第574話 勇者一行ジャンボジェット機で飛ぶ
ゾンビを片付けた軍艦の中で、皆が一息つき始めた。食料を確認したところ、切り詰めれば一ヵ月以上持つとの結論が出る。そうして、皆の生存領域を確保した俺達は、いよいよアメリカ大統領の居場所を見つける作戦を始めた。
「まずは、どこかで航空機を確保したいが」
クキが言うとオリバーの父親が言う。
「ジョン・F・ケネディ空港に、我が家のプライベートジェットがある」
「いいね。で、パイロットは?」
「残念ながら、連絡がとれん」
「なるほど」
地図を広げて、説明をし始めるが、空港はそう遠くはなかった。ただし、飛行機が無事でも、ジェット機を操縦できる人がいないと飛べないという。
「いずれにせよ、船でいけるところにある。ゾンビに接触しないで済むのでは?」
「父さん。空港は恐らくゾンビだらけだ。ここまでの、状況からして救助者の中に感染者がまざり、それが拡大を広げている」
「なるほどのう」
そこで俺が断言した。
「俺達が全てのゾンビを狩る」
「それが出来るのだからな。凄いものじゃよ……」
そしてシャーリーンが手を上げた。
「旅客機でしたら、私が飛ばせます」
「おお!」
「あとは、飛行機が無事かどうかですわ」
「保管庫にあるとは思うが」
「では、まいりましょう」
そして俺達はそのまま、出発の準備をし始めた。そこでオリバーが言う。
「食料は持っていくのか?」
「いや。水と少しかじる物があればいい」
「だが、ミスター九鬼。食べ物が、手に入らなくなっているのでは?」
「いやいや。恐らくは取り放題ですよ。オリバーさん」
「拾うってことか?」
「そう」
そしてミオがルーサーの息子に言う。
「ごめんね。これから、ゾンビの群れと戦うのよ。あなたはここに残った方がいいわ」
「嫌だ。僕も行く!」
「あなたを守りながらでは……」
そこで俺が言った。
「俺からすれば、同じことだミオ。連れて行こう」
「わかったわ」
オリバーとオリバーの父親、エイブラハムもいる。一人増えたところで、何も問題にはならない。
「じゃあゴムボートを準備しよう」
「「「「了解」」」」
クキの掛け声に、全員が息を合わせて動き出す。それを見た、オリバーの父親が言う。
「まるで、特殊部隊だな」
それに俺が答えた。
「世界中の戦地で、必死に生き残ってきたんだ。仲間達はもう、強い」
「そのようじゃ」
ゴムボートが二艘降ろされ、俺達は二つに分かれて乗り込んだ。市民達が手を振り、俺達はすぐにジョン・F・ケネディ空港に向かう。海には時おりボートなどが浮かんでいるが、どうやら逃げてきた人達らしい。陸地の方では煙が立ち込めており、あちこちで火災が起きているようだった。俺達のゴムボートは湾内に入り込んでいく。
オリバーの父親が言った。
「川をたどれば、街を通らずに空港に行ける」
「了解」
オリバー達のボートを先に進ませ、クキが操作するボートがついて行く。俺達のボートが川に辿り着くと、モーター音を聞きつけた人々がこちらに向かって叫んだ。
「助けてくれと言っている」
だがクキは首を振った。
「一人一人、助けていては滅亡する」
「その通りだ。ならば、見える範囲のゾンビだけでも仕留める。刺突閃」
俺はボートの上から見える限りのゾンビを、刺突閃で仕留めていった。
「警官隊が来れば、何とかなるだろうがな」
それにオリバーのボディガードが言った。
「手が足りてないだろうな。都市部だけでも、酷いありさまだろう」
「だな」
川が途切れ、草むらに着岸した。そこで俺がオリバーに言う。
「まずは俺とタケルが先に行く。皆は後からついてこい」
「わ、わかった」
そして俺とタケルがジャンプして陸地に立った。そこには、ゾンビは見当たらないが、空港の奥の方にはゾンビの気配がしている。
「同じだな」
「そうかい」
「タケル! 駆除するぞ!」
「りょーかい」
俺とタケルは広い空港を走り抜けていき、空港に氾濫しているゾンビに向けて剣技を放つ。
「飛空円斬」
見える範囲のゾンビが崩れ落ち、俺達は構わず先に進んだ。
