第684話 巨大脳が贈る特等席と嵐の前の晩餐
俺達は黙ってオオモリについて歩いているが、タケルが最初に口を開く。
「大森。大丈夫か? 俺達はだいぶ目立つぞ」
「問題ありません。三キロ先に移動用のトラックがあります」
「へっ? 大森がやったのか?」
「いいえ。意識体からの指示です」
「大丈夫なのかな?」
「わかりません。ですが何かあったらよろしくお願いします」
オオモリがチップで受け取る情報を元に、雑木林を三キロほど進んだ。すると街が現れて、その先に、ガレージらしき場所が現れる。
「あれですね。車屋らしいです」
「どうするんだ?」
「念のため、ロシア語を話せるクキさんと、見た目が西洋人のヒカルさんが僕と来てもらっていいです?皆さんはここで待っていてください」
俺が、振り向いてタケルに言う。
「皆を守れ」
「わーってるよ」
三人が雑木林を出て、車屋に行く。そこには車が数台並んでいて、俺達が行くと中から人が出て来る。
「やあ、どうも」
ロシア人の男が、近づいて来た。俺とクキが、軽く身構える。
「あんた、ビクトル・キムだね」
「そうです」
オオモリが何のためらいもなく答える。するとその男が、タブレットを出して顔を見比べている。
「間違いない。ここに触れて」
オオモリが自然に、そのタブレットに触れた。
ピッピッ。
「指紋認証も問題ない」
「用意できてます?」
「もちろんだよ。前金をありがとう。車は整備済みだよ」
「ありがとうございます」
そしてそのまま、男から鍵をもらいガレージに行くと、丈夫そうなトラックが置いてあった。
「運送するなら、これはパワーもあるしね。オーダー通りの車になってるよ」
「いいね」
車に乗り込み、エンジンをかけると問題なくかかる。
「ガソリンも満タンだ」
「あと、これはサービスだ」
「あ、これはどうも」
渡されたのは箱で、それを開くと、何かの食べ物らしきものが入っていた。
「メドヴィクだよ。街の菓子屋が朝届けてくれたんだ」
「ありがとう」
俺達は、そのまま乗り込み、その車屋を離れた。入り口を出て少し行くと、仲間が道沿いに出てきた。
「武さん。乗ってください」
「おうよ」
後ろの扉を開け、皆がトラックの中に乗り込んだ。扉を閉める前に、オオモリが言う。
「次は、全員の身分証を手に入れます。このまま、ティクシを目指します。すこし時間がかかりますが、少し辛抱してください。その前に、これ、もらったケーキです」
皆が顔を見合わせるが、俺が言った。
「毒などはない。本当のケーキだ」
「じゃあ、皆で食べましょう」
「相当甘かったがな」
「疲れているから丁度いいわ」
扉を締め、そのまま車を走らせるが、道が悪くて揺れる。クキがオオモリに聞く。
「それで?」
「意識体に言われたとおりであれば、全員分の身分証明書が出来ているはずです」
「という事は、それなりの裏家業に会う訳だな」
「だそうですが、通常の倍の金額を払っています。意識体がですけどね」
「それは……オオモリが昔やった、あれに近いものか?」
「もっと巧妙ですよ」
「そんな事も出来るんだな」
「凄いものです」
そして俺達のトラックは、ある町に到着した。迷いなくトラックを走らせ、人気のない場所に停まる。
「ここまでは、ゾンビの被害も無さそうだったな」
「ここまでは、拡大していないのでしょうね。皆さんにはまた、ここで待ってもらうようになりますね。さっきは念のため九鬼さんにも来てもらいましたが、僕とヒカルさんだけの方がいいかも」
「わかった。では我々は待機していよう」
俺はオオモリと共にトラックを降り、後ろを開けてタケル達に伝えていく。
「ちょっと行って来る」
「気を付けて、何があるか分からないわ」
「大丈夫ですよ。ヒカルさんと行くんで」
「まあそうね」
トラックを降り、街道沿いを進んでいく。迷いなく進むオオモリに、いつ何があっても守れるようにしているが、特におかしな気配は無いようだ。
「ここです」
ある小屋の前に辿り着き、オオモリが扉の前に立ってノックをした。
「ケーキをとりにきました」
「入れ」
オオモリがスラスラと、ロシア語を話しているのが驚く。
「二人か?」
「そうです」
ドアを開けて中に入ると、二人の男が銃を構えていた。
「これは?」
「念のため身体検査だ」
俺と二人が体をまさぐられ、何も持っていない事を確認する。
「こっちだ」
銃を突き付けられながら、奥に入ると椅子が置いてあった。そこに、恰幅のいい男が入って来る。
「あんたら、なにもんだい? 随分金払いがいいな」
「ああ。必要なのでね」
「では、残金を払ってもらっても良いか?」
「あ。では、口座の確認をしてほしい」
すると、手下がパソコンを持って来て開く。オオモリがスマートフォンを操作する。
