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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
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第582話 殺人犯の腕を斬る女子大生

 殺された獣医の死体を囲み、SPらが険しい顔をしていた。騒ぎを聞きつけた風を装い俺達が行くと、部屋に入るのを静止される。


「部屋に入らないでくれ。検証中だ」


 俺達は、扉の外から中を覗き込んでいる。するとSPが言う。


「君達にも容疑がかかっている」


 クキが答えた。


「そうか」


「とにかくみんな、部屋に戻るんだ」


「わかったよ」


 そう促されて、俺達は元の場所に戻ってきた。クロサキがボソリと言う。


「犯人が、SPや補佐官全員であれば証拠隠滅されますね」


「なるほど」


「誰かに濡れ衣を着せるかもしれません」


 そこで俺が言う。


「なら、狙われる最大の目標はアビゲイルになるだろう」


「そうですね。そして、ターゲットは、私達にも及ぶでしょう」


「その通りだな。ヒカル、どうやって殺されてた?」


「撲殺か、窒息だ。殴られて首を絞められたのかもしれん」


「そうか」 


 だがそこで、俺達は話し合う。むしろ、これは好機かもしれないと。


「俺やクキやタケルを狙おうとは思うまい」


「狙われるとしたら、女かエイブラハム、クレイトン親子も危険だろう」


「なら……」


 俺達は、チラリと目線を一人に向けた。その先に居たのは、ミナミである。


「あたし?」


「そんな華奢な女が、あれほどの腕を持っているとは誰も思わんだろう」


「……オトリというわけね」


 そこで俺が言う。


「もちろん、俺が気配感知でミナミを常に感知しておく。いまは、研究している人らを守らねばならん。俺は、どちらも守ることができるから安心しろ」


「わかったわ。で、なにをすればいいかな?」


 クロサキが首を振る。


「いくらなんでも危険では? おとり捜査は熟練者でも危険です」


 だがミナミが答える。


「えっと……大丈夫。相手の殺気を掴めるし、いざとなったら斬るわ。仕込み刀で」


 と杖を見せた。


「そ、そうですね……普通の捜査官とはちがいますよね」


「まあ、そうかも」


 そんな話をしているところに、補佐官の一人がやってきた。


「すみませんが、取り調べがありますので、順番にお呼びします」


 そこで俺達がピクリとする。クキがそこではっきりと言った。


「えーっと、悪いが補佐官やSPに容疑者はいないのかい?」


「それも念頭に入れている。とにかく、殺人者を野放しには出来ない。一度、研究も中止してください」


 なるほど、敵の目的はそんなところにあるのかもしれなかった。


「アメリカの救済が遅れるぜ」


「大統領の命令です。この国にいる以上は従ってください」


 そこで俺が言う。


「念のため言っておくが、アビゲイルは重要な人間の一人だ。取り調べは俺が警護する」


「かまいません」


「そして、大統領に研究室の開け閉めの権限を一任する。誰も開けさせたくない」


「確認を取ります」


 するとしばらくして、大統領とSPが一緒に来た。俺達の要求をのみ、大統領が研究施設をロックし、認証は本人で無ければ出来ないようにする。もちろん……オオモリを除いては。


