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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
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第81話 襲われた人達

 俺達はそのままスーパーに午後まで待機していた。だが追手は来ず俺達の周りにはただゾンビがいるだけ。盗賊から奪った物資の中からチョコを取り出し、タケルとスーパーの屋根の上で食っていた。もちろん周囲におかしな動きが無いかを監視していたのだった。


 タケルが言う。


「来ねえみてえだな」


「ああ」


 そしてチョコを見つめながら言う。


「結構いいもんあったな」


「皆も喜ぶだろう」


「だな、フリーズドライではあるけど缶詰じゃない肉が食えるぜ」


 二人はチョコを食い終えて、スーパーにあった自販機から回収したジュースを飲む。


「恐らく追手は来ない。行くか?」


「行こうぜ」


「ここで待っていろ」


 そこにタケルを置いて屋上から飛び降り、周囲に集まっていたゾンビを飛空円斬で斬る。そして再び屋上に飛びあがり、タケルを連れてトラックまで行くのだった。


 タケルが周りを見て言う。


「えーっと。スーパーの看板は松戸店って書いてあるな。だと、こっから葛飾を越えて足立区に入るか。都心部なら絶対につけてはこらんねえだろ?」


「任せる」


「んじゃあよ。俺がトラックで先行すっから、ヒカルは適当について来てくれ」


「わかった。適当に邪魔な物を排除していく」


「頼んだ!」


 タケルがトラックを出発させ、俺がその周囲をバイクで走りながら邪魔な物を推撃で飛ばした。そして、それから四十分くらい走った頃だった。俺の耳に俺達の車と違うエンジン音が聞こえた。


 まさか、つけられている? だが方向が違いすぎる。


 俺はバイクを走らせながら、タケルの運転席の隣りに寄せて叫んだ。


「タケル!」


「ど! どうした? 追手か?」


「わからん! とにかく方角がおかしい」


「どういうこった?」


「北西からこっちに向かってきているようだ」


「マジか…後ろからじゃねえんだ」


「停めろ」


 そしてタケルがトラックを停め俺もバイクを止めて、二人でエンジンを切る。俺が集中して探り、詳細をタケルに伝えた。


「数台いるぞ」


 するとタケルが窓から顔を出して耳を澄ます。だがタケルには全く聞こえないようだった。


「わからん、どっちだ?」


「恐らくこのまままっすぐ進むと、そいつらに遭遇するだろう」


「四号線あたりか…」


「前に走った道か?」


「まあそうだな」


 どう言う事だ? 俺達の事を探して追いついたにしては、見当違いの方向に走っている。もしかしたら盗賊とは全く違う車かもしれない。


「盗賊じゃないとは考えられないか?」


「まあ、無いとは言えねえけどよ。確認はしておかねえとな」


「行こう!」


「わかった」


 俺達は再びエンジンをかけ、俺が先行して車の音がする方に向けて走り出す。タケルのトラックが俺の後をぴったりと付いて来ていた。俺は走りながらトラックの隣りにつけてタケルに言う。


「タケル! 右から回って四号線に出れるか?」


「よっしゃ」


「このまま真っすぐに進めば、俺のバイクが車列に遭遇する。後ろから回り込んでトラックで逃げられないように塞ごう。挟み撃ちだ!」


「責任重大だな」


「いざという時は、その銃でぶっ放せ」


 するとタケルが嫌そうな顔をした。


「あんま、それ使いたくねえけどな」


「躊躇するな」


「あいよ」


 そしてタケルのトラックが道を右折していった。道路に多少の車はあるものの、トラックで蹴散らしながら進んでいく。


「よし」


 俺はそのまま直進する。すると人間の気配が感じ取れるくらいの距離にまで近づいた。おおよそ三百メートル先にそいつらは居る。だがこのまま行くと俺が四号線に到着する前に、前を通り過ぎてしまうだろう。


 「先回りするか」


 俺は道を左に曲がってアクセルを全開にした。高速で目の前に現れるゾンビや車を避けつつ、直進して右に曲がる。そして真っすぐ行くと、記憶している四号線が見えて来た。丁度、十字路で俺のバイクとその車列が交差した。俺はそのまま左に曲がって、先頭の車の横につける。だが…運転席の男はハンドルに突っ伏しており、そのハンドルを隣に座る誰かがおさえていた。


 なんだ? 


 先頭の車が蛇行し始め、道端のガードレールに接触しながら進む。


 パン! パン!


