第569話 オリバーの父親の手がかり
ヘリコプターの中では、仲間達が深刻な表情を浮かべ、ただ外を眺めていた。航空機とすれ違う事もあったが、それも全て救助か攻撃に向かっているようだった。
タケルとオリバーが話をしている。それを、みんなが黙って聞いていた。
「あっという間に、広がってしまうのじゃな」
「そうなんだよ。あっというまに広がっちまうんだ」
「君らは、これを想定していたのかな?」
「ニューオーリンズあたりからかな……」
「まさか、デマが本当になるとは、国民も驚いとるじゃろ」
「これは、日本でも起きた事だ。だけど、だれもこんな話……信じねえさ。ゾンビなんてな」
「そうだろうな……」
オリバーには、取り返しのつかないところまで来ているように見えてるようだ。途中で降りた米軍基地もゾンビが発生しており、各地で炎があがり、人々の暮らしが崩壊してるのを見たからだ。
そこで、エイブラハムがオリバーに聞いた。
「お父上は大丈夫じゃろうか? それに、既にアメリカも、何らかの手を打っているのではないかな?」
「自国の都市に対する、核攻撃か……」
「そうじゃな。じゃが、それではゾンビは止まらん」
「ニューヨークがどうなっているか……」
それを聞いていた、シャーリーンがため息交じりに言う。
「最悪のシナリオを阻止するには、オリバーさんのおっしゃる、大統領に接触するしかないですわ」
「うむ」
シカゴの基地でも、ゾンビは発生していた。昨日今日始まったようで、生存者も多数いるような状況。
「オリバーさんよ。アメリカ軍も既に飽和状態だと思うがね」
「そうだろうね」
「日本でも、自衛隊はそうやって崩壊したんだよ」
「そうでしたか、ミスター九鬼。それを体験したのだね」
「そうだ」
落ち込みムードの中で、ミオが声を上げる。
「でも、今はあの時とは違うよ」
「ん?」
「だって、アビゲイル博士が破壊薬を作ったし、ここにはヒカルがいる。大森君だって、ゾンビを操作する電波の開発をしたわ。私達の時は、それはなかったもの。まだ諦めてはいけないと思う」
それにミナミも頷いた。
「そう。ただの女子大生だった私が、こうして生きているのもヒカルのおかげ。日本だって、かなり復活したんだし、アメリカだってまだ終わった訳じゃないわ」
「お嬢ちゃんたちの方が、私らよりずっと強いな。私も彼も、絶望を感じているというのに」
「わかりますよ。だって、私たちもそうでしたから、生きる気力を無くしていた」
「でも、こうして生きている……か」
「はい。ヒカルのおかげですけど」
「ラッキーボーイはどう思う?」
そこで俺は思っている事を、そのまま口にした。
「まだ、電気や動力が稼働しているうちに、何とか大規模薬品工場を押さえ、その大統領とやらに、国内に号令をかけてもらうより他あるまい」
「諦めてないという訳か?」
「ん? 諦める要素が、何処にあったんだ?」
するとオリバーがキョトンとする。そして、仲間達の口角が上がっていた。
「オリバーさんよ。ヒカルは本気でそう思ってる。ヒカルに、諦めるなんて文字はねえんだ」
「強運を引き寄せる、最強の男か……」
そんな話をしているうちに、操縦席にいるオリバーのボディーガードが言った。
「そろそろ、ニューヨークです」
「よし」
そして操縦席の先には、大都市が広がっている。次々にヘリコプターが飛び回り、その周辺を米軍が取り囲んでいるように見える。
「煙が上がってんなあ」
そこで俺がオリバーに聞いた。
「場所は分かるか?」
「すぐわかる。目立つ、セントラルパークのそばにある、セントラルパークタワーだよ」
それを聞いてミオが、驚いたように言う。
「あの、アメリカで一番高額なマンション!」
「おお、お嬢ちゃんしってるのかね。その、ペントハウスだよ」
「!」
そこで俺は、クキに行った。
「ビルの真上に行けるか?」
「すぐ行く」
「飛び降りるぞ、ハッチを開けろ」
「了解だ」
そして俺が待機していると、後部ハッチがゆっくりと開く。そこから外を見ると、下の方に光り輝く背の高いビルが見えた。
「よし! オリバー! 来い!」
「こ、こんな所から飛び降りるのかね?」
「そうだ。来い!」
風が吹き乱れる中を、オリバーがやって来たので、俺はがっしりと掴んだ。
「ぱ、パラシュートは……」
「いらん」
そう言って俺はそのまま、オリバーを小脇に抱え、ハッチを蹴り飛ばして降下していく。オリバーは引きつっているが、俺はそのままそのビルの屋上へと飛び降りた。そして上を向いて、手を振る
「じゅ、寿命が縮んでしもた」
「大丈夫か? とりあえず、あんたの父親のところに」
「わ、わかった」
そう言うので、俺はオリバーを床に降ろす。だが、へたへたと座り込んでしまった。
「腰がぬけてしもた」
「わかった」
俺はオリバーを持ち上げて、案内するように言う。扉を壊してビルの中に入り、そのままハシゴを伝って下に降りていくと、機械室のようなところに出た。
「居住区に行かねば」
「よし」
そしてそのまま階段を降り、扉を開けると煌びやかな廊下に出た。
「そっちだ」
だが、俺はそこで立ち止まる。
「どうしたんだ、ラッキーボーイ」
「残念だがオリバー。ここに人の気配はない」
「人がいない……?」
「そうだ」
するとオリバーが言う。
「お、降ろしてくれ。もう歩ける」
「ああ」
そしてオリバーが歩き出し、煌びやかなその辺りを歩き回った。だが人がいないのを確認したようで、そこにあったソファーにふうと息をついて座り込んだ。
「何処に行ったのだ?」
「もしかすると、家族で避難したのかもしれん」
「ここの方が安全なのにか? どこにだ?」
「食料がつきてしまえば、どうしようもない。もしくは、シェルターなどに避難したのかもしれん」
「手がかりを探そう」
「そうだな」
そして、探し回ったところで、オリバーが書斎のようなところで何かを見つける。
「これは」
「何か見つけたか?」
「父の手紙だ」
そしてその手紙を開けて、オリバーが読んだ。そして目を上げて、俺に告げた。
「何処にいるか分かった」
「どこだ?」
「海の上だ」
「海に逃げたか」
「そのようだ」
「探すのが難しいな」
「いや、無線を積んでるらしい。一族に呼びかける文章だ」
「よし。手がかりは掴んだ。行くぞ!」
「わかった」
そして俺達が外に出て、再び屋上へと昇る。まだ真上には、俺達のヘリコプターが居たので、俺はオリバーを掴んで、上空へと飛ぶのだった。




