返せって言われねーかなと思いつつ
やっともとの世界に戻ってきたのか? あたりを見渡すと最初に渦に巻き込まれた場所と同じ、繁華街の路地裏に見える。
「神崎さん、お疲れ様でした」
目まぐるしく変わる状況を理解しようと頭で色々考えているうちに、田中が話しかけてきた。
「……! あんた、一体今回のバイトどういうことなんだよ⁉︎ 俺の写真は何に使われるんだ? あとこの黒い渦はどう言った原理で、俺はどこに行ってたんだ? 説明しろよ!」
「落ち着いてください神崎さん。黒い渦はワープのためのものであるとしか説明できませんが、神崎さんの写真自体は悪用は致しませんので安心してください」
「……あんたの言葉も、あのカメラマンの言葉も信用できねえよ。あとこれは返す」
俺は五百万円が入ったジュラルミンケースを田中に渡そうとした。
「いえいえ。その報酬はすでに神崎さんのものですので受け取れませんよ」
だが、田中も頑なに受け取ろうとしない。
「おかしいだろ? ただ言われるがままコスプレ撮影して、結果的に五百三十万の報酬なんて⁉」
「……そうでしょうか? 本来であれば、もっとお支払いしたかったくらいです。神崎さんにしていただいたのは、たった五百三十万円では報酬が足りないほどのお仕事なのですよ」
「はあ⁉︎ 同じようなことあのカメラマンも言っていたが、それどういう意味なんだよ⁉︎」
「言葉の通りですよ。今回神崎さんのような方にバイトを受けていただき、私たちはとても感謝しているのです。ご自身の仕事ぶりを誇りに思って、その報酬は素直にお受け取りください。他意はありません」
……本気で言ってるのか? だとしたらこれほど美味しい話はない。だが、もし受け取ってから後で倍にして返せとか言われたら? やっぱり写真を悪用されたら? 実は犯罪に巻き込まれていたら?
「……後で返してくれなんて言いませんので、ご安心ください」
また心読まれた。俺やっぱり顔に出やすいのか?
「……本当に、受け取っていいんすか? 俺騙されてないっすか? ドッキリじゃないですよね?」
「はい。騙しておりません。我々は神崎さんにバイトの対価をお支払いしただけです」
「……」
「では、帰り道はお気をつけて。これで失礼します」
そう言って、田中は去っていった。
俺はこの現実をどう受け止めたらいいんだ? トータル五百三十万を楽に稼いだということでいいのか? ……これも夢の続きとか?
もちろん夢ならいいが、もし本当にこれが現実だとして、怖気づいたからって大金が入ったジュラルミンケースをそのまま道端に置いていくのもどうなんだ? 警察に届ければいいか? いや、でも、もともと美味しい話すぎるって逆に怪しまれて俺が逮捕される? あーもうわかんねえ!
もういい、もう考えるのはやめだ。俺はバイトをした。バイトの報酬を受け取っただけだ。なんなら夢ってことにしよう。
俺は深く考えるのを諦めてジュラルミンケースを大事に抱え、とりあえず帰ることにした。
ーー「そこのお兄さん。キャバクラどうすか?」
帰り道でキャッチに話しかけられた。
パチンコで大勝ちしたときしたキャバクラにはいけないから、大抵この手のキャッチは無視する。
しかし、今日の俺はかつてない大金を持っている。この三日間わけわかんねえことばかりで気疲れしたし、断る理由なんてあるだろうか? しかもそもそも夢かもしれないし。
「……可愛い子います?」
二〇二三年三月十六日午後七時
俺は誘惑に負け、キャバクラで疲れを癒すことにした。
二〇二三年三月十七日午前零時
ーー「誠くん、また来てね」
俺は名残惜し見ながらもキャバクラから出てきた。
ちなみにキャバクラでは、それはそれは夢のようなひと時を過ごした。
金持ちってやべえ。金があればこんなに楽しい気持ちになれるのか。
人生初のドンペリを飲んで、可愛い女の子にちやほやされて、ベロベロに酔っ払った俺は最高の気分だった。
ふわふわと天国にいるような浮かれた気持ちのまま家路につくも途中で眠くなり、ふらっと公園のベンチで休憩する。
「はー……。まじ最高な夜だったぜ。……このまま寝ちまうのがもったいないくらいだ。夢から醒めたらまたクソみたいな日常に戻ってるのかな。……まあいいやそれでも、こんな経験できたんだから……」