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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第589話 集まる人々と地雷を踏むクレイトン

 壊滅状態だったワシントンはセーフティーエリアとなり、米軍に助けられた市民が集まってきている。米軍は引き続き市民に協力を呼び掛けており、地獄のような死体の山を片付ける手伝いをする人も増えてきた。動く車は多くあるので、焼却場の公園には、あっというまにゾンビの死体が詰み上がっていく。

 焼却場の前には大勢の軍隊と手伝うための市民が待っていて、遺品になりそうな物は外して箱に入れ、名前が分かる者は箱に名前と遺品を入れて行った。


 クキが俺に言う。


「家族がいれば、渡してやるんだと」


「そうか。それはいいことだ」


「生きていればな。まあ日本でも似たような事はしてたが、意味はなさなかった」


 そこにはオリバーと父親も来ており、運ばれる死体を悲しそうに見ていた。ルーサーの子供は既に保護されており、孤児たちが集まる施設へと連れていかれた。そしてグレイブ・クレイトンが言う。


「悲惨じゃな」


「そうだね父さん。これがアメリカだなんて信じられない」


「うむ。国内で戦争などは、南北戦争以来じゃろ」


「これだけの事をしでかして、奴らはどう弁明するつもりでしょうか」


「弁明などせんだろう。大統領も言っていたが、これは宣戦布告に等しいからのう」


「もはや、元の世界に戻すつもりはないという事ですか……」


「始まったのじゃよ、奴らの言う世界の粛清というものが」


「何の権利があって……」


「権利などもとよりないさ。やつらには、戦争を起こすだけの目的があるのだろう」


 二人の話を聞きつつ、アビゲイルが懸念していることを考えている。敵が探している適合者の存在と、試験体やゾンビ化人間が入り込む危険性だ。


 そしてクキが言う。


「これだけ救出者が運び込まれれば、適合者とやらは絶対にいるんじゃないのかねえ」


「破壊薬が効かない感染者か……」


「チャンピオンのルーサー・ブルースのようにな」


「奴らは、それを探してる……か」


「そう考えると、このセーフティーゾーンのカラクリを知れば、奴らは適合者を探しに来るかもしれん」


 俺達がそんな話をしている側で、次々に感染者が運ばれ俺がゾンビ除去施術をしていた。オリバーと、俺達が話をしているとアビゲイルがやってきた。


「お疲れ様です博士。どんな様子ですか?」


「ええ、ミスター九鬼。ラインは安定してきました。こちらの様子は?」


「今のところは、ゾンビ因子の罹患者を治療するのみです」


 アビゲイルが椅子に座ったので、クキがペットボトルをとって差し出す。


「回収してるようです」


「ありがとうございます」


 アビゲイルはそれをごくりと飲み干して、少しトーンを落として言う。


「ちょっとした懸念があるのです」


「適合者と試験体の事ですかな」


「その前者です」


「適合者ですか」


「はい。ですが、それをアメリカ軍や大統領に伝えてしまうと……魔女狩りが始まります」


 彼女は険しい顔になる。オリバーもグレイブもその深刻さを分かっているようだ。そして、グレイブが俺達に言う。


「その話、いつまでも隠し通せるわけではありますまい。大統領の側近らも馬鹿ではない」


「はい。グレイブさん。もし適合者が入り込めば、このゾンビ破壊薬のセーフティエリアでは見極める事が出来ません。ただ……」


「ただ……?」


「その周りにいる人が、体調不良を起こしたり、最悪は亡くなったりするでしょう」


 ため息を吐きつつも、グレイブが聞き直す。


「博士。なぜそんな事が起きるのですかな?」


「ゾンビ因子を伝播させるんです」


「伝播? 感染とは違うのですかな?」


「違います。ゾンビは噛んで感染しますが、適合者のそれは、体液や汗などの飛沫や皮膚の接触だけでも伝播します。通常のゾンビ因子と違う為、症状が進むのが早いのです。適合者であれば、あのルーサー・キングのような超人になりますが、普通の人はゾンビ因子の影響で、体調不良を起こすか死に至ります」


「伝播するとは、そう言う事でしたか」


「はい。普通はゾンビになりますが、そうはならずに死ぬでしょう」


 グレイブもオリバーも黙って何かを考えている。


 そこでクキが言った。


「ま、いずれにせよ、異常値が出れば、軍は察知するだろうな」


「時間の問題かと」


 オリバーが顔を上げて、俺に言った。


「前もって防ぐ事は?」


「流石に出来ないだろう」


「ラッキーボーイをもってしてもか?」


「いや……巡回していれば、人間じゃないものの気配は察知できるが、これ程の数が運び込まれているとなると、特定までに特殊なスキルを使わねばならん。いまは、ここでゾンビ因子の除去施術をやらなければならないから、ワシントンの広範囲でそのスキルを発動させるのは無理だ」


