願った元凶のジュリアに手を掴まれて。
彼女は青い瞳で私を見ていた。
あんなに私の何もかもを奪った憎い女なのに。
憎くてたまらない女なのに。
目を逸らせずに私もただジュリアを見ていた。
彼女の手を振り払うどころか、その手を握りしめて。
どうしてか目をそらすことができなかった。
滅びる世界が終わるまで。
ずっと、ずっとお互いの手を掴みながら見つめ合って落ちて行った。
ゆっくり大事に書いていこうと思っています
よろしくお願いします