「では、すまないが集まってほしい」


 大統領に言われ、広い会議室のようなところに全員が呼ばれて座っていた。そして四人ずつ呼ばれて、事情聴取をされるらしかった。


 「どうだ? ヒカル」


「今のところ目立った動きはない。それに、これに意味があるのか?」


「まあ、殺人者を野放しに出来ないというのは正当な理由だな」


「なるほど」


 そしてアビゲイルが呼ばれた時、俺も一緒について行く。だがその先での取り調べは、一人一人らしく俺に部屋の前で待てと言った。


「アビゲイル。恐怖を感じるだけでいい、俺が突入する」


「信じてます」


 そしてアビゲイルの取り調べが始まる。だがそれは、至って正当なものでアビゲイルが何かをされる事は無かった。アビゲイルが出て来て、俺はクキに警護をバトンタッチする。


「では、次はあんただ」


「わかった」


 俺が中に入ると、早速二人から話を聞かれる。


「先ほどまでどこにいましたか?」


「皆と一緒に研究室だ」


 すると二人が顔を合わせて頷いた。


「監視カメラには、あなたが映っています。間違いないようですね」


 はて? 俺は、潜伏していなかった時間もあったと思うが……。


「結構です」


「ああ」


 直ぐに解放される。アビゲイルも同じことを聞かれて、そのまま出されたようだ。


 そこで初めて、俺とアビゲイルがオオモリを見た。


 アビゲイルが目を輝かせて言う。


「やはり、彼は素晴らしい。ということは、全員のアリバイが確実ですね」


「……そういうことか」


 案の定、全員が直ぐに解放された。そしてクキが、オオモリに言う。


「うまくやったな」


「朝飯前です」


「まて、なら現場の監視カメラの映像を取れるんじゃないのか?」


「それが……、敵さんも分ってるんでしょうね。あの部屋と通路の監視カメラ映像が切られてます」


「敵も、その道のプロって事か」


「そうなりますね」


 一度研究はストップし、それぞれがあてがわれた部屋に行く事を命じられる。


「いまは、こんな事やってる場合じゃないのだがな」


「敵の思うつぼだ」


「そうだな」


「これが狙いか?」


「そうかもしれんな」


 俺達も難航するかと思われた、犯人のあぶり出しだったが……その夜。


 俺が気配感知を巡らせていると、待機を命ぜられているというのに動く気配があった。


「動いた」


 すると俺と一緒にいた、アビゲイルが言う。


「南さんが危ないです」


「フフッ。俺は、敵に同情するがな」


 そしてクキを呼ぶ。


「悪いが、アビゲイルの護衛についていてくれ」


「了解だ」


 俺が隠形と認識阻害をかけて、ひたひたとミナミの部屋に向かうが……遅かった。相手が。


「血の匂い」


 ミナミが一人でオトリになっていた部屋に入ると、両腕を斬り落とされた補佐官の一人が跪いていたのだった。


「ぎゃぁぁぁぁ」

 

「出血で死ぬ」


 俺は補佐官に近づき、ローヒールを両腕にかけて皮膚を回復させた。血が止まったが、補佐官は真っ青な顔で斬り落とされた自分の腕を見ていた。


「ごめんなさい。変な棒でいきなり殴りかかって来たから、悪い手を斬り落としちゃったわ」


「ぐう。こ、こんな小娘が、なぜそんな」


「あなた、ご存知? チャンバラ、ジャパニーズチャンバラ。あたし大好きなの」


「好き……でこんな事……」


 そして俺が、スッと壁にかかってる受話器を取る。


「スマンが揉め事だ。誰か来てくれ」


 そうしていると次々に、大統領の補佐官やSP達が入って来る。跪いて手を無くした男と、俺達をみてSPが俺達に銃を構えた。


「手を上げろ!」


「まて。そいつが、女を襲った」


「この状況でか?」


だが、そこにオオモリがやって来る。


「あのー……」


「なんだ!」


「この部屋と、通路の監視カメラの映像を見ればわかるんじゃないですか?」


「たしかに」


 すると跪いている男が、真っ青な顔で笑う。


「そうだ。それで、証拠が無ければどうする! お前達は殺人未遂だ」


 確かにその通りだ。下手をすれば犯人にされる。だが、オオモリが言う。


「いやいや。とにかく、確認しに行きましょうよ!」


 そうして俺達は手を上げて、監視室迄つれてこられた。


 腕の無い顔色の悪い男が、憎悪のこもった目をミナミに向けている。


「証拠がなければ、お前達が犯人だ」


 そうして、管理者に大統領補佐官が言う。


「映してくれ」


 するとミナミが一人で座っている映像と、その通路の映像が映し出された。そこに腕を斬られた補佐官がきて、部屋に侵入し警棒のようなものを振りかざして、襲い掛かるところがはっきり映っていた。


「馬鹿な! カメラは切ったはず!」


 その次の瞬間、映像ではミナミが何もしていないのに、腕が落ちる映像が流れた。レベル十以上のミナミが見せる、居合切りだった。


 ミナミが突然震えて、ほかの補佐官たちに言う。


「わたし、怖かったんですぅ! いきなり殴られそうになって。でも、急に腕が取れて……、神様が守ってくださったとハッキリわかりました。怖かったですけど」


 華奢なミナミが震えていると、男達はようやく事の真相がわかったらしい。もちろん演技だが。


「貴様……裏切者だったのか」


「くそ! せっかくこの場所を突き止めたのに!」


「こっちへ来い!」


 だが、その次の瞬間だった、一番後ろにいた銃を持ったSPが銃を構えている。


「手を上げろ! そいつをこっちによこせ!」


 どうやら、仲間はもう一人いたらしい。銃を構えていなかった奴らが、銃に手をかけようとした時。


 パン!


 一人が足を撃たれて倒れる。


「動くなと言ったろう!」


 そこで大統領補佐官が言う。


「馬鹿な。この施設からは逃げられんぞ」


「くそが、皆殺しだ!」


 ボトボト。


「えっ?」


 叫ぶそいつの両腕が、また突然落ちた。他の奴らには見えていなかったと思うが、距離が近かったミナミが居合で斬ったのだ。


「うぎゃあアアアアア!」


「取り押さえろ!」


 そうしてそいつも取り押さえられる。そこで、俺が言った。


「止血する」


 直ぐにそいつのところに跪いてヒールをかけた。それを見て、補佐官やSP達が目を丸くしている。


「な、なんだそれは」


「ローヒールだ」


「か、神の御業か……?」


「とにかく、こいつらを取り調べた方が良い」


「あ、ああ! そうだな、二人を監禁室へ連れていけ!」


 そいつらは猿轡をかけられて、SP達に連れられて部屋を出て行った。


「撃たれた奴を治す!」


「す、すまない」


 足の傷が癒えるのを、不思議な顔で見ていた大統領補佐官が、俺達に向かって礼を言う。


「危なかった。礼を言う」


「いや、早く取り調べを、他に仲間がいないかを確かめるんだ」


「そうだな。わかった」


 そうして男二人を連れて、補佐官たちが出て行く。


「あー、こわかったー! ヒカルー! 助けに来てくれたんだね」


「あ、ああ……」


 いや、俺の助けが必用だったろうか?


 だがミナミは俺の腕にしがみつき、頭を凭れてニッコリと微笑むのだった。

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