「空港の中もゾンビだらけだ」
「全部、掃除するのか?」
「いや。クキ達の到着を待つ」
すると遅れてクキが、全員を引き連れてやって来る。
「お前ら速すぎるぞ」
「大丈夫だ。あとは、建物の中にいるだけだ」
そしてオリバーや、オリバーの父親が息を切らしていた。
「はあはあはあ」
「す、凄いな。あんたも、としじゃろ」
オリバーの父がエイブラハムに向かって言うと、笑って答えた。
「こいつらと一緒に旅をして、しごかれましたわい」
「良くついてきたもんじゃ」
「わしゃ、若返ったんじゃよ」
「ほう」
そこでタケルが言う。
「爺さん達の井戸端会議は後でいいだろ」
すると、それを聞いていたオリバーが笑う。
「あっはははは! お兄ちゃんは気持ちがいいな。相手が誰だろうが関係ない」
「今は、先を急ぐんだっつーの」
「そうだな。父さん、飛行機はどこか?」
「それが、わしゃ乗るだけだからな。管制塔かどっかに行かないと、おいてる場所までは分らん」
「なっ!」
それをクキが遮る。
「いい。飛行機は他にもありそうだ」
見渡せば、あちこちに飛行機があった。プライベートジェットじゃなくても、飛べればどれでもいい。
それを聞いてシャーリーンが言う。
「出来れば、離陸前の機体を選びましょう。燃料が入っているはずだわ」
「よし。空港に入るぞ」
そこで俺が言う。
「後ろをついてこい」
空港の建物に入れば、直ぐに俺達に気づいたゾンビが寄ってくる。
「日本じゃ、空港は安全エリアだったのにね」
「米軍の救出の結果がこうなった。いずれにせよ、ゾンビの性質を知らんとこうなる」
「そうよね……」
ターミナルにはゾンビがウロウロしており、争った跡があちこちにあった。俺達はそのまま、ターミナルを進んでいき、飛行機乗り場に行く。まだ、電気が通っているので、あたりは人がいてもおかしくない状況だった。
「皆! 出発間際の便を探して!」
シャーリーンの指示で、ミオが答える。
「えーと、ブラジル行き、カナダ行き、フランス行き、いろいろあるわね」
「では、一番近い乗り口に」
「じゃあ、フランス行きだわ」
俺達がそちらに進み、ゾンビを倒しながら奥へ来た。俺が先に入り、飛行機の中のゾンビを全て処分していく。そして仲間達が、飛行機の搭乗口から運び出した。
「パイロットと乗務員だな」
「なんまんだぶなんまんだぶ」
そしてシャーリーンとクキが、奥へと進んでいく。
「では、飛ばします」
シャーリーンが操縦席に座り、クキがその隣に座った。
するとタケルが言う。
「えっと、俺、ファーストクラス行ってもいいか?」
クキが答える。
「好きにしろ」
操縦席に、シャーリーンとクキとクロサキ……オリバーの父親が残った。
「父さんも上に」
「いや、操縦席なんて入った事無いもん」
「父さん……」
だがクキが笑って言う。
「いいんじゃないか、オリバーさん。別に」
「すみません」
すると、オオモリまでが言う。
「僕も、見てみたいっす。ここからの光景」
「好きにしろ」
そして俺がハッチを締めて、皆がファーストクラスとやらへと上がっていく。そこは部屋のようになっているが、十人が入るにはきつそうだった。
「ヒカル! 私達はビジネスにいきましょ!」
ミオが腕を絡めてきた。
「わかった」
「わたしもいく!」
「ちょっと、美桜! 抜け駆けはダメ」
「そうよ、私も!」
タケルが笑う。
「おうおう。もてる男は辛いなあ」
「なっ! タケル、俺はそんなんじゃ」
するとオリバーが言った。
「私はラッキーボーイともっと話がしたい」
「へいへい」
ファーストクラスに、残ったのはタケルと、アビゲイル、エイブラハム、ルーサーの息子。
他は皆、ビジネスクラスに座る。すると機内の放送がなった。クキの声だった。
「とりあえず飛ばすからな。立ち歩いてこけるなよ」
それを聞いたオリバーとボディガードが座ってベルトをする。俺達は適当にその辺りにいて、次第に飛行機が動き始めた。グッと力がかかるが、誰一人としてバランスは崩さない。
飛行機は、一路ワシントンに向けて飛び立つのだった。




