表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第六章 青春の冒険編
562/614

第562話 人間によって綻びかけた世界

 俺とクロサキが手に入れた麻薬売人のスマートフォンを、オオモリに渡し内容を確認してもらう。オオモリがパソコンに繋いで調べている間に、他の皆はファーマー社やGOD社の動きを確認していた。


「こうしている間にも、奴らは着々と事を進めてるんだろう」


 クキが腕組みをしながら、ディスプレイを眺めて言う。するとタケルが、テーブルに置いてあったハンバーガーにかぶりつき明るく言った。


「冷凍でもなかなかイケるな、こりゃ」


「すまんね。店が全て閉まっているからね、冷凍しかない」


「十分だよ。ロックダウンで店は閉まってるだろうしね。でも、人の出てるところもあったんだろ?」


 それにクロサキが答える。


「ダウンタウンですね。貧民や路上生活者は行く場所が無いですから」


「ゾンビが出てたら、ひとたまりも無かったな」


「ヒカルさんと二人で、ゾンビ破壊薬は散布してきました」


 タケルがもう一口、ハンバーガーを食べながらオリバーに聞く。


「オリバーさんの方には、ラスベガスの情報は入ってねえのか?」


「すまんが、こちらには、まだだね……」


 テレビのニュースやインターネット関連では、ラスベガスの情報は見れなくなっているようだった。


「情報が入って来ねえか……」


「報道管制が入っているようだ。なんとか、情報網を使って調べているが、シアトルも完全封鎖されてしまったようだしね」


「実際に見に行きたくても、エンハンサーXやファーマー社の影がチラついちゃ動けねえ」


「もう少し待つしかない。7Gの技術はミスター大森でも、おいそれとはイカンのだろう」


 オオモリが麻薬売人のスマートフォンを解析し、答えが出たようだ。


「どうだ? オオモリ」


「疑わしい番号がいっぱいありますね」


 するとソファーに座っていたオリバーが、慌てて身を乗り出して聞いて来る。


「そのリストは見せてもらえるかな」


「これです」


 オオモリがパソコンをくるりと回し、エンハンサーXを売ったであろう人間と、売った先の人間らしき名前を見せた。


「おお!」


「ネットで調べた限りですが、表の左に並ぶ数人がギャングか麻薬の売人、右側の列にずらりと並ぶのが、スポーツ選手や著名人の事務所などです」


 渋い顔でオリバーが眺め、その後ろに立っていたボディーガードにも見るように言う。


「知った顔はあるか?」


 するとボディーガードが、一人の名前を指さした。


「これは、恐らく麻薬カルテルの一員ですね。FBI時代に顔を見たことがあります」


「ビンゴじゃな」


「ええ」


 そしてオリバーはすぐに、家の電話をとってどこかに電話をし始める。皆はメールなどでやりとりをするが、オリバーは俺と同じで通話が連絡の手段らしい。


 通話をスピーカーにして繋げようとするが、相手側は電話に出なかった。


「ふむ。忙しいのかもしれん」


 そしてオオモリが言う。


「すいません。僕は一旦7G回線の解析に入ります」


「そうしてくれ」


 そう言ってオオモリは、部屋の隅に設置した大きめのパソコンに座りパチパチと始める。そして今度は、クロサキがボディーガードに尋ねた。


「FBI捜査官だったのですか?」


「ああ」


「私は日本の、特別機動捜査隊にいました」


「おお、ある意味同業でしたか。国は違えども、今はこうしてゾンビ対策を一緒にしている」


「ふふっ。そうですね、それでこの名前の人は?」


 パソコンの名前を指さすと、ボディーガードはキーボードを叩いて、麻薬カルテルの情報を開いた。


「この組織の一員です。麻薬捜査官がこの組織を追っているのを見た」


「捕まってないんですね?」


「組織は大きいからね。コイツだけ捕まえたところで、どうしようもない」


「根こそぎやろうとしている訳ですね?


