第557話 GOD社への潜入
ここはサンフランシスコ、潜むワゴン車の中、六人が集まって外の様子を伺っていた。運転席にタケル、そして後部座席に俺とオオモリ、マナ、ミナミ、シャーリーンの五人がいる。車の窓の外に見えるのは、そびえたつ高層ビル。そこがGODの本社ビルで、俺達が侵入する予定の場所だ。
「それじゃあ、タケルは車で待機していてくれ」
「了解。ヒカルが行くから問題ないとは思うが、気を付けてくれよ」
「問題ない」
「僕は不安ですよ」
そこでタケルが笑ってオオモリに言う。
「おまえの腕を信じろって」
「わかってますよ。でも、相手はあのGODですよ、流石にビビりますって」
「ばーか。おまえがビビったら、皆が不安になるだろうがよ」
「……あ、そうですね。まあ、間違いなく上手くいきます!」
「そう、それでいいんだ」
するとマナが言う。
「大丈夫よ武。大森君の自信が無いことは、今に始まったわけじゃない。この人が、自信満々な時は自分のAIがうまく働いている時だけ」
それを言われてオオモリがわなわな震え、口をパクパクさせている。タケルとミナミとシャーリーンが、肩を震わせて笑いをこらえているようだった。
そしてタケルが、笑いを堪えながらマナに言う。
「愛菜。これから作戦だって時に、大森のテンション下げんなって。おまえに言われたら、一番ショックだろうが」
「だって、本当の事だもん」
ミナミもマナに言った。
「愛菜……今だけは頑張れって言ってあげてよ」
少し気まずそうな顔をしつつ、マナがオオモリに言った。
「まあ、上手く言ったら、一緒にゲームしてあげるわよ」
「ほんとですか!」
「いいわ」
「よーし」
単純なものだった。コイツは、難しい事をいろいろ考える割には切り替えも早く、特にマナの言う事はよく聞くようになっている。
「では、行きましょう」
シャーリーンの合図で、俺達は車を降り二手に分かれる。タケルとマナの乗るワゴン車はすぐにいなくなり、俺とオオモリは隣のビルへ向かって歩いて行く。ミナミとシャーリーンが、GOD社の正面玄関から入り込んで言った。
「あれでいいのか?」
「はい。カメラが彼女らをスキャンしても、ちゃんとあるAI会社に在籍した社員だと認識します。照合を掛けられても、アメリカの社会保障番号も持ってるように細工してます」
「わかった。俺たちも行こう」
「ですね」
向かいの高層ビルの最上階までエレベーターで昇り、俺はオオモリを連れて屋上に上がる。ビュウー! と海風が強く吹きオオモリがふらついた。俺はオオモリをしっかりとつかみ、転ばないように支える。
「とにかくGOD社はセキュリティが厳しいですから、侵入経路はここしかないんです」
「問題ないさ」
するとマナから連絡が入り、俺達のイヤホンに声が鳴る。
「シャーリーンとミナミはAI企業の社員として入り込んだわ。無事に商談の部屋へと通されたみたい」
「わかった」
「それじゃあ、作戦を始めましょう」
「了解だ。行くぞオオモリ」
「はは……もちろん……ですよ」
「凄い汗だな。大丈夫か? 顔も真っ青だが」
「い、いや。本当にここから飛ぶんですか?」
「なんだ? タケルは平気だぞ」
「あの人は、脳筋だから……」
するとイヤホンに声が鳴る。
「おーい。聞こえてんぞ!」
「す、すいません。そう言うつもりでは」
そこで俺がオオモリに言う。
「舌を噛むぞ。黙ってろ」
「は、はい!」
そして俺はオオモリを脇に抱えて、屋上の端から端へと駆けた。バッとビルから飛び出して、スーッとGODのビルに向かって飛んで行く。
ガッ! と、日本刀を壁に差し込み、オオモリを抱えたまま、窓から中を見てみる。人の気配はなく、機械だけがぴかぴかと光を放っているようだった。
「俺の背中にしがみつけ」
「う、動けません」
……両腕が塞がってしまっている。このままだと、この先のサーバールームに侵入する事は出来なかった。
「なら、仕方がない」
俺は軽く身をたわめ、一気にオオモリを真っすぐ上に投げてやった。
「うっぎゃぁぁぁぁぁ!」
その声を尻目に、剣を抜いて落下しながら目の前の分厚いガラスを斬り、ガッと手をかけて侵入した。剣を床に差し込んでそれを掴みながら、体を窓の外に出す。
「ぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
と、だんだん声が大きくなってきて、俺はオオモリを受け止め中に引きずり込んだ。オオモリが床に這いつくばって、ブルブル震えながら言う。
「はあはあはあはあはあ。い、生きてる……」
「あたりまえだ。まずは落ち着け」
「は、はい」
オオモリは震える声で、マナに繋げた。
「し、しししし、ビルに入りました」
「どうしたの? 声が震えてるけど。こちらは防犯カメラをジャックしてるわよ」
「あ、あ、ありがとうございます。これから作業に取り掛かります」
「本当に頑張ってよ。待ってるわ」
俺がオオモリの背中を軽くたたいて言う。
「深呼吸しろ」
「すぅぅぅぅはぁぁぁぁぁぁ」
「どうだ?」
