第577話 アメリカで起きた真実
奥の部屋に入ると、グレイブがそこにいた面々をみて声をかける。
「随分と険しい顔をしておるな」
すると、その奥に座っていた男が立ち上がった。
「グレイブ!」
「大統領。大変な事になってしまったのう」
「ああ……とんでもない事になってしまった」
そしてグレイブは俺達を振り向きながら、大統領に言う。
「それを、よく知っている連中をつれてきたんじゃがのう」
「そうなのか! とにかく! こんな危険な所に、良く来てくれた!」
「いや、むしろホワイトハウスが持ちこたえているのが奇跡じゃな」
「ここにいる皆のおかげさ」
「なぜ、逃げなかったのじゃ?」
すると、大統領補佐官が言う。
「いえ、救助ヘリと軍を待っていたのですが、連絡が途絶えたのです」
「なるほどの……恐らくは、来んと思うがの」
大統領がデスクを回って、クレイトンに手を差し伸べて来る。二人は手を固く握って、お互いの無事を喜んでいた。
「とにかく良く来てくれた。戦略室へ」
「うむ」
そしてすぐ隣の部屋に移ると、大きなテーブルと椅子があった。そこに全員が座り、早速、グレイブが俺達を紹介した。少し、ためらいながらの紹介になっている。
「彼らは……あの、日本から来た」
「なんだって!」
そこにいたほとんどが席を立ち、騒然としている。そして大統領が俺達を見渡し、椅子に座った。
「そうか……、君達は日本人か」
すると代表して、クキが挨拶をした。
「私は自衛隊です。そして彼らは、日本人の生き残りと道すがら協力する事になった者です」
「ジエイタイ!」
「驚きましたか?」
そこにいた連中は、まるで亡霊を見るような目で俺達を見ていた。
「う、うむ」
「まあ……むしろ驚いたのは、我々日本人ですがね。大統領」
「それは……そうだろうな」
クキが話し始めると、仲間達も鋭い目つきで大統領を見る。日本はアメリカを含む、近隣諸国から隔離されたのだ。その事で、日本は世界から孤立したと聞いている。
「ええ。条約まで作って隔離されましたからね」
その場に、沈黙が流れた。
「だが、それは……我が国だけの一存ではない。数か国が条約に同意している」
「分かってますよ。でも、まさかアメリカまでがこんな事になるとはね」
すると、そこにいた黒服が懐に手を入れた。それを見て、大統領が手を上げて制する。
「止めておけ」
すると黒服が懐から手を抜く。そして大統領はクキに言った。
「報復に来た、という訳ではないのだろう?」
「どうかな。事と次第によってはどうなるかわからん」
「うむ」
緊迫した空気が流れる。そこで、オリバーが大統領に言った。
「私はグレイブの息子です」
「知っているさ。オリバー」
「ありがとうございます。そして、私からも聞きたい事がある」
大統領がグレイブを見る。グレイブが大統領に告げた。
「息子も、ずっと戦ってきたんじゃ。質問に答えてくれるかの」
「グレイブ。あなたが言うならそうしよう」
そしてオリバーがゆっくりと尋ねた。
「単刀直入に聞きましょう。この大量破壊行動に、あなたは関与していますか?」
「いや。関与していない」
「知らないという事ですか?」
「それも違う」
「知ってはいる? と解釈して良いのですね」
「そのとおりだ」
そこで俺達も空気が変わる。大統領が知っている事を、問いたださねば気がすまない。
「大統領が知っている事を、洗いざらい話していただいても?」
「……」
「このような状況なのです。無理だなんて言わせませんよ
そして大統領は、頭を抱えて机に肘をついた。
「……分った。言おう」
「お願いします」
大統領が補佐官に目配せをする。部屋にいた者達に出るように促した。黒服と補佐官が残る。
すると突然、大統領が深々と頭を下げた。日本式の謝罪の方法だと聞く。