「そうだったと思う」


 クロサキは元々潜入捜査官だったため、そちらの事情にも明るいのだろう。そして話を続けようとした時、オリバーの電話が鳴ったので、皆が静かに息をひそめる。


「クレイトンだ」


「ああ、クレイトン君」


「これは将軍。何かありましたか?」


「ラスベガスへの、核弾頭の攻撃は取り消されたよ。今は、シアトルにいる軍が手こずっていてね」


「本当ですか。それはなぜ?」


「リビングデッドが一斉に行動を停止したんだよ。何故だかわからんが、それによって軍が救出活動を再開させた」


「それは良かった」


「君は何か知ってるのかね?」


 一瞬、俺達に緊張が走る。オリバーはどう答えるのか、それ次第ではここに居られなくなる。


「いや。分るはずもありませんな。そもそも、リビングデッドなど映画の世界じゃあるまいし。半信半疑で話を聞いておりましたよ」


「それなら、忠告だ。シアトルに行ってはならない」


「予定もありませんね」


「そうか、まだ騒ぎは収まっておらん。ロックダウンはしばらく続くが、そろそろ軍が食料の支給に入るだろう。食料は足りているかね?」


「あいにく、備蓄がありましてね」


「なるほど……やはり、君は鼻が良い」


「いやいや」


「では、何かあればまた連絡してくれ」


「ええ」


 そう言って電話を切る。目当てのFBIでは無かったものの、俺達は一斉に歓声を上げた。


「やったぁぁぁ!」

「ルーサーはうまくやったようだな!」

「これで、わずかに残った生存者にも希望が出るわね」


 タケルが咄嗟に部屋を出て行って、直ぐに子供を連れてきた。


「おい! お前のパパ! やったぞ! ラスベガスを救ったんだぞ」


「ほ、本当に!」


「ああ! ミサイルを撃ち込まれずに済んだそうだ」


「パパが?」


「ああ。多くの人間を助けたんだ。おまえのパパが」


 すると、ずっと悲しそうな顔をしていた子供が、始めて笑顔を浮かべた。


 そして俺が、子供の頭を撫でて言う。


「お前の父親は勇者だ。あの恐ろしい化物と軍隊を掻い潜り、目的を成し遂げた。強い男だ」


「うん!」


 死にかけていた、子供の心に火が付いた。そしてタケルが言う。


「お前もハンバーガー食えよ」


「うん!」


 ずっと食べ物を拒否していたが、ようやくハンバーガーを手に取ってぱくつく。


「どうだ?」


「おいしい」


「そっかそっか」


 そんな話をしていると、またオリバーの電話が鳴り響く。それを見て、みんなに言った。


「今度はFBIだ」

 

 スマートフォンを繋げた。


「クレイトンだ」


「何か用だったか?」


「あんたらが追ってる、ハーレム・キングピンの事なんだが」


「情報かい?」


「ちょっと電話を変わろう」


 そしてボディーガードが話を始めた。


「どうも」


「久しいな」


「まあ、今はオリバーさんの下でやってます」


「君ほどの優秀な捜査官を引き抜くとは、オリバーめ」


「ははは。それで、先ほどの話なのですが」


「ハーレム・キングピンの?」


「ケイレブ・ハーパーを知ってますか?」


「……ケイレブ・ブレイド・ハーパーかい? もちろんだ」


「恐らく、奴はロサンゼルスに潜伏しているかと」


「なに!?」


「新しい麻薬を売りさばいている、という情報が入りましてね」


「なんだと……」


 電話の向こうの緊張感が高まっているのが分かる。そして、詳細を聞き始めた。そこでボディガードは、俺とクロサキから聞いた、ダウンタウンのスキッドロウにいる麻薬の売人が、その情報を持っていたようだと言う話をする。


 そしてオリバーが変わる。


「テレフォンナンバーと、その売人がいた場所の地図を送るよ」


「わかった。また何かの情報を掴んだ場合は、直ぐにこちらに教えてくれ」


「ああ」


 そして電話を切り、オリバーは俺達を見る。


「すぐ動くかどうかは分からん。だが捜査の一環として、捜査員を送るかもしれんがな」


「それでもいいさ」


「そして、FBIや警察にも、腐っている者はいるかもしれん。全てを信用するわけにもいかんだろう」


「だが、何らかの動きがでれば、今までの騒ぎと繋がる可能性だってあるはずだ)


「ラッキーボーイのいう通りだな。とにかく、今は協力者にどれだけ根回しできるか、奴らを追い詰めるのはそれしかない」


 そこでクキが言う。


「本丸さえ見つけられれば、俺達で壊滅させられるんだがな」


「それも、FBIの仕事だ。動きがあれば、こちらにも情報は流れて来るだろう」


「他にも知り合いがいるんですか?」


「大勢な」


 皆が頷き、俺達はこれまでの動きとは違う事を実感していた。


 シャーリーンが言う。


「クレイトン家がこれだけ影響力があるとは、存じ上げませんでした」


「古い家柄だからね。何世代も前、アメリカ建国の前から暗躍していたと父親から聞いた事がある」


「それでも、敵と味方の判別がむずかしいのですね」


「ファーマーもGODも、それほど強大だと言う事だ。まあ、莫大な富を武器にしている」


 金。それは、前世でも大きく力を振るった。金を持っている者は、弱者に対して強く物を言えるし、さらに搾取し続けることができる。どうやらこの世界は、それ以上に金がものを言う世界らしかった。


 ミオが言う。


「お金の為に、大量に人を殺すなんてクズも良いとこだわ」


「そのとおり。だがね、やはり戦争につながるものは、いつの世も金になるんだよ」


「軍需産業ならいざ知らず、製薬会社と巨大IT企業がそれに絡むなんて」


「時代……なのかもしれんな。だが、その陰には必ず何かいるだろう」


「なんです?」


「分からない。だが、こんな大それたことができるのは、奴らだけの話ではない」


「と、いいますと?」


「世界中の富豪や、陰で世界を操って来た者たち、他にも関連している企業はあるだろう」


 それを聞いて俺がオリバーに聞く。


「オリバー。この世界は……もう、壊れているのか?」


「壊れている……そうだね。もう何十年も前に、壊れてしまってたのかもしれない」


 その話がそうなら、前世のように魔王を倒せば平和になるなどという、単純な物じゃ無いという事だ。


「俺達は……完全な世界を相手にしているということだな」


「そういうことだ」


 なるほど……俺は、既にほころび始めた世界に送り込まれていたのか。前世で世界を滅ぼしかけたが、あれは人間達の浅はかな考えによるものだった。そしてこの世界もまた、人間によって滅ぼされかけている。俺は、自分の宿命の奇妙さに苦笑いしてしまう。


 あの、魔王だと思っていた、世界の核は……俺に何をさせようとしているのか。


 まるで試されているかのような、全ての出来事に、意味など無いのかもしれない。だが俺がこの世界に送り込まれたのは、なにかの意味があるのかもしれないと思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