第573話 勇者パーティー軍艦を拾う
戦艦から、ボトボト落ちて来るゾンビは止まった。それでも警察官や自警団たちは、まだ次の奴が落ちてこないかを見張っている。
タケルが腕組みをして、俺にぼそりと言う。
「気配感知では、あの軍艦どうなってる?」
「中もゾンビだらけ……全滅だな。恐らく、救出者から広がって感染爆発したのだろう」
「ずいぶん、デカい船だけどな」
「タケルに、なにか考えがあるのか?」
「多分だけどよ。軍艦って軍人が、数週間は生きれる分の食料を積んでるんじゃねえかな?」
それを聞いて俺はピンときた。そこでタケルに言って見る。
「俺が沖縄沖で、海軍と戦った時は大量にあったぞ。アイスクリームをたらふく食った」
「そうだったな!」
「タケル。ゾンビにはもう食料は不要だぞ」
「確かに、そのとおりだ。もらうか」
そこで銃を構えて軍艦を見ている奴らに、俺が大声で言う。
「あんなにゾンビが落ちてきたって事は、この軍艦は汚染されてる。たぶん船内はゾンビだらけだろう。船上には、上がって来れないようだな」
「確かに……」
「あの中にゾンビが……」
「気味が悪い。いつ出て来るか分からねえ」
「その通りだ! 一旦ここを封鎖したほうが利口だぞ!」
ゾンビの残骸が転がる中で、警察と自警団は顔を合わせた。周りをみて、状況に気が付いたらしい。
「どうするか……」
そこで、タケルも皆に言う。
「船をどかしたいが、まず出てくるかもしれねえゾンビを囲わねえと」
「そうだな。どうしたものか……」
なるほど、ここにいる連中も、ゾンビに対しての対応などした事が無いらしい。
そこで、タケルはすぐに案を出す。
「トラックとかバスで囲っちまえば良いんだよ。出て来たところで、乗り越えられねえようによ」
「なるほど! それだ! トラックとバスを集めよう!」
「おう!」
「そうだな!」
「急げ」
そして数人を残し、男達が居なくなった。まあ、変に思われないように追い払っただけだが。
「じゃあタケル。行くぞ」
「おうよ」
タケルが、明後日の方向を指さして言う。
「おい! ありゃなんだ!」
皆が一斉にそっちを向いた瞬間、俺はタケルを掴んで軍艦の上空に飛び上がった。
トン! と甲板に降り立ち、タケルが笑う。
「気づかれてねえよな?」
「いきなり消えて驚いている頃だろう」
「幽霊だと思ったりしてな」
「そうかもしれない」
そんな無駄口を叩きながらも、軍艦の中に入る入り口を開けた。廊下の壁やガラスに血が付いており、ゾンビとの戦いの跡が見られる。
「こっちだ」
「しらみつぶしにいくかぁ!」
「ああ」
軍艦の内部に進めば、軍人のゾンビがうろついている。
「よっ!」
ズン! タケルが一気に三体を潰した。打撃の武技を身につけており、ゾンビに特化したタケルのスキルだ。そして俺とタケルは、次々にゾンビがいる方向へ向かい討伐する。
「結構いるなあ」
「数百の気配はある」
「とにかく、船を壊さねえようにしねえと」
「ああ。もちろんだ」
飛空円斬のような大量技を使えないので、そこそこ時間がかかりそうだった。一人も生き残っている奴がおらず、広い部屋には一般人のゾンビがうようよいた。
「せっかく救出されたのになあ」
「残念だ」
「なんまんだぶなんまんだぶ」
すべてのゾンビの気配を潰し終えるのに、一時間の時間を費やした。
「ふう。あとは?」
「終わりだ。気配感知には、いない」
そしてタケルは、置いてある椅子に座り天井を見上げる。
「船でゾンビが発生したら、直ぐ全滅すんだな」
「それを言うなら、恐らくは飛行機もだろう」
「確かに。むしろ、広大な荒野や、山に逃げ込んだ方が可能性があるか」
「逃げ場があるからな」
「だとよ。小さな島でゾンビが出たら、あっという間じゃねえのか。日本みてえによ」
「それはそうだろう」
「だと守ってる奴らも、正解ってこった。ま、いずれにしろ、この島に上陸しそうなゾンビは消した」
そして俺達は甲板に出て、次の行動に移った。
「タケルは、船の方向を指示してくれ」
「あいよ」
「じゃあ、船を動かすぞ!」
そう言って俺は服を脱ぎ捨て、再び海パンツ姿になった。そのまま船の後方に走って、海に飛び込む。スクリューは止まっていたが、俺は船のスクリュー部分を掴んで引っ張る。
ゴゴゴ、ゴガン!