「すまなかった。ああいう、条約を結ぶしかなかった。あのとき、米国は詳細を掴んでいなかったのだ。だが、その大まかな全容が見えてきた時、米国は……口を閉ざした」
それにクキが頷いて言う。
「そうだろうな。まさか、自分の国にその原因になる者がいるとなれば」
「そのとおりだ」
「何も手を打ってこなかったのか?」
「いや。打ってきた。その結果がこれだ」
「まあ……聞かせてくれ」
そして再び大統領の話が始まる。
「オリバー君は、何処まで掴んでいた?」
「いや、全然ですよ。ファーマー社が人体実験をしているといったところで、被害者らの弁護をしている中で、少しずつ真実に向かっていたところでしたから」
「そうか」
「だが、彼らから聞いた内容で、核心を知りました。まさか、そんな恐ろしいことが起こっていたとは、全く思いもしていなかった。そして、今日ここに来るまで、まだ疑っていた」
そして大統領が言う。
「米国としては、なんとしても秘密裏に全てを消し去る必要があった。自国の企業のしでかしたこの事を、大々的に処理する事が出来なかった」
クキもオリバーも、シャーリーンもウンウンと頷いている。だが、ミオが声を荒げる。
「日本は! ほぼ壊滅したんですよ!」
「分かっている……いや、分ったのは条約が結ばれたあとなんだ。あれは、病原菌のパンデミックだと思われていた」
「その後で、日本を救おうとはしなかったのですか?」
「あの条約を反故にして?」
「そう!」
「すまない。国家間の約束事は、そう簡単に破れるものでは無かった」
「でも!」
そこで、大統領ではなくクキがミオに言う。
「美桜。流石にそれは無理だ。日本を救う以前に、中国やロシアとの全面戦争になる」
「え……」
「ゾンビではなく、世界大戦で滅びる可能性が出て来る」
「そんな……」
だがそれを聞いて、大統領がミオに言う。
「いや、お嬢さんのいう通りなのだろう。国の事を思えば、全力で助けてほしいというのは当たり前だ」
「はい……」
更にシャーリーンが言った。
「残念ながら、ミス美桜。そう言う事が容易に出来ていたら、中東の情勢もあんなに荒れないわ。そして各地で起きる局地的な戦争も起きない」
それを聞いた、グレイブが言う。
「まあ、嬢ちゃんが言うのも分からんでもない。代理戦争など、現地の人らからしたらたまったものではないからな。だから、我が国はテロにあうのだ」
「そう……」
そして大統領が続ける。
「そんな複雑な状況もあり、自国に原因がある事から、秘密裏に処理をしようとした。だが、部隊をいくら送ろうとも、送り出した部隊は戻って来なくなってしまった。特殊部隊を何度派兵しても、戻ってくるものがいないという非常事態が続いていたのだ」
皆は黙って聞いている。送った部隊がどうなったかの想像が、容易につくからだ。
そして大統領が続ける。
「そして数週間前の事だ……ファーマー社の掃討作戦を発動した」
そこで全員が顔を見合わせた。グレイブが代表したように言う。
「寝た子を起こしたわけか」
「……そうだ」
それを聞いてクキも頷いた。
「なるほどな。それが、この事態の引鉄になったようだな」
「そう言う事だ。ファーマー社を壊滅させようと動いた結果が、これなんだよ」
「それにしては、酷いありさまだ」
そこで大統領が首をかしげる。
「おかしいのだよ。こちらの作戦が筒抜けになっているような感じなんだ」
それを聞いてオリバーが大統領に言った。
「なら、この人達の話を聞くべきです」
「そうか……わかった。聞こう」
そこでクロサキが話を始める。
「大統領」
「なんだい?」
「私は日本の警察です。そして、彼らと一緒に行動して掴んだ事実があります」
「うむ」
「大森君」
「ええ」
オオモリがリュックサックからタブレットを取り出し、それをテーブルに置いた。
「この人達を知っていますか?」
そして大統領は、その画面をみて目を見開くのだった。
 




