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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第607話 天才への嫉妬と進化の暴走

 医薬品食品安全省トップの、ガブリエル・ソロモン。俺達が探していた、トップ四人のうちの一人だ。それが工科大学という、場違いな場所に潜伏していた。そして、アビゲイルが尋問を始める。


「なんで、あなたのような組織のトップがこんなことを?」


「研究だ。研究を進める為だ」


「リンクの研究と言う事かしら?」


 ガブリエルの視線が、若い研究者たちに向かった。だがタケルが言う。


「もう、お前の脅しは効かねえぜ」


 ガブリエルはすぐに目を外し、ボソリと言う。


「そうだ。あれは、救いの研究だ」


「救い? ゾンビ化した人間を操る事が?」


「……」


 図星を突かれて、焦っているようにも見える。だが、取り押さえている俺は、何故かコイツが落ち着いているように感じる。あれだけ痛めつけたというのに、そこまで心拍が上がってない。


「答えろよ」


 タケルが怒りをはらんで言うが、ガブリエルが慌てて答える。


「ゾンビ化じゃない、進化だ!」


「進化ですって? そんな訳はないわ!」


「いやいや。博士、あの素晴らしいものを見つけたのはあなたですよ」


「素晴らしくなんかないわ!」


「何をおっしゃる。あれは、この地球を根底から変える素晴らしいものだ」


 何故か、目をキラキラとさせて話し出した。


「根底から壊すの間違いです」


「はあ? あなたのような、天才がなんでそんな事を言うんです?」


「私は天才なんかじゃない。むしろ、厄災です」


「バカな事を……。あれほどの物を見つけた天才が、その価値に気づかないなど」


「あれに、価値などないわ」


 その尋問はむしろ、アビゲイルが押されていた。恐らく、彼女は研究者なので尋問に向かないようだ。だがそれでも、クキもシャーリーンもクロサキも黙っている。アビゲイルを尊重しての事だ。


「あなたは、この地球を救った天使なのに……こんな連中に毒されてしまって」


「違うわ。私は、私の意志でここに来ています」


「なら、尚の事。この素晴らしさに気づいているはずだ!」


 するとデルが、痺れを切らしてガブリエルを覗き込む。


「さっきから聞いていれば、信じられん! お前達は、とんでもない罪を犯したんだぞ!」


「罪? それは、何をもって罪と言うんだ?」


「俺を。ゾンビにした!」


 するとガブリエルが、目を光らせてデルを見る。


「す……素晴らしい。君は、そこにいる偽物とは違う」


「偽物?」


「そこの研究者たちは、作られたものだ。だが、君は天然で受け入れた! 素晴らしい事だ」


「してくれなんて、頼んでないぞ!」


 デルの怒鳴り声がして、ガブリエルと研究者たちがびくりと震える。


「貴様らが、俺の仲間達を殺した! どうやっても、償う事は出来んぞ!」


 ガブリエルが下を向き、ぶつぶつといいはじめる。


「まったく……どいつもこいつも……価値というものを……知らん」


「言いたいことがあるなら、はっきり言って」


 アビゲイルの言葉に、ガブリエルが声を荒げる。


「あなたのような天才に、私の気持ちなど分からない!」


「は?」


 いきなり、会話がかみ合わなかった。ただ、ガブリエルは感情をむき出しにしている。


「世界を覆すような発見を、やすやすと出来るようなあなたに、凡人の気持ちなど分るはずがない!」


「なにを……」


「そこの研究者たちは薬の力をかり、この軍人は自分の潜在能力をあげるのに、アレの出助けが必要だ! 生まれながらに、天才に生まれついてはいないのだ! それをお前は!」


「……そんな」


「とんだ、神様だよ!」


「私は、神などではありません」


「いや。創造主だ!」


 だがその時、俺は、コイツが落ち着いている理由が分かった。俺の気配感知に、三方向から試験体が近づいて来たのがひっかかったからだ。


「試験体が三体。ここに真っすぐ向かっている」


 研究者たちが青くなり、ガブリエルが高笑いする。


「うはははは。なぜ、気づいたかは分からんが! お前達は、ここで死ぬんだ!」


 絶対の自信をもって、俺達に宣言した。だが慌てているのは、研究者たちだけ。俺達は、ただ静かに試験体が来るのを待つ。


「なぜ慌てん? 逃げないと殺されるんだぞ!」


「いや、別に」


「べつに? そうかそうか! あれの恐ろしさを知らんのだな! 馬鹿め! ゾンビとは違うのだよ! あれは!」


「まあ……そうだな」


「まあいい! どうせ、お前達に逃げ場はない! あれは、地の果てまで追いかけるぞ!」


 そして、ミオがカウントした。


「くるよ。5、4、3、2」


「うははははは! 終わりだあ! お前達は死ぬんだ! ばーか! あはははは!」


 ガガン! と入り口のドアが吹き飛び、先ほどの増殖した筋肉にアーマーがついてるのが立っていた。


「屍人乱波斬」


 シュパン!


