表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
98/615

第97話 拠点には戻れない

 部屋に戻った俺が話を終えると皆が険しい顔をしている。俺から聞いた情報で何かが気になったらしい。ヘリコプターを撃墜したのだから、安心するかと思ったのだがそうでもないようだ。しん…と静まり返った中で俺が口を開く。


「何か気になる事があったか?」


 ヤマザキがもう一度、俺に確認してくる。


「花山組って言ったんだな?」


「そうだ」


 それを聞いて皆が沈み込む。ユリナがポツリと言った。


「自衛隊とか米軍じゃなかったんだ」


「ジエイタイじゃない。ハナヤマグミと言った」


「それね。ヤクザよ」


「ヤクザ?」


「私もテレビのニュースで聞いた事あるくらいだけど、花山組系暴力団って言うのは各地にあるみたいなの。抗争とか、組員が発砲事件を起こした時に聞いた事がある名前よ」


「ヤクザとは? さっき暴力団と言ったな。盗賊みたいなものか?」


「市民を脅してお金を得たり、違法な仕事で稼いだりしてるみたいな奴らよ」


 するとタケルが言った。


「なんつーかよ。俺もやんちゃな時に目を付けられたことがあってよ。だけど馬鹿やめてレースに行ったら姿を現さなくなった。一歩間違えばだったが、俺は全くその気はなかったんだ」


「大きな組織なのか?」


 するとヤマザキが答える。


「そうだな。八千人とも九千人とも言われる組織だ」


「そいつらは警察車両とかヘリコプターを扱うのか?」


「わからん。もしかしたら抱きかかえたのかもな、無秩序になって幅を利かせているんだ」


「ニホン中にいるって事か?」


「はっきりはわからん。こんな世界じゃどうなっているのかもな」


 小さな懐中電灯に浮かぶ皆の顔に疲労の影が落ちる。せっかく温泉に行って気分が上がったというのに、皆で立てた目標が台無しだ。だが俺は皆を勇気づける為に言う。


「何を落ち込んでいるんだ? たかだか九千人じゃないか」


「たかだかって…」


「やりようによっては壊滅だって出来るさ」


「そんな集団をどうやって?」


「まあコツコツやるしかないかもしれんが…」


 また皆が下を向く。しかしこうしてばかりもいられなかった。


「まずは今日をどうするかだろう。ヘリコプターに乗ってみて分かったが、下を走る車の音は聞こえないはずだ。ライトを付けずに走ればここを脱出できる」


 ヤマザキが聞いて来る。


「拠点に戻るのか?」


「空から来れると言う事は、拠点は安全じゃない」


 するとタケルが大きく頷いて言う。


「だな。銃も危険だがロケットランチャーなんかぶっ放されたらイチコロだ」


「それはなんだ?」


「ほら、DVDでみたろ。肩に担いで、ドカーンって撃つやつ」


「あれか…、確かにビルに撃ち込まれたらひとたまりもないな」


 それを聞いて皆が身震いする。ユミが皆に言う。


「拠点を移すしかなくない?」


 マナも頷いた。


「そうだよ。ゾンビは高い所まで来ないとしても、ヘリで突然襲われたらひとたまりもない」


 それを聞いたミナミが聞き返す。


「ということは、東京を出ると言う事?」


 皆がなんとなく頷くが、俺は首を振った。


「さっき皆が言った通りなら、あちこちに盗賊のような奴らがいる事になる。いちいちそいつらから逃げて生きるのか?」


 ツバサが声を荒げる。


「だけど! 仕方なくない?」


 次にユミが怒ったように言う。


「いつもヤクザを恐れて生きるなんてやだよ! ゾンビだけでいっぱいいっぱい!」


 それにユリナも頷いて言う。


「あいつらヤクザは、病院に入院している人も平気で襲う時があるからね」


 しかし、ミオはそれに首を振って言った。


「でも、何処に逃げるの? 東京を出たとたんに、また空港であったような事にならない? 葵ちゃん達の避難所もやられたのよ!」


 ヤマザキがそれに答える。


「山奥ならどうだ? 流石にヤクザも来ないんじゃないか?」


 ミオがそれに首を振る。


「そもそも、食糧はどうするの? 動物がいるかどうかもわからないし、作物だって育てられるか分からないよ」


 それを聞いてマナが言った。


「食糧を出来るだけ回収して持って行くとか?」


 タケルがそれに答える。


「いや。そんなの一瞬だろうし、よほどの山奥じゃないとゾンビだって危険だ」


 またヤマザキが案を出す。


「なら島はどうだ? 島に渡れば隔離されるんじゃないのか?」


 ツバサ首を振って言う。


「そこをヤクザや愚連隊に見つかったら? 船じゃ逃げれない」


 話は堂々巡りだった。ツバサやミオの言う通り、このまま無防備に動けば皆が死ぬ確立が上がる。だがビルの拠点に戻るのは無理だろう。そのまま皆が言い争うように話をしていたが、それをアオイが遮るように手を上げて言う。


「あの! いいですか!」


 ヤマザキが聞いた。


「なんだい? 葵ちゃん」


「インターネットで見た事があるんです! もしかしたら、そこがビルよりも安全なんじゃないかって思うんです!」


「安全な場所?」


「ヒカルお兄ちゃんがいればどうにか出来るんじゃないかって! いきなり爆破される事もないんじゃないかな?」


 俺がアオイに聞く。


「アオイ、どう言う事だ?」


「上がダメなら、地下はどうかなって!」


「地下? 詳しく聞かせてくれ」


「学校で国会見学をした時に調べたことがあって、国会国立図書館というところがあるの。そこは地下八階まであって、重要な書物とかを全て保存してあるんだって!」

 

 それを聞いたミナミがポンっと手を叩いた。


「知ってる! 書庫があるんだよね。地下八階まであって全てが書庫になってるんだ」


「うん!」


 俺はアオイの頭をポンポンと撫でて言う。


「いい情報だ。ヤマザキ、そこを改良すれば何とかなりそうじゃないか?」


「確かにな。だが今からか? どうする?」


「夜のうちにそこに向かう。物資は後から回収すればいい」


 皆に緊張の色が走った。平和な拠点には戻らずに新たな場所へと移動する。そこがどんなふうになっているのかも分からない為、皆で行くとしても危険であることは否めない。


 ヤマザキが言った。


「みんな! 恐らく選択肢はない。一度そこに皆で向かって情況を把握する必要がある。既にヘリが戻らない事で、ヤクザは動いているかもしれん」


「よっしゃ急ごうぜ! 図書館の地下とやらに隠れよう! 皆! 俺達だって銃を持ってるし、なんとかなるって! なあヒカル! そうだろ?」


「ゾンビなど恐るるに足らん」


「決まりだな! 行こう!」


 タケルが皆を励ますように大きな声で言った。するとそれにユミが言う。


「あんたね! 声が大きいのよ! ゾンビが寄って来ちゃうでしょ! 図書館行ったら静かにしてよ!」


「わーったよ!」


 二人のやり取りで若干の笑いが生まれた。冷静にヤマザキが言った。年の功と言うやつだろう。


「そこに行くまでに新宿の拠点を通るぞ」


 それに俺が答えた。


「なら立ち寄って、武器と物資を回収して行こう。夜が明けるまでに物資の運び込みまで終わらせる」


「おう!」


 俺達の次の行先が決まるのだった。俺が先頭に立ち、玄関を開けると外にゾンビはいなかった。アオイがしがみついて来るので肩車してやった。


「タケル! 後ろから来たら容赦なく撃て!」


「了解」


 俺達は道路のバスに向けて足早に階段を降りていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