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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
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第60話 拠点構築

 俺が同じ要領で屋上からバルコニーに降り、四部屋全ての鍵を開けて、皆が各部屋の確認をしていく。残念な事に一つの部屋には人間の死体があった。既に白骨化していたが、部屋の中に臭いが充満していたため窓を開け玄関も開けて換気する。


 俺とタケルとヤマザキがしゃがみ込み、バルコニーに集めた遺体とゾンビの残骸を見ていた。タケルがぼそりという。


「これどうするよ?」


 俺がそれに答える。


「捨てればいいだろ」


「どこに? 」


「こうだ」


 俺はバルコニーから外にゾンビと骨を投げた。どうせ下にもゾンビの残骸があるのだから、一体ぐらい増えたところでどうと言う事はないと思う。


 するとヤマザキが言う。


「なんというか、ヒカルはそういう事をするのに抵抗が無いようだな」


「どういうことだ?」


「恐らく生きて来た環境が全く違うからかもしれん」


「ここは囲いの中の都市じゃない。モンスターが跋扈する地に建った塔だからな。前世では塔を攻略する時には、邪魔なモンスターは外に捨てていたぞ」


「なるほどな。俺の感覚じゃ一応ここは東京のど真ん中だからな、高層ビルから物を捨ててはいけないと体に染みついている」


 普通の世界なら確かにそうだろう。ここが居住区であったなら、もちろん俺もそんな真似はしない。それにこんな高さから物を落としたら、下にいる人間が死んでしまうかもしれない。


「まあ…生きた人間が下を通る可能性もあるか…」


「いや、その可能性は低いとは思うが」


「今度から気を付けるよ」


「まあ俺も気にし過ぎだな。俺は未だに日本の常識にとらわれ過ぎてるのかもしれん」


「俺も気を付けるようにするさ」


 そんな話をしている俺達の側で、タケルが窓ガラスから部屋の中を覗きながら言う。


「でよ。女達はこの、人が死んでた部屋は嫌だって言ってるぜ。てことは俺達がここに住むことになるよな?」


「まあそうだな」


「今のままだと部屋がかなりくっせえから、何とか出来ねえかなと思って」


「掃除しただけではダメか?」


「臭いはなかなか取れねえぞ。死んでた場所をキレイにしてえし、ベッドは取り替えたいよな?」


 確かにここを拠点にするなら、その方が良いだろうが代えの物などあるのだろうか?


