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第一話 俺っちニートの初めてのバイト

 二〇二三年三月十三日午前十時


「ふああー。ねみー……」

 昨日はあんなに勝ってたのに、あそこでなんでやめなかったんだ俺。結果的に大負け。この前母さんからもらった金ももうほぼ尽きちまった。……残り三百円か。

「……いや、昨日あんなに負けたんだから。今日は絶対大勝ちだろ」

 腹も減ったし、母さんにまたパチ代せびって、牛丼でも食ってからパチンコ打ちにいくか。

「誠! あんたまたこんな時間まで寝てたの!?」

「……別にいいだろ。いちいちうるせえな」

「またそんな口利いて!」

「朝からヒステリー起こすんじゃねえよ。……俺出かけるから金くれよ」

「はあ!? この前一万円渡したばっかりじゃない! ……もしかしてあんたまたパチンコでも行って負けたんじゃないでしょうね!?」

「……今日は勝つから」

「……。あんた毎回そう言って負けてるじゃない! 出かけたと思ったらパチンコ。家にいたらネットゲーム。もううんざりよ。バイトでも行って少しでも自分で稼いだらどうなの? いつまでニートを続けるつもり? 母さんだってもう若くないの。いつまでもあんたを養えないのよ?」

「はいはい。わかってるって。今日で最後にするから。五千円でいいからくれよ」

「……今日という今日は折れないわよ。絶対にお金は渡さない。そんなにパチンコしたいなら自分で稼いだお金でしなさい!」

「は? 金くれないと昼飯も食えねえだろ!?」

「外食したり買い食いしたりするからでしょ? 冷蔵庫にある残り物でなんか作ってあげるから、それ食べて就職活動しなさい」

「残り物なんていらねえよ! 金くれってば」

「だからもうあんたを甘やかすのはやめたのよ。……ご飯いらないなら、今からバイト探しに行ってきなさい。仕事見つかるまで帰ってきちゃダメよ」

 そう言って母さんは俺を玄関に追いやる。

「はあ!? ちょっと待てって!」

「じゃ、頑張ってね」

 こうして俺はわずか三百円しかない状態で家から追い出された。最近母さんにパチ代をせびるたびに口論になっていたとはいえ、追い出されたのは由々しき事態だ。

 たまたま母さんの機嫌が悪かっただけならいいが、今後も一切金をくれないという可能性も捨てきれない。

「……それでも働きたくねえな。パチンコみたいに楽に稼げるバイトねえかな」

 そんな妄想をしながらあてもなくうろうろ歩いていると、普段なら絶対気にしない電信柱の張り紙がなんだか妙に気になった。


 〜簡単コスプレバイト〜

 <概要>

 当方の指定するコスプレをしていただき、写真を撮影させてくれるだけで楽に稼げるレアバイトです。

 <報酬>

 三十万円

 <撮影日>

 採用当日から三日間程度

 ※食事や宿泊場所、宿泊代など撮影に関わる費用は全て当方が負担いたします。

 <応募方法>

 下記電話番号にお電話をおかけください。

 〇六〇ー六六六〇ー〇六六六


「! コスプレするだけで三十万!?」

 やべ。驚きすぎて思わず心の声が出ちまった。周りの通行人の視線が痛い。だがそんなこと気にならないくらい、俺にはこのバイトが輝いて見える。

 ……いやいやいや待て待て待て。落ち着け俺。こんな美味しい話あっていいのか?

 そもそもどんなコスプレだ? ヤバいやつなんじゃないか? いわゆる闇バイトって可能性もあるだろ?

 ……いや、今の俺はそんなこと気にしてられない。確かにとてつもなく怪しいバイトだが、もし本当にヤバいと思ったら逃げればいいし、いざとなれば警察に通報すればいいだけじゃねえか。

 よし、こんなチャンス二度とねえ!

 俺は勢いに任せ張り紙に書いてある電話番号に電話をかけた。

「……はい、もしもし」

 電話に出たのは男だ。

「あの、コスプレバイトの張り紙を見て電話した者なんですが」

「……! ありがとうございます。採用担当の田中と申します。早速ですが、お名前とご年齢、身長、体重をお伺いしてもよろしいですか?」

「はい、神崎誠、二十四歳、身長は百七十五センチメートル、体重六十五キロです」

「……ありがとうございます。身長的にはもう少し欲しいところですが、まあ誤差の範囲でしょう。年齢的にも問題なさそうですね。あと、失礼ですが、何かスポーツなどはされていますか?」

 ……? スポーツ? なんでそんなこと聞くんだ?

「……最近は運動してないですけど、高校までは空手やってました」

「そうですか。ありがとうございます。……ちなみにいつからでしたら撮影に参加していただけますか?」

「あーいつでも大丈夫です。なんなら今日今すぐでも」

「それは助かります。ただ今は電話口で体格などお伺いしただけなので、絶対に採用となるかはお約束致しかねますが、それでもよろしければ、今日の夜六時に新宿駅東口近くの喫茶店ラプラス前で待ち合わせでもよろしいですか?」

 ……あー、あそこの喫茶店か。

「わかりました。大丈夫です」

「良かったです。ありがとうございます。では、夜によろしくお願いします」

 ……こんなトントン拍子に進むとは思わなかった。拍子抜けだ。

 夕方まで時間潰すのだけは怠いけど、三十万のためなら頑張れそうだ。とりあえずコンビニでパンでも買って食うか。


ーー残金三百円で買える範囲で買ってみたはいいが。

「……やっぱコンビニパンだけじゃ満たされねえな。」

 だが、三十万手に入ればなんでも食えるしパチンコも打ち放題だ! 三十万が五十万、いや、百万に化けるかもしれない。

 やっぱり楽に稼ぐ手段はあるじゃねえか。ストレス社会で労働なんてクソだぜ。

 俺はすでに三十万を手に入れたような気持ちになっていた。

 

ーーもうこんな時間か。

 三十万円手に入れたら何をするかという妄想を膨らませてぶらぶらしているうちに、いい時間になってきたな。そろそろ約束の喫茶店に向かうか。

 俺は歩いて新宿駅の方に進んでいく。

 

ーーここで合ってるよな……?


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