岸壁に乗り上げていた船首部分を引っこ抜き、どんどん沖に向かって戦艦を引っ張り泳いだ。
ザプン!
「タケル! どっちに向ければいい!」
「あー、こっちこっち!」
「了解だ!」
俺はまた海に潜り込み、タケルが言っていた方向に向けて船をむける。
ザバ!
「こんな感じか?」
「ああ、この先に船団がいる」
「了解だ」
そして俺はまた水中に潜り、スクリュー部分を押して泳ぎ始める。すると船がゆっくりと進み始めた。それから三十分ほど水中に潜り続けて、軍艦を押して泳いでいると音が聞こえる。タケルの合図だ。
ガン! ガン! ガン!
ザバ!
「どうだ?」
「そろそろ、船の速度を落としてくれ。じゃねえと船団に突っ込む」
「了解だ」
船の速度を落とし、俺は一気に甲板に飛び乗る。俺とタケルが仲間の乗る、船に向かって手を振った。すると俺達を見つけた、ミオ達が気づいてこちらに手を振っていた。
「おーい! 食料持って来たぞ!」
タケルが言うと、皆が顔を合わせて喜んでいた。
「いったん、船の状況を伝えて来るから待っててくれ」
「わかった。んじゃ待ってるぜ」
「ああ」
そして俺は、軍艦から船へと飛び移った。だがそれを見ていた、一般市民がざわついている。
「おい、気のせいか……」
「いや、三十メートルは飛んだよな」
「ロープで飛んだんじゃないのか?」
その声は気にせず、俺はクキのところに行く。
「クキ!」
「随分なものを持ってきたな」
「タケルと話したんだがな、この中にきっと食料があるだろうと」
「ああ、その通りだ。有事の際には、数週間から数ヵ月の食料を積みこむ」
「よし……、ただ問題がある」
「どうした?」
「中には、数百体のゾンビの残骸だらけだ」
それを聞いてオリバーや市民達が、驚愕の表情を浮かべた。しかしそこで、クキが言う。
「軍艦の方が安全だ。総出で、ゾンビ掃除する必要がある」
すると、一般市民達が騒ぎ始める。
「いやだ! ゾンビがいる船に乗りたくない」
そこで俺が首を振った。
「いや。ゾンビは全て仕留めた。中にあるのは残骸だ」
「やだわ! そんなところに行きたくない」
「なるほど」
するとそこで、ミオが声を張る。
「行きたい人だけ行けばいい。ただ、皆で力を合わせて綺麗にする必要がある。それをやったものだけ、その労力を惜しまない者だけが、食料にありつけると言うだけよ」
シーンとする。そしてオリバーとオリバーの父親が言う。
「私は行く。父さんは……」
「もちろんワシもいくがな」
オリバーの父親が振り向いて言った。
「ワシに、ついて来る義理立ては無い! 残るのも自由だ! そしてこの船は残った者に貸そう」
人々は顔を見合わせて、ぞろぞろとオリバー達の方に来る。もちろんオリバーのボディガードも、ここの使用人も全てがこっちに来た。俺はそれを見て、残った奴らに言う。
「人数が減れば、この船に残った食料でもどうにかなるだろう」
「そうさせてもらうさ」
そして俺は振り向いて、軍艦のタケルに言う。
「タケル! 橋をかけろ」
「へいへい」
ハシゴが船と船に橋渡しされ、そこを伝って一人また一人と軍艦に移っていった。
「じゃあオリバー。他の船にも連絡だ」
「そうしよう」
各船の人間達も、軍艦へと乗り替えていった。八割は軍艦に乗り込んだが、残る者もいるようだった。
甲板に人々を集めて、タケルが大声で言う。
「んじゃあ、仲間達は全員参加、あと力持ちも手伝ってくれ。中に死体がごろごろしてからよ、それを片付けねえと気持ち悪くて仕方ねえ。後は甲板で、海に投げ入れる手伝いだ」
それを聞いて仲間達が一斉に船の中に入っていく。何人かの男達も、俺達と一緒に行く。俺達の軍艦、ゾンビ残骸掃除が始まるのだった。




