後払い金500万!?どんな闇バイトだよ!
ーーまた、ここか。昨日と同じ赤い空と茶色い大地。そして白い軍服の男。
「……ちゃんと来たな。今日は丸一日撮影に付き合ってもらう。さっさと着替えろ」
「……わかりました」
昨日とは異なり、岩に腰掛けたポーズ、万歳のポーズ、片手だけあげたポーズ、片足だけあげたポーズなど色んなポーズを指定された。
しかしそれ以外は別になんてことない。本当にただこの男と同じコスプレをして、言われるがまま被写体に徹しているだけだ。
本当にこんなんで三十万もらっていいのか? と改めて疑問に思うが、色々なポーズを要求されてこなしているうちにあっという間に日が暮れた。
「今日もご苦労だった。この調子でいけば明日の夜には撮影完了できそうだ」
「そうですか。良かったっす。ちなみにこの写真って何に使うんすか?」
「そんなことお前は知らなくていい。さ、今日も昨日と同じホテルに泊まれ」
そう言って男は俺の背後を顎で示す。
ちらりと後ろを見ると今朝と同じ渦巻きが出現していた。
「なんでもいいですけど、写真悪用だけはしないでくださいよ?」
目線を戻すとすでに男は消えていた。
「!!! また消えた……」
どういうことだよ。アイツやっぱり魔法使いかなんかか?
ま、考えていても仕方ない。
だんだんこの状況に慣れてきた俺はためらいもなく渦巻きに飛び込んだ。
二〇二三年三月十五日午前九時
ーーなんだか寝心地が悪い。肌寒い気がする。
「…うーん」
寝返りを打ったところで違和感を感じ、一気に目が覚めた。
「…え⁉︎ 俺ベッドで寝たはずじゃ……!」
「やっと起きたか。撮影始めるから早く着替えろ」
ふかふかのベッドに寝ていたはずが、赤い空が広がる茶色い大地の地面に寝ていた俺。なんで? 意味わかんねえんだけど。
「何をボーっとしている? 早く起きて着替えろ。うまくいけば今日で撮影は終わる」
「……すみません。わかりました」
今日も色々なポーズを指定され、三十万のために従順に従う俺。そして同じくあらゆる角度から俺を撮影し続ける白い軍服の男。
……俺のこんな写真やっぱり何に使うんだ? 雑誌? SNS? だが昨日の感じだと使い道は教えてくれそうにない。ま、別にヌード写真とかじゃないし、気にしても無駄か。……本当にこのまま三十万と引き換えなら楽なバイトだ。
二〇二三年三月十五日午後六時
「……よし。これで全部だな。お前もう帰っていいぞ」
ーー本当にただコスプレして、写真撮らせるだけで三十万だった。まじか。色々御伽話的な信じられない点があったとはいえ、危険な目には遭わなかった。拍子抜けだ。
「……ありがとうございます」
「ああ。あとこれはたち成報酬だ。受け取れ」
男は急にジュラルミンケースを俺に差し出してきた。
「なんすか? これ?」
とりあえず受け取り、ジュラルミンケースを恐る恐る開けてみる。
「……は?」
なにこれ? どういうことだよ? 三十万円の比じゃないほどの札束?
「どうした?」
「え、あの、俺、撮影の前に前払いで最初に聞いていた通り、三十万すでに受け取りましたけど……」
「ああ、あれは前金だ。これは最後まで撮影を完遂したプラスボーナス分だから安心しろ」
はあ? 衣食住もついてて、さらにプラスボーナスって嘘だろ⁉︎
「プラスボーナス⁉︎ …そもそも、一体いくら入っているんすか?」
「五百万円だな」
「!! ごっ五百万⁉︎ 俺ただ言われるがままコスプレしてただけっすよ⁉︎ しかもスイートルームみたいな部屋で至れり尽くせりで、なんでこんな……!」
なんか一気にきな臭くなってきた、俺なんかとんでもないことに巻き込まれてねえか⁉︎ やっぱり闇バイトだったってことか⁉︎
「……本来なら五百万円でも足りないくらいの仕事をお前はしたからだ」
は? 何言ってんだよコイツ。
「⁉ ……よくわからないですけど、これは受け取れません。お返しします」
冗談じゃねえ。三十万円でも破格の楽なバイトだったのに、さらに五百万円とか怪しすぎだろ!
俺はジュラルミンケースを閉じて、白い軍服の男に返そうとした。
「いや、受け取ってもらわないと困る。これは契約に基づいて行われたんだ」
「契約って、契約書も何も交わしてないじゃないっすか! 俺は張り紙の通り、三十万円もらえたら十分ですからっ!」
「契約書がなくても、撮影の前に私は契約成立と言ったし、お前も同意したはずだ。 ……まあいいこのまま話していても拉致があかないな。とにかくお前はとても価値のある仕事をしたことを誇りに思え」
その瞬間、黒い渦巻きが目の前に発生し、俺はまた渦に飲み込まれた。
「はあ⁉ 待っ」
ーー目の前には再びあの田中がいる。