「集中してそれをやれば?」


「ある程度の短い時間で、特定できる」


「ここを離れねばならんと言う事か?」


「そう言う事だ……まて。だが……もう一人出来る奴がいる」


「それは?」


「ミオだ」


「彼女が……」


「ミオは戦闘力が無い。万が一があるからダメだ」


 俺が言うと、オリバーもグレイブも頷く。そしてグレイブが言った。


「アメリカの事なのに、日本のお嬢ちゃんに命をかけさせるわけにはイカン」


「その通りだ父さん。アメリカの事は、本来アメリカでやらねばならない」


「だからこそ、日本人にはここに居てもらっているんじゃからな。大統領も、客人にそこまでさせるわけにはいかないと言っていたしのう」


 俺とクキとアビゲイルが頷くが、そこに声がかかった。


「聞いたわ」


「ミオ……」


 そこにはミオとミナミとタケルがいた。アビゲイルの休憩に合わせて、ここに休憩に来たらしい。それに対し、オリバーが首を振りながら言う。


「アメリカの事は、アメリカでやらねばね。聞き逃してくれ」


 だがミオがニッコリ笑って言う。


「こんなに困ってる人がいるのに? それに、工場の薬品製造のほうは人手が足りて来たわ」


「しかし……」


「ヒカルが動けないなら、私がやるしかないじゃない。助けられる命があるなら、やらなくっちゃだめ」


 そうミオが言った時だった。オリバーが突然涙を流し、グレイブも肩を震わせて泣き始める。


「なんと言う……心根の美しいお嬢さんだろう……」


「えっ? 泣かないでよ、お爺さん」 


 グレイブの背中をさすりながら、ミオが笑う。すると、オリバーが言った。


「ここまでやってもらって、回復の兆しが出るまで導いてくれて、あんたらは、なんでそこまで出来る」


 するとミオが、また笑ながら言う。


「人類が滅びるかもしれないのに? 人が人を助けるのに理由がいるのかしら?」


 ミオの言葉を聞き、二人はハッとして顔を上げる。


「なんだか、聞いた事がある……」

「たしか、国連本部の事件に現れた……」

「「正義の女帝」」


 二人の声が揃った。するとタケルとミナミが笑って、ミオの顔が真っ赤になる。


「そうだ! 正義の女帝だ!」


「君がそうなのか!」


 するとミオがブンブンと顔を横に振って、大きな声で答えた。


「違います! あんなのと一緒にしないでください!」


「そ、そうか。すまなんだ」

「そうだね父さん。他人の空似と言う事もあるもんだ」

「じゃな」


 タケルがにやけながら、ミオに言った。


「じゃあ、俺とミナミが護衛に付くって事でどうだ?」


「あら、来てくれるの?」


「ヒカルが動けねえんじゃあ、それしかないだろう」


「心強いわ」


「やっぱ、正義の女帝には……」


 スパン! とミオがタケルの頭をひっぱたいた。


「言ったら、殺すわ」


「わ、わーった! わかった!」


「じゃ、南お願いね」


「喜んで」


 すると、その後ろからクロサキがやってきて言う。


「そう言う事なら、私もチームに入れてください」


「黒崎さん!」


「九鬼さんとシャーリーンさんは、軍の事に詳しいし、翼さんのように製造工程で異音を聞き分ける事も出来ない。大森君や愛菜さんみたいに、ITにも詳しくないし。それよりも、巡回は私の得意とするところよ」


「黒崎さんもお願いします」


「ええ」


 するとグレイブが言う。


「丈夫な車を都合してもらうよう、大統領に話をつけよう」


「ありがと。お爺ちゃん」


 グレイブが赤い顔をしてニコニコしていた。ミオのような若い子に優しくされるのが嬉しいのだろう。


「ミオ、タケル、ミナミ、クロサキ。絶対に無理はするな。見つけたら、直ぐに俺に伝えろ」


「「「「了解」」」」


 そうして四人は話し合いを始めた。グレイブはすぐに、無線機を使って連絡を始める。しばらく話をして、四人に向かって言う。


「丈夫な車を用意してくれるそうじゃ」


「ありがとうございます」


 グレイブとオリバーの二人は、ミオに対して気が緩むようだ。優しい顔で、にこにこと笑っている。


「こんな孫がいたらなあ」


「ひ孫でしょう、お父さん。私の孫ですよ」


「そうだ! うちにも将来有望な孫たちが、いくらかいたはずじゃ」


「そうですね! 父さん」


 だが途端に、ミオのオーラがおかしくなってきた。なぜだろう?


 すると、タケルが引きつった顔で言う。


「いやー、オリバーさん。ミオはだめだ」


「おや? 独身なんじゃろ?」


「いや、その。それはそうなんだけど」


 次にグレイブは、ミナミに対して言った。


「そっちのお嬢さんはどうじゃ? 将来有望な、いいのがいるぞ」


 だがタケルは更に慌てて言う。


「い、いや。こっちの子もだめだ」


 なぜか、ミオもミナミもオリバー達の方を振り向かずにじっとしている。


「残念じゃのう。そっちは……まあそうじゃな」


 クロサキを見て同じことは言わなかった。なんとなく不穏な空気になっており、そのうちオリバーとグレイブは気まずそうな顔で出て行ってしまった。


 そこでクロサキがタケルに言った。


「地雷、踏んじゃいましたね」


「だなあ……まあ、そればっかりは俺も分からん」


 俺が気が付くと、ミオとミナミが俺をじっと見ていた。何故だかわからないが、俺はタケルのように親指を上げて合図をする。すると二人は、ニッコリ笑ってまた話し合いを続けるのだった。


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