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ゴブリンとの戦い

次から次に連続して起こる現実世界では理解不能な出来事に、俺はますます混乱していく一方だ。

 スマホを見てももちろん圏外になっていて話にならない。

「……予想はしてたけどな」

 さっきからスマホはまじで役に立たない。

「……そもそも、俺はただのニートなんだって! この状況をどうにかする能力なんてもってねえんだよ!」

 心から叫んでみても誰からもなんの反応もなく、虚しいだけだ。

 ……嘆いていても仕方ねえ。とにかく今はここはどこなのかだけでも、把握しねえと。

 改めて俺は周囲を見渡す。

「……過去っていうか、日本ですらなくね?」

 周りは草木一本生えていない荒野。もちろん建物などもない。時折崖や岩が見えるくらいだ。

 仮に過去の日本だとして、縄文時代よりもっと前の恐竜とかいそうな原始時代みたいな感じか? ……って、このまま突っ立ってごちゃごちゃ考えていてもどうにもならねえな。とりあえず適当に進んでみるか。

 俺はとりあえず探索してみることにした。 

「まずはあそこの岩を目印に進んでみよう」 


ーー十五分ほど歩いたところで、ようやく岩の場所までたどり着いた。

「やっと着いたけど。本当に人っ子一人いねえな。動物もいねえ。花も咲いてねえし木も生えてねえ。川も池もない。……よく考えたら水も食料も持ってないよな俺。……このまま餓死して死ぬのかな」

 アニメやゲームでよくみるような、砂漠で骨だけになった姿を想像してしまった。

 思わずうなだれると、改めてダサい緑色のロングブーツが視界に入る。

「ってかこのブーツまじダサい。タイムトラベルブーツだかなんだか知らないけど、できることなら今すぐ脱ぎたい。……アイツまじ恨むからな」

 俺は改めてあのわけわからん男を恨んだ。

「シャーッ!」

 その瞬間、耳をつんざくような奇声が聞こえ、反射的に顔を上げる。

「!!!」

 岩の影から出てきたのだろうか? 町を襲っていたゴブリンのような見た目の怪物が一体、ナイフを振り上げて俺に飛び掛かってきた。

「うわっ! あぶなっ!」

 俺は咄嗟にゴブリンの攻撃を避けた。

 しかし、ゴブリンは執拗に俺に向かってくる。

「っ! こっちくんじゃねえよっ!」

「……ニン、ゲン。たた、た、食べ、る」

 冗談よせよ。コイツ、俺を食おうとしてんのか? そもそも俺はゲームでしか戦闘したことないんだっつーの! しかも今は丸腰。こんな怪物相手に敵うわけねえ!

「なんでもいいから、とにかく逃げねえと……!」

 俺はゴブリンから逃げようとしたが、不意にゴブリンに足を払われ転んでしまった。

「……っい!」

 派手に転んだことで、周囲に砂埃が舞う。

 膝や頬に走る痛みに悶絶しながらもどうにか振り返ると、ゴブリンが倒れた俺に向かってナイフを振りかざしてきていた。

「くそ……!」

 逃げられねえ! このまま俺は死ぬのか……。

 脳内に走馬灯がよぎる。

 

ーー「誠! 大学入学おめでとう!」

「さすが俺の息子だ。俺は鼻が高いぞ」

「ありがとう、母さん、父さん。俺、頑張るよ」


ーー「誠、今日も授業はないの?」

「……今日俺の取ってる授業はないよ」

「……大学の学費馬鹿にならないんだから、またサボるんじゃないわよ?」

「わかってるよ」

「じゃあ今日は夕方からバイトなのね」

「……バイトは色々あって辞めた」

「え、また⁉︎ あんたバイト始めてもすぐ辞めすぎよ? いつも三ヶ月くらいは頑張ってみなさいって言ってるじゃない」

「……次もっといいところ探すから大丈夫だよ」


ーー「誠、就活の調子はどうだ?」

「……何社か一次面接の結果を待ってるところだよ」

「……そうか。早く内定もらえるように励みなさい」


ーー「もうすぐ大学卒業よ? あんた就職どうするの?」

「……就職したくても、内定がもらえないんだからどうしようもないだろ」

「そうだけど、卒業後ニートにでもなるつもり? いつもバイトだってすぐに辞めてきちゃうじゃない。卒業したら働いてもらわないと困るんだからね。逃げてばっかりいないで、ちゃんと将来のこと考えなさいよ」


ーー「母さん、金ちょうだい」

「はあ⁉︎ あんたもうこの前私多分使い切っちゃったの⁉︎ パチンコしたいなら、少しでもいいからバイトしなさいってば!」


ーーそうだ。俺は今までめんどくさいことからはとにかく逃げてきた。就活もめんどくさい。バイトの人間関係もめんどくさい。ストレスを感じることはとにかくいやで、大学もギリギリで単位を取り、大学卒業後はただパチンコして遊んで暮らしてた。

 ……楽だったけど側から見たらクソみたいなニート人生だったな。母さんも父さんも俺に失望していたし……。

 ……! そうだ、母さんと父さんはどうなった? 救急車も呼べない状況だった。周りもたくさんの人が倒れてたし、怪物だらけだった。あのまま父さんと母さんを放っておいたら、確実に死ぬ。

 ……このままでいいのかよ俺。このまま父さんと母さんが無事かどうかもわからないまま、何が起きてるかわからないまま、わけもわからずこんな怪物に殺されていいのかよ⁉︎

「うおおおおおおおおお!」

 俺は、例え逃げられなかったとしても、ここで殺されてしまったとしても、最後くらい足掻くだけ足掻いてみることにした。

「怪物、俺が丸腰だからって、なめんじゃねえぞ!!!」

 俺は起き上がり無我夢中でゴブリンに抵抗する。

「ガハッ」

 渾身のパンチがゴブリンの左頬にヒットし、ゴブリンは血を吐いた。

 ……そうだ、俺、高校まで空手やってたじゃねえか!

 組み手を思い出せ。体に染み付いているはずだ。俺ならできる!


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