「キレイに出来るならしたいが、新しいベッドはどうするんだ?」


「んなもん。食料品ならいざ知らず、多分そんなもんは腐るほどあるぜ。なんたってここは東京だからな」


「そういうことか! タケル東京ってのは何でもあるんだな? ならば視察も兼ねて周辺の探索をした方が良いだろう。ついでに見て回ると良い」


「よっしゃ、じゃあトラックの食糧を運び終わったら、食料品と掃除道具と新しい家具を探しにいこうぜ!」


「おもしろい!」


「だろ? 夜の方が目立たねえだろうしよ」


 俺とタケルが話していると、ヤマザキが呆れたように言う。


「おいおい、お前ら夜に出歩くって言うのか?」


「何故だ?」


「体を休めて、明日の朝から行動したほうが良いと思うんだが?」


 するとタケルが言う。


「いや、山崎さんよ。こんなワクワクした気分で寝てなんかいられねえよ」


「ははは…、タケルもかなりヒカルに影響を受けてるようだ。ゾンビがうろつく東京の夜を、ほっつき歩く事がワクワクするなんてどうかしてる」


 タケルに変わり俺が言う。


「むしろ夜の方がゾンビに見つかりにくいんだがな」


「てかこっちも分からんだろう?」


「俺がいる」


「まあ…そうだな。これからの動きも変えて行かなくてはならないと言う事か?」


「そう言う事だ。それにもう一つやっておきたいことがある」


「なんだ?」


「下の階段の入り口数か所に、バリケードを作る必要がある。幸いにもバリケードを作る物資は大量にあるしな」


 ヤマザキが納得したように言う。


「わかった。それなら皆でやろう」


「いや。それだと時間がかかる。俺一人でやった方が良いだろう。皆が周りにいるとかえって危ないからな」


「そう言う事なら、邪魔をしないようにするか」


「すまんがそうしてくれ。まずはトラックの食料品を搬入する。トラックを入り口付近に移動させねばならん」


「わかった」


 そして俺達は居住区の整理を女達に任せて下に降りる事にした。するとヤマザキが言う。


「はあ…、またこの階段を下りるのか」


 するとタケルが言った。


「山崎さん。トラックを移動させるだけなら俺がやるさ。鍵をくれ」


「いや、俺だけ行かないと言うのも」


「無理すんなって山崎さん。もうヘトヘトだって顔に書いてあるよ」


「す、すまん。流石に限界に近い」


 俺もヤマザキに言う。


「その部屋は少し臭うから、女に頼んで他の部屋に入れてもらえ」


「わかった。悪いな」


「問題ない」


 そう言って俺達はヤマザキと別れ、階段を降り始める。


「タケルは疲れてないのか?」


「体力には自信あんだよ。てか最近ちょっと体がなまってたからな、鍛えるには丁度良さそうだと思ってよ」


「なら行こう」


「おお」


 それから数分後に俺達は一階の自動ドアの前にいた。


 そして俺がタケルに告げる。


「俺が一度外に出て周囲のゾンビを始末してくる。俺がこのドアを出たら一旦鍵をかけろ」


「あいよ」


 俺は自動ドアを開けて外に出た。気配探知では既に数十体のゾンビを確認している。まずはビルの前の広場に集まっているゾンビ達を見渡す。


「六体」


 俺は速攻でゾンビの頭を飛ばした。


「すぐ前に二台の自動販売機があるか…」


 俺は位置を覚える。そしてすぐに左に向かって走り出した。


 見える路地に二体、左に曲がって四体。


 疾風の如く走り抜け、バールでゾンビの頭を飛ばしていく。気配が無くなったので、来た道を戻り今度は左の道の奥を見る。


 十三体か。


 縮地で近づいてすぐさま頭を飛ばして行く。坂道になっており、この通りにはそこそこゾンビがいた。あらかた片付いたので俺は来た道を戻る。拠点にしようとしているビルを右手に見て先に進むと、タケルがビルの中から手を振っていた。


 ふっ、随分余裕が出たものだな。


 とりあえず俺は手を振り返して先に進んだ。道は左右に分かれている。


 こっちが少し多いか。


 右に九体、左に十三体ほどいる。俺はすぐに右に進みゾンビを始末した。そのまま引き返し、坂の下に向かってうろついているゾンビを全て始末する。


 後は建物の中に潜んでいるようだが、扉が閉まっていて出てこれないのだろう。今はそれを討伐する必要はない。時間がある時にこの区画一帯のゾンビを根こそぎやればいい。すぐにタケルの待つ自動ドアに戻った。タケルがカギを開けてくれる。