「では、入金を」
少し待っていると、パソコンを開いていた男が言う。
「入りました」
すると恰幅のいい男は、険しい顔を崩して手を伸ばしてくる。
「いいね。気に入った。相場の倍だがな」
「まあ、必要なのでね」
「しかも、たった二人で来るとはいい度胸だな。ビクトル」
「あんたは、金を払えば確実に仕事をするんだろ?」
「まあ、そうだな」
「では、中身を確認させてもらっていいかな」
「どうぞ」
シュッとバッグが滑ってきて、オオモリが開いて中を見る。ひとつひとつ開いて、ただ頷いた。
「いい仕事をする」
「そればっかりは、信用があるんでな」
「では、これで成立だね」
「ああ」
オオモリは俺に振り向いて、堂々と言う。
「じゃ、行こうか、セルゲイ」
「ああ」
俺達はそのまま、その建物を出て街を歩き始める。
「あいつら、ついて来たぞ」
「まけますか?」
「ああ」
俺はオオモリを担いで、一瞬で屋根の上に飛び乗る。追跡者が角を曲がって、きょろきょろしているのを尻目に、俺達は屋根から屋根に飛んで、皆の元へと帰って来た。
「お待たせしました。これで、大丈夫です。飛行機に乗れます」
シャーリーンが目を見開いた。
「仕事が早いですね」
「凄いのは僕じゃなくて、意識体ですけどね。ただ、指示通りに動いただけです」
「恐るべき頭脳です」
「まったくですよ」
それから俺達はトラックを適当な所に乗り捨て、空港に行く。そこには廃墟の様なターミナルがあり、それを見ながらミオが言う。
「昔のターミナルがそのままあるのかしら?」
それに、オオモリが答えた。
「意識体によると、ソビエト連邦の時に使われていた、旧ターミナルのようですね」
「大丈夫なの?」
「民間が入ってます」
「凄いわね」
まるで生き字引のように、オオモリが何でも答えて来る。答えているのは意識体だが、動きやすい。
「全員のパスポートと、航空チケットです」
オオモリが配って、皆が普通に空港ターミナルに入るが、問題なく通過した。そしてしばらくすると、搭乗のアナウンスが流れて、速やかに飛行機に乗る事が出来た。
「うっそみてえにスムーズだな。おい」
「ぼ、僕じゃないですよ。やってるのは」
「すげえわ」
それからまもなく飛行機が飛び立ち、目的の都市まで飛ぶ事になった。
「今までの事が嘘のように平和だ」
「世界で恐ろしいことが起きていますが、こちらのメディアには入って来てないようですね」
それを聞いて、クキが言う。
「情報統制か」
「でしょうね」
二時間ほどのフライトの後で着陸のアナウンスが流れ、俺達は普通に旅行者として空港に降り立った。
「ノヴォシビルスクの都市です」
「それで?」
「もう夜になりましたので、ここに滞在します。パソコンを入手し、現在の世界状況を把握しましょう」
するとそこで、アビゲイルがうっとりした顔で言う。
「テキパキとしている、ミスター大森も、良いですわね……」
女子たちが、ウンウンと頷きながら言った。
「わかる! なんか、いつもと違うよね!」
「博士の言う通りです。これはこれでいいと思います!」
ツバサとマナがそう言うと、アビゲイルの顔がパアアと明るくなる。
「流石は、大森だわ」
すると、タケルがいう。
「大森っつうか……それって」
だがそこで、ミオがタケルの背中を叩いた。
パン!
「いいじゃない。どうだって」
「痛って」
大森に誘導されて、俺達は良い景観のホテルに辿り着いた。フロントに行くと、更にホテルの方から、トランクケースが人数分出される。
「こちら、先にお送りしていただいたお荷物です」
「ああ、ありがとう」
そして、それぞれがそのトランクを引き、用意されていた部屋に入った。
「凄いな。これもか」
「そうらしいです」
そこでクキが開けてみると、服や靴、スマートフォンなどが入っている。
「これに着替えろってか?」
「はい」
更に、俺が驚いた。
「おい……俺のは、ルイ〇ィトンだ」
「それも、インプット済みだそうですよ。皆の服がサイズ通りだそうです」
それから、服を着替えて、スマートフォンを大森が設定する。しばらくすると、ドアがノックされた。俺が行って開けると、皆が煌びやかな服を着ている。
「これ……どういう事かしら?」
「まず、入れ」
そして、オオモリが言う。
「潜水都市を助けてくれたお礼だそうですよ。今日は、ディナーも楽しめそうです」
ツバサが唖然とする。
「すっご」
「至れり尽くせりね」
「まずは、食事でもしてから、話し合いをするとしましょう」
タケルが言う。
「本当に、大森だよな? 変わってねえよな?」
「言われたままにやってるだけですって」
「そ、そうか……ならいいんだけどよ」
そうして俺達は小奇麗な格好をして、全員でレストランへと向かうのだった。




