第95話 ヘリコプターとの戦い
建物に入るとそこには、皮や肉が残った獣の骨が多数転がっていた。どうやらここは動物を飼っていたか、売っていたかしていた施設らしい。同じような建物が数棟建っているので、かなりの数の獣を飼っていた事が分かる。藁を積み上げているので恐らくそれが餌なのだろう。
その獣の死骸の中からもぞりと動くものがあった。俺が入って来た音に気が付いたゾンビだった。刺突閃でゾンビの頭を吹き飛ばし更に次の棟へと進む。
「ここも同じか」
次の建物にも獣の死骸が転がっている。恐らく檻から出られずに餓死してしまったのだろう。三棟目にもゾンビがいたのでそれを処分した。まだヘリコプターの音はするので、どこかに飛び去ってはいないようだった。
壁の陰に潜み、ヘリコプターの音がする方を見ると周辺を飛び探し回っているようだ。俺は体を低くして、建物の前に止まっていた車の脇に潜む。車に鍵はかかっておらず、俺はドアを開けて発煙筒を取り出した。
再び建屋に戻り、壁際に積み上げてある藁の所に戻る。発煙筒をこすって発火させて、その積み上げられた藁の山に放り投げた。すぐさまその建物を出て、電線が伝う鉄塔の方に全力で走る。数秒で到着し鉄塔の上へ上へと昇っていき、振り返れば動物飼育の建物からもくもくと煙が上がっていた。
「よし」
ヘリコプターはその煙に向かって飛んできていた。俺はしばらく鉄塔の上で様子を見る事にする。建物の延焼はどんどん広がり上空は黒い煙で視界が悪くなってきている。ヘリコプターが到着したことで、その煙が拡散されて広がっていった。
ヘリコプターはそれを避けるように、煙から距離を取り始めた。その周りを大きく弧を描くように回っている二機のヘリコプターを見て、俺は予想通りだと確信した。空を飛んではいるが、その動きは緩慢で捕えやすいのだ。
「来た」
俺は鉄塔と鉄塔を繋ぐ電線の上を走り、丁度ヘリコプターが上空へ差し掛かったところで飛びあがる。そしてヘリコプター下部についている足にぶら下がる事が出来たのだった。ヘリは突然大きく揺れて右へと流れていく。どうやら俺が足にぶら下がったために、重量に差が生まれてしまったのだ。それだけこの乗り物が繊細だと言う事が分かった。
チラリと上を見上げると、銃を構えた男の足が見える。俺はその足を掴んで外へと放り投げた。男は突然の事に驚きヘリコプターから落下していった。
ヘリコプター内部から声が聞こえる。
「おい! 落ちてったぞ!」
「バランスを崩したから滑ったんだろ」
「煙で視界が悪い! とにかくここを離れよう」
「もう一機にも通達したほうがいい」
「あー、聞こえるか? 一旦離脱しよう。視界が悪くてバランスを崩した。一人ヘリから落ちたんだ」
話が終わるとヘリコプターは煙から遠ざかっていく。俺は足に絡まるように掴まった。しばらくそのまま飛んでいくと、もう一機のヘリコプターが近づいて来た。すると上から騒がしい声が聞こえて来る。
「なに? 落ちてねえ?」
どうやらもう一機のヘリコプターが俺を見て、仲間がしがみついていると思っているらしい。
「おい、下にしがみついてるってよ! 引き上げてやれ」
「はい!」
そしてヘリからまた男が顔を出したので、その襟首をつかんで外に放り投げた。
「うわ!」
「また落ちたぞ!」
俺は剣を抜いてするりとヘリコプターの中へと乗り込んだ。すぐに一人の男と目が合った。
「なっ!」
俺はそいつを掴んで外に放り投げる。
「うわぁぁぁぁ」
すると操縦する前の二人が俺の方を振り向いた。
「な、なんだてめえ!」
「どっから来たんだ?」
「それは俺の台詞だ。お前達は何者でどこから来た?」
操縦席の隣りの奴が銃を取り出したので、日本刀で後頭部から貫いた。操縦している奴がそれを見て慌てる。
「ま、まて! 俺を殺せばヘリコプターは落ちるぞ」
「かまわん。答えろ」
男はトランシーバーを取って叫んだ。
「ヘリ内に侵入された!」
次の瞬間そいつの額からは俺が刺した刀の先が出ていた。俺は刀を引き抜きヘリコプターから飛び降りようと進入口に立った時だった。
ガガガガガガ! といきなり銃撃される。金剛と結界により俺は体を後ろに弾かせながらも留まる。そしてヘリコプターの反対側に行き、次の瞬間ヘリコプターをけり出して俺を狙ったヘリコプターの中に飛び込んだ。そのまま銃を撃っていた一人の頭を掴んで、奥の一人の頭にぶつける。
ビシャ! という音と共に二人の頭が弾けた。勢いで転がったもう一人男の額に日本刀を差し込みながら、左足で操縦席の隣りに座る男の首を蹴り折る。
「くけ!」
変な声が出た。操縦している奴が慌てて銃をとろうとしたので、手の甲を刀で差した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「騒ぐな。操縦しろ」
「うぐぅぅぅ」
そして俺はそいつに聞いた。
「おまえは何者だ? 何処から来た?」
「て、てめえ! 花山組にたてついて生きていられねえぞ」
なるほど。ハナヤマグミという集団に属しているのか。
「その本拠地に飛べ」
「ば、ばかやろう。どうせ殺される!」
「仲間を殺すのか?」
「ヘマをしたら仕方ねえ」
「ならこのまま下に下ろして、このヘリコプターを俺によこせ」
「はん! お前を道づれにしてやる!」
そいつはそう言うとヘリコプターが急降下し始める。見る見るうちに地面が近づいて来たので、俺はすぐさまヘリコプターから飛び出して着地した。ヘリコプターは地面に激突して爆発してしまう。
「見上げたものだな」
俺は刀の血を振り払い鞘に納めた。爆発したヘリコプターに向かって次々にゾンビが群がっていく。俺はその場から離れ街の方へと歩き出すのだった。
他にもヘリコプターはいるのか? それにここはどこなんだ?
ヘリコプターは住宅地に落ちた。だが全く見慣れない町に落ちた為、道を記憶していなかった。通って来た高速道路を見つけたいところだが、どっちの方角にあるのかも検討がつかない。
「車を入手するか」
俺はそのあたりに止まっている車に近寄る。だが壁に激突したらしく、前部が大きくひしゃげていた。かつ運転席にゾンビがいて、ベルトに絡まれ車から出てこれないようだった。それを無視して、更に他の車を探して一台ずつエンジンをかけて行く。乗っているゾンビはすぐに斬り捨て、外に放り出してエンジンをかけてみる。
チュチュチュッ。ブルーン!
かかった。
だが俺は不服だった。何故ならばずんぐりむっくりした黄土色の小さな車だったからだ。小さくて見るからに脆そうだった。
「まあ背に腹は代えられん」
そして俺はその小さな車に乗り込み動かしてみる。だがその車は非力で全く加速しなかった。身体強化で走った方が早いが、東京まで持続するのはいささか厳しい。俺はその車で走り出す。
ガン! ゴン! とぶつけながらも、道路を進んでいくと標識が出てくるがなんと書いてあるのか分からない。
「読めるようにしておかなければな…」
目の前の道に車が散乱していたので、突っこんでその幅を広げようと思った。だがなんと俺が乗った車はぶつかり負けて、動かなくなってしまうのだった。
「脆いな」
俺はその車を降り、もう少し頑丈そうな車を探し始めるのだった。