 居合で出した屍人乱波斬が、試験体をサイコロ上に崩していく。


「は?」


 ガブリエルは口をあんぐりと開けた。


「次! 5、4、3、2、1」


「屍人乱波斬」


 また、出て来た試験体がばらける。それを見ていた、タケルが大笑いする。


「うひゃひゃひゃひゃ! 出オチ二連発!」


「な、どういうことだ……」


「次、3、2、1」


 シュパパパパ! ボロボロと切れ落ちていく三体目の試験体に、ガブリエルが唖然とする。逆にタケルが腹を抱えて笑っていた。


「ぎゃーーーーははははは! 出オチ三連発!!!!」


 ガブリエルが目を見開いて怒鳴る。


「何があった? きさまら! 何をした!」


「破壊した」


「はかい……」


 だが、少ししてガブリエルが笑う。


「くっくっくっ! 壊しても無駄だ! すぐに復活するぞ! うはははは」


 ………………。


「あれ?」


「復活などせん。試験体の遺伝子レベルで消滅した」


「なっ、なななななななななな!! 何を言っている?」


「あんな、子供だましで、どうこうできると思っていたのか?」


「こどもだまし?」


「そうだ。子供だましだ」


 しばらく沈黙が流れる。研究者たちも唖然としているが、俺の仲間達がにやにやしている。


「馬鹿な! それは一体で、一個大隊レベルの強さなのだぞ!」


「なら、大したことないじゃないか」


「たいしたこと……ない? 一個大隊が?」


「ああ」


 ガブリエルが唖然と俺を見ている。つぎに周りを見渡して、呆然としていた。


「うそ……」


「嘘じゃない」


「うそだ! うそだうそだ! 最高傑作だぞ! 無差別に攻撃せず、対象だけを攻撃する非常に高性能のアンデッドなのだぞ!」


「もっと、マシなものを作るんだったな」


 …………。


 ガブリエルが呆然としていたが、突然、振り向いて後ろのガラスに手を突っ込んだ。ガラスの奥には、何かの青白い液体があり、それがガブリエルの腕を伝い、体に這い上がって来る。


「下がれ!」


 俺が言うと、仲間達が研究者たちを連れて後ろに下がる。この状況は今まで初めてなので、よく見ておく必要があった。後ろを向いたまま、ガブリエルが笑う。


「くくっ! あはははははは! 全員、俺が殺してやる!」


 ガブリエルが振り返ると、既にゾンビ化していた。目が赤く染まり、黒い血管が浮き上がっている。


「簡単にゾンビ化できるのか?」


「そうだ。もはや、人体改造などいらんのだ! あははははは!」


 だが俺達が見ていると、ビキビキと体が割れて来る。


「あ、あれ? う、うぐぅ! 暴走が! ああ! くそ! くそう!!」


 バグン!


 頭の一部が破裂して、触手が生えて来た。


「あぎぎぎぎ! ぐやじい! テンサイ! ニグイ! ゴロス! ぷしゅぷしゅ!」


 最後は言葉になっていなかった。そいつの全身が破裂し、触手が部屋中に爆発的に伸びようとした。


「きゃああぁぁぁぁ」

「うわああああああ!」

「ばけものだぁぁぁ!」


 研究者たちが真っ青な顔で逃げようとするが、仲間達がそれを制した。


「だめだ。廊下に出るな」


「殺されるぅぅぅ!」


 その触手が、仲間達や研究者に伸びようとした瞬間。


「ヘルフレイムフラッシュ!!」


 真っ黒い炎が、一瞬でガブリエルだったものを包み込む。炎で全てが焼き尽くされ燃えカスも残らず、部屋中に黒い炎が灯り、それが静かに消えていく。


「黒い火……」


 研究者の誰かが言った。俺は日本刀をしまい皆に言う。


「すまん。間違って殺してしまった」


 だがクキが笑って言う。


「ああなってしまっては、もう情報なんてとれなかったさ」


「そうか。すまん」


 だが、そこでタケルが言った。


「いやいや。これ、コイツのスマホ」


 皆がタケルを見る。


「「「「えっ」」」」


「さっきの騒ぎの一瞬で、パクったから」


 するとオオモリが言う。


「さっすが、タケルさん! 手癖が悪い!」


「てめえ……」


「いや、いい意味で」


「どこがだよ! こら!」


 タケルが俺にスマホを投げ、オオモリをつかまえてヘッドロックをかますのだった。

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