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(四)-5
いきなり体を触ってきたりしないところからして、反町部長は自分に対する興味はないものと彩香は思っていた。そもそも彼は既婚者であったし、会社でもハラスメントには近年かなりうるさい。昨年だけでも、体育会系の多い不動産業界の、しかも肉体派の多い営業部では、セクハラで懲戒を受けて部署を異動する人間が何人か出ている。
やり手の反町部長も、多かれ少なかれそういうこともあるのではなかろうかと、半ば覚悟していた。その性格からすると強引に誘ってくることも想定していた。しかし、実際にセクハラは全くなかった。
だから、彼のそのようなソフトな言い回しを、少し意外に思ったのだ。
そう考えて彩香が黙っていると、反町は「君が欲しいんだ」と改めて言ってきた。
(続く)