 いきなり後方から銃声がして、俺の左右を弾が通り過ぎた。後ろを見ると、銃を持った男達が車の窓枠に座ってこっちを狙っている。俺はすぐにバイクのブレーキとアクセルを操作して百八十度方向転換し、その車に突っ込んでいく。すれ違いざまに銃を撃つ男の腕と首を刎ねた。その後方にも二台の車がいた。俺がそれをやり過ごして進むと、タケルのトラックが走って来る。


「ヒカル! あれはなんだ?」


「分からない! 追われているようだ!」


「後ろには逃がさねえ! 助けてやってくれ!」


「わかった!」


 俺は再び前を走る車をごぼう抜きして、蛇行している車の脇につけた。


「停めろ!」


 だが中の人間には俺の声は届かなかった。そうしているうちに、車は道路の真ん中にある中央分離帯に激突してしまう。


 キュッキュッキュッ! 俺は急いでバイクを止めて、その車に駆け寄るが中の人間は動かなかった。するとその後ろから数台がやってきて、いきなり銃を撃ち始めた。バイクを飛び降り縮地で、その車に近づき冥王斬で中の人間を車ごと斬った。その後ろにも二台いて銃を撃ってきた。俺がその車に隠れていると、タケルが二台の車の後ろから、思いっきり激突して蹴散らした。


「ぐあ!」

「わぁ!」


 車の側にいた奴が潰された。俺はその車のドアを掴んで引き剥がし、遠くに放り投げる。中にはトラックがぶつかった衝撃で転げた男達が居たので、刀を突き刺して絶命させた。


 ガチャ。最後の一台から、よろよろと男達が出てきたようだ。


 スパスパスパ!


 全ての男の首を刎ねるとおとなしくなる。他に敵が居ないか周囲を警戒するが敵は居ないようだった。俺はすぐさま追われていた車に駆け寄り、ドアを掴んで開けようとする。だがボコボコにへこんでいるため普通には開かなかった。俺はそのままドアを引きちぎるようにして投げ飛ばし、運転席の男と中に座っている小さな子を掴んで引っ張り出す。


 ボゥ! と車の前部から火が出て来た。離れた所に二人を置いて、後ろに乗っている人を助けに行こうとした時だった。轟音を立てて車が急激に燃え始めた。結界と金剛で身を包み、炎の中に突っ込んで二人を引きずり出す。


 ゴオオオオオオ! いきなり車が強く燃えだしてしまった。


「大丈夫か!」


 だが残念ながら、後ろの二人は裂傷と火傷で死んでいた。俺はすぐにさっき前の座席から助けた二人の元へ行く。


 俺はそこに倒れている少女に見覚えがあった。


「アオイ!」


 なんと小さい女の子は、以前出会ったアオイだった。どうやら覆いかぶさるようにしていたのは父親だ。俺はすぐさまアオイに回復魔法をかける。気を失ってはいるが傷を塞げば何とかなるだろう。問題は父親の方で、裂傷を塞いでも内部がかなりやられている。


「う、ううん…」


「アオイ!」


 俺の声にアオイがうすぼんやりと目を開く。


「あ、お、お父さん…」


 気が動転しているのか、目の前にいるのがだれか分かっていない。


「アオイ」


 すると少しずつ焦点が合って来る。


「お…にい…ちゃん」


「そうだ!」


 アオイが体を起こし、目の前の父親に気が付く。


「お父さん!」


 だが俺にはそれ以上どうする事も出来ない。内臓の損傷が激しすぎて、俺の回復魔法では傷を塞ぐのがやっとだった。父親が呻くように言う。


「あ、お、い…」


「お父さん!!」


「葵…よかった無事か…」


「うん…」


 そして父親の目線が俺に移った。


「あ、あんたはあの時の」


「ああ、一体どうしたんだ?」


「お、襲われて、ごほっゴホッ」


「いい、しゃべるな」


 父親は倒れている人を見て言った。


「家内は…」


 俺は静かに首を振る。


「そうか…。あの…ゴホッ!」


「なんだ?」


「葵を、葵を頼む」


 すると泣きながらアオイが父親の胸にしがみつく。


「お父さん! 頑張って生きて!」


「…」


 そしてアオイが俺を見ていう。


「お父さんを助けて!」


 だが約束する事は出来なかった。エリスが居たなら…


 そこにトラックから降りてタケルが来た。


「なんだ! 葵ちゃんじゃねえか!」


「あ、お兄ちゃん」


「こりゃ…いったい…」


「う、ううう」


 とにかく、このままこうしているわけにはいかなかった。


「タケル。荷台を開けてこの人達を乗せよう」


「わかった!」


 タケルと俺がトラックの荷台を開け、少し中身を捨てて空間をあけた。そこに既に死んでしまった二人を乗せ、そして運転席の後ろにある寝台に父親を寝かせた。アオイは助手席に座らせる。


「タケル! トラックをここから離してくれ!」


「わかった!」


 タケルがトラックを先に進め、俺は追いかけて来た車の残骸に向かって剣を構えた。


「フレイムソード!」


 数発のフレイムソードを発動させて、全ての遺体と車を焼いた。俺達が捨てた物資も全て焼き尽くす。


「タケル! 行くぞ!」


「ああ、四号線から逸れて東京に入るからよ。ヒカルは後ろをついて来てくれ」


「そうだな。何処に盗賊がいるか分からん」


「ああ、もしかしたら違う盗賊かもしれねえし、とにかく急いで立ち去ろう」


「わかった」


 そして俺のバイクとタケルのトラックは、その現場から更に西に向かって走り出した。四号線を行くのを断念したために、更に時間はかかりそうだが、敵に悟られない為の対策を打たねばならなかった。

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