「お疲れさん」


「ゾンビなど、肩慣らしにもならん」


「おみそれしました」


「すぐに取り掛かろう」


 トラックを停めた所にタケルと一緒に向かった。俺が見張りタケルがバックで入り口の自動ドアにトラックを回していく。位置につくとタケルが下りてトラックの荷台を開けた。


 だが俺はタケルに言った。


「タケルはトラックに乗り込んでいろ。万が一があるといけない」


「すまねえな。腕が一本しかねえもんでよ」


「運搬は俺がやる」


 俺はトラックに積み込んでいた米と食糧、機材と衣類などの全てを自動ドアの中に積み上げていく。トラックを空っぽにして俺はタケルの元に行く。


「終わった」


「はええな」


「造作もない」


「積んだ時もすげえと思ったけど、何ちゅう力してんだよ」


「このままトラックを入り口のところまでつけれるか?」


「ああ」


 そしてトラックで一か所の入り口に蓋をした。まあ周辺に植え込みや柱があって完全に防ぐ事は出来ないが、じきに車を運んでここに積み上げれば良いだろう。


「入るぞ」


 タケルがトラックから降り、二人で自動ドアの中に入り鍵を閉める。


「念のため、盗賊がいるかもしれんからな。見える場所に物資を置けない」


「まあ東京にはいねえと思うけどな」


 俺は再び米を運び始め、死角になる場所に全ての物資を移した。


「よし」


「そんで、バリケードだっけ?」


「まずは三階の階段の入り口に作る」


「三階? 一階じゃねえのか?」


「さっき周囲を回った時に確認したが、このビルの向こう側は二階から中に入れるようになっていた。三階に作らないと意味が無い」


「なるほど」


 そして俺とタケルがビルの中に進む。すぐに最初のオフィスに入ってバリケードになりそうなものを物色する。


「机だけだと軽いな。これが良いだろう」


「コピー機だな」


「そこそこ重量があるようだ」


 俺がコピー機を持ち上げて階段の入り口に持って行く。そして再び戻り、今度は重そうなデスクが奥にあったのでそれを持って来た。それをコピー機の横に並べた。


「なんか、その社長のデスクがよ、発泡スチロールで出来てるみたいに見える」


「そうか? それほど重くはないが」


「まあヒカルが持つと重くなさそうだもんな」


 タケルと会話をしながらも、俺はとにかく重そうなものを運んだ。


 積みあがった場所を見てタケルが言う。


「これ、出入りはどうするんだ?」


「上を乗り超える」


「マジか」


「軽ければゾンビが侵入するぞ」


「そりゃそうか。これを他の階にもやるんだな?」


「そうだ。だが今日はここまでだ。周辺のゾンビも始末したし、入り口の鍵もかかっているからな」


「ヒカルの言っていた、ビルが安全ってのはこういう事だったのか」


「そういう事だ。更にゾンビには知恵が無いからな、人が誘わなければ上に上がって来る事は無い。まずはこれだけでも十分、上層階の安全確保ができている」


「まったく、そんな事は思いつかねえよ。まあ、俺は一緒に動けているからいろいろ覚えられて良いけどよ。生き抜いていく知恵はいろいろあんだなあ」


「まあヤマザキは年だし女達は体力がない。タケルが覚えれば他の奴にも教えられるだろ?」


「まあな」


「よろしく頼む」


「おうよ」


「なら食料を届けて来るぞ」


 俺が言うとタケルは器用にバリケードを乗り越えていく。


「おっ! ちゃんと足場があって越えられるようにはなってんだな」


「そうだ」


 するとタケルがバリケードの上から俺に言う。


「なんつーかよ。ヒカルって、すっげえ力もあるし戦う事も出来るけど繊細だよな」


「そうか?」


「マメっつうか、いろんなことが考えられていて慎重っていうか」


「じゃないと前の世界では生き残れなかったんだ。どんなに弱いモンスターでも手を抜いてはならないし、無防備にモンスターのいる場所の近くで眠るなんてことはなかった。生き残るために慎重すぎて悪い事は何もない」


「それは良く分かるぜ。俺はヒカルと行動して嫌というほどそれを知らされた」


「リスクは極限まで潰していく。だがリスクをとる事もある、東京を選んだのはあえてだ」


「人間の脅威にさらされない、つーこったな」


「そうだ。この世界でゾンビより怖いのは人間だからな」


「まったく…人間は何やってんだかな」


「俺の世界でもそんなことはあったさ。何処の世界にも自分の欲だけで動く奴がいるんもんだ」


「いやだねえ」


「ああ」


 話をしながらも食料をバリケードの向こうに流し、ガスコンロと水も渡した。食糧や水は全て米袋に詰め込んで運びやすいようにしている。


「じゃあタケル、バールを持っていろ。この館内のゾンビは完全に消滅させたから、ひとまずどこも安全だ」


「わかった。食糧を持ってくんだな」


「ああ」

 

 俺はパンパンに詰まった米袋一袋をわきに抱え、もう片方の腕に二袋ほど担ぐ。身体強化を施して階段を上に向かって突っ走った。二十一階まで十秒ほどかけて上がり、ドアをノックする。


 ヤマザキが出て来たので、俺は玄関に米と物資を置いた。


「早いな。もう持って来たのか?」


「そうだ」


「これからバリケードを?」


「いや、もう一カ所設置した」


「もうか? まったく‥‥驚かされる」


「じゃあ、皆と飯を食っていてくれ。俺とタケルは外に出る」


「気をつけてな」


 コクリと頷いて、俺が再び階段を下りた。上るより降りる方が早く八秒程度でタケルの元についた。


「おわぁ!」


「すまん驚かせた」


「てか、もう居住区まで行って来たのか?」


「ああ」


「笑える」


「なら笑って言え」


 いつものタケルとのやり取りをして、俺とタケルが顔を合わせてにやりと笑う。


「じゃあ、二階から外に出るぞ」


「楽しみだな」


 そして穴の開いたガラス窓を抜けて、俺はタケルを掴んで一階に飛び降りた。俺達二人は夜の東京へと消えるのだった。

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