第583話 もしかするとポーションかもしれない
大統領補佐官たちや、SP達が捕まえた二人を取り調べた所、どうやら直接のファーマー社の社員ではなく、医薬品食品安全省のガブリエルソロモンの関係者らしかった。大きな手掛かりなのかと思ったが、二人はただの小物で、大した情報を抜けなかったようだ。
クキがそろりとオリバーに聞いてみる。
「で、どうすることに?」
「独房に監禁。尋問はするようだが、どうやらただのスパイで、大統領の情報を外に流していたらしい」
「それで、ことごとく特殊部隊がやられたのかな……」
「九鬼は、どう見る?」
「ファーマー社に先回りされて、試験体という恐ろしい個体を準備されていたのだろう」
「また……試験体か」
「そうだ」
大統領にも大まかな情報は伝えているが、今のところ、それに対しての対応は難しいらしい。それはそうだろうし、恐らく俺達で無ければ試験体は始末できまい。
「それよりも……だな」
オリバーが難しい顔をする。
「ラッキーボーイ。君らはだいぶアメリカに警戒されてしまった」
俺が聞いた。
「なぜだ?」
「犯人の腕がいきなり落ちたらしいじゃないか」
「ああ。殺されそうになったから自衛だな」
「たぶん、鮮やか過ぎたんだ。急に腕が落ちたと言ってたぞ」
……。
皆が静かになった。するとミナミが頭を下げる。
「ごめんなさい! 見えるように斬ったらよかったのかも!」
「い、いやいや。そう言う問題では」
「じゃあ、どうしたらよかったのかな?」
オリバーが聞いて来る。
「一体なにがどうなったのか?」
それには俺が答えた。
「ただ、居合で斬っただけだ」
「いあい?」
「そうだ」
「いずれにせよ、ラッキーボーイだけじゃなく、皆が警戒されているよ。自衛隊はやばい戦闘兵を作っていると、大統領に報告していた」
噂をすればなんとやら、そこにSPの二人がやってきた。
「ちょっといいかな」
「ああ」
クキが対応する。やはり、聞きたい事は、殺人犯の腕が突然落ちた事と傷を治した事だった。
「あれは、一体何だったのかを知りたいのだが」
そこでクキが大声で言った。
「バレてしまったようだな! 俺達は、日本の自衛隊で訓練された最強特殊部隊なんだ」
「それは……」
「あれはな、日本古来の侍の技だ」
「ジャパニーズ……サムライ……」
「自衛隊では、侍の訓練もカリキュラムに入っている!!」
「そうだったのか。それで、あんなことが出来るように……」
「そうだ。そして、忍者でもある」
「ニンジャ? ジャパニーズ、ニンジャか!」
「そうだ。忍者の技も生きている。それが、日本自衛隊の特殊部隊なんだ」
「「……」」
SPは、ただあっけに取られて黙り込んだ。そしてしばらく経つと、うんうんと大きく頷き始めた。
「なら! 納得だ! プレジデントにもそう伝えよう」
「分ってくれるか。日本の武士道を」
「おおーーーブシドー! 知っているぞ、死ぬことと見つけたり!」
「そうそう。話がわかる」
「映画で何度も見たからな」
「そう言う事だ、日本人のたしなみ、みたいなものだ」
「OK! 逮捕に協力してくれて感謝する」
「ああ。お安い御用だ」
そうして、SP達がぞろぞろと出て行った。そこで、俺がクキに聞いた。
「クキ、自衛隊というのは侍や忍者の訓練をするんだな?」
するとミナミも食いついて来る。
「初めて聞きました! 凄いですね!」
だがそれに、クキがめちゃくちゃ呆れ顔で言って来る。
「アホかお前ら。そんな訳がなかろう。嘘も方便だよ」
「そうか」
「なーんだ」
「おいおい。何がっかりしてるんだ」
ミナミがつまらなそうに言う。
「だって、自衛隊がそんな訓練してるって聞いたらロマンあるじゃん」
「ロマン……まあ、南ならそうか……」
「そうよ」
俺達が話をしていると、オリバーが笑い出す。
「あーっはっはっはっ! 口から出まかせも、君らが言うと本当のように伝わるものだな」
「そのようだ」
「だが、気を付けた方が良い。仕方なく、大統領のところに連れて来たが、君らが監視下に入るのは私の本意ではない。特にラッキーボーイはな」
「俺は問題ない。だが、仲間が警戒されるのはいただけない」
「まあ、ラッキーボーイなら、どんな局面でも切り抜けるんだろう?」
「そんなところだ」
そして既に、ゾンビ破壊薬の量産に入ろうとしていた。そこで俺が、アビゲイルから呼ばれる。
「ミスターヒカル。ゾンビの細胞をありがとう。あの氷は簡単に融けないから安全に運べますね」
「ああ」
「それで、今回はミスターヒカルに、お願いがあります」
「なんだ?」
「ゾンビ因子除去施術を、出来上がった破壊薬にかけてもらえますか」
「魔法をか? いいぞ」
並んでいるガラスの容器に、それぞれ数字がふられていた。それを前にして、アビゲイルが言う。
「それぞれに特性が違うんです。だけど、今回はミスターヒカルの、例の施術に合わせて調薬してみたのです。それぞれに、ミスターヒカルの細胞も入っています」
「わかった」
透明なガラスの液体に向かって、俺は手を伸ばして施術を発動させた。これまでは、この工程はやったことが無く、俺は言われるがままに魔力を放出する。
すると……。
周りがそれを見ていて、声を上げた。
「「「「おおお……」」」」
なんと、そこに並んでいる透明な液体に色がついていったのだ。
「な、これは……」
それはまるで、前世で見た、ミドルポーションやハイポーション、そして解毒薬などの色に似ていた。それを見て、アビゲイルが一番驚いた声を上げる。
「これは素晴らしいわ! 何この色! 綺麗!」
他の仲間達も、物珍しそうに見ている。
「アビゲイル? どうなってる?」
「えっと、それはこれから調べます。まさか色が変わるとは思わなかったから」
「それぞれに違うのか?」
「成分を調べてお知らせします」
だがそこで俺が、瓶を手に取って言った。
「……アビゲイル。これ、飲んでみていいか?」
「いや……飲むのはちょっと、危険かもしれません。いくらでも作れますけど」
「死にはしないさ」
「いやあ……」
俺は真っ赤な血のような液体を口元に運び、チラリとアビゲイルを見る。
「だ、大丈夫でしょうか?」
俺はそれを無視して、一口ゴクリと飲んでみた。
それは一気に体に忍び込み、そして俺はニヤリと笑った。
「これは……ポーションだ」
それを聞いてみんながざわめく。
「えっ! えっと、ポーションってあの、もしかして回復薬?」
「そうだ」
「すごおおおおい!」
なぜか、俺の仲間達とオオモリが、めちゃくちゃ沸いていた。
「だが……皆が飲んで大丈夫かは分からない」
「「「「「えーーーーー!!」」」」」
それを受けてアビゲイルが、赤い試験管を目の前に掲げて笑う。
「では、人体にどんな影響があるか調べてみますね」
皆は色とりどりの液体を見ながら、ワイワイと話を始めるのだった。