「落ち着きました」
マナが呆れたような声で言う。
「しっかりしてよね。ただもう少し待って、まだシャーリーンからの連絡が来てないから」
「はい」
俺達が待っていると、直ぐに連絡が来た。シャーリーンたちが、カリムの潜らせている社員とコンタクトがとれたようだ。
「まもなく、システムロックが解除されるわ。開けてられるのは三分らしい。それ以上は警報がなる」
「やってみます」
「開いたわ」
オオモリはサーバールームにある機械の扉を開けて、コードを差し込み衛星通信用の端末につなげる。
「さて……データを抜きます」
「緊張しているな」
「はい。ここは世界最高峰のITの会社ですからね……。ファイヤーウォールが設けてあると思いますので、何処まで潜れるかは僕のAIとシステムの戦いです。じゃあ、行きます」
オオモリがスマートフォンを操作して、じっと機械を見ている。
「どうなってる?」
「もうはじまってます。きちんと、システムのロックが外されてますね。三分を越えたら、僕の侵入が見つかって警報が鳴っちゃうかもしれません」
「三分以内にいけるか?」
「わかりません」
時計を見つつやっているが、もうすぐ三分が経とうとしていた。オオモリが汗をかきながら言う。
「まだ……ナノマシンのデータが見つかってません」
「失敗か?」
「さ、騒ぎをおこせませんかね?」
「ここでか?」
「いえ。シャーリーンさん達で」
それを聞いてマナが言う。
「まって……頼んでみる」
そして少し経つと、キュイキュイっと警報が鳴り始める。
「やば!」
オオモリが慌てるが、マナが言う。
「そちらで警報が鳴るのと同時に、シャーリーンが火事のセンサーを鳴らしたわ。警報は誤魔化せるはず。でも、それもすぐに止まると思うから、早く」
「はい」
オオモリがスマホを操作し、数分後に声を出した。
「ありました! よし! 回収です! ギリギリ、システムがロックされました!」
「離脱して。シャーリーンたちは既にビルを出ているわ」
「はい」
そこで俺はオオモリに言う。
「じゃ、壊していいんだな」
「ええ。でも、本当の火事を起こしちゃうと、大勢の人が死んじゃいます」
「心配するな。焼けなければいいんだろう?」
そして俺は機械の部屋に向かって、剣技を放った。
「推撃! 五連!」
ドンドンドンドンドン!
機械を壊し、最後に入って来た窓に向かって剣技を放つ。
「推撃!」
バグゥゥン!と穴が開き、オオモリを担いでそのまま外に飛び出した。
「うっぎゃぁぁぁぁぁ!」
「静かにしろ! 舌を噛むぞ!」
そのまま百メートルほど落下し、地上に降りてすぐにそのまま姿を消す。路地裏に入って、オオモリを地面に降ろすが、フラフラと歩いてぺたりと地面に座り込んだ。
「しっかりしろ」
「無理です……」
「……漏らしたのか」
「はい……」
流石にかわいそうだ。思いを寄せているマナにそれを知られたら、男としての矜持が保てない。
「来い」
俺は、オオモリを連れて数区画を歩き、服屋を見つける事が出来た。そこに入り、直ぐにズボンを買い込んでオオモリに着せる。そして漏らしたズボンは、捨ててくれと店員にお願いした。
「すみません……ヒカルさん」
「これで、合流できる」
「はい」
そしてオオモリが連絡すると、心配そうな声が向こうから聞こえてきた。
「遅かったわね! どうかしたかと思ったわよ!」
「あ、すみません。愛菜さん……あの」
そこで俺が電話をとって言う。
「少し手間取った。周辺にファーマー社がいないかを確認していたんだ」
「そうなのね。消防や警察が出ていて、もうこちらから中には入れないわよ」
「ならこちらから行く」
「わかった」
確かに、あちこちでサイレンが鳴り響いていた。動きが鈍くなってしまったが、オオモリの男としての面子の方が大事だった。
「すみません。僕のせいで」
「気にするな。行くぞ」
「なんで着替えたのかって聞かれちゃうな」
オオモリと俺は、みんなと合流する為にサンフランシスコの町を歩きだす。この町も凄く栄えていて、あちこちに高層ビルがあり、店もいっぱいあった。するとそこには、ル〇ヴィ〇ンの大きな店がある。
「あ……」
俺はつい声を出してしまった。するとオオモリがスマートフォンを繋げて言う。
「あー、ヒカルさんの服を調達していきます」
すると電話の向こうからマナが言う。
「あ、いいわ。ヒカルの服ね! そう言えば、大きい店あったものね」
「ええ。そろそろ新調したいでしょうし」
「大森君もいいとこあるじゃない」
「は、はは。そうっすね」
持ちつ持たれつ。という事だろう。そして俺はオオモリと共に、ル〇ヴィ〇ンに入り、上から下まで新調して着て来たスーツを袋に入れてもらった。
「これで貸し借りなしだ」
「はは、なんか強引ですけど」
「気にするな」
「僕まで買っちゃいましたし」
「その方が、着替えた事に違和感がないだろう? あとで、シャーリーンに礼を言っておこう」
「ですね」
消防車と警察車両が行きかう中を、俺達は新しい服を着て颯爽と歩くのだった。




